198 / 717
本編
閑話 柊尚とぽん太くん
しおりを挟む
「こんにちは!小さな幸運を支払いにやってきた、ぽん太と申します。」
「はぁ•••。間に合ってます。」
違うんです違うんですよ!怪しいものではありません!
と、たた、た、と、たた!
道端でいきなり言われた。しかも周りをぐるぐると回られる。片足が悪いのか、不恰好にひいている。
立ち尽くす柊尚ひいらぎ なおが、その奇妙な少年と会ったのは、何となく惰性で続けていたバイトから、家へ帰る途中であった。
獣耳と尻尾をつけた、コスプレの少年•••しかし良くできている•••生きているかのように、ひくひく動いたりして、リアルな耳尻尾だ。ぽん太、と言うからには、タヌキなのだろうか?タレ目のまつ毛バシバシ、愛嬌のある美少年である。
『地域の皆さま、私たち小学生が帰る時間です。見守りよろしくお願いします。』
放送がエコーを引きながら鳴り渡る。
あー、そんな時間か。
「小学生は、寄り道せずに、お家にお帰り。」
森にお帰り、の方がウケたろうか。柊はあまりユーモアのセンスがない。
「小学生じゃありません。とう!」
ひょろりと長身な柊の、すっ、と長い指を、ぽん太は手に取り頭の方へ引っ張り。その、丸っこい耳を触らせた。
あ、あったかい?ビビビ、と震えるのが、生きてるようで•••て、「生きてる!?」
「はい、ぽん太は生きております。こことは違う世界の、ランセ神様から派遣されました!著作物を使ったお代を払いにきた、可愛い神の使い、ぽん太をよろしくお願いします!」
「は、はあ。」
ニコッ、とタレ目美少年ぽん太は、柊の手を両手で掴み、ギュッとしながら上機嫌だ。
「柊尚さん!まあ立ち話も何ですから、ぽん太行きつけの、素敵なお店に行きませんか?」
「悪い予感しかしない。」
最近の悪い人は子供を使ったり•••でも耳が本物だしな。
「幸運の予感ですよ!」
さぁ、さぁ!と手を引っ張られて、トコ、トコ、やってきたのは、いい感じに古びた喫茶店。
ドアについたベルが、カランコロンと鳴って、ちょっと可愛いポニーテールのウェイトレスさんが、いらっしゃいませ、と丁寧にお迎えしてくれた。
「サチさん、僕はホットケーキ。バターとメイプル、ホイップクリームたっぷりでお願いします。あとホットミルク。」
「はい、承りました。」
柊さんは、何にします?とぽん太に聞かれて、そういやお昼を食べてなかったな、と思い出し。
「サンドイッチセット、アメリカンで。」
「はい。少々お待ちください。」
ちんまりとしているが、背中がぴっしり立って姿勢の良い、おじいちゃんになろうかという年頃の喫茶店のマスターが、調理を始めるのを横目に。
ぽん太はウキウキ、ホットケーキを待っているが、話を聞いて早く帰りたい柊は、ぽん太を促した。
「で?著作物を使ったお代を払いにきた、って、どういうこと?」
「柊尚さんのお父様、柊達さんは、生前、クジラのお歌を作りましたよね。その歌の映像を使わせていただいたので、事後承諾になりますが、息子の柊尚さんに、ご挨拶と、使用料として、幸運を少々支払いに来ました。」
「確かに俺の父親は、クジラの歌を作ったけど、そういうの、どう使うか、とか、事前に許可とるもんじゃないの?それに、その映像は、昔その歌が流れた子供番組の、テレビ会社が権利持ってるんじゃね?」
俺に聞いても、権利持ってなくない?
柊の疑問に応えず、ぽん太は、届いた熱々のホットケーキに、ふわぁぁぁ!と歓声を上げ、まずは一口!と柊を待たせた。
誠に美味しそうに、ニコニコと舌鼓を打つぽん太だったが、その内に柊のサンドイッチセットも来た。サンドイッチには、何故か一山、ポテトチップも付いている。
うん、美味い。
モグモグと食べ、ぽん太が名残惜しそうに最後の一口を食べ切る。
柊は食事が速くも遅くもないタチなので、ぽん太とほぼ一緒に食べ終わった。
ふー。満足のため息ついて、両手でカップを持ち、ホットミルクをすすり。
「使用前に許可が取れなかったのは、申し訳なかったです。異世界で事前にこれを使うよ、と分からなかったからなのです。竜樹さんがフリーマーケットで、突発的に、披露したようですので。本来、こちらの世界では許されないとは思うので、竜樹様には、公に使う場合、なるべく事前に使う映像を教えて下さい、と頼みました。」
「異世界。」
はい、こちらの世界から見たら、異世界です。
す、す、すす。ミルクが熱くて飲めないらしい。
「私どもの世界、にこちらの世界の狭間から溢れて渡った人がおりまして。お人柄も良く、あちらの世界で、ギフトの御方様と呼ばれて、持っていたスマホを使い、知識と概念をプレゼントしてくれています。」
「それってちょっと著作権違反もある気配。」
そうなんですよね。
す、と一口啜っては話す。
「竜樹様は、怖い事や、元の情報を侮辱するような使い方はなさりませんけど、許可は得たいですよね。あちらの世界に行ってしまったとしても、こちらの著作権を守りたい、と情報の神、ランセ神様は思われました。なので、異世界で見せますよ、という事を説明して、私どもに出来る事で、ですけど、著作権を持っている方、どなたにも喜んで頂けるような、少しの幸運を支払いする事にしたのです。」
ふーん。
「ぽん太は有能ですので、今までのところ、幸運払いは、拒絶された事はございません。それと、ランセ神様は、作ったモノの権利を持っている会社だけでなく、ちゃんと作った人にも幸運払いするべき、と思われました。なので、柊達さんの分を、息子さんの柊尚さんに支払いたいのです。」
「•••どうやって、俺に辿り着いたのか、とかは•••。」
柊の母は物心ついた頃からおらず、子供の頃はふらりふらりと旅を繰り返す父親に連れられて、世界中を旅していた。学校は行ったり行かなかったりで、その内、父親が事故で亡くなった。
父親の弟、とされる叔父は、葬式を出してくれ、柊を引き取ってはくれたが、ハッキリと「愛情は求めてくれるな」と言った。仲の悪い兄弟だったらしい。叔父は良く、兄さんは俺に家を押し付けて自分は自由に生きた、と愚痴を言っていた。
父と叔父は、家を押し付けたりできるような、いい所の出だったらしい。金は潤沢にもらえた。
20歳になった今は、一人で住んで、手慰みにバイトなどしている。金はあるのだ。今でも叔父から金が渡されるし、父の残した保険金がある。しかし働いてないと、碌でもない者になりそうな気がして。でも、それでいて、大学などに進んで、という気力も無くて。
友達も、おらず。
叔父くらいしか柊の住所を知らないのに。
「そこは、神様ですもの。」
ニコッ。ぽん太は胸を張る。
「はぁ。分かったよ。で、幸運払いを貰いさえすれば、帰っていいんだね?壺買えとかじゃないよな?」
途方もない話だが、あの、血が流れているとはっきり分かる獣耳で、信じられないものも、信じるしかない。
「はい。それで、幸運もご要望を一応聞いています。神様の幸運は、ご本人が思っている幸運と違う場合もありますので、絶対ではないです。ですが、一応、一応、聞いております。」
どのような幸運を、お望みですか?
首を可愛く傾げて、聞いてくるタヌキ•••ぽん太に。
言われて、柊は、ふと考えた。
何が幸運なんだろう。
自分にとって、何が。
普通の家庭が欲しい。
それは渇望だった。
出かける時に、ほっとする家から見送って欲しい。
誰かに、自分を見て欲しい。
そして、そこに帰りたい。
自分も、その誰かを、見ていたい。
「さみしい•••。」
ぽつ、と口から出てしまった言葉に、ああ、いや、何言ってんだ。と恥ずかしく口を押さえるが。
ピカリン!
ぽん太は嬉しそうに、顔を輝かせてピョコ!と椅子から飛び上がる。
「いいです!いいですね!幸運のうちでも、なかなか良い幸運を選びましたね!では、では、早速!」
サチさ~ん!!
何故かウェイトレスさんを呼んで。
「ぽん太君、おやつのお代わりは、ナシだよ。食べすぎです!」
サチと呼ばれた少女は、むん、と腰に手を当てて、ぽん太にめっ、とする。
「違いますよ~。お仕事です。ねえねえ、サチさん。この方、竜樹さんの著作権幸運支払いの対象の方なんですけど、さみしいんですって。」
あわわわわ。
こんな少女に、いい大人が、さみしいだとか!
柊は顔の前、ワタタと手を振って、いや、いや、そんな!と恥ずかしがった。
「お客様、さみしいの?」
サチが言えば。
「柊さんです。」
ぽん太は、うんうん、と頷き、ドヤァ、な顔をしている。
柊は顔が赤くなるのを感じ、目を伏せる。この時間、速く過ぎろ!晒し者は辛い。
「柊さん。じゃあ、今夜ウチにご飯食べに来なよ。ぽん太君の紹介なら、悪い人じゃないから、信用してるよ。母と父と兄もいるけど、賑やかな方がいいよね。」
「えっ!?え•••?」
ぽん太も食べます!
今日のご飯は何かなぁ、なんてウキウキするぽん太に、柊は、めっ!としてやりたかった。
「いらっしゃい!柊さん!ぽん太君!」
サチの母、マリコが出迎える。スマホで先に連絡がしてあって、突然の見知らぬ人の訪問にも、ニコニコ顔の家族達である。
サチの兄、コウキは、エプロンをしてお玉を握ったまま、玄関まで来て出迎えてくれた。マンガか!とツッコミ入れたかった。サチの父は、くつろぎ着で、ようこそようこそ、なんて言っている。
「ヘェ~、柊さんは、小さい頃、世界中を回ってたんだ。」
マリコがご飯をよそいながら。
この家では、自分で食べたい量を自分で盛るのが決まりなので、炊飯器の前に軽く列が出来る。
柊もこの家に来る事になったのは、何故、何故か、と疑問に思いながらも、しゃもじを渡されて、控えめにご飯をよそった。
「はい、父が、一つの所にいると、飽きちゃう人だったので。大人になってからは、旅はしていません。」
益々、さみしくなるようだから。
帰る場所が、わからなくなりそうだから。
とは、口にしない。
「「「いただきま~す!」」」
いただき、ます。と柊も。
肉入り野菜炒め、油揚げの焼いてチーズ挟んでカイワレ入れたのを醤油で。サラダに、味噌汁。
お客さんが来るから奢ったものを、ではなくて、本当に普通の、家庭のご飯だ。
ぱくり。
野菜炒めを取って、ご飯茶碗の上に乗せて、ご飯と、もりっと食べる。
あ。美味しい。
普通に美味しい。
家庭の味だ。こういうの。
こういうのが、欲しかったんだ。
「柊さん。いっぱいあるから、ゆっくり食べなよ。」
シュシュ、と、そこら辺にあるボックスティッシュから何枚か抜いて、サチが渡してくる。
「ひゃ、ひゃい。」
ずび。鼻を拭いて、何故か流れた涙を拭いて。
父母コウキ、サチ、ぽん太の5人は、柊をそっとしておき日常の会話などしている。バイトどうよ、とか母が、俺はバイトで中華を極めたる!とかコウキが、サチは疲れるけどやり甲斐ある、とか、父は、コウキ美味しくなったよ、とか。ぽん太は、美味しいしか言わない。わっせわっせと食べている。
ほっといてくれるが、柊の取り皿に、油揚げをよけといてくれたりする。
ゆっくりと食事が終わって、デザートに皮ごと食べられるブドウが出て。お茶を飲み。
その頃には、柊は、大分落ち着いていた。
母マリコが、ムフフ、と企んだ笑顔をする。
「柊さん、サチ、喫茶店でバイトしてるじゃない?高校生だから、夜は8時までにさせてもらってるけど、帰り道、もう暗いじゃない?」
「え、ええ。女の子だから、心配ですよね。」
得たり!と。
「そう、そう!防犯ブザー持たせてるけど、ちょっと心配。暗い所もあるしね。そこで柊さん。」
「はい?」
「サチのバイト帰り、送ってあげてくれない?」
報酬は、コウキの夕飯で。
柊は、何故、知り合ったばかりの俺を。
と、思ったけれど。
このご飯。
この家族と。
また、食べられるんだ!
「はい。俺で良ければ、送らせていただきます。」
その応えに、ぽん太が、ニハー!と笑った。
柊が、サチを気にかけるようになり。そして自分を振り返り、大学に入学し、就職し、そしてサチの恋人になり。畠中家にどっぷり浸かり。
といった未来を得るようになるとは、まだ、誰も知らないのだ。
ぽん太はニコニコしてるけど。
「はぁ•••。間に合ってます。」
違うんです違うんですよ!怪しいものではありません!
と、たた、た、と、たた!
道端でいきなり言われた。しかも周りをぐるぐると回られる。片足が悪いのか、不恰好にひいている。
立ち尽くす柊尚ひいらぎ なおが、その奇妙な少年と会ったのは、何となく惰性で続けていたバイトから、家へ帰る途中であった。
獣耳と尻尾をつけた、コスプレの少年•••しかし良くできている•••生きているかのように、ひくひく動いたりして、リアルな耳尻尾だ。ぽん太、と言うからには、タヌキなのだろうか?タレ目のまつ毛バシバシ、愛嬌のある美少年である。
『地域の皆さま、私たち小学生が帰る時間です。見守りよろしくお願いします。』
放送がエコーを引きながら鳴り渡る。
あー、そんな時間か。
「小学生は、寄り道せずに、お家にお帰り。」
森にお帰り、の方がウケたろうか。柊はあまりユーモアのセンスがない。
「小学生じゃありません。とう!」
ひょろりと長身な柊の、すっ、と長い指を、ぽん太は手に取り頭の方へ引っ張り。その、丸っこい耳を触らせた。
あ、あったかい?ビビビ、と震えるのが、生きてるようで•••て、「生きてる!?」
「はい、ぽん太は生きております。こことは違う世界の、ランセ神様から派遣されました!著作物を使ったお代を払いにきた、可愛い神の使い、ぽん太をよろしくお願いします!」
「は、はあ。」
ニコッ、とタレ目美少年ぽん太は、柊の手を両手で掴み、ギュッとしながら上機嫌だ。
「柊尚さん!まあ立ち話も何ですから、ぽん太行きつけの、素敵なお店に行きませんか?」
「悪い予感しかしない。」
最近の悪い人は子供を使ったり•••でも耳が本物だしな。
「幸運の予感ですよ!」
さぁ、さぁ!と手を引っ張られて、トコ、トコ、やってきたのは、いい感じに古びた喫茶店。
ドアについたベルが、カランコロンと鳴って、ちょっと可愛いポニーテールのウェイトレスさんが、いらっしゃいませ、と丁寧にお迎えしてくれた。
「サチさん、僕はホットケーキ。バターとメイプル、ホイップクリームたっぷりでお願いします。あとホットミルク。」
「はい、承りました。」
柊さんは、何にします?とぽん太に聞かれて、そういやお昼を食べてなかったな、と思い出し。
「サンドイッチセット、アメリカンで。」
「はい。少々お待ちください。」
ちんまりとしているが、背中がぴっしり立って姿勢の良い、おじいちゃんになろうかという年頃の喫茶店のマスターが、調理を始めるのを横目に。
ぽん太はウキウキ、ホットケーキを待っているが、話を聞いて早く帰りたい柊は、ぽん太を促した。
「で?著作物を使ったお代を払いにきた、って、どういうこと?」
「柊尚さんのお父様、柊達さんは、生前、クジラのお歌を作りましたよね。その歌の映像を使わせていただいたので、事後承諾になりますが、息子の柊尚さんに、ご挨拶と、使用料として、幸運を少々支払いに来ました。」
「確かに俺の父親は、クジラの歌を作ったけど、そういうの、どう使うか、とか、事前に許可とるもんじゃないの?それに、その映像は、昔その歌が流れた子供番組の、テレビ会社が権利持ってるんじゃね?」
俺に聞いても、権利持ってなくない?
柊の疑問に応えず、ぽん太は、届いた熱々のホットケーキに、ふわぁぁぁ!と歓声を上げ、まずは一口!と柊を待たせた。
誠に美味しそうに、ニコニコと舌鼓を打つぽん太だったが、その内に柊のサンドイッチセットも来た。サンドイッチには、何故か一山、ポテトチップも付いている。
うん、美味い。
モグモグと食べ、ぽん太が名残惜しそうに最後の一口を食べ切る。
柊は食事が速くも遅くもないタチなので、ぽん太とほぼ一緒に食べ終わった。
ふー。満足のため息ついて、両手でカップを持ち、ホットミルクをすすり。
「使用前に許可が取れなかったのは、申し訳なかったです。異世界で事前にこれを使うよ、と分からなかったからなのです。竜樹さんがフリーマーケットで、突発的に、披露したようですので。本来、こちらの世界では許されないとは思うので、竜樹様には、公に使う場合、なるべく事前に使う映像を教えて下さい、と頼みました。」
「異世界。」
はい、こちらの世界から見たら、異世界です。
す、す、すす。ミルクが熱くて飲めないらしい。
「私どもの世界、にこちらの世界の狭間から溢れて渡った人がおりまして。お人柄も良く、あちらの世界で、ギフトの御方様と呼ばれて、持っていたスマホを使い、知識と概念をプレゼントしてくれています。」
「それってちょっと著作権違反もある気配。」
そうなんですよね。
す、と一口啜っては話す。
「竜樹様は、怖い事や、元の情報を侮辱するような使い方はなさりませんけど、許可は得たいですよね。あちらの世界に行ってしまったとしても、こちらの著作権を守りたい、と情報の神、ランセ神様は思われました。なので、異世界で見せますよ、という事を説明して、私どもに出来る事で、ですけど、著作権を持っている方、どなたにも喜んで頂けるような、少しの幸運を支払いする事にしたのです。」
ふーん。
「ぽん太は有能ですので、今までのところ、幸運払いは、拒絶された事はございません。それと、ランセ神様は、作ったモノの権利を持っている会社だけでなく、ちゃんと作った人にも幸運払いするべき、と思われました。なので、柊達さんの分を、息子さんの柊尚さんに支払いたいのです。」
「•••どうやって、俺に辿り着いたのか、とかは•••。」
柊の母は物心ついた頃からおらず、子供の頃はふらりふらりと旅を繰り返す父親に連れられて、世界中を旅していた。学校は行ったり行かなかったりで、その内、父親が事故で亡くなった。
父親の弟、とされる叔父は、葬式を出してくれ、柊を引き取ってはくれたが、ハッキリと「愛情は求めてくれるな」と言った。仲の悪い兄弟だったらしい。叔父は良く、兄さんは俺に家を押し付けて自分は自由に生きた、と愚痴を言っていた。
父と叔父は、家を押し付けたりできるような、いい所の出だったらしい。金は潤沢にもらえた。
20歳になった今は、一人で住んで、手慰みにバイトなどしている。金はあるのだ。今でも叔父から金が渡されるし、父の残した保険金がある。しかし働いてないと、碌でもない者になりそうな気がして。でも、それでいて、大学などに進んで、という気力も無くて。
友達も、おらず。
叔父くらいしか柊の住所を知らないのに。
「そこは、神様ですもの。」
ニコッ。ぽん太は胸を張る。
「はぁ。分かったよ。で、幸運払いを貰いさえすれば、帰っていいんだね?壺買えとかじゃないよな?」
途方もない話だが、あの、血が流れているとはっきり分かる獣耳で、信じられないものも、信じるしかない。
「はい。それで、幸運もご要望を一応聞いています。神様の幸運は、ご本人が思っている幸運と違う場合もありますので、絶対ではないです。ですが、一応、一応、聞いております。」
どのような幸運を、お望みですか?
首を可愛く傾げて、聞いてくるタヌキ•••ぽん太に。
言われて、柊は、ふと考えた。
何が幸運なんだろう。
自分にとって、何が。
普通の家庭が欲しい。
それは渇望だった。
出かける時に、ほっとする家から見送って欲しい。
誰かに、自分を見て欲しい。
そして、そこに帰りたい。
自分も、その誰かを、見ていたい。
「さみしい•••。」
ぽつ、と口から出てしまった言葉に、ああ、いや、何言ってんだ。と恥ずかしく口を押さえるが。
ピカリン!
ぽん太は嬉しそうに、顔を輝かせてピョコ!と椅子から飛び上がる。
「いいです!いいですね!幸運のうちでも、なかなか良い幸運を選びましたね!では、では、早速!」
サチさ~ん!!
何故かウェイトレスさんを呼んで。
「ぽん太君、おやつのお代わりは、ナシだよ。食べすぎです!」
サチと呼ばれた少女は、むん、と腰に手を当てて、ぽん太にめっ、とする。
「違いますよ~。お仕事です。ねえねえ、サチさん。この方、竜樹さんの著作権幸運支払いの対象の方なんですけど、さみしいんですって。」
あわわわわ。
こんな少女に、いい大人が、さみしいだとか!
柊は顔の前、ワタタと手を振って、いや、いや、そんな!と恥ずかしがった。
「お客様、さみしいの?」
サチが言えば。
「柊さんです。」
ぽん太は、うんうん、と頷き、ドヤァ、な顔をしている。
柊は顔が赤くなるのを感じ、目を伏せる。この時間、速く過ぎろ!晒し者は辛い。
「柊さん。じゃあ、今夜ウチにご飯食べに来なよ。ぽん太君の紹介なら、悪い人じゃないから、信用してるよ。母と父と兄もいるけど、賑やかな方がいいよね。」
「えっ!?え•••?」
ぽん太も食べます!
今日のご飯は何かなぁ、なんてウキウキするぽん太に、柊は、めっ!としてやりたかった。
「いらっしゃい!柊さん!ぽん太君!」
サチの母、マリコが出迎える。スマホで先に連絡がしてあって、突然の見知らぬ人の訪問にも、ニコニコ顔の家族達である。
サチの兄、コウキは、エプロンをしてお玉を握ったまま、玄関まで来て出迎えてくれた。マンガか!とツッコミ入れたかった。サチの父は、くつろぎ着で、ようこそようこそ、なんて言っている。
「ヘェ~、柊さんは、小さい頃、世界中を回ってたんだ。」
マリコがご飯をよそいながら。
この家では、自分で食べたい量を自分で盛るのが決まりなので、炊飯器の前に軽く列が出来る。
柊もこの家に来る事になったのは、何故、何故か、と疑問に思いながらも、しゃもじを渡されて、控えめにご飯をよそった。
「はい、父が、一つの所にいると、飽きちゃう人だったので。大人になってからは、旅はしていません。」
益々、さみしくなるようだから。
帰る場所が、わからなくなりそうだから。
とは、口にしない。
「「「いただきま~す!」」」
いただき、ます。と柊も。
肉入り野菜炒め、油揚げの焼いてチーズ挟んでカイワレ入れたのを醤油で。サラダに、味噌汁。
お客さんが来るから奢ったものを、ではなくて、本当に普通の、家庭のご飯だ。
ぱくり。
野菜炒めを取って、ご飯茶碗の上に乗せて、ご飯と、もりっと食べる。
あ。美味しい。
普通に美味しい。
家庭の味だ。こういうの。
こういうのが、欲しかったんだ。
「柊さん。いっぱいあるから、ゆっくり食べなよ。」
シュシュ、と、そこら辺にあるボックスティッシュから何枚か抜いて、サチが渡してくる。
「ひゃ、ひゃい。」
ずび。鼻を拭いて、何故か流れた涙を拭いて。
父母コウキ、サチ、ぽん太の5人は、柊をそっとしておき日常の会話などしている。バイトどうよ、とか母が、俺はバイトで中華を極めたる!とかコウキが、サチは疲れるけどやり甲斐ある、とか、父は、コウキ美味しくなったよ、とか。ぽん太は、美味しいしか言わない。わっせわっせと食べている。
ほっといてくれるが、柊の取り皿に、油揚げをよけといてくれたりする。
ゆっくりと食事が終わって、デザートに皮ごと食べられるブドウが出て。お茶を飲み。
その頃には、柊は、大分落ち着いていた。
母マリコが、ムフフ、と企んだ笑顔をする。
「柊さん、サチ、喫茶店でバイトしてるじゃない?高校生だから、夜は8時までにさせてもらってるけど、帰り道、もう暗いじゃない?」
「え、ええ。女の子だから、心配ですよね。」
得たり!と。
「そう、そう!防犯ブザー持たせてるけど、ちょっと心配。暗い所もあるしね。そこで柊さん。」
「はい?」
「サチのバイト帰り、送ってあげてくれない?」
報酬は、コウキの夕飯で。
柊は、何故、知り合ったばかりの俺を。
と、思ったけれど。
このご飯。
この家族と。
また、食べられるんだ!
「はい。俺で良ければ、送らせていただきます。」
その応えに、ぽん太が、ニハー!と笑った。
柊が、サチを気にかけるようになり。そして自分を振り返り、大学に入学し、就職し、そしてサチの恋人になり。畠中家にどっぷり浸かり。
といった未来を得るようになるとは、まだ、誰も知らないのだ。
ぽん太はニコニコしてるけど。
56
あなたにおすすめの小説
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?
あーもんど
ファンタジー
精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。
彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。
ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる