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8>>ただ一言があればずっと…
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ロメロの身体が何に蝕まれているのかは分かってはいない。
ただロメロの身体は力が抜け、時に頭が痛くなり、時に関節が痛くなり、身体は常にダルくて食欲が無く、食べないから更に体力が落ちていき、動かないから更に筋力が弱まっていった。
父であるギルディエル侯爵は気休めだと分かりながらもロメロの為に専属の回復魔法士を雇った。
男の回復士は朝と夜にロメロに回復魔法を掛けてくれる。
最初は『なんでそんなちょっとなんだ』と不満に思ったロメロだったが、回復魔法を掛けた後の男、ロメロの専属回復魔法士のミック・アッシャーが青い顔をして、時には吐きそうになっているのを見て、回復魔法を使うのは無限ではないのだと知った。
アメリアの話を聞いたミックが言った。
「えぇえ?! 石を通してずっと回復魔法を掛けていたんですか? なんですかその人? 化け物ですか?
僕も回復士としては優秀だと褒められてきましたが、ロメロ様のような方に回復魔法を使うのは今みたいなやり方じゃないと無理ですよ。こっちが死んじゃいますよ。
え? なんでそんな優秀な人と切れちゃったんですか? 勿体無いどころの話じゃないじゃないですか。
その人がいればロメロ様は」
最後まで聞いていられなくてロメロはミックにサイドテーブルにあったグラスを投げ付けて黙らせた。
当たりはしない場所に飛んで割れたグラスを見たミックは肩をすくめて黙り、
「僕が居ないと困る癖に」
と、呟いて部屋を出て行った。
その言葉にロメロは唇を噛む。
ミックにお前の代わりはいくらでも居ると言えたらいいが、父からは代わりは居ないと伝えられている。
そもそも回復魔法士になる人たちは『たくさんの人々を自分の力で助けたい』と思ってその職業に就いている。なのでいくら給金が高くても『たった一人だけを回復し続ける』事に対して『やり甲斐がない』と難色を示すのだ。ミックのような『感謝もしない相手でもお金がたくさん貰えるならオッケー』な回復魔法士は珍しく、やっと見つけた一人だった。
ロメロが不満に思っても、ミックのお陰で自分が“まだマシな体調になっている”事は事実だった。
部屋から出られず、滅多にベッドから離れる事が出来なくても、ロメロは元気だった自分が忘れられずに、いつか来る可能性に掛けていた。
時間さえ経てば……必ず自分は助かる筈だっ!!
ロメロは信じていた。
そんなロメロに寄り添う様にシンシアがロメロの肩に自分の頭を寄せた。
ベッドに上半身を起こした状態で座るロメロに、ベッドに腰掛けたシンシアがもたれる様にすり寄る。
時間だけはたっぷりとある。
夫婦として寄り添ったシンシアを、ロメロは横目で見る事なく自分は窓の外を見ていた。
そんなロメロのやつれた横顔をシンシアはせつなそうに見つめる。
いつからかロメロはシンシアを愛おしそうな目で見てはくれなくなった。自分は体がツラいから……今は気分じゃないから……と、妻であるシンシアさえ遠ざけた。
シンシアには侯爵家でやる事がない。あるのは『ロメロの看病』だけだ。
侯爵家の嫡男の妻となったはずのシンシアは、それなのに別邸に住み、滅多に本邸へ行く事はない。
本来ならばあるはずの『次期侯爵夫人となる為の教育』さえ受けていない。
ロメロには知らされてはいないが、ロメロの体調が悪くなって1年が経った頃に侯爵家には当主の妹が産んだ次男が養子として来ていた。
ロメロにとっては義弟だが、ロメロには知らされてはいない。ただでさえ体調の悪いロメロに不要な精神的負担をかけない為の配慮だった。
嫡男として活動できなくなったロメロの代わりに義弟がギルディエル侯爵家を継ぐのだ。義弟には養子になる前から仲の良い婚約者が居て、その婚約者がそのまま次期侯爵家の夫人となる。
シンシアが妊娠していれば話は変わっただろうが、その可能性ももはやゼロとなり、ロメロに何かあった場合にはシンシアと侯爵家の繋がりは無くなる。
だからシンシアに侯爵家の事でやる事は無いし、本邸に居場所も無い。
シンシアはこの家で唯一の拠り所であるロメロに寄り添ってその低い体温を求めた。
「ねぇ……ロメロ……」
シンシアの呼びかけにロメロは答えない。
それでもシンシアはロメロの名を呼んだ。
「……ねぇ、ロメロ……」
「………………なんだ」
何度目かの呼びかけにロメロはやっと答えた。
そんなロメロの横顔を見ていられなくて、シンシアはそっと視線をそらした。
「……ねぇ……わたくしは幸せよ?
ずっと貴方の側に居られるもの……
アメリアが居たらこんな風に貴方に触れられなかった……
だから幸せなの……
貴方も……そうでしょう?」
震える声で言われたシンシアの言葉に、ロメロは少しだけ考える様に目を細めた後、
シンシアを見る事なく
「………あぁ……
……あぁそうだな…………
そう思えたらいいのにな…………」
そう答えた。
──────────
※【ミック・アッシャー】←男爵家の三男。貧乏男爵家の為「感謝の言葉より現金が欲しい!」が口癖。ロメロの専属回復魔法士はお金は勿論、実家が侯爵家の援助を受けられる事になったので喜んでいる。
ロメロの身体が何に蝕まれているのかは分かってはいない。
ただロメロの身体は力が抜け、時に頭が痛くなり、時に関節が痛くなり、身体は常にダルくて食欲が無く、食べないから更に体力が落ちていき、動かないから更に筋力が弱まっていった。
父であるギルディエル侯爵は気休めだと分かりながらもロメロの為に専属の回復魔法士を雇った。
男の回復士は朝と夜にロメロに回復魔法を掛けてくれる。
最初は『なんでそんなちょっとなんだ』と不満に思ったロメロだったが、回復魔法を掛けた後の男、ロメロの専属回復魔法士のミック・アッシャーが青い顔をして、時には吐きそうになっているのを見て、回復魔法を使うのは無限ではないのだと知った。
アメリアの話を聞いたミックが言った。
「えぇえ?! 石を通してずっと回復魔法を掛けていたんですか? なんですかその人? 化け物ですか?
僕も回復士としては優秀だと褒められてきましたが、ロメロ様のような方に回復魔法を使うのは今みたいなやり方じゃないと無理ですよ。こっちが死んじゃいますよ。
え? なんでそんな優秀な人と切れちゃったんですか? 勿体無いどころの話じゃないじゃないですか。
その人がいればロメロ様は」
最後まで聞いていられなくてロメロはミックにサイドテーブルにあったグラスを投げ付けて黙らせた。
当たりはしない場所に飛んで割れたグラスを見たミックは肩をすくめて黙り、
「僕が居ないと困る癖に」
と、呟いて部屋を出て行った。
その言葉にロメロは唇を噛む。
ミックにお前の代わりはいくらでも居ると言えたらいいが、父からは代わりは居ないと伝えられている。
そもそも回復魔法士になる人たちは『たくさんの人々を自分の力で助けたい』と思ってその職業に就いている。なのでいくら給金が高くても『たった一人だけを回復し続ける』事に対して『やり甲斐がない』と難色を示すのだ。ミックのような『感謝もしない相手でもお金がたくさん貰えるならオッケー』な回復魔法士は珍しく、やっと見つけた一人だった。
ロメロが不満に思っても、ミックのお陰で自分が“まだマシな体調になっている”事は事実だった。
部屋から出られず、滅多にベッドから離れる事が出来なくても、ロメロは元気だった自分が忘れられずに、いつか来る可能性に掛けていた。
時間さえ経てば……必ず自分は助かる筈だっ!!
ロメロは信じていた。
そんなロメロに寄り添う様にシンシアがロメロの肩に自分の頭を寄せた。
ベッドに上半身を起こした状態で座るロメロに、ベッドに腰掛けたシンシアがもたれる様にすり寄る。
時間だけはたっぷりとある。
夫婦として寄り添ったシンシアを、ロメロは横目で見る事なく自分は窓の外を見ていた。
そんなロメロのやつれた横顔をシンシアはせつなそうに見つめる。
いつからかロメロはシンシアを愛おしそうな目で見てはくれなくなった。自分は体がツラいから……今は気分じゃないから……と、妻であるシンシアさえ遠ざけた。
シンシアには侯爵家でやる事がない。あるのは『ロメロの看病』だけだ。
侯爵家の嫡男の妻となったはずのシンシアは、それなのに別邸に住み、滅多に本邸へ行く事はない。
本来ならばあるはずの『次期侯爵夫人となる為の教育』さえ受けていない。
ロメロには知らされてはいないが、ロメロの体調が悪くなって1年が経った頃に侯爵家には当主の妹が産んだ次男が養子として来ていた。
ロメロにとっては義弟だが、ロメロには知らされてはいない。ただでさえ体調の悪いロメロに不要な精神的負担をかけない為の配慮だった。
嫡男として活動できなくなったロメロの代わりに義弟がギルディエル侯爵家を継ぐのだ。義弟には養子になる前から仲の良い婚約者が居て、その婚約者がそのまま次期侯爵家の夫人となる。
シンシアが妊娠していれば話は変わっただろうが、その可能性ももはやゼロとなり、ロメロに何かあった場合にはシンシアと侯爵家の繋がりは無くなる。
だからシンシアに侯爵家の事でやる事は無いし、本邸に居場所も無い。
シンシアはこの家で唯一の拠り所であるロメロに寄り添ってその低い体温を求めた。
「ねぇ……ロメロ……」
シンシアの呼びかけにロメロは答えない。
それでもシンシアはロメロの名を呼んだ。
「……ねぇ、ロメロ……」
「………………なんだ」
何度目かの呼びかけにロメロはやっと答えた。
そんなロメロの横顔を見ていられなくて、シンシアはそっと視線をそらした。
「……ねぇ……わたくしは幸せよ?
ずっと貴方の側に居られるもの……
アメリアが居たらこんな風に貴方に触れられなかった……
だから幸せなの……
貴方も……そうでしょう?」
震える声で言われたシンシアの言葉に、ロメロは少しだけ考える様に目を細めた後、
シンシアを見る事なく
「………あぁ……
……あぁそうだな…………
そう思えたらいいのにな…………」
そう答えた。
──────────
※【ミック・アッシャー】←男爵家の三男。貧乏男爵家の為「感謝の言葉より現金が欲しい!」が口癖。ロメロの専属回復魔法士はお金は勿論、実家が侯爵家の援助を受けられる事になったので喜んでいる。
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