その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

文字の大きさ
40 / 139
Borium

第三十九話 ハイライトの職務

しおりを挟む

「ぇはぁ……はぁ……ぐっ、君は……魔力結石が使えないんじゃなか、ったのか……はぁ、はぁ……」

「気にするなと言ったろ、で?この辺りか?」


 流石は地球でも唯一残った戦闘要員の真を武術で押し込めるだけの力量ある試験官、ハイライトは突然の水面疾走の中でも何とか冷静さを取り戻し真に向かうべき陸地を指し示した。

 真が初めて王都へ入った城壁入り口から恐らく西側に位置する場所。
 疾走の勢いに任せて上陸した草地に二人は盛大にダイブしていた。


「はぁ……はぁ……どうだかな、推測でしかないから……いや、これは」


 ふとハイライトは地面に手を着いたまま、ある一点に顔を近付ける。
 何かを見つけたのだろうか、ハイライトの様子は真剣そのものと言った雰囲気を醸し出していた。

「まさか馬の足跡でも見つかったってのか、それはいくらなんでも都合が良すぎるだろ?」


 真は一人その場に立ち上がり、転んだ際衣服についた砂と草を手で払いながらハイライトへと視線を向ける。


「車輪の跡だ、荷馬車か……予想通りならまだそこまで遠くには行けない筈だ!」
「おい、本当か……ちょっと待て」


 あまりに都合のいい事態だが、そう言った運をどうするかは人生において重要なファクターとなる事を真は戦いに身を置く中で理解していた。
 運がいい事を素直に認め、それを不審に思う事無く受け入れる。ただそれだけで事態は迅速に好転していく物なのだ。

 ハイライトへ一声かけ少し待つ様に伝えると、真は今更あまり隠す気にもならなくなっていた科学技術ももって空中へと飛び上がった。
 上空十メートル程上がった辺りだろうか、真は辺り一面に広がる平野を見回す。
 海へと続くファンデル河川、巨大な城壁に囲まれる王都中心部の城と塔。そしてフレイと共に抜けた深緑に繁る大森林、その手前に広がる広大な平野に一つの白とも黒とも言える点が見えた。

 淡緑一色な一帯だけにそれはある意味何かがいると言う証明にもなっている。

(この高さが十メートルだとして……二十キロって所か)


 真は視界の高さから見える範囲、焦点とするその白い点までの距離を推測しながら重力操作によって足に負担が掛からない程度の落下速度でハイライトの横へと着地した。



「シン……君は一体……そんな魔力結石の使い方、聞いた事も無いぞ」
「今その話は無しだ。ここから二十キロ先、その辺りで何かが見えた。もしかしたら例の馬かもしれない」


 呆然と真を見てそう発するハイライトを余所に、真はただ今やるべき事を淡々と述べていく。

「にじゅっ……きろ?何だ、それは距離の事か?」
「ん…………はぁ」


 此処に来て真は距離の単位が地球とは違う事を理解させられた。
 距離と言っている辺り、そこまで言語は一緒なのに何故キロメートルが通じないのか。他にも突っ込みたい所は多くあったが、今はそんな事を訳の分からないこの世界でこんな時に論じている場合でもない。

「その距離の事を言っている、多分。徒歩で四時間弱……あぁ……もういい、行くぞ!」
「なっ、ちょ、ちょっと待てまた――――」


 時間の概念も通じない事をフレイとの会話で思い出した真は、説明するのも面倒だとハイライトを再び肩に掛け目的の方角へと平野を疾走したのだった。












 加速システムは設定を2倍のまま、人を一人余分に持っていたとしてもそのスピードは地球上でいう時速100㎞程の速度は出ている。
 つまりは目標地点までこのスピードで走り続ければ十五分程度で追い付く事が出来る筈なのである。

 風切り音が耳を遮り、担ぐハイライトが空気抵抗によって持っていかれそうになるのを必死で堪えながら平野を疾走する。
 真もハイライトも最早出せる言葉一つも無かった。


 やがて目標物が視界に近付くにつれ、それが馬に大きな箱の様な物を引かせている荷馬車だと言うのが分かった。
 あと数百メートル先、活性酵素によって乳酸が分解されていなければ痺れて力も入らないであろうハイライトを支える腕に一層力を込め、真はその馬の前へと躍り出たのだった。





「っんな、何だぁっ!?」


 突如眼前に姿を現した真とハイライトの姿に馬の手綱を引き上げながらそう叫ぶ男。

 嘶く馬を無理矢理に押さえ付けながら慌ただしく体勢を整えようとする男は、灰色のローブに収まりきらない恰幅がその品性の無さを如実に現している様だった。


「てっ、テメェはなんだ!どっから現れやがった!?」

「ちょっと用がある、荷車を見せてくれるか?おい、ハイライト」
「はぁ、はぁ……あ、あぁ」


 馬に跨がったまま何が起こったのか理解できていない男を余所に、真はハイライトに早く確認しろと顎で指示する。
 ハイライトはあり得ないスピードで引き摺るように平野を連れられたせいかよろよろとしながらも冷静に現状でやるべき事を遂行しようと荷車へ足を向けていた。


「おっ、おいおいおい!何なんだ、盗賊かっ!?おいユグドラシルッ、とっ、盗賊だっ!」
「……そんなに騒ぐな、すぐに終わる」

 手綱を持っていた男が漸く事態を把握してきたのか、動揺しながらも荷車に乗っているのであろう連れに大声でそう叫ぶと、荷車を覆う厚手の白い布の一ヶ所が持ち上げられ中からもう一人、灰色のローブに身を包む線の細い男が顔を出した。

 荷車に足を向けるハイライトとその男が視線を交わす。
 真は馬から降りる男に身を寄せながらハイライトとその男の成り行きを見守った。



「おっと……これは旦那、私らはしがない商人でしてね。今しがたファンデル王都に荷を卸して来てしまったもので大した物はないんですよ、いや本当。精々売り上げの金貨が数枚と言った所でしてね、それでなんとか――――」
「中を見せて貰おうかな?」


 自らを商人と名乗る華奢な男は荷車から降りて手揉みをしながらハイライトへそう捲し立てるが、ハイライトの目は真剣そのものだった。

「い、やっ、中はっ……」
「イルネっ!」

 ハイライトを押さえようとする男はあっさりとその身を押し退けられ、荷車を覆う布が捲り上げられる。


「おっ、おい!あ、あんたら盗賊だろ?か、勘弁してくれ……今日は小さい娘を乗せてるんだ、金ならある!なっ?」

「ん、盗賊……か。そうだな、欲しいものはこっちが決めさせて貰う」


 真が恰幅の良い男とそんなやり取りをしていると、ハイライトが突如おかしな声を上げていた。
 何か予想に反した事態でも起きたのかと真も馬を引いていた男を無視してハイライトの元へと歩み寄る。


「……イルネ……じゃない?」
「………んん、ンンッ」


「どうした?間違った…………って訳でも無さそうだが」


 荷車の中には口に布を詰められ、手足をロープで結ばれた少女の姿があった。
 鮮やかなオレンジ色の生地に赤色の刺繍が施された民俗衣装の様なローブ、それは今朝方城下町で真が一瞬見た物と相違無い様にも見える。
 そしてそんな少女の頭部には絶滅種で丁度地球の狐の様な茶色い耳が二つ項垂れて生えていたのだった。


「君は…………」
「だっ、旦那、これには訳がありましてね。こいつは奴隷としてリヴァイバル王国へ売るんですが、まぁ安く叩かれるんですよ!なんであんまり価値も無いんで……しがない商売ですわ」


 そんな少女を目に入れ動きを止めるハイライトと、お構い無しに自分の商売を大した物じゃないから見逃してくれと必死に請う男。

 真は黙り混むハイライトにたまらず声を掛けた。


「ハイライト、そのイルネって子じゃないのか?……だとしても見逃すには、あれだろ?」
「あぁ……見逃すつもりはない。お前達はリヴァィバル王国の人間か?僕はファンデル王都管轄のギルド官、国務官の職権に於いて他国狼藉の罪名によりお前達の身柄を一旦預かる」

「っ!?」



 昂然たる態度でそう言ってのけるハイライトの姿には、先ほどまで真に引き摺られて憔悴しきった様子等微塵も見られなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で身も心もすり減らした相馬蓮司(42歳)。 過労死の果てに辿り着いたのは、剣と魔法の異世界だった。 神様から「万能スキル」を押し付けられたものの、蓮司が選んだのは──戦いでも冒険でもない。 静かな辺境の村外れで、珈琲と煙草の店を開く。 作り出す珈琲は、病も呪いも吹き飛ばし、煙草は吸っただけで魔力上限を突破。 伝説級アイテム扱いされ、貴族も英雄も列をなすが──本人は、そんな騒ぎに興味なし。 「……うまい珈琲と煙草があれば、それでいい」 誰かと群れる気も、誰かに媚びる気もない。 ただ、自分のためだけに、今日も一杯と一服を楽しむ。 誰にも縛られず、誰にも迎合しない孤高のおっさんによる、異世界マイペースライフ、ここに開店!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...