愛しておりますわ、“婚約者”様[完]

ラララキヲ

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13>>婚約破棄の結果:カレナ

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 リゼオンの隠れた恋人であったカレナ・ドンド男爵令嬢の実家には今まで見た事も無かったような高位貴族の家紋が入った封書が届いていた。
 それが嬉しい知らせであればカレナの父であるドンド男爵も喜んでいたのだが、生憎中身は苦情苦情のオンパレードで、それを読んだドンド男爵の心は今地獄へと落ちているところだった。

 自分の娘がとても美しく育ってくれた事に感謝していた。
 その娘の自慢の胸がゆっさゆっさと揺れる事にも、父であるドンド男爵は嬉しく思っていた。
 母に似て美しく妖艶に育った娘が、もしかしたら学園で高位貴族の令息を捕まえてくるかもしれないと邪念を抱いたのがいけなかったのかもしれない……
 娘はしっかりと高位貴族の令息を捕まえたが、それは当然の様に不貞行為であった……
 それはそうだろう。
 学園に入る年齢になっても婚約者が居ない高位貴族の令息の方が問題だ。婚約者が居ない高位貴族の令息など居る訳が無かった。
 それなのに娘は捕まえてきてしまったのだ……
 それとなく注意をしたし、母親にも浮気の危険性を娘に教えるように伝えたのだが、『奪い取れれば問題ないわ』と力強い返事が返ってきた。ドンド男爵は妻にも教育が必要な事に気づいて気力がごっそりと減った。
 男爵家は頑張って貴族の暮らしをしている準貴族みたいなものだったので、ドンド男爵夫人もとてもしたたかだった。『相手に婚約者が居る?勝ち取ればいいのよ!良い女が選ばれるだけなんだから!』そんなノリだった。そんな母に育てられたカレナはとても元気に媚を覚えた。

 ドンド男爵が気付いた時には全てが遅かったのだ……

 カレナが懇意にしていた令息が婚約者相手に婚約破棄をした。それも学園の皆の前で。カレナをしっかりエスコートしながら。カレナも相手の令嬢に偉そうに発言した。

 知りたくなかった……
 父さんは聞きたくなかった………
 
 頭を抱えたドンド男爵はもう絶対娘は庇えないと悟った。
 男爵家如きが貴族社会で噂に。それも悪い意味で。高位貴族にばっちり目をつけられた。
 ドンド男爵は死を悟った。

「カレナ。お前を修道院に入れる」

「嫌よ!!!!!」

 娘からの当然の返事を聞きながらドンド男爵は粛々と必要書類にサインしていった。

「修道院に入るくらいならお嫁に行くわ!! この際もう平民でもいいわよ!! お父様が言っていたお金持ちの商人のところへ行きましょう!!」

 ぷりぷりと怒る娘を叱る気力ももう男爵には残ってはいなかった。

「……その話はもう無いよ」

「え?」

「成功した商人の取引相手など大半が貴族に決まってるじゃないか。その取引相手が嫌がっている女性を嫁になど迎え入れる訳がないだろう?
 お前はまだ学生だから大丈夫とでも思っていたのかもしれないが、貴族社会の情報網は凄いんだよ。高位貴族の令息をたぶらかしてのし上がろうとする男爵令嬢の名前などとっくにみんな知っているさ。
 お前は見た目だけは良いからな。ただ平民へ嫁がせただけでは身の安全を守れない。直ぐに人攫いに遭い娼館へ売られるだろう。私はそんな目に娘を遭わせたくはないのだ……

 お前が修道院へ行くのはお前の身の安全の為だよ。

 なに、しっかりと寄付金を払ってやるから安心しなさい。

 ほとぼりが冷めたところでこちらに呼び戻してもらえるように、お前の兄には頼んでやるからな……」


 優しく、諭すように話したドンド男爵の話を、
 カレナは既に聞いてはいなかった………


──わたくしが修道院ですって!?! なんでそんなところに行かなくちゃいけないのよ!!! 婚約破棄とか言い出したのはリゼ様じゃない!? むしろわたくしは巻き込まれただけよ!! それなのにわたくしまでこんな罰を受けさせられるなんて聞いてないわ!!! 修道院に行くくらいなら平民になった方がマシよ!!! 絶対に行かないんだから!!!!──


 父親の話を聞いていなかったカレナは深く考えずにただただ逃げる事を考えた。

 部屋に帰って持ち物を漁り、お金になりそうな物を手当たり次第に鞄に詰めた。

 母は言っていた。
 『良い女には良い男が寄ってくるのよ』
 カレナはそれを信じていた。

 修道院が嫌だから逃げて、そしたらどこかで良い男の人が現れて、きっと自分を助けてくれる。そして助けてくれたその人は、きっと身分も高くて優しくてお金持ちで、わたくしを一目で見初めてお嫁さんにしてくれる!!

 カレナは身持ちは悪かったが、中身はただの世間知らずの、だった。



 夜中に家出したカレナは当然の如くゴロツキに見つかり連れ去られ、気の強さから抵抗してしまった結果、翌朝庶民街の裏路地で死体となって発見された。荷物は全て持ち去られていた。簡素だが貴族らしいドレスを着たその死体が、家から居なくなっていたカレナだと直ぐに分かって、カレナは次の日には家へと帰ることになった。





 身持ちの悪い男爵令嬢のせいで婚約破棄が起こったと、社交界では長年噂される事になったが、その話に出てくる『男爵令嬢』の名前がカレナ・ドンドだと知る者はほとんど残ってはいなかった。
 
 
 
  
        
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