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砂嵐の精霊と錬金術師と私達とが知りあう偶然
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ここまで言われて、ジョジさんが動いた。怒って怒鳴りだすか殴られるかな?って思ったけど、そんなこともなく、ジョジさんはただ立ち上がって深く深く息を吐いて言った。
「そのとおりだ。ありがとうな、お嬢ちゃん。」
その言葉を聞いて私の方が涙があふれてしまった。ぶわーっと、どこまでもとめどなく。だって、こんなになってもこの人、泣けないんだ。精一杯に世界を守るためって頑張ってきて、そのせいで家族を二人も亡くして、なんだかんだ言いながら残った子供のことだって考えたんだろうと思う。だからちゃんとしたところに預けてきたんだと勝手に思ってる。亡くなった奥さんの実家よ?!いや、ひょっとしたら裁判とかで親権だっけ?それとられちゃっただけかもしれないけど。
けれど、この人はどんなに急いでいても馬たちのことをちゃんと考えてくれた。どれだけ中二病的でも、いざとなると私やミラクのことを先に逃がそうとしてくれた。
言ってることはてんでわかんないわよ。ずいぶんと自分勝手な言い草だし。ぶっきらぼうだし、乱暴な言葉遣いだし。でも、私は一度だってこのオジサンに傷つけられたことはない。本当に乱暴な人なら、言葉をかける前に暴力をふるうだろうし。
つまりはこのオジサンは、いい人だ。だったら、幸せになってもいい人のはずだ。なのに、そうはならないのは、つまるところ人が良すぎて他人任せにし過ぎちゃうところが多かったからだ。自分でやらなきゃいけないところを。
「そろそろ終わりみたいだな。戻すぞ。」
ジョジさんはそう言うと、また青い扉を取り出して何やら唱えた。するとあたりの動きがだんだんとゆっくりになっていくのが見てとれた。例の砂と雷が混ざり合ったような噴煙も次第にゆっくりとなり、ホコリが舞っているような感じになった。
「お嬢ちゃん、泣きすぎ。鼻水でてんぞ。」
さっきまでの雰囲気とは正反対で、ジョジさんがそう言って笑った。
「冗談じゃないわよ!なんで私の方が泣かなきゃなんないのよ!」
「年の功ってやつだ。しょうがない。」
「ふざけんじゃないわよ!なんでよぅぅ。」
さっさと歩きだすジョジさんの後を、衣類の袖口で涙と鼻水を拭きながら着いていく。来たときみたいに抱えて連れてけ!って思ったけど、少し恥ずかしいので言わないことにした。
そうして数分かけてもといた場所に戻ると、そこに力尽きて座り込んでいるミラクと、しゃがみこんでいる砂色の猫がいた。どちらも疲れ切っているらしくぐったりとしている。
「話がつきました。お待たせして申し訳ありません。」
ミラクがそう言う。ジョジさんが近くに寄って様子を見ていた。私は砂色の猫の方が気になり、近づいて手を伸ばしてみた。そうしたら砂色の猫は嬉しそうに頭をすりよせ、そうして私の指をペロリとなめた。
「なんだか、猫みたいですね。その方がいいです。」
ミラクが猫にそう言うと、精霊さんがひょこっと立ち上がって答えた。
「姿形など気にしたことがありません。この姿はときおりこの砂漠で見かける生き物を模写したものです。」
「それでも、姿形を持てるんですから。少しは気にしてもいいんじゃないでしょうか。」
「なるほど、そうかもしれません。」
「あなたは今から、ベントス・マージ・アクイードです。名を差し上げます。それとしばらくは私達と行動を共にしてください。」
ミラクが頑張って精霊にそう告げると、精霊ベントスはふたたび私の手に頭をすりよせて、それから肩へと飛び乗った。あいかわらず重さは少しも感じとれない。でも、ふわっと風が優しく私の頬をなでていく。
こうして砂嵐の問題は解決となった。これで砂漠の民たちも築き上げた故郷へと帰れるだろう。…もう一回最初から造り直さないとならないかもしれないけど、それでも自分たちの里だものね、きっと頑張るだろう。
「あと残るは、この騒ぎの元になった人間ですね…。ジョジさん、起きたらちょっとご相談があります。」
「おうよ。お疲れさん。」
ミラクはそう言うと、ジョジさんの腕の中でスヤスヤと眠りはじめた。寝顔だけを見ると、やっぱり小学生っぽい。
砂漠の風は海側から吹くとき、少しだけ香りが混じっているそうだ。どこか遠く海の向こうの、綺麗な花を撫でてきたのだろうか?
気がつくと風の精霊ベントスも、わたしの肩の上で眠り込んでいた。頬を撫でる風の音が呼吸の音に聞こえる。これはこの子の寝息だろうか?
私たちは馬車まで戻ると、ミラクとベントスをシートに寝かせて移動を開始することにした。一旦砂漠の民のところへと戻り、まずは街が砂嵐から解放されたと報告に行く。道中、ジョジさんはずっと御者台にいて、中にいるのは私とミラクとベントス。馬車のシートに並んで眠る二人の寝顔がとてもかわいらしすぎて、何度、理性が吹き飛びそうになったことか…。
砂漠は今日も快晴の空。
…次の問題、できれば簡単に済みますように。
「そのとおりだ。ありがとうな、お嬢ちゃん。」
その言葉を聞いて私の方が涙があふれてしまった。ぶわーっと、どこまでもとめどなく。だって、こんなになってもこの人、泣けないんだ。精一杯に世界を守るためって頑張ってきて、そのせいで家族を二人も亡くして、なんだかんだ言いながら残った子供のことだって考えたんだろうと思う。だからちゃんとしたところに預けてきたんだと勝手に思ってる。亡くなった奥さんの実家よ?!いや、ひょっとしたら裁判とかで親権だっけ?それとられちゃっただけかもしれないけど。
けれど、この人はどんなに急いでいても馬たちのことをちゃんと考えてくれた。どれだけ中二病的でも、いざとなると私やミラクのことを先に逃がそうとしてくれた。
言ってることはてんでわかんないわよ。ずいぶんと自分勝手な言い草だし。ぶっきらぼうだし、乱暴な言葉遣いだし。でも、私は一度だってこのオジサンに傷つけられたことはない。本当に乱暴な人なら、言葉をかける前に暴力をふるうだろうし。
つまりはこのオジサンは、いい人だ。だったら、幸せになってもいい人のはずだ。なのに、そうはならないのは、つまるところ人が良すぎて他人任せにし過ぎちゃうところが多かったからだ。自分でやらなきゃいけないところを。
「そろそろ終わりみたいだな。戻すぞ。」
ジョジさんはそう言うと、また青い扉を取り出して何やら唱えた。するとあたりの動きがだんだんとゆっくりになっていくのが見てとれた。例の砂と雷が混ざり合ったような噴煙も次第にゆっくりとなり、ホコリが舞っているような感じになった。
「お嬢ちゃん、泣きすぎ。鼻水でてんぞ。」
さっきまでの雰囲気とは正反対で、ジョジさんがそう言って笑った。
「冗談じゃないわよ!なんで私の方が泣かなきゃなんないのよ!」
「年の功ってやつだ。しょうがない。」
「ふざけんじゃないわよ!なんでよぅぅ。」
さっさと歩きだすジョジさんの後を、衣類の袖口で涙と鼻水を拭きながら着いていく。来たときみたいに抱えて連れてけ!って思ったけど、少し恥ずかしいので言わないことにした。
そうして数分かけてもといた場所に戻ると、そこに力尽きて座り込んでいるミラクと、しゃがみこんでいる砂色の猫がいた。どちらも疲れ切っているらしくぐったりとしている。
「話がつきました。お待たせして申し訳ありません。」
ミラクがそう言う。ジョジさんが近くに寄って様子を見ていた。私は砂色の猫の方が気になり、近づいて手を伸ばしてみた。そうしたら砂色の猫は嬉しそうに頭をすりよせ、そうして私の指をペロリとなめた。
「なんだか、猫みたいですね。その方がいいです。」
ミラクが猫にそう言うと、精霊さんがひょこっと立ち上がって答えた。
「姿形など気にしたことがありません。この姿はときおりこの砂漠で見かける生き物を模写したものです。」
「それでも、姿形を持てるんですから。少しは気にしてもいいんじゃないでしょうか。」
「なるほど、そうかもしれません。」
「あなたは今から、ベントス・マージ・アクイードです。名を差し上げます。それとしばらくは私達と行動を共にしてください。」
ミラクが頑張って精霊にそう告げると、精霊ベントスはふたたび私の手に頭をすりよせて、それから肩へと飛び乗った。あいかわらず重さは少しも感じとれない。でも、ふわっと風が優しく私の頬をなでていく。
こうして砂嵐の問題は解決となった。これで砂漠の民たちも築き上げた故郷へと帰れるだろう。…もう一回最初から造り直さないとならないかもしれないけど、それでも自分たちの里だものね、きっと頑張るだろう。
「あと残るは、この騒ぎの元になった人間ですね…。ジョジさん、起きたらちょっとご相談があります。」
「おうよ。お疲れさん。」
ミラクはそう言うと、ジョジさんの腕の中でスヤスヤと眠りはじめた。寝顔だけを見ると、やっぱり小学生っぽい。
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気がつくと風の精霊ベントスも、わたしの肩の上で眠り込んでいた。頬を撫でる風の音が呼吸の音に聞こえる。これはこの子の寝息だろうか?
私たちは馬車まで戻ると、ミラクとベントスをシートに寝かせて移動を開始することにした。一旦砂漠の民のところへと戻り、まずは街が砂嵐から解放されたと報告に行く。道中、ジョジさんはずっと御者台にいて、中にいるのは私とミラクとベントス。馬車のシートに並んで眠る二人の寝顔がとてもかわいらしすぎて、何度、理性が吹き飛びそうになったことか…。
砂漠は今日も快晴の空。
…次の問題、できれば簡単に済みますように。
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