愛しておりますわ、“婚約者”様[完]

ラララキヲ

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7>> シーキアス侯爵

     
 
 
 
  
「リゼ様!? マリーナ様はリゼ様に心酔していたんじゃありませんの!?」

「俺だって意味が分からないんだ!!」

 学園の校舎裏、人が寄り付かず視界にも入らない場所でカレナとリゼオンは互いに焦る気持ちを隠せもせずに言い合いをしていた。

「マリーナの奴! “愛するリゼオン様”とか言っておいて婚約破棄をあっさり受け入れるなんて何を考えているんだ!?」

「愛する人を手放すなんて理解できませんわ!?」

「目撃者がいた方が都合が良いと思っていたが、それが完全に裏目に出てしまった……」

「全然関係のない人たちに怒られてしまいましたわ!? マリーナ様は“証人”とか言ってましたし!?」

「……証人……、そんなものがなんだと言うんだ……、父に破棄を認めさせなければいいんだろ。
 カレナを第2夫人にするからにはどうせ父上には怒られるに決まってるんだ。マリーナのせいで面倒くさい事にはなったが、今日帰ったら父に謝って、婚約破棄の話は冗談だったと理解してもらう」

「大丈夫ですの……? わたくし、リゼ様の第2夫人になれますか……?」

「……あぁ、大丈夫だ……。マリーナも、突然の事で気が動転でもしたんだろう。愛する俺が離れていくかもしれないと理解すれば、その恐ろしさに必ず泣いてくるはずさ……」





 そんなリゼオンの考えは、帰った家にてあっさりと否定された。




「……………え?」

「もう一度言う。
 お前とマリーナ嬢の婚約破棄は絶対だ。もう覆す事など出来ない」

 自分の父であるシーキアス侯爵当主からきっぱりと告げられた言葉にリゼオンは頭が真っ白になった。
 そんなリゼオンの前にシーキアス侯爵は数枚の手紙を見せた。

「メルビン侯爵家にレントル伯爵家、ヘミング伯爵家にセルゲイズ侯爵家と他にも数件、お前が学園で叫んだ非常識極まりない婚約破棄宣言に気分を害したと苦情が来ている。
 セルゲイズ侯爵家からは、シーキアス侯爵家の息子への紳士教育はどうなっているんだとも書いてあったなぁ……まさかこんな形で恥をかかされるとは思いもしなかったぞ」

 父に睨まれてリゼオンはまともに息も出来なかった。
 誤解だと、本気じゃなかったと父に訴える前に、あの場に居合わせた学生の家からシーキアス侯爵家に苦情が届いていた。
 リゼオンがカレナと学園でうだうだと話していた事が裏目に出てしまったのだ。さっさと家に帰って父に誰よりも先に話をしていれば父の印象もまた変わっていたかもしれない。だがリゼオンはそこまで気が回らなかった。マリーナが『証人』と言った意味に気づけなかった。

「メルビン侯爵家からは、“婚約破棄などと強い言葉を使い、大勢の前で相手の婚約者をはずかしめるような行為は如何なものか”、“娘を持つ親として、相手方のご令嬢の今後をうれいている”、“まさか『冗談』などとは言いますまいな?”等々、それはそれは長いお手紙をいただいてな……。
 ご令嬢の居る家は大層お怒りだ」

 メルビン侯爵はマリーナへ一番最初に証人になると発言したジャスティーナ・メルビン侯爵令嬢の実家だ。セルゲイズ侯爵家はリゼオンに『一度言った言葉は取り消せない』と詰め寄ったマーカス・セルゲイズ侯爵令息の実家である。伯爵家からの苦情はもしかしたらどうにか出来たかもしれないが、この2つの侯爵家からの苦情を無視することなどシーキアス侯爵家には出来ない。
 勿論シーキアス侯爵当主には元々これを無視する気などなかったが……。

「そ、そんな……、違うのです父上……これは…………」

「どんな悪巧みをしていたか知らないが、
 婚約者以外の女を連れて婚約破棄と口に出して、
 都合が悪くなったからと、後からそれを無かった事にしようとしても出来る訳が無いだろう」

「っ! ……しかし、マリーナは俺を愛していると言ってきたんですよ!? 愛してる俺が婚約破棄だと言ったら普通は縋りつくでしょう?! それなのにあいつは泣きもしなかったんですよ!?」

「お前……マリーナ嬢を傷付ける為に婚約破棄などと言ったのか?」

 父から向けられた視線にリゼオンはハッとした。シーキアス侯爵は心底呆れ返ったというか心底馬鹿にしたというか、到底実の息子に向けるような視線とは思えない目をしてリゼオンを見ていた。
 その目を見たくなくてリゼオンは父から目を逸らす。
 シーキアス侯爵はそれを見て盛大に溜め息を吐くと目を伏せリゼオンに背中を向けた。

「お前は当分謹慎だ。話が落ち着くまで邸の外に出ることは許さん。
 誰か、リゼオンを部屋に閉じ込めておけ」

「ち、父上! 待ってください!!」

 リゼオンは抵抗したが執事たちに両腕を取られ引きずられるようにして自室へと連れて行かれてしまった。

 何を間違えたのか分からない。

 マリーナがリゼオンを愛していたからこそ、この作戦は考えられたのだ。
 婚約者になったばかりの頃からリゼオンを愛おしそうに見つめて愛していると言い続けたマリーナが、どうして簡単に婚約破棄を受け入れたのかリゼオンには理解できない。
 大好きなカレナと一緒になる為にはマリーナの承諾が必要だった。それだけだったのに。
 愛する男を簡単に手放したマリーナの気持ちが、リゼオンには全く理解が出来なかった……。
 
 
 
 
     
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