ヘヴン・グローリー

kawa.kei

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第11話 「同郷」

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 分かり易い脅威が現れた事で早急に対処を求められる事になる。
 詳細を聞いていない奏多達はその敵側の勇者がいるらしい街の近くで待機。
 人族側はその勇者と直接対峙せず、街ごと焼き払ってしまう事を決めた。

 敵地である以上、人族は持久力に問題がある。
 後方から来る輜重隊と合流できればその問題も解決できるが、勢いのまま攻め込んだので到着まで少しかかってしまう。 一時後退も検討されたが士気を下げるのを嫌った結果、直接戦わずに遠方から街ごと焼き尽くしてしまおうと判断したのだ。

 深谷を筆頭に広範囲を殲滅できる魔法を得意とする者達が準備に入る。
 時間がかかる魔法ではあるが、先行した津軽と巌本が戻って来るまで待つ必要があるのでこうなった。
 奏多と千堂は特にやる事がないので街を遠目に見るだけになるが、敵が突っ込んで来たら対処する必要があるので気は抜けない。

 「――千堂さんはどう思います?」

 手持ち無沙汰だった奏多は隣の千堂に敵の勇者の事を尋ねた。
 主語が抜けていたが、察しはしたようで千堂は小さく悩む素振を見せる。

 「見ていないから分からない。 巌本さん達の見間違いの可能性もあるから今の段階では何とも言えないけど、あの二人が逃げる事を選択するぐらいだから相当な相手だと思う」
 「やっぱり召喚されて来たんでしょうか?」
 「私達と同じ日本人ならその可能性は高い。 もしかしたらあの事故に遭った同じ境遇の人かもしれない」

 それを聞いて奏多の脳裏にふっとある可能性が浮上した。
 もしかしたら優矢も召喚されてこっちに来ているかもしれないと。
 有り得ない事ではないが可能性はほぼゼロと言っていいレベルだ。
 
 あのモノレールには休日だけあって満員とまではいかなかったけどそれなり以上に乗客が存在した。
 その中でも適性があると呼び出されたのは奏多を含めてたったの六人。
 大勢の中で都合よく優矢が選ばれて召喚される可能性はまずないだろう。

 だから彼女はまだ見ぬ敵の勇者に関しては帰還を妨げるだけの障害としか思えなかった――いや、思いたくなかったのかもしれない。
 そうする事で同郷の人間を間接的にでも殺してしまう事に対する忌避感を無視しようとしたのだ。

 もう少しすれば攻撃が始まる。
 可能であればこの攻撃で命を落とし、顔も見なくて済むようになればいい。
 そう考えて奏多は遠くの街へと祈るように視線を向ける。

 「――そろそろ始まるみたい」

 千堂がそう呟くと空に巨大な魔法陣が出現し、極大とも言える規模の魔法が発動した。
 破壊力を秘めた光が、炎が、魔力で構成された様々な何かが雨のように降り注ぐ。
 上空からの攻撃なので余波で空を流れる雲まで吹き散らされ、曇り空にぽっかりと大きな穴が開いてスポットライトが当たっているような不思議な光景が生まれた。

 破壊が撒き散らされている現状では不謹慎な表現なのかもしれない。
 それでもキラキラと光る雨が降り注ぐ光景は非常に幻想的だった。
 視線を下げるとこちらに向かって来る一団の姿が見える。 津軽、巌本と彼等に率いられた騎士達だ。

 激しい抵抗にあったのか負傷者も多い。
 
 「うっは、すっげぇなあれ。 いくらチート使っててもありゃ死ぬな」
 「……結局、敵の勇者は本当に居たの?」

 珍しく千堂が話しかけて来たので津軽は肩を竦める。
 
 「それが何とも。 確かに日本人ではあったが、本人曰く俺達に巻き込まれたんだとさ?」
 「巻き込まれた?」
 「あぁ、詳しく聞く前に戦り合う事になったから本当の所は何ともいえねぇ。 もしかしたら騙されて働かされてるのかもしれないな。 ただ、レベルは凄い事になってたぞ。 五千手前だったけど、おかしいのはステータスはそこまでじゃなかった事かね」
 「五千もあったのに?」
 「あぁ、俺の一割もなかったぐらいじゃねぇか?」
 「それぐらいならここまでする必要はなかったんじゃない?」

 確かにと奏多は思った。
 津軽と同等なら巌本と二人でかかれば勝てない相手ではないはずだ。

 「いや、そうなんだけどあいつ訳の分からない武器持ってて何だったけな『免罪武装』とかいう妙な代物で鑑定かけたけど弾かれたから名前しか分からなかった。 でも、かなりヤバい武器だったぜ、色んな特殊能力を備えていたし明らかに俺達の装備よりも格が上だった」

 津軽はちらりと光が降り注ぐ街を振り返る。

 「ま、いくら武器が凄くてもあのステじゃこの攻撃で死ぬだろ」
 「――私としては彼の言葉が気になる。 彼は魔族の言葉が分かると言っていた。 つまりは彼等と意思の疎通を図れる事になる」
 「それがどうかしたんすか?」
 
 巌本は首を振る。

 「魔族とは意思疎通ができない。 それが前提で滅ぼす事が決まっているんだ。 だが、我々と魔族の両方と会話できる人物がいるのなら和平の道を探れるかもしれない。 それともう一点、彼は気になる事を言っていた」
 「? 何か言ってましたっけ?」
 
 巌本は周囲を確認した後、僅かに声を落とす。

 「我々は騙されていると」
 「どういう事ですか?」

 流石に聞き捨てならなかったので奏多は思わず聞き返す。
 巌本は言い難そうに街であった日本人から聞いた話をする。

 「うむ、彼曰く、我々は日本に帰れないそうだ」
 「……どういう事ですか?」
 「例の召喚陣を使えば確かにこの世界から出る事は可能らしい。 だが、その行先が日本かどうかは分からないと言っていた」
 「その彼の言っていた事の信憑性は?」
 
 千堂の質問に巌本は再度首を振る。

 「分からない。 彼自身が騙されている可能性も存在する以上、完全に鵜呑みにはできないが、彼は我々がここに来る前に会った光る球から話を聞いたと言っていた」
 
 だから判断に迷っていると巌本は付け加えた。
 仮にその日本人の言葉が本当なら人族は奏多達を働かせた後、用事が済めば世界の外に放り出して後は知らないで通すつもりなのだ。 

 「……彼の話にも一理あるんだ。 仮に魔族の殲滅が成れば、我々は用済みになる。 力を持ちすぎた個人を持て余す未来を踏まえて処分しようと考える可能性もなくはない」
 「いや、流石に一回会っただけの奴の言葉丸々信じるのは違うでしょ」
 「そうなんだが、私には彼――霜原君が嘘をついているようには見えなかった」 
  
 ――は?

 不意打ちのように入ってきた聞き覚えのある苗字に奏多は一瞬、硬直する。
 その行動は彼女の意思ではなく、反射に近い物だった。
 気が付けばいつの間にか津軽の胸倉を掴み、睨むような眼で彼を見ていた。

 「え? は? 奏多ちゃん? ど、どうしたの?」

 津軽の声が震えている。 それもその筈だ。
 彼の瞳に映る奏多の表情は鬼気迫る物だった。 

 「その日本人の名前は? なんていうの?」

 まさか、そんな馬鹿な。 間違いだろう。
 そんな彼女の祈りに近い物は――

 「は? 名前? えっと確か、霜原 優矢だったかな」
 
 ――津軽の決定的な言葉の前に砕け散った。
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