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11-4 ぶっとばしてやりますね
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(なんか、柔らかいな)
アデレードが大人しくなったので、ちょっと気が緩んだペイトンは無意識にそう思った。
が、直ぐに我に返って、何を考えているんだと、顔が赤くなるのを感じた。
「デザート……」
随分遅れてアデレードは先程のペイトンの言葉に反応する。
「そ、そうだ。僕の分も食べていいから」
変なことを考えていた、とバレないように慌てて答えると、
「チョコレートケーキですか?」
と、またアデレードが困るような質問をしてくる。
「さぁ、ちょっとわからないな」
「違うんですか……」
再び泣きだしそうになるので、ペイトンはギョッとした。
今すぐ厨房まで走って行って「金に糸目は付けないからデザートはチョコレートケーキにしてくれ」と言いたかった。
が、ここにアデレードを放置していけない。冷静になればテーブルベルでウェイターを呼んで追加で注文すれば済む話だったが、そこまで頭が回らず、
「わかった。今度、君が好きな店のチョコレートケーキを買ってあげるから、今日はこの店のデザートを食べよう」
と答えた。
「何処でもいいんですか?」
「あぁ」
「ルグランでも?」
「あぁ、そこにしよう」
「半年待ちですけど」
「どんな手を使ってでも手に入れるよ」
「不正は駄目でしょ」
と言うとアデレードはけらけら笑いだした。
どういう神経をしているのか。元々まともじゃない感じはしていたが、酔っていることを差し引いてもおかしい。
「君が大人しく待っているなら、ちゃんと正規のルートで買うよ」
「わかりました」
本当に分かったのか、何が分かったというのか、疑う気持ちしかないが、非常に上機嫌にへらへらしているのでペイトンはそれ以上何も言わずに、アデレードの顔を綺麗に整えてやると自席に戻った。
ほぼ同じタイミングでデザートが運ばれてくる。
もしかして会話を聞かれていたのではないかと疑念を抱いて居た堪れない気持ちになったが、デザートは葡萄のタルトとアイスクリームだったので、聞かれていないと思うことにした。
「わーい」
と言ってアデレードがデザートを食べだす。ペイトンはどっと疲れながらも、
「ほら、これも食べなさい」
と自分の皿をアデレードに付きだした。
「旦那様」
「なんだ」
「お礼にあの女達をぶっとばしてやりますね」
アデレードがにこやかに言う。
何の御礼か知らんが、御礼なら誰もぶっ飛ばさんでくれ、とペイトンは思った。
が、取り敢えず拒絶はせずに、
「あの女達とは誰だ?」
と今度は何処の女をぼこぼこにするつもりなのか尋ねた。
「旦那様を傷つけたお母様と家庭教師の女です」
「は?」
この小娘は何を言っているのか。実母に対しても家庭教師に対しても心の底から軽蔑しているだけで傷ついてなどいない。
勘違いするな、と思った。思ったが、
「二人とも何処にいるかなんてわからないぞ」
と馬鹿な言葉が口を衝いて出た。
「大丈夫です。黒魔術でやるので」
「君、黒魔術なんかやるのか」
「嗜む程度ですが」
黒魔術などあるわけない。酔っ払いの戯言だ。大体、あってもそんな如何わしいものを使用するな。頭ではそう考えるのに、
「……そうか、じゃあ、頼むよ」
とさっきから思考とは反することばかり口走ってしまう。
アデレードのことばかり気をとられていたが、同じペースで飲んでいたのでこっちも酔いが回ってきたのかもしれない。
「任せてください。これで旦那様の心の傷も癒えますね」
「ついでに、君の報復も黒魔術でやったらどうだ?」
ペイトンが馬鹿らしくなって告げると、
「あぁ!! 旦那様、天才なんじゃないですか!」
とアデレードが心底感心したように言って「黒魔術で一網打尽ですね」とけらけら笑い出した。
化粧も剥げ落ちて、目も完全になくなって、腹が捩れるくらい笑っている。
(もう酒は飲ませないからな)
この小娘は本当にどうしようもない。酔いが醒めたら絶対に説教してやる。何が黒魔術だ、本当に馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しすぎるのに、実母のことも、家庭教師のことも、アデレードが黒魔術で一網打尽にするならいいか、と自分の中の何かが流れていくように感じた。
そうか、そうか、と思った。
だったら、もうどうでもいいな、と。
何がもういいのかもよく分からなかったけれで、とにかく全部良くなって、ペイトンは気づけば笑ってしまっていた。
アデレードが大人しくなったので、ちょっと気が緩んだペイトンは無意識にそう思った。
が、直ぐに我に返って、何を考えているんだと、顔が赤くなるのを感じた。
「デザート……」
随分遅れてアデレードは先程のペイトンの言葉に反応する。
「そ、そうだ。僕の分も食べていいから」
変なことを考えていた、とバレないように慌てて答えると、
「チョコレートケーキですか?」
と、またアデレードが困るような質問をしてくる。
「さぁ、ちょっとわからないな」
「違うんですか……」
再び泣きだしそうになるので、ペイトンはギョッとした。
今すぐ厨房まで走って行って「金に糸目は付けないからデザートはチョコレートケーキにしてくれ」と言いたかった。
が、ここにアデレードを放置していけない。冷静になればテーブルベルでウェイターを呼んで追加で注文すれば済む話だったが、そこまで頭が回らず、
「わかった。今度、君が好きな店のチョコレートケーキを買ってあげるから、今日はこの店のデザートを食べよう」
と答えた。
「何処でもいいんですか?」
「あぁ」
「ルグランでも?」
「あぁ、そこにしよう」
「半年待ちですけど」
「どんな手を使ってでも手に入れるよ」
「不正は駄目でしょ」
と言うとアデレードはけらけら笑いだした。
どういう神経をしているのか。元々まともじゃない感じはしていたが、酔っていることを差し引いてもおかしい。
「君が大人しく待っているなら、ちゃんと正規のルートで買うよ」
「わかりました」
本当に分かったのか、何が分かったというのか、疑う気持ちしかないが、非常に上機嫌にへらへらしているのでペイトンはそれ以上何も言わずに、アデレードの顔を綺麗に整えてやると自席に戻った。
ほぼ同じタイミングでデザートが運ばれてくる。
もしかして会話を聞かれていたのではないかと疑念を抱いて居た堪れない気持ちになったが、デザートは葡萄のタルトとアイスクリームだったので、聞かれていないと思うことにした。
「わーい」
と言ってアデレードがデザートを食べだす。ペイトンはどっと疲れながらも、
「ほら、これも食べなさい」
と自分の皿をアデレードに付きだした。
「旦那様」
「なんだ」
「お礼にあの女達をぶっとばしてやりますね」
アデレードがにこやかに言う。
何の御礼か知らんが、御礼なら誰もぶっ飛ばさんでくれ、とペイトンは思った。
が、取り敢えず拒絶はせずに、
「あの女達とは誰だ?」
と今度は何処の女をぼこぼこにするつもりなのか尋ねた。
「旦那様を傷つけたお母様と家庭教師の女です」
「は?」
この小娘は何を言っているのか。実母に対しても家庭教師に対しても心の底から軽蔑しているだけで傷ついてなどいない。
勘違いするな、と思った。思ったが、
「二人とも何処にいるかなんてわからないぞ」
と馬鹿な言葉が口を衝いて出た。
「大丈夫です。黒魔術でやるので」
「君、黒魔術なんかやるのか」
「嗜む程度ですが」
黒魔術などあるわけない。酔っ払いの戯言だ。大体、あってもそんな如何わしいものを使用するな。頭ではそう考えるのに、
「……そうか、じゃあ、頼むよ」
とさっきから思考とは反することばかり口走ってしまう。
アデレードのことばかり気をとられていたが、同じペースで飲んでいたのでこっちも酔いが回ってきたのかもしれない。
「任せてください。これで旦那様の心の傷も癒えますね」
「ついでに、君の報復も黒魔術でやったらどうだ?」
ペイトンが馬鹿らしくなって告げると、
「あぁ!! 旦那様、天才なんじゃないですか!」
とアデレードが心底感心したように言って「黒魔術で一網打尽ですね」とけらけら笑い出した。
化粧も剥げ落ちて、目も完全になくなって、腹が捩れるくらい笑っている。
(もう酒は飲ませないからな)
この小娘は本当にどうしようもない。酔いが醒めたら絶対に説教してやる。何が黒魔術だ、本当に馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しすぎるのに、実母のことも、家庭教師のことも、アデレードが黒魔術で一網打尽にするならいいか、と自分の中の何かが流れていくように感じた。
そうか、そうか、と思った。
だったら、もうどうでもいいな、と。
何がもういいのかもよく分からなかったけれで、とにかく全部良くなって、ペイトンは気づけば笑ってしまっていた。
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