Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第647話

 機体内部でエーテルが収束。 
 発射――直前にフレームが限界が迎えて溶け崩れ、機体が爆発。 試合終了となった。
 ヨシナリの視界がユニオンホームの自室に移り、ウインドウへ視線をやると自分が敗北した事実が大きく表示されている。

 ヨシナリはベッドから立ち上げり、ふうと小さく息を吐くとウインドウを操作してショップを呼び出す。
 無言で操作して目当ての商品を購入。 ウインドウ操作で実体化させる。
 現れたのは鎖で吊るされた巨大なサンドバッグだ。

 ヨシナリは感触を確かめると全力でぶん殴る。 
 それを二度、三度と繰り返し、サンドバッグが小さく揺れた。

 「クソが! なんだありゃ!? 確かに腕を破壊しただろうが! 隠し腕か!? 肩の付き方は確かに同じだったぞ! クソが! クソが!! クソが!!! 納得いかねぇ!」

 何度思い返してもさっぱり分からない。 
 ヨシナリは少し落ち着いたのかふうと大きく息を吐くとウインドウ操作。
 さっきの戦闘の映像を見返す。 自分の動きは大部分は把握できていた事もあって敵機をフォーカス。
 
 『アイロニカル』機体名は『ティピカル・ジャッカル』
 結局、分からない部分が多かった機体だけに気になる点は多かった。
 初動としてはヨシナリの位置を探りつつビルの陰へと身を隠す。 

 移動に音がしていない点と接地していない点からホバー移動という事は分かっていた。
 
 「それにしても幽霊みたいにすーっと動くなぁ」

 感想を口にしながら次の動きに注視。 ここからだ。
 アイロニカルは何をしたのかというと纏っているヴェールの表面が剥がれて風に吹かれるように飛んでいく。 

 「あぁ、重ねていたのか」

 どうやらあのヴェールは何重にも重なっているようだ。 
 ドローンに剥がしたヴェールを重ねてダミー機体の出来上がりという訳か。
 ヨシナリが索敵している間に次々とダミーを生産し、徐々に包囲網を形成。

 ドローンの機能に関しては把握していた事もあってダミー機の観察はそこそこで済ませる。
 球状の形をした物を三つでワンセット。 挙動は本体から直接操作しているであろう一機を中心に三角形を描くように動く。 それが二十セット六十基。 
 それが地上、空中に散ってヨシナリを包囲するように動く。

 「完全なマニュアル操作じゃないのか?」

 流石に合計二十セットは人間の脳で処理できる数ではない。
 恐らくは事前に命令を与えて必要に応じて指示を出すといった形だろう。
 集団戦でなく個人戦であるならフィールドの外縁を囲むように配置すれば敵の動きはそこまで気にしなくてもいい。 

 「で、必要に応じて包囲網を狭めて攻撃、か」

 こうして俯瞰すると難易度の高い挙動に見えるが、可能な限りの簡略化を行っている点からかなり時間をかけて練られた戦い方である事が分かる。
 基本的に準備に時間をかけて相手を自分の術中に引きずり込んで自由にさせないタイプだ。

 そして包囲が完了すると満を持しての攻撃開始。 
 レールキャノンという派手な大砲を見せれば、ヨシナリとしては接近せざるを得ない。
 少なくとも撃ち難くするために中距離の間合いには持って行く。 

 「この辺りからほぼ術中だったな」

 苦々しい呟きが口からこぼれる。 
 ヨシナリの移動に合わせて包囲網を狭め、意識を散らす為に必要なダミー機を呼び出す。
 このヴェールが特に曲者だった。 

 強度自体はただの布と言っていいレベルだが、ステルス性能が尋常ではない。
 単純な光学迷彩――違うな。 映像でははっきり映っている点から、トルーパーのカメラアイに対しての迷彩といった所だろう。 

 恐らくコックピットハッチを開いて直接アバター状態で視認すればはっきり見えた可能性は高い。
 動体には引っかかる事もあって完璧ではないが、大抵の相手は碌に見えないだろう。
 
 「――で、これか」

 アンカーとワイヤーによる結界。 上手にビルを利用してヨシナリの退路を制限している点も上手い。
 特に直立させない事を念頭に置いた配置は秀逸だ。 
 お陰でヨシナリはすり抜ける為に姿勢を制限され続けた。 

 「上を念入りに潰して地上を進んだ所を本体が強襲」

 追い込み方も完璧だった。 
 こうして俯瞰するとヨシナリは吸い込まれるように本体の潜伏しているビルまで動かされている。
 近づいた所でビルを突き破って飛びついた、と。

 ――ここまでは理解できた。

 問題はこの先だ。 ヨシナリが一撃を入れて敵機の腕は間違いなく使い物にならなくなった。
 だからこそ引き千切って投げつけたのは理解できる。 
 だが、その腕が元に戻っているカラクリが分からない。 

 ――いや、可能性は頭の片隅には存在した。

 なにしろ前例があったからだ。 ヨシナリは映像を確認しながら問題個所をチェック。
 
 「――ここか」

 そしてついに見つけた。 映像を停止させて拡大。
 アイロニカルの機体は腕を引き千切った事もあってヴェールの形が分かり易く崩れていた。
 だがその瞬間、腕の部分が盛り上がったのだ。 

 「クソ、あの被り物は映像で確認できなくする為の物でもあるのか?」

 小さく舌打ちしながらカメラのアングルを変えるが詳細は見えない。 
 ただ、盛り上がり方から生えて来たといった印象が強い。 
 ヨシナリは小さく溜息を吐いて壁に背を預ける。 

 「わざわざ隠すって事は見られると何かと都合の悪い回復のさせ方をしているって事か?」

 そう、回復なのだ。 可能性としては他にも候補はあった。
 胴がやや長い事を利用して内部に予備のパーツを格納している。 
 ヴェールの下の本体はブロック状になっていて破損部分を補填している。

 ――等々。

 だが、ヨシナリが最も可能性が高いと感じているのは防衛戦で現れた敵性トルーパーが使っていた回復能力――要は自己再生だ。
 根拠はあの腕の構造。 指先が注射針、指自体は薬液を充填する為のアンプル。
 胴体部分に製造する為の工場を抱えており、精製した薬液を内部から送り込む仕組みだ。

 なら敵を破壊する毒だけでなく、自身を癒す薬――ナノマシンを製造する事も可能だろう。
 流石に瞬時ではないだろうが、視る限り数十秒で片腕が丸々元に戻っていた。
 凄まじい回復力だ。 

 それに気付かなかったヨシナリは腕での攻撃はないと高を括った結果、無様に敗北した、と。
 自身の想像力のなさに頭がおかしくなりそうだが、済んでしまった事は仕方がない。
 この敗北を糧にして自身の認識をアップグレードするのだ。 一つの未知を既知に変えたのだ。

 ――次はぶっ潰してやる。

 そう心に誓うと小さく拳を握った。
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