28 / 46
傷だらけのエルフと迷いの森
28話 ミュゼの覚醒?
しおりを挟む
ここが幻惑の森だと言う事に気付いたのは随分後になってからだった。
いつも前を歩くリタは一見頼り無さそうに見えるが、どんな時もしれっと物事を解決していた。
と言うより彼にとっては端から何も問題ではないのかもしれない。
人外、規格外の能力をさも当たり前に使用し、どこまでも先を読んで準備をしている。
それはまるで千里眼よう。
出会いこそ意味不明であったが、今となればそこにリタがいないというそれだけで、アンナはとてつもない不安に駆られた。
リタ依存症かもしれない。
アンナはジメジメと暗い森のあちこちから誰かに見られているような違和感を感じ、いつかの嘆きの森を思い出していた。
「ふう、参ったね。これじゃあ完全にダンジョンと変わりないよ、さっきから同じ所を歩いている気がする。ロレンスやカッチョルともはぐれちゃったし……あ、でも君達の安全は僕が保証するから安心してくれよ?」
「リタが森では億するなと言っていたからな、アンタのような能天気貴族がいてくれるとこっちも助かる」
「う……アンナさんは美人の割に言う事がキツイな。ま、まぁ少しでも元気になってくれるならレオンハルト冥利に尽きるよ」
レオンハルト騎士団のキルレミットはアンナの冷ややかな態度にたじたじであったが、それでも今の自分の使命はここにいる女性陣を守る事だと固く決意しているようだった。
数刻前までゼオパーティとレオンハルト騎士団で総勢十人はいたにも関わらず、気付けばキルレミット、アンナ、ミュゼ、マキナの四人となっていた。
だがミュゼに関してはそれどころではなく、ずっとマキナの横にベッタリとくっつき魔法指導を受けている。
一方のマキナは辺りの森の雰囲気が気になって仕方ないのか、キョロキョロと周りを見回してはミュゼの疑問に都度応えていた。
「ダッチャ!」
「はひぃ」
「「何!?」」
突然上げられたミュゼとマキナの奇声に、何かあったのかとキルレミットとアンナがそれぞれ剣と苦無を抜いて振り返る。
「「で、出来た!」」
見れば二人の少女は「やった、やった」と飛び跳ね、歓喜の舞を踊っていた。どうやらミュゼが遂に自らの才能を開花させたらしい。
「分かりづらい奇声はやめろ」
「ふう、魔の王でも現れたかと思ったよ。それ以外ならなんの問題もないけどね」
アンナとキルレミットはほっと胸をなでおろした。
膨大な魔力総量は王族貴族の証とも言われる。
かつて王宮で何人もの教師から学んでも全く身にならなかった魔法行使。
ミュゼもまさか十年越しに、しかも王族から追いやられた上、訳の分からない森で同い年位の少女から魔法の基礎と発現までを指導されるとは思ってもいなかっただろう。
アンナも何故か妹の成長を見ているようで少しだけ目頭が熱くなった。
「ふ、しかしそうか……教える者が良かったのかもな」
「そ、そ、そ、そんなこと、ことないでです! ミュゼちゃん、飲み込みが早くて、魔力も多く内包してますから、だからです」
アンナに褒められて照れたのか、マキナは両手で口を押さえながら小躍りした。
「どれ、元王族の力見せてみろ」
アンナがミュゼをそう促し、その成果とやらを是非お披露目願おうとしたその時であった。
日も差し込まないような暗い繁みの奥から屈強な体躯を持ち、真っ黒の毛をフサフサと生やした四足歩行の獣がのっそりと姿を見せていた。
アンナは思わず視線をそちらに向け硬直する。
魔獣。
コヨーテの四倍はある身体、獰猛な牙にガッシリとした四肢。
何より体から放つその異様な邪気は正しく魔獣と言って相違なかった。
「なんて、デカイ……やれるのか」
リタの居ない今、嘆きの森で苦戦する程度の自分がなんとか出来る相手だろうか。
アンナの思考は不安と恐怖に気圧されていた。
「魔獣、か。皆下がれ! マキナ」
「はい、これはダクネスコヨーテ。魔獣クラスCです、火の元素魔法に弱く大した脅威ではありません」
「魔獣クラスCだと」
アンナは徐々に歩み寄る黒い獣を視界に捉え、マキナの解説を脳内で反芻した。
ギルドによる危険度大別。
自分は冒険者ではないが、多少の知識はあった。
危険度クラスは大凡獣クラス、魔獣クラス、魔物クラスと大別され、それぞれでDからAまでに細分化されている。
話では獣クラスでAまで上がった危険生物は、魔獣クラスのDに格上げされると言う。
つまりは魔物クラスに位置するものが最も危険となるが、その分け方は知恵を持っているかどうかや、残虐性、国家の脅威になり得るか等の多様な理由があり一概に強さで測られている訳ではない。
目の前にいるダクネスコヨーテが魔獣クラスCという事は、ルーテシアの嘆きの森にいたワーウルフやキャッスルベアよりも格下だ。
ワーウルフに関して言えば、リタがコンマ三秒程度で撲殺した魔獣でもある。
ふとミュゼが自信に満ちた表情でずいっと前に出た。
左手で自分の右腕を掴み、その右掌は既にダクネスコヨーテに向かって翳されていた。
「ミュゼ!? お前何を」
「アンナ、見てなさい。私の真の力を見せてあげるわ!」
「わ、わ、ミュゼちゃん」
初めて魔法が使えたことで舞い上がっているのかもしれない。
こういう時こそ油断や自惚れが命取りになるという事をアンナは痛い程よく知っていた。
だが止めようとするアンナをキルレミットがそっと抑止する。
「アンナさん、信頼も成長ってやつさ」
「……知ったような事を。あいつに何かあってもお前には関係のないことだろうがな、私は寝覚めが悪いんだ。それに、私は貴族が嫌いだ」
アンナはキルレミットを下から睨み付ける。確かに元々は暗殺対象だったミュゼ、甘えた生活をしているバカ王女など死んだ方が国の為だと思っていた。
だがミュゼは好きで王宮に生まれ、好きで恵まれた生活をしてきた訳ではないと言うことがこの不可思議な旅でアンナはよく理解していた
親が甘やかしたから子供はそれを普通と認識してしまうのだ。
本当は何にでも柔軟に対応できる、ミュゼはただ純粋に、目の前の事にがむしゃらなだけの至って普通の少女なのだと。
自分も今や任務を放棄した人間。
いつ始末されてもおかしくない身。
一人の年上としても、せめてこの少女を無事王家に返り咲かせる時ぐらいまでは守ってやりたかった。
それを知らずに勝手な事をと、アンナの苛立ちはキルレミットに当然向けられる。
だがキルレミットはそうではないと静かに言った。
「分かるだろ。彼女の本気の目を見てみろ……ここまで必死にマキナの難しい話に食らいついていた。きっと彼女なりに貫きたい何かがある、もう立派な女性だよ。それに万が一の時は僕がその身に代えても助ける」
「自立って奴さ」とキルレミットはミュゼとその横に立つマキナを優しい眼差しで見つめていた。
その言葉を聞き、アンナは自分が恥ずかしくなった。
自分より数個も下、ついこの前までただ逃げ、泣きじゃくるだけのバカ王女だったのにいつ間にここまで成長してしまったのかと。
それに対して自分は。
暗殺者と言う矜持も無くし、自分を負かした年下の男に頼り切って金銭管理や旅の支度をやっているだけ。
今もまた自分の力が信用しきれず、リタの事を考えていた。
ミュゼは今、一歩前へ進もうとしている。
ならば自分がやるべきはそれを見守り、いざと言う時にその身を盾にしてでもミュゼを守る事だ。
「いけ好かない貴族だが……今回は勉強になった」
「ふふ、いい顔になった。美人はそうでなくちゃね」
キルレミットとアンナはミュゼの成長を後ろから見守った。
いざという時はすぐに前へ出る準備も出来ている。
自分が勝てるかどうか、そんな事は問題ではないのだ。
ミュゼは「はぁぁぁ!」と威勢よく息を吐き、その手に力を込める。
「あわわ、わ、み、ミュゼちゃん、詠唱、詠唱忘れてますぅー!!」
「王家に跪くがいい犬っころ、エクセレスファイヤーボール!!」
刹那、魔力の渦が大気に混ざり合い、その余波が後ろまで流れ出る。「うぉぉっ」とキルレミットも叫び、その興奮は最高潮だ。
見ればミュゼの人差し指に小さな火が灯った。
「凄い!! ミュゼちゃん無詠唱錬成」
「おぅ、マッチ!!」
「焚き火が出来るな、それで獲物を料理する気――って、ばか!!」
マキナはミュゼが無詠唱で魔法を構築してしまった事に感嘆し、キルレミットは素直に感動している。
さっきまでの思慮と覚悟を返してほしい、アンナは大げさにツッコんだ。
「マキナ!」
「はいっ」
皆がミュゼの見守り態勢を解き、遂に痺れを切らして此方へ飛び掛らんとするダクネスコヨーテに相対した。
本格的に戦闘開始だ。
「ね、ね、どう!? 凄い」
「って馬鹿、敵が来てるだろうが! 獲物を料理する前にこっちが餌だ」
マキナが詠唱を開始し、その間にキルレミットがダクネスコヨーテを取り押さえようと走る。
そんな中でも嬉しそうな顔で「どう?」と聞いてくるミュゼの頭をアンナは引っぱたいた。
「はぶっ!」
「ぅわ!」
「おぇ!?」
アンナがそんなミュゼの頭を引っぱたいた瞬間、ミュゼの手から拳大の炎弾が飛び出しダクネスコヨーテの体毛を燃やす。
何が起こったのかとキルレミットもマキナも思わず飛んできた炎弾をかろうじて避け、その場でよろけた。
「な、何だ。ミュゼ、何をした」
「え? へ、え、私?」
だが本人にも何が起こったのかまるで分かっていない様子だった。
ダクネスコヨーテはミュゼの放った炎に悶えながらもその怒りの矛先をアンナ達へと向け飛びかかる。
「おい待て、この!! あ、アンナさん!」
「アンナ、退いて私のエクセレントフレイムショットで」
「お前のマッチが役に立つか! 大体さっきと名前変わってるだろう!」
「はぶひ!」
アンナはミュゼを一度ひっぱたき慌てて苦無をダクネスコヨーテへ向けようとして、二度驚いた。
「わわっ!」
「うお、また燃えた」
二度目のファイヤーボールが魔獣に打ち込まれ、ダクネスコヨーテはその身を焼かれながらも何度か立ち上がろうとしたが、遂には苦しそうに雄叫びを一度上げるとそのまま絶命した。
「うっそ……倒しちゃったよ」
「いや馬鹿な!!」
「す、すごいよミュゼちゃん!!頭叩くと無詠唱なんだ!? わ、私もやってみる」
マキナは何やら自分の頭をペコペコと叩いて魔法を出そうとしているが、うまく行かないようだ。
「へへん! ま、まぁ私は王族だからね、マッキーには難しいわ」
「ははは、それはいいな! プッシュオンマジックって奴さ、ははは!」
「笑い事か、アホ共」
アンナは様々な事に悩んでいた自分が馬鹿らしくなり、その苛立ちをミュゼの頭に向けた。
まるでそれを待ってましたかのように、既に叩かれる準備していたミュゼの手からは、相変わらずの炎弾が空に向け豪快に放たれた。
いつも前を歩くリタは一見頼り無さそうに見えるが、どんな時もしれっと物事を解決していた。
と言うより彼にとっては端から何も問題ではないのかもしれない。
人外、規格外の能力をさも当たり前に使用し、どこまでも先を読んで準備をしている。
それはまるで千里眼よう。
出会いこそ意味不明であったが、今となればそこにリタがいないというそれだけで、アンナはとてつもない不安に駆られた。
リタ依存症かもしれない。
アンナはジメジメと暗い森のあちこちから誰かに見られているような違和感を感じ、いつかの嘆きの森を思い出していた。
「ふう、参ったね。これじゃあ完全にダンジョンと変わりないよ、さっきから同じ所を歩いている気がする。ロレンスやカッチョルともはぐれちゃったし……あ、でも君達の安全は僕が保証するから安心してくれよ?」
「リタが森では億するなと言っていたからな、アンタのような能天気貴族がいてくれるとこっちも助かる」
「う……アンナさんは美人の割に言う事がキツイな。ま、まぁ少しでも元気になってくれるならレオンハルト冥利に尽きるよ」
レオンハルト騎士団のキルレミットはアンナの冷ややかな態度にたじたじであったが、それでも今の自分の使命はここにいる女性陣を守る事だと固く決意しているようだった。
数刻前までゼオパーティとレオンハルト騎士団で総勢十人はいたにも関わらず、気付けばキルレミット、アンナ、ミュゼ、マキナの四人となっていた。
だがミュゼに関してはそれどころではなく、ずっとマキナの横にベッタリとくっつき魔法指導を受けている。
一方のマキナは辺りの森の雰囲気が気になって仕方ないのか、キョロキョロと周りを見回してはミュゼの疑問に都度応えていた。
「ダッチャ!」
「はひぃ」
「「何!?」」
突然上げられたミュゼとマキナの奇声に、何かあったのかとキルレミットとアンナがそれぞれ剣と苦無を抜いて振り返る。
「「で、出来た!」」
見れば二人の少女は「やった、やった」と飛び跳ね、歓喜の舞を踊っていた。どうやらミュゼが遂に自らの才能を開花させたらしい。
「分かりづらい奇声はやめろ」
「ふう、魔の王でも現れたかと思ったよ。それ以外ならなんの問題もないけどね」
アンナとキルレミットはほっと胸をなでおろした。
膨大な魔力総量は王族貴族の証とも言われる。
かつて王宮で何人もの教師から学んでも全く身にならなかった魔法行使。
ミュゼもまさか十年越しに、しかも王族から追いやられた上、訳の分からない森で同い年位の少女から魔法の基礎と発現までを指導されるとは思ってもいなかっただろう。
アンナも何故か妹の成長を見ているようで少しだけ目頭が熱くなった。
「ふ、しかしそうか……教える者が良かったのかもな」
「そ、そ、そ、そんなこと、ことないでです! ミュゼちゃん、飲み込みが早くて、魔力も多く内包してますから、だからです」
アンナに褒められて照れたのか、マキナは両手で口を押さえながら小躍りした。
「どれ、元王族の力見せてみろ」
アンナがミュゼをそう促し、その成果とやらを是非お披露目願おうとしたその時であった。
日も差し込まないような暗い繁みの奥から屈強な体躯を持ち、真っ黒の毛をフサフサと生やした四足歩行の獣がのっそりと姿を見せていた。
アンナは思わず視線をそちらに向け硬直する。
魔獣。
コヨーテの四倍はある身体、獰猛な牙にガッシリとした四肢。
何より体から放つその異様な邪気は正しく魔獣と言って相違なかった。
「なんて、デカイ……やれるのか」
リタの居ない今、嘆きの森で苦戦する程度の自分がなんとか出来る相手だろうか。
アンナの思考は不安と恐怖に気圧されていた。
「魔獣、か。皆下がれ! マキナ」
「はい、これはダクネスコヨーテ。魔獣クラスCです、火の元素魔法に弱く大した脅威ではありません」
「魔獣クラスCだと」
アンナは徐々に歩み寄る黒い獣を視界に捉え、マキナの解説を脳内で反芻した。
ギルドによる危険度大別。
自分は冒険者ではないが、多少の知識はあった。
危険度クラスは大凡獣クラス、魔獣クラス、魔物クラスと大別され、それぞれでDからAまでに細分化されている。
話では獣クラスでAまで上がった危険生物は、魔獣クラスのDに格上げされると言う。
つまりは魔物クラスに位置するものが最も危険となるが、その分け方は知恵を持っているかどうかや、残虐性、国家の脅威になり得るか等の多様な理由があり一概に強さで測られている訳ではない。
目の前にいるダクネスコヨーテが魔獣クラスCという事は、ルーテシアの嘆きの森にいたワーウルフやキャッスルベアよりも格下だ。
ワーウルフに関して言えば、リタがコンマ三秒程度で撲殺した魔獣でもある。
ふとミュゼが自信に満ちた表情でずいっと前に出た。
左手で自分の右腕を掴み、その右掌は既にダクネスコヨーテに向かって翳されていた。
「ミュゼ!? お前何を」
「アンナ、見てなさい。私の真の力を見せてあげるわ!」
「わ、わ、ミュゼちゃん」
初めて魔法が使えたことで舞い上がっているのかもしれない。
こういう時こそ油断や自惚れが命取りになるという事をアンナは痛い程よく知っていた。
だが止めようとするアンナをキルレミットがそっと抑止する。
「アンナさん、信頼も成長ってやつさ」
「……知ったような事を。あいつに何かあってもお前には関係のないことだろうがな、私は寝覚めが悪いんだ。それに、私は貴族が嫌いだ」
アンナはキルレミットを下から睨み付ける。確かに元々は暗殺対象だったミュゼ、甘えた生活をしているバカ王女など死んだ方が国の為だと思っていた。
だがミュゼは好きで王宮に生まれ、好きで恵まれた生活をしてきた訳ではないと言うことがこの不可思議な旅でアンナはよく理解していた
親が甘やかしたから子供はそれを普通と認識してしまうのだ。
本当は何にでも柔軟に対応できる、ミュゼはただ純粋に、目の前の事にがむしゃらなだけの至って普通の少女なのだと。
自分も今や任務を放棄した人間。
いつ始末されてもおかしくない身。
一人の年上としても、せめてこの少女を無事王家に返り咲かせる時ぐらいまでは守ってやりたかった。
それを知らずに勝手な事をと、アンナの苛立ちはキルレミットに当然向けられる。
だがキルレミットはそうではないと静かに言った。
「分かるだろ。彼女の本気の目を見てみろ……ここまで必死にマキナの難しい話に食らいついていた。きっと彼女なりに貫きたい何かがある、もう立派な女性だよ。それに万が一の時は僕がその身に代えても助ける」
「自立って奴さ」とキルレミットはミュゼとその横に立つマキナを優しい眼差しで見つめていた。
その言葉を聞き、アンナは自分が恥ずかしくなった。
自分より数個も下、ついこの前までただ逃げ、泣きじゃくるだけのバカ王女だったのにいつ間にここまで成長してしまったのかと。
それに対して自分は。
暗殺者と言う矜持も無くし、自分を負かした年下の男に頼り切って金銭管理や旅の支度をやっているだけ。
今もまた自分の力が信用しきれず、リタの事を考えていた。
ミュゼは今、一歩前へ進もうとしている。
ならば自分がやるべきはそれを見守り、いざと言う時にその身を盾にしてでもミュゼを守る事だ。
「いけ好かない貴族だが……今回は勉強になった」
「ふふ、いい顔になった。美人はそうでなくちゃね」
キルレミットとアンナはミュゼの成長を後ろから見守った。
いざという時はすぐに前へ出る準備も出来ている。
自分が勝てるかどうか、そんな事は問題ではないのだ。
ミュゼは「はぁぁぁ!」と威勢よく息を吐き、その手に力を込める。
「あわわ、わ、み、ミュゼちゃん、詠唱、詠唱忘れてますぅー!!」
「王家に跪くがいい犬っころ、エクセレスファイヤーボール!!」
刹那、魔力の渦が大気に混ざり合い、その余波が後ろまで流れ出る。「うぉぉっ」とキルレミットも叫び、その興奮は最高潮だ。
見ればミュゼの人差し指に小さな火が灯った。
「凄い!! ミュゼちゃん無詠唱錬成」
「おぅ、マッチ!!」
「焚き火が出来るな、それで獲物を料理する気――って、ばか!!」
マキナはミュゼが無詠唱で魔法を構築してしまった事に感嘆し、キルレミットは素直に感動している。
さっきまでの思慮と覚悟を返してほしい、アンナは大げさにツッコんだ。
「マキナ!」
「はいっ」
皆がミュゼの見守り態勢を解き、遂に痺れを切らして此方へ飛び掛らんとするダクネスコヨーテに相対した。
本格的に戦闘開始だ。
「ね、ね、どう!? 凄い」
「って馬鹿、敵が来てるだろうが! 獲物を料理する前にこっちが餌だ」
マキナが詠唱を開始し、その間にキルレミットがダクネスコヨーテを取り押さえようと走る。
そんな中でも嬉しそうな顔で「どう?」と聞いてくるミュゼの頭をアンナは引っぱたいた。
「はぶっ!」
「ぅわ!」
「おぇ!?」
アンナがそんなミュゼの頭を引っぱたいた瞬間、ミュゼの手から拳大の炎弾が飛び出しダクネスコヨーテの体毛を燃やす。
何が起こったのかとキルレミットもマキナも思わず飛んできた炎弾をかろうじて避け、その場でよろけた。
「な、何だ。ミュゼ、何をした」
「え? へ、え、私?」
だが本人にも何が起こったのかまるで分かっていない様子だった。
ダクネスコヨーテはミュゼの放った炎に悶えながらもその怒りの矛先をアンナ達へと向け飛びかかる。
「おい待て、この!! あ、アンナさん!」
「アンナ、退いて私のエクセレントフレイムショットで」
「お前のマッチが役に立つか! 大体さっきと名前変わってるだろう!」
「はぶひ!」
アンナはミュゼを一度ひっぱたき慌てて苦無をダクネスコヨーテへ向けようとして、二度驚いた。
「わわっ!」
「うお、また燃えた」
二度目のファイヤーボールが魔獣に打ち込まれ、ダクネスコヨーテはその身を焼かれながらも何度か立ち上がろうとしたが、遂には苦しそうに雄叫びを一度上げるとそのまま絶命した。
「うっそ……倒しちゃったよ」
「いや馬鹿な!!」
「す、すごいよミュゼちゃん!!頭叩くと無詠唱なんだ!? わ、私もやってみる」
マキナは何やら自分の頭をペコペコと叩いて魔法を出そうとしているが、うまく行かないようだ。
「へへん! ま、まぁ私は王族だからね、マッキーには難しいわ」
「ははは、それはいいな! プッシュオンマジックって奴さ、ははは!」
「笑い事か、アホ共」
アンナは様々な事に悩んでいた自分が馬鹿らしくなり、その苛立ちをミュゼの頭に向けた。
まるでそれを待ってましたかのように、既に叩かれる準備していたミュゼの手からは、相変わらずの炎弾が空に向け豪快に放たれた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました
東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。
王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。
だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。
行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。
冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。
無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――!
王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。
これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
没落貴族は最果ての港で夢を見る〜政敵の公爵令嬢と手を組み、忘れられた航路を拓いて帝国の海を制覇する〜
namisan
ファンタジー
日本の海運会社に勤めていた男は、事故死し、異世界の没落貴族の三男ミナト・アークライトとして転生した。
かつては王国の海運業を牛耳ったアークライト家も、今や政争に敗れた見る影もない存在。ミナト自身も、厄介払い同然に、寂れた港町「アルトマール」へ名ばかりの代官として追いやられていた。
無気力な日々を過ごしていたある日、前世の海運知識と経験が完全に覚醒する。ミナトは気づいた。魔物が蔓延り、誰もが見捨てたこの港こそ、アークライト家再興の礎となる「宝の山」であると。
前世の知識と、この世界で得た風を読む魔法「風詠み」を武器に、家の再興を決意したミナト。しかし、その矢先、彼の前に最大の障害が現れる。
アークライト家を没落させた政敵、ルクスブルク公爵家の令嬢セラフィーナ。彼女は王命を受け、価値の失われた港を閉鎖するため、監察官としてアルトマールに乗り込んできたのだ。
「このような非効率な施設は、速やかに閉鎖すべきですわ」
家の再興を賭けて港を再生させたい没落貴族と、王国の未来のために港を閉鎖したいエリート令嬢。
立場も思想も水と油の二人が、互いの野望のために手を組むとき、帝国の経済、そして世界の物流は、歴史的な転換点を迎えることになる。
これは、一人の男が知識と魔法で巨大な船団を組織し、帝国の海を制覇するまでの物語。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる