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期待と尊敬と残念さとが重なる偶然

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 ミラクのお母さんはジョジさんの言葉を聞くと、砂嵐から目を離して湖の方へと歩いていった。何をしに行ったんだろうってそっちを見てると…。

 「ところで、お嬢さん。」

 そう言ってジョジさんは私の方へ向きを変え、話しかけてきた。そして私の顔をのぞきこみながら眉間に皺をよせてこう言う。

 「なんでこんな危ないところに、ひとりで来たんだ?」

 ついさっき、この場所を教えたのはジョジさんでしょ!って言ってやりたかった。けど、その前に急に目から涙があふれだして、気がついたらぎゅっと、私はジョジさんの胸のあたりに飛び込んで力いっぱい抱きしめていた。

 「なんであんなことしたの!それで、どうやって助かったの!心配したんだから!ミラクの剣で火が出て、ジョジさんを包み込んで!」

 その後は、もう言葉になっていなかったと思う。顔を見るまではどうということもなかったのに、顔を見てしまって、胸の奥につかえてたものがどこかへ行ってしまったみたいだった。

 「詳しい話はあとにして、何があったかってことだけ話してやる。そのかわり、質問とかはなしで。」

 ジョジさんが少しだけ優しくそう言うのを聞いた。恥ずかしかったので顔はジョジさんの胸に思いっきり押し付けて、私は思いっきり泣いた。これでもかってぐらい力を込めて泣いた。


 私達は今、洞窟の中でBBQばーべきゅーをして、ミラクの戦いが終わるのをまっている。この道具や材料はどこから出てきたのかというと、ミラクのお母さん。すごいなって思うけど、この場面でBBQってどうなの?頭の中にまた「?」が溜まっていく。

 「銀鈴がまた呼ばれてくるなんて、懐かしくてなんだか昔のことを思い出します。」

 ミラクのお母さんは、綺麗きれいな銀色の髪を横側でまとめて、縛ってしばってきていた。さっき湖の方へ行ったなと思ったら、その場所にドンと大きなテントが張られている。あそこでいろいろと準備をしてきたんだろう。

 話しながら嬉しそうに微笑んでいる。そうして右手に持ったトングで、目の前に置かれたBBQ台の網の上に、綺麗に肉を並べていった。

 「まだもう少しかかりそうですね。」

 すぐ横でものすごい勢いで風が渦巻く砂嵐を横目に見てそう言うと、お肉を並べおわったお母さんは、今度は別の食材をとりに湖畔のテントへと歩いていった。

 そういえばさっきあの中に、ジョジさんの足元に転がっていた黒装束の人を持って行ったんだよね、お母さん…。どうなったんだろう、あの人…。

 「…それでな、俺はあの後、あの坊ちゃんに剣で切りつけられて、それは避けられた。そこは見てたよな?」

 BBQ台の前に用意されたチェアに座って、さっきから片手に缶のお酒を飲みながら演説をぶってるジョジさん。ついさっきの約束でこれまでに何が起こったか話してやるって言って、それから三十分近くずっとこれまでのことを話している。その間ずっとこうやってお酒を飲んでいて、ジョジさんはどうやらお酒にはあまり強くないらしい。

 「そしたら次の瞬間、俺は嫁さんの前にいたんだ。」

 前に聞いたことがある。三人目の子供を産んで亡くなったって。酔いが回りすぎておかしな話をしだしたって私は思った。

 「驚いたのなんの。なにせ、そこは俺たちの結婚式の場だったんだ。」

 「はぁ?」

 もういい加減面倒くさくなってくる。ようやく知りたいところまで話が進んで、そしたら何を言い出してんだ、この酔っ払いオヤジ。

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