逢魔の霧

kawa.kei

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23~29周目

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 それは二重の意味で地獄だった。
 確かに道筋はできているのでそれを辿るべく行動を起こせばいい。
 いうだけなら簡単だけど実行する事のハードルがここまで高いとは思わなかった。

 まずは目次の反応で私はクラスメイトからの協力を引き出す事を諦め利用する方針で固める。
 つまりは予定通りという事だ。 協力できるならバスガイドを殺す手間が省けるので、時間の短縮になると思ったのでものは試しにと説得を試みたのだけれど結局は希望を持つだけ無駄と確認できただけだった。

 バスガイドの殺害とクラスメイトの利用は必須と確認できただけでも収穫と思うべきだろう。
 予定通り、バスガイドに放送させた上で、クラスメイトを操る。
 最低でも半数を誘導できるのは確認済みだ。 可能であれば全員が望ましいけど、難しいと言わざるを得ない。

 同時にアラームのセットで火車を誘導、無傷でハイキングコースへと誘導する。
 非常に困難だけどやらない訳にはいかなかった。
 二十三周目の今回で突破する。 そう意気込んで私は行動を起こした。

 ――結論から先に言うと失敗だった。

 アラームの設置からバスガイドの殺害、クラスメイトの誘導までは上手く行った。
 もう何度もやった作業なので手際は良くなったと思ったけど、アラームとクラスメイトの誘導タイミングを合わせるのが難しかったのだ。

 今回はアラームが早すぎて失敗し、逆に火車をおびき寄せる結果となってしまった。
 捕捉された私達はなすすべもなく轢き殺された。



 ――二十四周目

 スマホの時刻表示は小まめに確認していたので説得までにかかる時間は把握済みだ。
 後はそこから逆算してアラームを仕掛ければいい。
 前回と全く同じ流れでクラスメイトを誘導。
 
 これは行けるかと思ったけど、移動中に微かに響いたアラームの音にクラスメイトまで反応して足を止めてしまった。 また兒玉だ。 しかも気にするだけならまだ許せたのだけど、誰かいるかもしれないと声を張り上げた。 どこまで私の足を引っ張れば気が済むんだこのクズ!
 
 火車の前に私が殺してやりたいと思ったけど、そんな事をする余裕もなく私達は前回と同様に火車の餌食となった。


 ――二十五周目

 課題が追加された。 兒玉の排除だ。 
 会話や動きを主導する事は出来ていたので、ここで皆を守って欲しいと適当な事を言って兒玉を置き去りにした。 これなら行けるだろうと思ったけど、アラームの音に今度は連れて来た女子が反応したのだ。
 無視しようと私は言ったけど、気になるから誰か見に行けと男子を唆し始めた。

 結局、前回、前々回と同様に火車に轢き殺される結果に終わった。

 

 ――二十六周目

 今度は騒いだ女子を排除しようかと考えたけど、他にも数名同調していたので声の大きい奴を外しても
他が騒ぐだけだ。 なら原因の方を取り除くしかない。
 つまりはアラームを聞こえない位置まで遠ざける事だ。 これが思った以上に厄介だった。

 この街は人がいないので音が思った以上に響く。 その為、かなり距離を離さなければならない。
 どこまで離せば聞こえなくなるのかが分からなかったので今回を捨てて情報を取る事にした。
 アラームを一定の間隔で置いて順番に動かす。 そうすればどこに置けば移動に支障が出ないかが分かる。

 他との兼ね合いもあるので簡単に往復できる距離を見極めての設置となった。
 順番に鳴らしてどの程度響くのかを確認し、どこまで離せば移動に支障が出ないのかを見極めて私は火車に轢き殺された。
 
 
 ――二十七周目

 前々回と違い、アラームで足を止める心配がないので兒玉を残す手間が省けると思ったのだけど、往復に思った以上の時間がかかってしまった。
 そして時間が経過した事により、更なる誤算が生まれる。 タイミングをずらした事でバスガイドを殺す所を見られてしまったのだ。 もう説得などできるはずもなく、逃げ出して火車に轢き殺される事しかできなかった。


 ――二十八周目

 見つかったのは首を掻き切ったタイミングで人数は三人。
 全員男子。 大方、暇を持て余して近くに居たのだろう、放送が終わってすぐに現れた。
 取り繕おうのも不可能なので、出くわさないように時間をずらすしかない。

 最初に来た連中が部屋に戻ったと同時にバスガイドを殺害。 そのまま説得に入ろうとしたけど、今度は鬼の襲来を失念しており、皆を集めて話を始めて少ししたところで入口から入ってきた。
 後は言うまでもなく地獄絵図が展開され、私は諦めてスイカのように頭を叩き割られた。


 ――二十九周目

 遠出した場合、他の行動に支障が出る。
 私は悩んだ。 アラームの設置に使う時間は動かせない。
 なら他を動かすしかないのだけど、どうすればいいのか分からなかった。
 
 バスガイドやクラスメイトに対する後ろめたさは微塵もない。
 今となってはこいつ等は私の足を引っ張るだけの無能としか認識できなかった。
 バスガイドを先に殺す? 殺してから設置をして戻ればタイミング的にも間に合うかもしれない。
 
 いや、目的と手段が入れ替わっていると自己を戒める。
 こいつ等は腹立たしさしか感じないし、殺してやりたいと思っているけど殺しはあくまで手段にしか過ぎない。 私が生きてここから抜ける為に必要なプロセスなだけで、気持ち良くなる為に殺している訳ではないのだ。 
 
 ……自制だ。 いくら腹が立っても我慢する事が大事。

 手段が思いつかなかったので苦肉の策で文江達に事情を話して協力を頼む事にした。
 正直、欠片も期待していなかったけど、手詰まりの状況で何もせずに時間を浪費する事に耐えられなかったので無駄と分かっていても実行せざるを得なかった。

 ダメ元なので最初から無茶な要求をするつもりだ。
 部屋に入るとこの街の危険性と脱出の必要性を説いた。 当然ながら彼女達は信用しない。
 それでも話は聞いてくれるとの事だったので具体的に何をするのかと尋ねられたので、バスガイドに放送させた後に殺してクラスメイトの危機感を煽って協力させると言ったら絶句された。

 殺すのは私がやると言いたかったけど、アラームの設置は街の地理に明るくない彼女達では難しい。
 アラームを仕入れるところまで同行して地図で大雑把な設置場所だけ教えて任せる。
 いきなりこんな状況に放り込まれた状態で座間のような働きを期待するのは酷だけど、それぐらいやってくれないと手間をかけてまで取り込む価値がない。

 ――そして当然のように断られた。

 その時に浮かべた三人の表情は忘れられない。
 まるで異常者を見るかのような恐怖を多分に含んだ瞳。 少しショックではあったけど、これはこれで良かったとも思っていた。 何故ならこれで私は彼女達を平気で見限れる。 平気で切り捨てられる。

 何を今更と思うかもしれないけど、こうやって切り捨てるに足る理由があると気持ち的に楽になった。
 文江、多代、星華。 あんた達はいい友達だったけど、私が助かる為には友情は要らない。
 今度こそ、私だけでもここから脱出してやる。

 そう決意を新たにし、私はいつも通り火車に轢き殺された。
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