王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
520 / 717
本編

バレてる

しおりを挟む

シトロンちゃんは、『おにぎり・まんまや』の中にドアを開けて入った。

お店は、握りたてのおにぎりをカウンター席で食べられるので、八百屋さんみたいにオープンな店舗ではない。まあ、オープンだったらとっくに、求婚男子吟遊詩人ノートと、にわか撮影隊達、そしてスーリール達ニュース隊は、わちゃわちゃ店の前で何やってんの、って事になるだろう。

前に飲食店だった場所を、改装して開いたので、壁はクリーム色が少しくすんでいるが。とても丁寧に清掃されていて、カウンターの白木も、近づけば爽やかな良い木の匂いをさせている。
そしてカウンターの中は、透明なケースの中、時止めの壺達に、美味しそうなおにぎりの具がズラリ。煮卵、焼き魚、魚卵、ピリ辛な葉の漬物、海老の天ぷら、肉そぼろ。他にも色々、それを見ながら、選んで握ってもらえる。

カウンターの中には、白茶斑三角猫お耳の、背の低いお姉さん。三角巾バンダナをズレないようにピンで止めた、ボブカット、ふわっとした優しいマロン色が明るくて。黒茶飴のまん丸瞳が、きらりくりくりっと。
何故だか、緊張した顔で、白いエプロンをつけた胸の前で、ぐっと拳を握っている。眉が柔らかく曲線を描いて、親しみやすそう。きっとこのお姉さんが、マオさん。

そしてその隣で、あーこっちのお胸がぽよんな、キリッと美人顔の、背の高いお姉さんが、豹獣人のミオンさん。なぜか何故だか?半目になって、シトロンちゃんを睨んでいる。

きっとお父さんの、ちんまり猫獣人おじさんと、ミオンの未来形であろう、少し皺が見え始めたか、豹獣人のスラリお母さん。2人とも、三角巾バンダナから出たお耳がそれぞれ、ぴこぴこピッコリして、満面笑顔でニコニコだ。
因みに、この小ちゃいお父さんが工事仕事で家族を養っていた大黒柱であった。見えないが。しなやかな身体を生かして、いわゆる鳶職。肩を怪我して、腕が上がらなくなり肉体労働は引退したのだ。

ニッコリ!
どんな雰囲気の所でも、まずは笑顔で愛想良く!を実践する、天才吟遊詩人少女シトロンちゃん。お店飛び込みには慣れている。

「こんにちは!私はシトロンって言います。お姉さんが、マオお姉さんですか?」

「は、ははは、はい!私がマオです!」

肩をビクッとさせて、マオが耳をきゅわ、っきゅわー!と左右に開いて閉じて、瞳が揺れて。ふすー!と荒い息。
何でこんなに緊張しているんだろう?
とシトロンちゃんが思いつつ、マオを店の前に連れ出そうと口をパク、開いた時。

『頼む•••頼むマオ•••結婚しても良いわよ、って言ってくれぇ。』

聞き慣れた声が、高い位置から。
あ。

お店に、テレビが、ある、ね。

まんまや前で、もだもだしているノート達の様子が、筒抜けだった模様。

「え~と。マオお姉さん、分かっちゃったとは思うけど。」

ふ、ふゅん。
とマオは鼻から息を吐きながらシトロンちゃんに頷いた。
「の、ノートったら、ったら!」
ニャア!
お顔を真っ赤にして、両手で覆い、俯く恥ずかしがりのマオである。

あー、でもこの様子なら、ノートお兄さんは上手い事いきそうだな。と思ったシトロンちゃんは、任務を遂行すべく。
「マオお姉さん。ノートお兄さんが、話があるって。お店の前にいるから、少しだけお時間下さいな。」

「嫌です。忙しいので。」
「ミオン!?ば、ばか!シ、シトロンちゃん、大丈夫よ、行くわ。行きます!」
バシッ!とマオ姉が、不機嫌そうなミオン妹の腕を叩いて、焦って了承。
「やったね、マオ!」
「待ってたもんね、マオ!お店の事は気にせず、ゆっくり話をしてらっしゃい!」
お父さんお母さんは、イェイェイ、ふーふー!とノリノリで見送ってくれた。ミオン妹は、腕組みで、すーふ、と不服な鼻息であったが。

お店を出ると、何故か遠い目になっているノートが、出て来たマオを見て、カカッと真っ赤になった。それを見たマオも、猫耳がふ、ふふ、と震えて真っ赤なほっぺになっている。

「連れて来たよ!ノートお兄さん!花束預かるよ!」
「う、うん。うん。」

しーん。

俯いて、向き合った恋人同士は、何を言ったもんだか、きっかけが掴めずに。ぽぽぽと赤くなって、ちら、ちらっとお互いを見ては恥ずかしそうに。

「ノート、ほら、歌だろ、歌!」
「いけ!やれ!男を見せろ!」
うるさい外野だが、今は勢いに必要かも。う、う、とノートは唸り。何とか勇気を振り絞って。

「そ、そ、その、マオ。忙しいとこ、悪かったな。」
「う、う、ううん。その、ノートこそ、今稼ぎ時でしょ。優勝したんだもん、今日は街でいっぱい聞いてもらえるね!だ、大丈夫なの、会いに来てくれて、えっと、あっ!優勝おめでとう!すごいね!テレビで見てたよ!」

勢いよく喋ったマオは。
「あーっ、会いに来てくれたの嬉しいんだよ!?えーっと、そうじゃなくて、あのね!あの、あの•••。」
あたふたして、あっちこっちに目を遣り手を振り、次第に黙って、しゅ~ん、としてしまった。
ノートは、黙ってカチコチになっていたが、一方が焦ると、もう一方は何となく落ち着くものである。

(マオ、可愛いな。)

俯いて上気した耳、背が低いので旋毛が見える。首が女性らしく滑らかに肩に繋がり、たまたま触れた事があるから知っている、ふに、と柔らかな、ノートに比べて確かに細い二の腕を、ああ、抱いていたい。
三角巾、エプロンが似合っている。笑顔でくるくる働く。

「マオ、マオに歌を作ってきたんだ。」

「•••歌?」

ノートは、マオの、胸の前でグニグニ強く握っていた手を取って、両手で温めるようにした。まだ外気は、朝でも思ったほど寒くないけれど。寄り添いあいたい、その気持ちそのままに。
ぽぽぽ、とまた赤くなったマオが、きゅ、と鼻を鳴らして、ノートをくりくり目で見た。

「聞いてくれる?」

「う、うん。」

歌となれば吟遊詩人、ノートはプロである。だが、今日このステージは、一生に一度きり。キリリ、と気持ち引き締めた後、ふぅ~、と息を吐いて、背負っていたリュートを肩から外し、すっ といつもの弾き語りのスタイルに。


吟遊詩人は旅をする
歌って 歌って
帰るは愛する人のもと
会いたいあの子と
会えない時間
思うは彼女の事ばかり


マオは、ビクン!と肩を揺らす。
みるみるうちに瞳が潤んでくる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?

あーもんど
ファンタジー
精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。 彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。 ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...