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4-3 フォアード侯爵からの招待
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ジェームスと共に階下へ下りていくと、黒いタキシードを着衣したペイトンが既に玄関ホールで待っていた。
改めて見るペイトンは、離れていても人目を引くほどの美貌の持ち主だった。背が高くスタイルもよい。きっとモテる。宝の持ち腐れだ。女嫌いでなければ人生楽しかったに違いない。
「お待たせしました」
とアデレードは告げたが、内心では、
(時間通りだし別に私が遅刻したわけじゃないけど)
と言い訳めいて思った。
アデレードは時間を厳守する性格だ。厳守というよりむしろ早め早めに行動することが多い。
人を待たせることはアデレード基準ではかなり上位にくる失礼行為だ。
つまり初日の夕食に十分遅刻したのもアデレードにとってはかなりの嫌がらせのつもりだった。
尤も、ペイトンは最初の顔合わせにそれ以上に遅れてきていたのだが。
「いや、僕も今来たところだから……」
ペイトンがぼそぼそ返す。
「そうですか。よかったです。馬車で行くのですよね?」
「あぁ、屋敷の前に停車させている」
「もう出発します?」
「あ、あぁ」
ペイトンが歯切れ悪く返して、玄関扉へ向かって歩きだす。アデレードもその後ろに従うが、
「エスコート!」
後ろからジェームスが声を荒げた。
アデレードは、ハッとして振り向き「すみません」と小さく謝罪した。
正装して出かけるなら、淑女たるものエスコートされるまで待っているのが常識。
後ろを勝手について行くべきではない。ペイトンが先にドアを開けて戻ってくるまで待機すべきだった。
レイモンドはエスコートなどしてくれなくて、いつも黙って後ろを歩く癖がついてしまっている。
恥ずかしい。
そんな当たり前のことをずっとしてもらえていなかったのだな、とアデレードは虚無的な気持ちにもなった。
それをジェームスはどう解したのか、
「いえいえ、奥様ではありませんよ。加点は旦那様ですので」
とアデレードに微笑んだ後、ペイトンを睨みつけた。
「嫌いな夫にエスコートされるのは不快でしょうけど、公の場では妻の務めとして我慢してください」
愛さないと契約したが、別に普通に接するつもりでいる。
嫌いな夫とは飛躍しすぎてはないか、とアデレードは困惑した。
が、
「……その……すまない」
更に背後からペイトンに謝罪され、左手を差し出されて戸惑いの感情に呑み込まれる。
ペイトンもジェームスも「愛さない」イコール「嫌い」と思っているらしい。
極端すぎでは? とアデレードは思う。
例えば通りすがりの見知らぬ他人について、愛していないが嫌いでもないだろう。
ただ、この場でそれを説明して「嫌いではないです」と訂正するのは違う気がした。
なにせペイトンは女性に好かれたくないのだ。
「いえ、大丈夫です」
あの契約を「嫌われ夫」と解釈して署名したならそれはそれで構わないか、と考え直して、アデレードはペイトンの左手に自分の右手を重ねた。
ペイトンは蒲公英の綿毛でも乗せているように手に力を込めず、アデレードを先導して歩いていく。
もしかして女性に触られるのが嫌だったりするのではないか。
(無理して接触する必要はないって言った方がよいかしら? 安易な契約結んじゃったかも)
アデレードは急激な申し訳なさと面倒くささを感じた。
隣を歩くペイトンの赤い顔を見上げることはないままに。
改めて見るペイトンは、離れていても人目を引くほどの美貌の持ち主だった。背が高くスタイルもよい。きっとモテる。宝の持ち腐れだ。女嫌いでなければ人生楽しかったに違いない。
「お待たせしました」
とアデレードは告げたが、内心では、
(時間通りだし別に私が遅刻したわけじゃないけど)
と言い訳めいて思った。
アデレードは時間を厳守する性格だ。厳守というよりむしろ早め早めに行動することが多い。
人を待たせることはアデレード基準ではかなり上位にくる失礼行為だ。
つまり初日の夕食に十分遅刻したのもアデレードにとってはかなりの嫌がらせのつもりだった。
尤も、ペイトンは最初の顔合わせにそれ以上に遅れてきていたのだが。
「いや、僕も今来たところだから……」
ペイトンがぼそぼそ返す。
「そうですか。よかったです。馬車で行くのですよね?」
「あぁ、屋敷の前に停車させている」
「もう出発します?」
「あ、あぁ」
ペイトンが歯切れ悪く返して、玄関扉へ向かって歩きだす。アデレードもその後ろに従うが、
「エスコート!」
後ろからジェームスが声を荒げた。
アデレードは、ハッとして振り向き「すみません」と小さく謝罪した。
正装して出かけるなら、淑女たるものエスコートされるまで待っているのが常識。
後ろを勝手について行くべきではない。ペイトンが先にドアを開けて戻ってくるまで待機すべきだった。
レイモンドはエスコートなどしてくれなくて、いつも黙って後ろを歩く癖がついてしまっている。
恥ずかしい。
そんな当たり前のことをずっとしてもらえていなかったのだな、とアデレードは虚無的な気持ちにもなった。
それをジェームスはどう解したのか、
「いえいえ、奥様ではありませんよ。加点は旦那様ですので」
とアデレードに微笑んだ後、ペイトンを睨みつけた。
「嫌いな夫にエスコートされるのは不快でしょうけど、公の場では妻の務めとして我慢してください」
愛さないと契約したが、別に普通に接するつもりでいる。
嫌いな夫とは飛躍しすぎてはないか、とアデレードは困惑した。
が、
「……その……すまない」
更に背後からペイトンに謝罪され、左手を差し出されて戸惑いの感情に呑み込まれる。
ペイトンもジェームスも「愛さない」イコール「嫌い」と思っているらしい。
極端すぎでは? とアデレードは思う。
例えば通りすがりの見知らぬ他人について、愛していないが嫌いでもないだろう。
ただ、この場でそれを説明して「嫌いではないです」と訂正するのは違う気がした。
なにせペイトンは女性に好かれたくないのだ。
「いえ、大丈夫です」
あの契約を「嫌われ夫」と解釈して署名したならそれはそれで構わないか、と考え直して、アデレードはペイトンの左手に自分の右手を重ねた。
ペイトンは蒲公英の綿毛でも乗せているように手に力を込めず、アデレードを先導して歩いていく。
もしかして女性に触られるのが嫌だったりするのではないか。
(無理して接触する必要はないって言った方がよいかしら? 安易な契約結んじゃったかも)
アデレードは急激な申し訳なさと面倒くささを感じた。
隣を歩くペイトンの赤い顔を見上げることはないままに。
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