妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ

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 そしてアリーチェは伯父ムルダと共にエルカダ侯爵邸を離れた。
 生家を出て行くのに寂しがるどころか精々したような表情で出ていくアリーチェをルナリアは複雑な気持ちで見送った。

 嫌いだった姉が出て行ってくれてこちらの方が清々する、とは、とても言えそうになかった……

 ルナリアはアリーチェが嫌いだった。
 いつも暗い顔で常に取り澄ました顔をしていて、笑うこともなく、かと言って悲しむでもない姉がいつの間にか嫌いになっていた。家族をさも他人のように接するアリーチェのその感じがルナリアを毎回嫌な気持ちにさせたから。

 もっと小さい頃はそうではなかった。
 姉の側に行きたいと思ったし、姉と遊びたかった。姉妹でしかできない事をやってみたかった。勉強ばかりを優先して自分と遊んでくれない姉に寂しさを覚えた。母から姉が嫌がるから側に行っちゃいけませんと言われて本当に悲しかった。
 それなのに姉は自分を遠くから見てくる。その理由が分からなくて……姉のその目が怖かった……
 話しかけてもこない癖にそんな離れた場所から睨んでくるほどにお姉様は自分のことが嫌いなんだと思った。
 まともに話すこともなかったのにそういう小さいことが積み重なってどんどん姉に苦手意識を感じて……そしてどんどん嫌いになった……
 今考えるとあれは睨んでいたのではなく、こちらをうらやましく見ていたのかもしれないと思える。
 常に一人で寂しかった姉が、どんな気持ちで両親に囲まれている自分を見ていたのか……ルナリアには想像もできなかった。

 そして、8歳の時にアリーチェにグリドという婚約者ができた。
 ルナリアはグリドを見て一目で彼にときめいた。そしてそんなグリドに優しくされてどんどん彼を好きになった。
 今思えば、グリドは単純に“自分の婚約者の妹”に優しく接していただけだったし、ルナリアは初めて身近に接する同世代の異性を特別視してしまっていただけだったのかもしれない。
 しかしそんな事をルナリア自身が気付くことはないし、ときめいた心はそのままどんどん膨れ上がって恋心になってしまった。ルナリアはグリドを特別な目で見るようになったし、そんなルナリアの目にはアリーチェのグリドへの対応はとても冷たいものに映った。
 そしてルナリアは思った。
『好きじゃないならわたくしに頂戴よ』
『お姉様が要らないのならわたくしが貰ったっていいじゃない』、と。

 そしてその話を母にしたら、母はルナリアをたしなめるどころかその気持ちに賛同してくれた。貴女のその気持ちを大事にしなさいと言ってくれた。
 だめだと叱られると思っていたから認められてルナリアは嬉しかった。グリドに想いを伝えれば、優秀な姉よりも自分を選んでくれてもっともっと嬉しかった。
 でも今になって冷静に考えてみると、姉の婚約者に秋波しゅうはを送る妹をさとすこともせずにむしろその背中を押す母親はおかしいと思える。……自分の婚約者の妹に言い寄られてそれを困りながらも“自ら受け入れた”グリドは……当事者以外から見た時……どう思われるだろうか、と……ルナリアは初めて自分たちの立場の危うさに気付いた……

 恋が実って浮かれていて……本来ならば一緒に居られないはずの相手と手を握って居られる幸せに舞い上がっていて、まともに周りが見えていなかった。

 姉の婚約者を奪った妹。
 婚約者の妹に手を出した男。
 そんな自分たちを世間はどんな目で見るだろうか……
 物語の中ならば『真実の愛を見つけた二人は皆に祝福されて幸せに暮らしました』で終わり二人は幸せになれるだろうが、現実は甘くない。『婚約』という『契約』を一時の感情で壊した二人を、今後付き合っていく人たちは信じてくれるだろうか……
 ルナリアは初めて自分たちを俯瞰で見ることができるようになっていた。

「お姉様……」

 居なくなってしまうと思うと今まで見えなかった部分が見えてきた。
 これから、アリーチェが居なくなったこの家がどうなるのか……ルナリアの胸に不安がじわじわと湧き上がって、とてもじゃないが笑える未来を想像できそうになかった。

 冷え切った指先を温める様に手を握る。
 しかし冷たくなった手指は冷たいままで、ルナリアの心までもを冷やしてしまう気がした………




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