蛇と龍のロンド

海生まれのネコ

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四章 宇宙の龍神様

3 外出します

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1・

たどり着いた星の宇宙港で、救助した人たちを国連職員の方々に引き渡して任務終了となった時、船の予定じゃなくて俺の予定が狂っていた。

それは良い方にだ。

救出された人たちを迎えに来た中に、明日会う予定だったこの星の代表者たちがいた。

なのでこの場で挨拶して少し話をして、大勢の命が助かって良かったねという笑顔で締めくくることかできた。

別の事件が一つ噛んでくれたおかげで、この星の代表者たちとは他の星より至って良好な状態で挨拶できた。

それも良い結果だが……それよりも、もう会っちゃったので明日の会談はない! 何ということか、実習に出て二ヶ月後にようやく、まともな休日がゲットできた!

勉強しなくて良い、丸一日自由な日だ!

あまりに嬉しすぎた俺は、前日の夜から計画を立て始めた。

まず町に外出したいと伝えると、グラントは拒否してくれた。

「何故ダメなんだ」

「お分かりでしょう? いくらこの星の政治家と仲良くなれたとはいえ、エリック様が外出された先で何かあられた場合、またどこかで見たような表情に出会うことになります」

「何もなければいいんだろう? クロを連れて行くし、ユリウスも連れて行く。できれば……ジーンとミラノも!」

「不安が残ります」

「じゃあ……宇宙港とその近隣だけでお願いします」

「宇宙港内だけなら、何とか」

「分かりました。それで構いません。ありがとうございます」

俺は丁寧に対応し、軽く頭を下げた。
それでグラントに、悲鳴に似たうなり声を上げさせてしまった。

悪いなと思いつつ、次にクロを探しに行った。クロの部屋におらず、艦長の部屋にもいなかったから、いつもは気を使って足を踏み入れないでいた一般生徒たちがいる居住区まで行って探してみた。

クロの居場所を大勢に質問して歩き回り、最終的に人工の小さな果樹園の隅っこにいるところを発見した。

明日外出するから一緒に来てくれと頼むと、クロは疲れ気味の表情で小さく頷いた。

途中で出会って俺の後をついて歩いているユリウスは既に分かっているだろうから、あとはジーンとミラノの部屋に行くことにした。

禁断の……という程ではないにしろ、足を踏み入れにくくはある女子生徒たちの部屋が集まった一角。

俺は休日欲しさに無敵になっているので、初めて自分から二人の部屋を訪れた。

扉に鍵がかかっている訳じゃないものの、普通にインターフォンのボタンを押して待った。

扉が開き、既に制服から部屋着に着替えた二人が登場した。

「エリック様?」

「あ、明日は俺も休みだから、一緒に出掛けないか? 宇宙港内だけだけど、クロも行くんだ」

最初、目を奪われたミラノを見て話したが、その私服が眩しすぎて途中でジーンに目をやった。

するとジーンが言った。

「もちろん、ご一緒させていただきます。護衛として」

「いや、そう堅苦しいのは止そう。友達として行ってくれ」

俺はその方がいいから頼んだ。

ちらりとミラノを見ると、笑顔で頷いてもらえた。

もうそれ以上の幸せ……はあるだろうが、今は幸せいっぱいで二人に感謝した。

そしてスキップしたい気分で自分の部屋に帰って、明日を待ち続けた。

2・

小学生の時の遠足ぐらい心待ちにしてしまい、余り眠れずに翌日を迎えた。

それでも気合いを入れて準備を整え、外出許可の下りた午前十時にみんな一緒に戦艦から降りた。

私服でタラップを降りていくのがとても新鮮で、それすらアトラクションみたいに思えて楽しくてしょうがない。

そして宇宙港内には、一通り楽しめるような施設が沢山ある。

土産物店と飲食店は当たり前、定期船に乗る人たちの暇つぶし用の映画館やアミューズメント施設みたいなものもある。

俺たちは一応作戦会議をした。お昼をどこかのレストランで食べるまでは、土産物店を巡る。食事の後に映画館に行き、昼寝したい人はしてもいい。

それからカラオケ及びボーリングなどの運動系に行き、夜になる頃に帰宅。

主に俺が決定しなくちゃいけなかったが、そういう事にした。

まず最初、最初にお土産店に行った。荷物になりそうなものは買わず、記念品みたいなのを適当に物色して購入。

気付いたらもうお昼前だったので、やっぱり俺が決めたレストランに入った。

久しぶりに堅苦しい給仕がない食事で、料理が美味しいというよりは、みんなには悪いがそこが地味に嬉しかった。

その後、流行っていそうな映画を観にいき、やっぱり幾人か寝たが、俺は寝ずに全部観た。次にいつ映画館に来れるかマジで不明だから満喫しておかないと、一生の心残りになる。

映画が終わった後、適度に休んだ者と共にボーリング場に行った。
全くしたことがないというクロに教えつつも、みんなは結構上手くてハイスコアを叩き出していった。
俺も中学時代以来のボーリングだったが、まあまあ良いスコアが出せた。

そうして運動が終わり、もう夕方だけどカラオケをどうするという話をフードコートの一角でした。

トイレ休憩も兼ね、俺は先に行っていたのでジュースを買って隅っこで立っていた。

その横にミラノが来て、俺と同じようにジュースを飲みつつ何か言いたそうな感じで俺に視線を送ってきた。

少しドキドキしたが、冷静に見えるように努力した。

「何か話したいなら、どうぞ」

「え? いやその、別にないですよ。それよりも、エリック様の話が聞きたいです」

マジで?

「俺の話って、そんなに面白い事なんか言えないぞ」

「いえいえ、日常の話などでも十分に楽しいです」

そうなの?

「日常って……分かってるとは思うが、今は勉強ばっかりだ。何とかバンハムーバ勢力圏内の知識は整ってきたもののそれでもまだ足りなくて、ユールレム勢力圏内のことも後々に学ばないといけない。まだまだ半人前以下だ」

「それでも、一年と少しでそこまで習得されたエリック様は、とても凄い方だと思います。私だったら、とっくの昔にリタイアしてます」

ミラノはとても親しげに、耀くような笑顔をくれた。その笑顔は少し幼さを残しつつも大人びていて、ああ可愛いなあと実感できた。

ミラノは美人というより可愛い部類の女子で、フレンドリーな性格をしていて裏表が無い。話していると、とても楽しい気分になれる人だ。

この笑顔だけでもう十分と喜びに浸っていると、突然横から声をかけられた。

「おいお前、美人の彼女とイチャコラすんなよ」

何だって?

俺がガラの悪そうな青年たちの襲撃を受けたところで、少し離れて立っていたユリウスが即座に割って入ってきた。

そしてミラノが俺の腕を取ってギュッと引っ張り、少し下がらせた。

「彼に話しかけるな。立ち去れ」

「何だとこら。テメエは関係ねーよ。そっちのバカップルに話があんだよ」

何ですって?

「我らは彼の護衛だ。そちらには、それ相応の覚悟をしていただく」

「ッチ! 金持ちの坊ちゃんでリア充かよ! 余計に腹が立つ!」

もう一回お願いします!

「エリック様、こちらに!」

喧嘩に発展しそうなところ、クロが駆け付けて来たのとすれ違いつつ、ミラノに強く腕を掴まれつつ誘導され、戦艦へと戻っていった。

無事に自分の部屋に戻ると、俺は机につっぷした。

クロが何とか上手くやったようで、喧嘩にせず全員逃げられたようだ。

その報告をグラントとマルティナにするユリウスの声を聞きつつ、俺は机と友達になったまま震えた。

グラントが気付いて、声をかけてきた。

「エリック様、どうされました? やはり何かの被害に遭われましたか?」

「ま、まさか。むしろ逆」

「逆ですか?」

「俺のわがままを聞いて貰えるなら、あいつらに報償を与えてくれ!」

みんな、しばらく絶句した。

ユリウスがそのうち気付いたようで、解説をくれた。

俺がミラノに腕を引かれて歩いたのが、物凄く嬉しいんだと。

当たり前だろう。ギューッ、だぞ。ギューッ! あれを喜ばない男子がいるか!

と、少しエキサイティングし過ぎたところで、ミラノとジーンが様子を見に来てくれた。俺は即座に通常運転に戻った。

全然怖くないし、全く平気だったというミラノの話を爽やか笑顔で聞いた。俺も全然平気と伝えた。

その後。何とか逃げ果せたから良かったが、次はこうならないだろうから旅の間の外出禁止令が出された。

それでも、今日の俺は笑顔で受け入れた。

グラントは若干引きつつも、三人にとりあえず解散と告げた。

それで三人が帰ろうとしたので、その姿を見てあることを思い出して席を立った。

「ちょっと待ってくれないか、ジーン」

呼びかけるとジーンは立ち止まり、グラントとマルティナが変な表情をした。

外出に持っていっていた鞄の中を探り、目的のものを見つけて取り出した。

「はいこれ。もう一カ月近く遅れたけど、お誕生日おめでとう。大したものじゃないけど、家に帰ったら冷蔵庫にでもくっつけておいてくれ」

友人にとはいえ、龍神が人にプレゼントをあまり渡さない方がいいかと思い、形が残らないからと一年前にジーンに花を贈ったことが、何かややこしい誤解の元になってしまったから。

今回は全く恋愛要素を感じない、お土産の中でもまあまあ微妙な立ち位置にあるマグネットを買ってみた。

お花の小さなマグネットだから、冷蔵庫にくっつけても邪魔にならないだろう。

「お気遣い、ありがとうございます。頂戴いたします」

「いやそんな重苦しく……まあ、取りあえずおめでとう」

ジーンは礼儀正しく一礼してから、部屋を出て行った。

仲が良いのは良いんだけど、やっぱり立場の差ってのは覆せないのか。

残念だなと思いつつ振り向いて、やっぱり変な表情をしているグラントとマルティナに気付いた。

「何か?」

「え、いいえ。何も。夕食はどうされますか?」

「いつも通りの時間でいいよ」

グラントに普通に答えはしたものの、何故か微妙な空気は変わらない。

俺は不思議に思いつつも、他にも買ったお土産の整理整頓をし始めた。
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