Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第642話

 ――私にはまだ足りない物が多い。

 グロウモスは変形させた状態で木々の間を縫うようにフィールドを駆け抜ける。
 そして狙った位置に付いたと同時に機体を人型に戻し、即座にスコーピオン・アンタレスを構えて発射。
 彼女の放った一撃は吸い込まるように敵機を撃ち抜くとそのまま爆散させる。

 試合終了。 リザルト画面を一瞥して次へ。
 グロウモスはこれまでの戦いを振り返る。 
 後衛――狙撃手としてはそこそこ上手くやれていると思っていた。
 
 判断などに細かなミスや改善点こそあれど判断自体はそこまで大きな失敗はしていないと自負している。

 ――にも関わらずに勝てないのは何故か?

 答えは非常に単純かつ明快。 実力不足だ。
 足りない。 技量が、マシンスペックが、経験が、そして何よりも金が。
 マシンスペックと金銭に関しては地道にランクを上げるしかない。 
 
 残りに関しては現在進行形で積み上げる事が可能な要素だ。 
 これはヨシナリの言だが、行き詰った時は最初から見直すと新しい発見があるかもしれない。
 その言葉を信じて彼女は自身を一から見直す事にしたのだ。

 さて、グロウモスというプレイヤーを客観的に自己分析するとどのように評するか?
 隠密に長けた狙撃手。 死角に潜み、影から必殺を狙う。
 ソロでやるなら問題なく、個人戦では今でも充分に通用している戦い方だ。

 だが、ここ最近はそれに疑問を覚え始めたのだ。 本当にこのままでいいのか?と。
 ここ最近は隠密に割り振るリソースを徐々に減らしてきていた。
 スコーピオン・アンタレス用の高出力レーザー用のバレル、大容量エネルギーパック。
 
 隠密機能を著しく阻害する代物ばかりをフィールドに持ち込むようになってきていた。
 以前までの彼女であるなら自らの安全を確保しないと安心して撃てないという事もあって、隠密には力を入れてきていたが、段々とそれが邪魔になって来たのだ。

 ――もう隠密とかどうでもいいのでないか?

 身を隠す暇があったら敵を始末する事にリソースを割くべきではないのか?
 そんな疑問がふっと脳裏を過ぎったのだ。 
 現状、光学迷彩、遮音フィールドなど、隠密に咲くリソースは決して少なくない。

 それを全て取り払えばその分、火力や対応力を上げる事が可能となる。
 次の試合が始まり、フィールドに移動。 遮蔽物の少ない平原だ。
 マップを軽く確認して狙撃に適した場所を即座にピックアップ。

 次に敵機を確認して移動開始。 敵は強化装甲装備のキマイラ。
 変形を捨てて人型形態のみで戦いう為に強化装甲で機能拡張を行っているようだ。
 挨拶代わりの一撃を見舞うと危なげなく躱す。 

 こちらの位置を認めた敵機がミサイルを撃ちながら突っ込んで来る。
 グロウモスは特に慌てずにスコーピオン・アンタレスをすっと構え、実体弾を二発発射。
 敵機は一発目をひらりと躱しタイミングをずらして撃った二発目をまともに喰らった。

 ――同じ避け方。 つまんない。

 推進装置である足を破壊された敵機はバランスを保とうとするが、そんな状態で次を躱せるわけがなかった。 
 レーザーに切り替えて発射。 綺麗にコックピット部分を射抜いて試合終了。
 ちらりとリザルト画面を確認すると自身がCランクである事と残り何勝でBに上がれるのかが表示されている。

 ――後、二つでジェネシスフレーム、か。

 ホームに戻ってショップを開き、最近追加された新商品の一覧を表示させる。
 そこに並んでいる商品を見て試してみようとグロウモスは小さく笑う。 
 これらを使いこなせれば自分はもっと強くなれると考えたからだ。 

 ――そうすればヨシナリは私なしでは生きていけなくなる。  
 
 ここ最近、ヨシナリは自分の事を誰よりも頼りにしていると感じていた。
 つまり、依存であり、彼が自分無しでは生きて行けない証拠でもある。
 防衛イベントでは強敵相手に身を挺して時間を稼ぎ、君を守ると力強く頷いていた。

 あれで私に惚れていないとかありえないだろう。 確率で言うなら2000%だ。
 危ない所だった。 これがゲームでなくてリアルだったら、ヨシナリは辛抱堪らなくなってグロウモスに襲い掛かってくるかもしれない。 それほどまでにヨシナリは彼女に依存しているのだ。

 ここ最近、泥棒猫の存在が彼女の頭を悩ませていたが、なんて事はない。 
 取り越し苦労という奴だ。 
 シニフィエの企みも自分とヨシナリの絆の深さが明らかになっている今、無意味といえる。

 「ヒ、ヒヒッ、ヨシナリぃ。 も、もっと私に夢中にさせてあげるからねぇ」

 グロウモスはヒヒッと傍から見れば引き攣ったような笑みを浮かべ、ショップの商品を次々と籠に放り込むとそのまま購入ボタンを力強く押した。


 「うぉ、なんか寒気が……」

 ヨシナリは正体不明の寒気に首を傾げながらユニオンホームの自室でぼんやりと思索にふけっていた。
 さっきまでランク戦を行っていたのだが、少し疲れて来たので休憩を兼ねて頭の中を整理していたのだ。
 考えるのは直近のミッション。 考えが浅かった。
 
 第二形態がないと勝手に判断して捨て身で仕留めに行ってしまった。
 チームプレイの観点で見れば正しかったと思いたかったが、その後の一番美味しい場面で蚊帳の外は痛恨の極みといえる。 表にこそ出さなかったが、内心では畜生と地団駄を踏んでいたのだ。

 俺もあの敵の第二形態と戦いたかったと。 
 ドローンの代わりに武器や装備を召喚し、それを次々と入れ替える事でどんな状況にも対応する。
 イカサマのような性能と思いたいが闇雲に武器を入れ替えた所で使いこなせなければ宝の持ち腐れ。

 ここは素直にあの機体の中身――オペレーターの技量を凄いと褒める所だろう。
 自分ならどう戦っただろうかと脳裏でシミュレーションしながら、思考の一部は別の事に割かれていた。 
 まずは次のサーバー対抗戦だ。 

 インド第二サーバー。 例によって情報がほとんどない事もあってアドリブで対応せざるを得ない。
 その為、余り考える事がないのだ。 次に自分とユニオンについて。
 まずは自らの分身であるホロスコープについて。 
 
 現状、機能面での拡張は望めない事もあって、エーテルの扱いをベリアルから学んでいる最中だ。
 我ながらパンドラに対する理解が浅い。 あの闇の叡智が詰まった心臓を完全に我が物とするには更なる叡智が必要だ。
 その為にヨシナリは更に闇を理解しなければならなかった。

 次にユニオンについてだが――
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