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39-1 コリンズ邸へ
「明日ブローチ早速使わせてもらいますね」
「そうか。だったら僕も着けていくよ」
新しい物好きなアデレードが伝えると、強制したつもりはないがペイトンも同調したので、本日のセシリア主催の茶会にはブローチを付けて参加することにした。
青いガラス石ならドレスも青か、とクローゼットを開いて目についたのは、園遊会用にフォアード侯爵にプレゼントしてもらった薄青色のドレスだった。
ブローチを差し色にしてコーデすることもできたが、青に青ならまず間違いない、と本当になんの気なく選んだ。
部屋付きの侍女に着付けてもらい意気揚々とリビングに向かう。
「お待たせしました」
コリンズ邸は王都から二時間ほどの距離にあるため一時に出発することにしていた。
特に遅刻はしていないが、アデレードが声を掛けるとソファに座っていたペイトンは振り向いて、
「き、君、そのドレスで行くのか? ブローチもつけて?」
と第一声で告げた。
いやいや、昨日このブローチを着けていく約束をしたはずだが。は? と漏れでそうな言葉をアデレードは辛うじて呑み込んだが、顔には思いっきり出ていたらしい。
「いや、違うんだ! 別に似合わないとかじゃなく……ほら、なんというか……あれだ……僕が独占欲で着させているみたいというか……いや、別に君が気にしないなら僕は構わないが……」
最後の方はごにょごにょと聞き取りにくいかったが、言わんとしていることはわかった。
そして、ペイトンの瞳が青色であることに今更気づいた。
銀髪に青い瞳。だとしたら購入したブローチはまるままペイトンの色ではないか。
(全然気づかなかったわ)
ペイトンの動揺しまくっている瞳を見ながら、同時に嘲笑されてノイスタインでは青いドレスを着ていなかったこと思い出した。
そして、それをすっかり忘れていた自分に驚いた。
そうだったそうだった、と。
だから、ブローチに合わせるドレスもフォアード侯爵にプレゼントしてもらったドレス以外に青がないんだった、と。
「じゃあ、着替えます」
「え、着替えるのか? 遅刻したらまずいし、そのままでいいんじゃないか」
お前は一体どうして欲しいというのか。アデレードが眉を寄せると、
「契約を遂行するには、丁度よいかもしれないな」
とペイトンはぼにょぼにょ続けた。
ブローチだけでも外すべき? とアデレードは考えたが、ペイトンも襟にちゃんとラペルピンを着けている。
というか、ブローチを着けたいから青いドレスを選んだのに本末転倒になる。
「……まぁ、お茶会と言っても、セシリアお姉様とディアナお義姉様と甥っ子達しかいないので。明日の夜会には着けていきません」
アデレードが妥協案を出すと、
「そうか……」
ペイトンは良いのか悪いのかわからないような返答をした。
(どっちなの!)
思うところはあるものの、なんの利益にもならないのにノイスタインに同行してくれたペイトンに対して、文句を言うのは気が咎めるためアデレードは「では、出発しましょうか」とだけ告げた。
ノイスタインにいる間は、バルモア家の馬車を自由に使うよう許可を得ている。
アデレードが通学に使用していた馬車だ。
レイモンドの屋敷へ向かいに行ってそこからはリコッタ伯爵家の馬車に同乗して学校へ向かった。
奇しくも同じ道を通っている。
「ここって通学路なんですよ」
「へぇ、王都の割に緑が多い通りだな。紅葉樹じゃないか? 色付いたらさぞかし綺麗だろうな」
車窓から青葉の繁る街路樹を見つめてペイトンは言った。
アデレードは五年近く毎日通っていたのに紅葉が美しいなどと思った記憶がなかった。返答できずにいると、
「君、どんな学生だったんだ?」
とペイトンは更に困ることを尋ねてくる。
「……調査書読んだんじゃないですか? 色々好き勝手言われて散々でしたよ。卒業式で、まだとやかく言ってくるようなら二度と這い上がってこれないよう根絶やしにしてやる」
急に着火したように答えると、ペイトンは一拍置いてから言った。
「そうか。しっかりやりなさい」
「え」
予想外の言葉だった。
以前も似た会話をして、ペイトンは「ほどほどに」と答えた気がする。あの時は、イラッときて「なんで!」と詰め寄った。
今度は怒りを買いたくなくて適当なことを言ったのではないか。それはそれで無責任ではないか、とアデレードは捻くれて思った。
「私、やると言ったらやりますけど」
「あぁ、一族郎党集まる最後の機会かもしれんからな」
ペイトンが生真面目に答える。冗談で言っている印象はない。
「卒業パーティーは旦那様がエスコートしてくれるんですよね? 巻き込まれるかもしれませんよ」
「あぁ、俗に言うあれだな。背中は任せろってやつ」
ペイトンは笑って言う。
絡んでくるのは自分と同い年の令嬢達だ。ペイトンはなんだかんだで女性に優しい気がするから、やり込められる姿しか浮かんでこない。
任せて大丈夫なんですか? などとは流石に失礼すぎて聞けないけれども。
ペイトンが再び外の景色に目をやる。なんと答えてよいかわからなくなったアデレードも、
「……ふうん」
とそっけなく答えて街路樹に視線を移した。
流れ行く春の景色。新緑の若葉が光に輝いている。
知らなかった。見ていなかった。紅葉したらまた来よう。そしたら、ペイトンに手紙を書いて教えてあげよう。若葉と紅葉はどちらの方が美しかったか。アデレードはじんわり思って目を細めた。
「そうか。だったら僕も着けていくよ」
新しい物好きなアデレードが伝えると、強制したつもりはないがペイトンも同調したので、本日のセシリア主催の茶会にはブローチを付けて参加することにした。
青いガラス石ならドレスも青か、とクローゼットを開いて目についたのは、園遊会用にフォアード侯爵にプレゼントしてもらった薄青色のドレスだった。
ブローチを差し色にしてコーデすることもできたが、青に青ならまず間違いない、と本当になんの気なく選んだ。
部屋付きの侍女に着付けてもらい意気揚々とリビングに向かう。
「お待たせしました」
コリンズ邸は王都から二時間ほどの距離にあるため一時に出発することにしていた。
特に遅刻はしていないが、アデレードが声を掛けるとソファに座っていたペイトンは振り向いて、
「き、君、そのドレスで行くのか? ブローチもつけて?」
と第一声で告げた。
いやいや、昨日このブローチを着けていく約束をしたはずだが。は? と漏れでそうな言葉をアデレードは辛うじて呑み込んだが、顔には思いっきり出ていたらしい。
「いや、違うんだ! 別に似合わないとかじゃなく……ほら、なんというか……あれだ……僕が独占欲で着させているみたいというか……いや、別に君が気にしないなら僕は構わないが……」
最後の方はごにょごにょと聞き取りにくいかったが、言わんとしていることはわかった。
そして、ペイトンの瞳が青色であることに今更気づいた。
銀髪に青い瞳。だとしたら購入したブローチはまるままペイトンの色ではないか。
(全然気づかなかったわ)
ペイトンの動揺しまくっている瞳を見ながら、同時に嘲笑されてノイスタインでは青いドレスを着ていなかったこと思い出した。
そして、それをすっかり忘れていた自分に驚いた。
そうだったそうだった、と。
だから、ブローチに合わせるドレスもフォアード侯爵にプレゼントしてもらったドレス以外に青がないんだった、と。
「じゃあ、着替えます」
「え、着替えるのか? 遅刻したらまずいし、そのままでいいんじゃないか」
お前は一体どうして欲しいというのか。アデレードが眉を寄せると、
「契約を遂行するには、丁度よいかもしれないな」
とペイトンはぼにょぼにょ続けた。
ブローチだけでも外すべき? とアデレードは考えたが、ペイトンも襟にちゃんとラペルピンを着けている。
というか、ブローチを着けたいから青いドレスを選んだのに本末転倒になる。
「……まぁ、お茶会と言っても、セシリアお姉様とディアナお義姉様と甥っ子達しかいないので。明日の夜会には着けていきません」
アデレードが妥協案を出すと、
「そうか……」
ペイトンは良いのか悪いのかわからないような返答をした。
(どっちなの!)
思うところはあるものの、なんの利益にもならないのにノイスタインに同行してくれたペイトンに対して、文句を言うのは気が咎めるためアデレードは「では、出発しましょうか」とだけ告げた。
ノイスタインにいる間は、バルモア家の馬車を自由に使うよう許可を得ている。
アデレードが通学に使用していた馬車だ。
レイモンドの屋敷へ向かいに行ってそこからはリコッタ伯爵家の馬車に同乗して学校へ向かった。
奇しくも同じ道を通っている。
「ここって通学路なんですよ」
「へぇ、王都の割に緑が多い通りだな。紅葉樹じゃないか? 色付いたらさぞかし綺麗だろうな」
車窓から青葉の繁る街路樹を見つめてペイトンは言った。
アデレードは五年近く毎日通っていたのに紅葉が美しいなどと思った記憶がなかった。返答できずにいると、
「君、どんな学生だったんだ?」
とペイトンは更に困ることを尋ねてくる。
「……調査書読んだんじゃないですか? 色々好き勝手言われて散々でしたよ。卒業式で、まだとやかく言ってくるようなら二度と這い上がってこれないよう根絶やしにしてやる」
急に着火したように答えると、ペイトンは一拍置いてから言った。
「そうか。しっかりやりなさい」
「え」
予想外の言葉だった。
以前も似た会話をして、ペイトンは「ほどほどに」と答えた気がする。あの時は、イラッときて「なんで!」と詰め寄った。
今度は怒りを買いたくなくて適当なことを言ったのではないか。それはそれで無責任ではないか、とアデレードは捻くれて思った。
「私、やると言ったらやりますけど」
「あぁ、一族郎党集まる最後の機会かもしれんからな」
ペイトンが生真面目に答える。冗談で言っている印象はない。
「卒業パーティーは旦那様がエスコートしてくれるんですよね? 巻き込まれるかもしれませんよ」
「あぁ、俗に言うあれだな。背中は任せろってやつ」
ペイトンは笑って言う。
絡んでくるのは自分と同い年の令嬢達だ。ペイトンはなんだかんだで女性に優しい気がするから、やり込められる姿しか浮かんでこない。
任せて大丈夫なんですか? などとは流石に失礼すぎて聞けないけれども。
ペイトンが再び外の景色に目をやる。なんと答えてよいかわからなくなったアデレードも、
「……ふうん」
とそっけなく答えて街路樹に視線を移した。
流れ行く春の景色。新緑の若葉が光に輝いている。
知らなかった。見ていなかった。紅葉したらまた来よう。そしたら、ペイトンに手紙を書いて教えてあげよう。若葉と紅葉はどちらの方が美しかったか。アデレードはじんわり思って目を細めた。
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