王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
57 / 717
本編

鉄の女

しおりを挟む

ネクターが無理矢理、乳母オッターに引っ張られて行っては困るので。
竜樹達は、映画会まで、ネクターの日課に付き合った。
ニリヤはどこでも勉強できるので、一緒に座ってミランやマルサに習う。

ネクターの家庭教師、サンセール氏は、メガネのおでこ全開な前髪、お馬の尻尾な後ろ髪がアッシュベージュな、背の高い大きい人だった。少し目の下に皺があるのは、歳のせいか、それとも本の読みすぎか。

「ギフトの御方様が、ネクター様に付いて下さるなら、安心ですよ。乳母達は、ネクター様に偏った意識を強要しようとしますし、私もどうかなと心配に思っていたんです。」
私は、勉強は教えられますが、お世話はできないし、一日中一緒にいられませんからね。

ネクターに寄り添って、大きな背を屈んで、丸くなって熱心に教える姿勢は、子供好きだなと思わせる。この先生は、ずっと付いてもらっていい人だな、と竜樹にも思われた。
ネクターも先生、先生と懐いている。

「先生も、恐怖の映画会に、来ますか?」
ネクターが誘うと、
「興味深いですね!ぜひ!」
何故だかサンセール先生も参加する事になった。


「おお、竜樹殿。待ちかねていたぞ。」
王様ぁ~。

映画会当日。夕方の黄昏時。
何故か、何故か、王様も王妃様も、そしてキャナリ側妃まで会場にいるではないか。なんだかんだで、揃いがちな王家である。
「面白い催しと聞いて、執務を押して片付けて参ったぞ。恐怖の映画会とな。どれほど怖いのか、見ものであるな!」
「うふふ。眠れなくなったら困りますわ。そうしたらオランネージュに一緒に寝てもらおうかしら。」
おや、私ではダメかい?
などど、夫婦トークかましているが、キャナリ側妃が、ギンとした目で睨んでいるヨ。

最後脅かすタカラ、王様の護衛に捕まっちゃうんじゃないのか、と思って、急遽マルサを呼んで「大丈夫か?」と聞いたら、護衛同士で連絡済みだから大丈夫だ、と安心の一言が返ってきた。ホッとする竜樹である。

人が2~30人くらい入った広間に、チリがスクリーンを設置して、用意は出来た。後は竜樹の口上である。


「皆様、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。これから、恐怖の映画会を始めます。」
会場、観客席をぐる~っと見渡して。

「さて、この映画会のきっかけは、ネクター王子の乳母、オッターさんと話していて、私は暗闇も1人も怖くない、と言われた事でして。」

チラリと、話の主役のオッターを見る。彼女は、ちゃんと会場に来て、スクリーンを前に、王家のみなさんが1列目、キャナリ側妃の後ろの椅子に座っていた。だいぶムッとした顔で。

「それというのも、私は、暗いのも1人も、すっごく苦手なんですよね。
か弱き女性に、そう言われてしまって、悔しいなあと。」

ハハハ。 笑いが軽く起こる。

「それなら、オッターさんを怖がらせてみせる!と、この映画会を企画した次第です。皆様、映画もですが、オッターさんが怖がるかどうかも、ご注目です。では、始まります。会場は暗くなりますが、雰囲気作りの為ですので、ご安心下さい。お静かに、お静かに•••。」

スゥーッ、と灯が絞られて、暗い中スクリーンが真っ白に光っている。ぱちっとタイトル画面になって、ホラーの時間が始まった。


「ヒイ!」
「わわっ!!」

ひたひたひた•••。

ゾゾゾゾゾゾ~ッ。

大声を出す者はいないが、みんな固くなって次第に隣同士くっつき合っている。王様は、王妃とキャナリ側妃に片腕ずつ取られたまま、時折3人でビクッとしつつも、画面に見入っている。
うん、なんか、恋人同士でホラー観にくる意味分かるよね。

順調に大分みんな怖がっているな。
竜樹はオッターを見る。そこには、鉄の意志で、微動だにしない彼女の姿があった。
うん、まあ、そうか。
怖がらないなら仕方ない。
最後タカラの演技力にかけるか•••!

と、思った時。

ばち、ぱち、ぱちっ。

画面の映像が弾けて、ホワイトアウトした。
えっ 電波の調子でも悪いのかな。参った。
チリと竜樹で、うんともすんとも言わないスクリーンを、ざわざわし出す観客席を前に、あたふた同期している元のスマホを確認する。
スマホは、何の障りもなく映画が続いて動いてる。

「どうしたの?こわいえいが、おわった?そしたら、むかしばなし、みたいよ。」

トコトコトコっと、ニリヤがいつの間に、竜樹の元へ来ていた。ネクターも、心配顔のオランネージュもだ。

怖い映画観て、オシッコ行けなくなったら可哀想なので、怖がりさんかもしれない王子2人と、全く怖がらないが計画を知ってて、2人の面倒をみてるオランネージュとは、すぐ隣の控え室で待っていたはずだ。脅かす役のタカラと一緒に。
さっきまで、ドアの隙間を開けて、くすくす笑いながら様子を見ていたと思ったのに、来ちゃった。

うーむ、これは失敗かも?

灯つけて、仕切り直ししよう。



ふわっ。

タカラかと思った。

でも違った。

最初に目に入ったのは、女性の手。

うっすらと透けて、光ったその手が、ゆっくりとニリヤの上を動くと、撫で、撫で、した。


「かあさま!」


ふっ、と笑ったその顔は、ニリヤによく似て、可愛らしい。カールした長い髪を下ろして、白くて長いフレアのワンピースを着た、その人は、その人の足は、スゥーッと空気に溶けて、消えていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?

あーもんど
ファンタジー
精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。 彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。 ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...