Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第653話

 ダラヴァグプタの挑発とも取れるその言葉にどう反応するべきかと迷いが生じる。
 血の気の多いプレイヤーであったなら真っ先に突っ込んで行く場面なのだろうが、そんなタイプのランカー達は早々に歯応えのある相手を求めて前線に向かってしまった。

 ここ――本陣に残っているのは良くも悪くも慎重な物ばかりだった事が沈黙という反応を取らせたのだ。 ダラヴァグプタはやや失望の浮かんだ息を吐く。

 『ふん、臆病者の集まりという事か。 ならば――』

 言い切る前に火口から無数の砲が襲い掛かるが、ダラヴァグプタはシールドを展開して防ぐ。
 
 「そこまで言われたら出るしかないじゃないか。 ダラヴァグプタ君といったね。 いいだろう、私が相手となろう」

 巨大な鐘を思わせるデザイン。 タカミムスビとその愛機であるアマノイワトだ。
 
 『ほう、S? いや、至る前といった所か』
 「そこはご想像にお任せするよ。 さて、こちらとしても思いっきり戦りたいので、場所を変えても構わないかな?」
 『それを聞いてやる必要が俺にあるのか?』

 タカミムスビは鼻で笑う。

 「ないとも。 ただ、そうなると私は拠点を気にしながら戦わざるを得ない。 君は碌に集中できない相手をご所望なのかな? それとも負けるのが怖い? ならそうと最初から言いたまえよ」
 『いいだろう。 死に場所を選ばせてやる』

 ダラヴァグプタの反応は即座だった。  

 「そう来なくては。 流石は偉大な大戦士様だ。 助かるよ」

 そう言って二機は日本側の拠点から離れた位置へと移動を開始。 
 少し離れたタイミングでダラヴァグプタが連れて来た敵機が拠点に襲い掛かって来た事もあってタヂカラオ達は応戦。 流石に引き上げてくれるといった事はなかったようだ。

 一番厄介そうな相手が居なくなった所でタヂカラオは相手側を分析。 
 ダラヴァクプタの挙動からよく統率が取れている事は明らかだ。 
 恐らくは『思金神』のような巨大ユニオンが音頭を取る形で全体の足並みを揃えているのだろう。

 そういった所は何処のサーバーでも同じなのだろうなとタヂカラオは苦笑する。
 戦況は膠着状態といった様子だが、やや日本側が不利といった所だろう。
 主な戦場は二つ。 ここ日本側拠点とフィールドの中央、ややインド寄りの場所。

 前線を押し上げた形になっており、そこだけ切り取れば優勢に見えるが初動が良かっただけで内容自体は決していいとは言えない。 ヨシナリ達は真っ先に斬り込んで例の幻覚使いを仕留めに行ったようだ。
 現在、交戦中で『思金神』からも三軍の精鋭が援護に行ったと聞いている。

 本音を言うならヨシナリには世話になっている事もあってタヂカラオも助けに行きたかったが、この状況では持ち場を離れられない。 
 少なくとも今この状況に置いてタヂカラオにできる事は持ち場を守る事だけだった。
 ちらりと離れた位置へと視線をやると巨大な爆発が発生。 どうやらあちらも始まったようだ。

 相手は推定Sランク。 そんな強敵相手にタカミムスビは勝てるのだろうか?
 

 Sランクプレイヤー『ダラヴァグプタ』。 ジェネシスフレーム『インドラ』
 インドサーバーの風土なのか、上位のジェネシスフレームには気象をコントロールする機体が多い。
 局所的に雨を降らせる、霧を発生させる、巨大な雷雲を呼ぶ、雹を降らせると多岐に渡るが、ダラヴァグプタのそれは非常に強力だ。 

 彼の機体に備わった気象コントロールシステム『ヴリトラハン』はそれ単独で雷雲を呼び、雷の雨を降らせる。 
 雲を呼び出してから雷を落とすまでにタイムラグこそあるが、一度上空に広がった雲はフィールドを支配し、常にダラヴァグプタを有利に導く。 

 彼はこの力でインドサーバーでの熾烈な生存競争に勝ち残り、Sランクプレイヤーとして生き残り続けてきたのだ。 
 彼の胸にあるのは勝利への渇望ではあるが、本質的には富、名誉、得られるものは何でも得たいといった果てしない欲望だった。 

 そしてそれを自身の力でつかみ取る事を至上の喜びとしている。
 Sランクの称号も得られたPを換金して得た富も、それによって発生した名声も全て自分の力で手に入れた。 得たという結果はただの結果に過ぎず、本当に大切な事は自分の力で得たという事。

 それが圧倒的な自己肯定感としてダラヴァグプタの精神を強靭な物へと鍛え上げたのだ。
 だからどんな相手であろうとも正面から叩き潰し、それが強敵であればあるほどにそれを打ち破った時、ダラヴァグプタの自己肯定感は高まり精神はより強く、鋼のように鍛えられると彼は信じていた。

 本来であるならジャパンサーバーに存在するSランクを叩き潰してやるつもりで敵陣まで斬り込んだのだが、居ないと知った時の失望は大きい。 
 だが、目の前のタカミムスビというプレイヤーも悪くない。 
 恐らくAランクだが、Sに届きうる力を秘めていると確信していた。 

 ――相手にとって不足はない!

 三十メートルを超える巨体。 重装甲、高火力、防御にも力を入れているだろう。
 堅牢な要塞のような機体だ。 
 だが、このゲームに於いて火力だけが勝敗を左右する物ではない事を教えてやろうではないか。

 空には一面の雷を孕んだ雲が広がっている。 既にここはダラヴァグプタが制圧するフィールド。
 
 『さぁ、始めようか。 ジャパンの戦士よ! 我が雷霆の前にどこまで耐えられるか見せて貰おう!』

 背面のリングが光を放ち、それに呼応するように雷雲が唸りを上げる。
 そして雷速の一撃が放たれた。 凄まじい轟音と閃光が視界と聴覚を埋め尽くす。
 タカミムスビは動かなかった。 どちらにせよその巨体では躱せる攻撃ではない。
 
 直撃。 一撃ではなく無数の雷撃が驟雨のように叩きつけられるがその悉くをタカミムスビは無傷で凌いでいた。 機体の周囲に恒常的に展開されている複数の防御フィールドの効果だ。
 対エネルギー、空間歪曲、斥力フィールドとダラヴァグプタから確認できるだけでも三種以上の防御フィールドの存在を観測できる。

 「見掛け倒しではなかったか。 だが、防いでばかりでは勝てんぞ」
 『そこは否定しないよ。 しかし、凄まじい火力だ。 並の機体なら今頃は跡形もないだろうね』

 言いながらタカミムスビは武装を解放。 
 ミサイル、実弾、エネルギー弾、レーザーと多種多様な攻撃をばら撒く。
 その攻撃密度はさながら吹き荒れる嵐のようだ。 

 だが、天候を支配するダラヴァグプタには届かない。 
 実弾は不自然に軌道を捻じ曲げられ、光学兵器に至っては減衰し、ダラヴァグプタへ届く前に霧散する。 
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