Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第649話

 まずは相手の出方を見ようと観察に徹するつもりだったのだが、そんな甘い相手ではないと認識したのは開始から2秒後の事だった。
 一部の敵機が上空に上がったと同時に何かをし始めたのだ。 
 何だと訝しむ間もなく変化は瞬く間に起こる。 周囲から雲が集まり始めたのだ。

 それもただの雲ではなく、雷を孕んだ雷雲を。 

 「き、気象兵器かよ……」

 正体は直ぐに分かった。 名前の通り、気象を操作して兵器とする代物だ。
 フィールドの中央は瞬く間に豪雨によるヴェールに覆われ、敵陣の山を迂回するように巨大な竜巻が二つ接近してきていた。 

 雨のヴェールを突っ切った竜巻は砂埃のような物を巻き上げながら見た目以上の速度で日本側の拠点へと迫る。 

 「もう毎回、何なんだよって感じだな」
 「派手ではあるが、あくまで物理現象だ。 対処する方法はある」

 ――ただ、手間が尋常ではないが――

 ちらりと本陣の方へと視線をやるとタカミムスビを筆頭に無数の大型機が巨大なミサイルやレーザーを大量に撃ち込んでいた。 
 大口径のレーザーは雲を切り裂き、ミサイルの爆発は竜巻の形状に歪みを与える。
 前回、前々回と初見の武器に泣かされているのだ。 何が来ても対処できるように準備はしている。

 流石に核兵器クラスは持ち込めなかったようだが、気象を変化させるレベルの破壊力を持った代物はどうにか持ち込めたようだ。 フォーカスすると明らかに不釣り合いなランチャーを背負った機体が多く、この為だけに装備枠を潰したであろうプレイヤーが多い事が分かる。

 ひとまず初撃は無傷で防ぎはしたが、相手からすれば挨拶のようなものだろう。
 本番はこれからだ。 その証拠に空を見上げれば晴れた雲の向こうには無数の敵機の姿が見える。
 どうやら上空は雲を、地上は竜巻を盾にして接近していたらしい。 
 
 元々、気象兵器は決まればラッキー程度の認識だったのかもしれない。 
 本命は安全に距離を詰める事で、竜巻も雨雲も無効化する場合は何処へ撃ち込めばいいかも分かっていればそこを避けて布陣すれば比較的ではあるが安全だ。 

 ――なるほど。

 こちら側に気象兵器がない点からイベントの進捗では上と判断できる。
 なら地力では分があると判断して純粋な殴り合いに持ち込もうと判断するのは間違っていない。
 後は可能な限り安全に接近する事で不確定な要素を排除したといった所だろう。

 敵の戦力構成はそこまで大きな違いはない。 
 流石に人口の差はどうにもならない事もあって、エンジェルタイプやプラスフレームを使っているプレイヤーは日本に比べるとかなり多い。 

 ぱっと見た限りだと1.5倍程度の差だろうか? 
 プレイ人口の差が露骨に出るイベントだなといつもの事ながら文句を言いたくなってしまう。
 
 「そろそろいいか?」
 
 痺れを切らしたユウヤが突っ込みたがっているが、ヨシナリは小さく首を振る。
 
 「もう少しだけ待ってくれ。 衝突して何もなかったら行っていい」

 本当にこれ以上の小細工がないのであれば後は地力の勝負なのでヨシナリ達も混ざって問題ないが、そうでないなら最低限、見極めておきたい。 
 相手側には高い確率でSランクプレイヤーが存在し、こちら側にはいないのだから。
 
 そうラーガストは欠席だ。 前日に確認を取ったのだが、行けないとだけ返って来た。
 行かないのではなく。 行けない。 
 これまでのイベントの欠席率を考えるとこれは運営側の意図でもあるかもしれない。 

 具体的にはどういうことかというとラーガストは強すぎるので出禁にされた可能性だ。
 アメリカ第三との戦闘を見れば明らかで、彼は戦況を文字通りたった一人で引っ繰り返したのだ。
 そんなバランスブレイカーが居てはゲームにならない。 

 フランス戦に参加したのは同格が居たからだ。 
 裏を返せばSは居てもラーガストと同等のプレイヤーはいないという事の証明ではあるのだが、グリゼルダと同格が存在する事を考えれば苦しい戦いになるのは目に見えていた。

 ユウヤはやや不満げではあるが、黙って納得してくれたようだ。
 内心で感謝しつつ、両軍の衝突が始まったのを確認する。 最初にぶつかったのは正面。
 雲の裏から接近してきていた敵が上空から強襲をかけて来たのだ。 

 戦場となったのは東寄り――要は日本の陣地の近くになる。 
 
 「上を取られてんのはしんどいなぁ」
 
 マルメルの言う通りだった。 
 気象兵器への対処で布陣が少し遅れており、その間にインド側は自分達に有利なポジショニングを済ませている。 そういった細かな差が後々効いてくる事もあってあまり悠長にもしていられないのだが――

 「――よし、妙な動きをしている奴も居なさそうだし、そろそろ――」

 行くぞと声をかけようとしたヨシナリの知覚がある物を捉えた。
 シックスセンスを装備していたからこそ捉えられた戦場の歪み。 
 その中心に居るのは一機のジェネシスフレーム。 異様な姿だった。

 印象は仏像。 三面の頭部に三対六本の腕。 背面には巨大な輪。
 奇妙な円盤のような何かに座している。 背面の輪と座っている円盤にエネルギーが充填。
 何かをしようとしているのは明らかだ。 理屈ではなかった。

 ヨシナリは反射の域でヤバいと判断し、アシンメトリーを構えるが、少し遅かったようだ。

 『――愛を貴方に――』

 声が広がったと同時に不可視の何かが戦場に伝播する。 
 EMPの類ではない。 ウイルスの可能性もあると判断してウイルスチェックの準備。
 そちらも異常はなかったのだが――

 「何だこりゃ?」
 
 もっと分かり易い異常が目の前にあった。 
 さっきまで山以外は何もない荒野が、一面の花畑に変わっていたからだ。
 空も曇天から朝焼けとも夕暮れともつかぬ黄昏色に。 そしてなにより全ての機体がさっき見たジェネシスフレームに見えているのだ。

 『――愛を貴方に――』『――愛を貴方に――』『――愛を貴方に――』
 『――愛を貴方に――』『――愛を貴方に――』『――愛を貴方に――』
 『――愛を貴方に――』『――愛を貴方に――』『――愛を貴方に――』
 
 耳が拾う全ての音がさっき聞こえた声に変わっている。 
 ヤバい。 あまりの光景に叫び出しそうになったが、努めて冷静に状況を分析する。
 まずは機体のステータスをチェック。 異常は無い。

 次に敵味方の識別。 問題なし。
 周囲にいる機体は友軍機で、マルメル達の位置も変わっていない。
 武装も恐らくは何の問題もなく扱える。 問題は視覚と聴覚だ。

 敵味方が全て同じに見え、風景もよく分からない事になっている。
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