Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
645 / 865

第645話

 何となくだが読めて来た。
 こいつの戦い方は身を隠しつつ、ドローンを展開する事による包囲を進め、完了と同時に全方位から襲い掛かる。 
 仕掛けのやり方も秀逸だ。 伏せていた伏兵によるワイヤー付きのアンカーの同時射出。
 
 飛び方は基本的に直線ではあるが、接触すると四肢を拘束して来る。
 配置は標的――ヨシナリを中心に地上、空中での全方位から。 
 躱す隙間を物理的に潰している事もあって回避は難しく、包囲の一角を潰す事での突破しかない。
 
 ――で、回避先を読んで本体がそこを強襲。

 ご丁寧に地上に逃げやすいように空中に多く配置する事によって行動を誘導している。
 更に厄介な事にこのアンカーによる攻撃は躱されても問題はない点だ。
 何故ならヨシナリの退路を塞ぐ形でワイヤーが蜘蛛の巣のように張り巡らせている。

 当たれば直接拘束。 外したとしても退路を制限できるという二段構えの包囲網。
 イラで切断できなくはないが、時間がかかる。 上に意識を振らせておいて下から強襲。
 
 ――道理で姿勢の低い機体な訳だ。

 人型から逸脱している姿勢の低い機体構成もこの状況下で性能を十全に発揮する。
 流石はランカーだけはある。 かなり練られた戦い方だ。
 何よりも持って行き方が上手い。 シックスセンスがあったにも関わらずこうなる事を許してしまった以上は素直に褒めるしかなかった。

 ――ただ、俺も黙ってやられてやるつもりはないけどなぁ!

 横からのタックルは止められない。 なら力技で抉じ開ける。
 リミッター解除。 200%だ。
 全ての推進装置を全開にして逆に当たりに行った。 

 『フィジカル! そう来たか!』
 
 衝突により、ホロスコープの各所にダメージ。 当たった感じから敵機の方にはあまり効いていない。
 理由は当たった感触。 妙に重かった点から見た目以上の重量機体だ。
 思った以上に体勢を崩せなかった。 明らかに当たり負けしている。

 レールキャノンを使っていた事から攪乱からの中~遠距離戦機体かとも思ったが、接近戦もしっかりとこなせるようだ。 このままだと逆に押しつぶされる。

 勝ち筋が明確でない以上、機体に負担をかけるのは得策ではない。
 敵機がそのままこちらをビルの壁面に押し付けようとする動きを利用して推力を緩める。
 均衡が傾いたと同時にヨシナリは敵機の背の上を転がって反対側へ。 

 勢いを殺しきれなかったアイロニカルは態勢を崩す。 
 欲を言えば一撃喰らわせてやりたい気持ちもあるが、術中にはまったままは危険すぎる。
 そのまま加速して蜘蛛の巣からの脱出を狙う。 

 『ロジカル! 簡単には逃がさんよ』
 
 アイロニカルが前足を突き出す。 被り物の外に出た事で一部ではあるが露わになったが――

 ――何だあれは?

 変わった手だった。 
 先端にはニードルが付いており、指の代わりに透明なガラス容器のような何かがある。
 真っ先に思い浮かんだのは注射器だ。 あの容器は明らかに薬液の類を充填するスペース。

 手を伸ばす動作から何をしてくるのか読めたヨシナリは反射的に上昇しかけたが、真上にはまだワイヤーの結界。 回避コースが限定されている以上、撃ち落とすしかない。
 アトルムとクルックスを抜いて構える。 少々無理な体勢だが、やるしかない。

 注射器が射出される。 
 合計五つ、ワイヤーのような物で繋がっており、そこから薬液を充填しているようだ。
 飛んできている間に空のアンプルらしきものの中が謎の液体で満たされていた。
 
 喰らったら碌な事にならないのは目に見えている。 
 これは一発も喰らえない。 バースト射撃。
 即座に三つを破壊。 これならいけるかと思ったが、残り二つが不規則な軌道で追いかけて来る。

 ――こっちの弾を躱している点からも手動操作か。

 だったら本体を殺れば解決する。 アンプルを狙いながら本体にも銃弾をばら撒く。
 対処する事によって制御に支障をきたしてくれれば儲けもの程度だったのだが、敵機はヨシナリの想定を超えて来た。 一切躱さずに突っ込んで来たのだ。

 次々と被弾するがまるで意に介さない。 どうやら捨て身で突っ込むつもりのようだ。
 ダミーや何らかの方法でごまかしているようにも見えない。 穴の開いた被り物の向こうにはしっかりと刻まれた弾痕などがしっかりと観測されているからだ。

 思い切りが良いと思いながらも、喰らってくれるなら死ぬまでくれてやると更に狙おうとするが、アンプルがもう間近まで来ている事もあってこちらの対処が先だった。
 バースト射撃で破壊。 これであの怪しい液体を注射されずには済んだが、危機は終わらない。

 いつまで経ってもワイヤーの結界から抜けられないからどういう事だと思っていたらヨシナリを中心に一番距離の遠いダミーがワイヤーを回収後、先回りして結界を再構成しているのだ。
 徹底してヨシナリを自由に動かさないつもりらしい。 

 ――うざってぇ!

 執拗に動きを制限してストレスをかけて来る相手に若干のイラつきを覚えながらも、この状況の打開を狙うべく思考を高速で回す。
 まずこの状況で一番まずいのは何か? ワイヤーの結界だ。
 力技での突破自体は可能。 だが、一本の切断にイラの回転刃を使っても2秒はかかる。

 一本切れば抜けられるのならどうにかその2秒を捻り出すのだが、結界は十重二十重と折り重なっており、突破には最低でも四から五本は切断する必要があった。
 合計10秒。 そんな時間をこの状況で捻り出すのは無理だ。

 ならさっきアイロニカルがやったようにビルを突っ切るのはどうか?
 無理だ。 何故ならワイヤーの結界はビルを貫通して展開されている。 
 つまり迂闊に突っ込むとワイヤーに無防備に突っ込むだけの形になってしまう。

 そして最後。 これが一番深刻な問題だ。
 
 ――逃げ場がなくなってきた。

 これまでヨシナリはワイヤーの隙間を縫うように飛んで来たのだが、その隙間が徐々に小さくなってきている。 
 理由は組み直しの際、徐々にヨシナリを捉えやすいように配置を弄っているからだ。
 つまり仮にこのまま無傷でいたとしても必ず捕まる。

 『バッカル。 自覚したようだな。 このまま溶けるように沈むといい』

 アイロニカルは全ては我が掌中だと言わんばかりにそう言い放つ。 
 それを聞いたヨシナリは内心で小さく溜息を吐いた。
 普通だったらほぼ詰みの状態だ。 できるなら自力で突破を図りたかったが仕方がない。

 そもそもランカー相手に温存すること自体が傲慢な考えだったのかも知れなかった。
 出力500%。 切り札を切る事にした。
感想 0

あなたにおすすめの小説

局地戦闘機 飛電の栄光と終焉

みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

森のカフェしっぽっぽ

森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
五十代後半の初老――サトルが営むのは、就労支援B型事業所を兼ねた猫カフェ「森のカフェしっぽっぽ」。 一階には利用者が作った木工小物や布雑貨が並び、 猫たち(イチ・きな・トラ・チビ・そして極度の臆病猫ジル)が自由気ままに接客(?)をしている。 しかしこの店には、誰も知らない“もう一つの顔”があった。 地下の倉庫兼店舗は異世界と繋がっている。 ただし、異世界人は地球には来られない。 行き来できるのはサトルだけ。 向こう側には|蜥蜴人族≪リザードマン≫の商人、 頑固な|鉱人族≪ドワーフ≫の職人、 静かな|森人族≪エルフ≫たちがいて、 サトルは彼らから“ちょっとだけ現実を楽にする品”を仕入れている。 仕事に疲れた会社員。 将来に迷う若者。 自信をなくした人。 サトルは客の空気を読み、異世界の商品をさりげなく勧める。 そして、棚の影で震えるジル。 怖がりで、音にびくつき、すぐ隠れる。 それでも店からは逃げない。 その姿が、なぜか人の心を少しだけ軽くする。 これは―― 福祉と商売と猫と異世界が、ゆるく混ざり合う物語。 震えながらでも前に立つ者が、 今日も小さく世界をつなぐ。

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。