ヘヴン・グローリー

kawa.kei

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第23話 「盾砕」

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 彼女の放った矢は優矢の動きを完全に捉え、その右目を射抜いた。
 間違いなく仕留めた手応えが――千堂は驚愕に目を見開く。
 彼女は鑑定と併用し、標的のステータスを参照して仕留めたかの確認を行う。

 いつもなら当てた後、標的は即死するので死体としか鑑定されない。
 今回もそうなると思っていたのだが、そうはならなかった。
 優矢のステータスは健在。 参照できるという事は死んでいない事実を意味する。
 
 眼を狙ったのは即死しなくても視界を奪えると判断したからだったが、あの状態でなぜ生きているのかと普段冷静な彼女ですら優矢の状態は信じがたい事だった。
 これは半端にこの世界のルールに縛られているからこそだろう。

 この世界の人間であるならステータスの耐久値がゼロになる事が死亡とイコールだ。
 裏を返せばどんな状態でも耐久が残っている限り死んでいない。
 そして千堂は異世界のルールこそ把握しているものの、日本の常識が染みついているので頭を射抜けば死ぬといった先入観が拭えないでいた。

 優矢は千堂を認識し、撃ち返そうと弓を構えたが、引き寄せられるように巌本へと照準を切り替えて発射。
 弾かれて攻撃は空へと飛んで行って炸裂。 巨大な爆発が起こる。
 千堂は残りの目も射貫いてやると弓を構えたが片目を貫かれた状態でも優矢はまるで痛みを感じていないかのように弓を構えて二度、三度と素早く放ち、巌本は必死に攻撃を引き付けて防ぐ。

 逸らしきれずに空ではなく少し離れた位置で炸裂し、衝撃で地面が縦に揺れる。
 大きく揺れた事で照準が上手く定まらない。 スキルによる補正はあるが、ここまで揺れると当てられる自信はなかった。 千堂は収まったタイミングでと狙いを付けようとしたが、その視線の先で優矢の動きが変わる。

 武器が弓から剣へと形状を変えた。 唐突な変化に付いて行けずに巌本は目を見開く。
 剣が白く輝き、雑な動作で振り上げる。 明らかに内包している威力はさっきまで放っていた矢を越えていた。 巌本はそれを見た瞬間、これは無理だと内心で悟る。
 
 「優矢! 駄目!」

 奏多が腕を狙って剣を振るい、これは生け捕りを狙っている場合じゃないと津軽は喉を狙って突きを放つ。 千堂もこれは止めないと不味いと判断して狙いを定めずにスキルを用いて連射。
 三本の魔力で生み出された矢が飛ぶ。 優矢は奏多の斬撃を籠手で掴み、津軽と千堂の攻撃は無視。

 喉を貫かれ額、口、肩を射抜かれた優矢は剣を振り下ろす。
 巌本は逃げ切るのは無理と判断して全力で防御を固めるが、矢ですら逸らすだけで精一杯だった彼に斬撃を防ぐ事はできなかった。 優矢の振るった剣は巌本の障壁を簡単に切り裂き、彼の体とその背後にあった建物の残骸を切断した。

 「ぐ、あぁ……」

 巌本は辛うじて生きてはいたが盾は砕け、肩口から切断された体は断面を晒して地面に血液と臓物を撒き散らす。 剣を振り終えた優矢は掴んだままの奏多の剣を強引に振る。
 奏多の手から剣が抜けて吹き飛ぶ。 優矢は奏多の剣を投げ捨てた後、武器を弓に切り替えて瀕死の巌本に向ける。 魔力が充填されて矢が形成し、白く輝く。
 
 「おい、もう充分だろうが! 止めろ! 止めろぉぉ!!」

 津軽は槍で優矢を斬り刻むが、まったく意に介さない。
 攻撃の合間に千堂の矢が次々と優矢に突き刺さるが、動きは止まらずにその一撃が放たれた。
 
 「……皆、逃げ――」

 それが巌本の最後の言葉だった。 着弾。
 彼の体は跡形もなく消し飛び、残った物は巨大なクレーターだけ。
 
 「……嘘だろ……巌本サン……」

 奥歯を軋ませて千堂は全力で弓を引く。 巨大な矢が形成される。
 これは彼女の奥の手だ。 溜めに時間がかかり、彼女の強みである精密射撃ができなくなるのでまず使わないがもう残された手はこれしかなかった。

 何故なら攻撃を引き付ける巌本が居なくなった以上、次に狙われるのは間違いなく自分だと思っていたからだ。 それは正しく、優矢は真っ直ぐに千堂へと狙いを定める。
 威力勝負なら話にならない。 結果は分かり切っているが文字通り一矢だけでも――

 放たれたのは同時。 千堂の放った矢は優矢の放った矢に消し飛ばされ真っ直ぐに彼女へと飛来。

 「ごめん」

 それは無意識に出た言葉で特定の誰かに向けた物ではなかった。
 一瞬、遅れて優矢の放った一撃は千堂へ直撃。 彼女の命は白い光に呑まれて消え失せた。
 
 「ひ、ひぃぃぃぃ!」

 千堂が消し飛んだのを見て津軽の心は完全に折れた。
 彼は背を向けて駆け出すが、優矢は武器を槍に変える。 
 奏多は諦めずに斬りかかろうとするが優矢の槍が輝きを放つ方が先で、彼を中心に地面が陥没。

 上から凄まじい圧力がかかり奏多と津軽の体が地面に張り付く。
 優矢は無言で歩き、何とか逃げようと這っている津軽へ近づいた。

 「や、止め――」

 優矢は槍を振り上げて――下ろす。
 軽い音がして津軽の首が切断される。 そしてステータスによる補正を失った津軽の体は押し花のように地面に内容物をぶちまけ、原形が分からない有様となった。

 「ゆ、優矢……よく、見て……私よ。 奏多、よ?」

 残った奏多はどうにか説得しようと呼びかけ続けるが、優矢は無言で歩み寄る。
 一歩、二歩と歩みを続け、奏多の目の前で止まった。
 奏多は強引に顔を上げて優矢を見ようとする。 優矢はガラス玉のような目で奏多を見下ろす。

 「何が、あった、の? あの時、何を、言いかけ、たの?」

 苦し気に奏多は言葉を紡ぐ。 とにかく優矢の話を聞きたかった。 
 彼が何を考え、何を思っているのかを知りたかった。 
 だからこそ彼女は優矢へと必死に言葉をかける。 自分と優矢の絆は絶対だと信じて。

 奏多は自分と優矢が同じ気持ちだと固く信じており、気持ちは通じるとこの期に及んでそう思っていた。 優矢には彼女の言葉は一切届かず、今後永遠に交わされる事はないだろう。

 「ゆ、優、矢……」

 優矢は武器を剣に切り替えて振り上げる。 巌本を切り裂いた圧倒的な破壊力を内包した輝きが、奏多の目を焼く。 それでも彼女は言葉をかけ続ける。

 「あの、ね? 離れて、から、分かった、事があるの。 わたし、私ね。 あなたの事が――」

 剣が振り下ろされ――

 「――好きだったの」

 ――止まった。
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