Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第655話

 ――状況はあまり良くない。

 本来なら『星座盤』全員、もしくはユウヤ、ベリアル、ヨシナリの三人で処理する予定だった。
 包囲される事は想定していたが、タカミムスビが見ているのは分かっている。
 『星座盤』が突出すれば空いた開いた穴を広げる為に部隊を送り込んで来る事が読めたからだ。

 包囲して来た敵を『思金神』に押し付けるのが理想だったのだが、突出した事で逆に警戒を強めてしまったようだ。 
 思惑を外した以上、下がりたい所ではあったが、深追いするリスクを差し引いてもカンチャーナは危険すぎる。 例の気象兵器との組み合わせは不味い。

 分かっていたとしても視覚と聴覚を潰されると何もできなくなる。
 もう一度喰らうと今度こそ立て直せなくなる可能性が高い。 ロックオン警告。
 直上、エンジェルフレームが三機、エネルギーライフルを構えているのが視える。

 ワンテンポずらして旋回。 
 エネルギーの収束から発射のタイミングは見えている事もあって、ギリギリまで引き付けたのだ。
 ふわわのように飛んで来た弾を切り払うなんて真似は出来ないが、エネルギー流動からタイミングを取る事は可能だ。 それさえ分かれば発射と同時に躱す事は訳はない。

 即座にアトルムとクルックスを抜く。 狙いはコックピット――を抜くには距離が足りない。
 ヨシナリは即座に狙いを推進装置に切り替える。 バースト射撃。
 三機のエネルギーウイングを撃ち抜く。 

 推進装置を失ったエンジェルフレームが墜落していくのを見ながら加速。 
 少し高度を上げながら戦場を俯瞰。 現在地はインド側の拠点から少し近い。
 マルメルは少し後ろで『思金神』のメンバーに混ざって撃ち合いの最中だ。
 
 前線を押し上げようとしている『思金神』のメンバー達は足止めされた事で思った以上に動きが遅い。
 グロウモスは本陣から動いていないが、どうやらSランクを中心とした強襲部隊に襲われた事でそちらの対処で手が離せないようだ。

 ホーコートは――あ、落ちた。 ヨシナリ達に追いつこうと少し前に出過ぎたようだ。
 シニフィエはヨシナリより少し後ろ、敵の只中に居た。 位置的に援護が必要そうにも見えるが――
 エンジェルフレームの懐に入り、旋回で背後を取った。 

 上手い、エネルギーウイングを高いレベルで使いこなしているのが分かる。
 背後から絡みつくように腕で首をホールドするとそのまま捻じ切った。 

 ――うわ。 
 
 敵機は頭部を失ったがシニフィエの位置を把握している事もあって臆せずにブレードを抜いて背後へ斬りかかる。 斬撃を繰り出した腕を脇で挟んでホールド、膝を叩きこんで圧し折った。
 襟首を掴んで振り回す。 それにより他の敵機に対する盾にしたのだ。

 ここで秀逸なのはソルジャータイプに対しての盾にした事。
 キマイラやエンジェルフレームだとD以上のプレイヤーが多い。 
 そのレベルになると簡単に誤射はしないが、それ以下の場合はこの乱戦での混乱と焦りで引き金にかかる指が軽くなる可能性が高いとの判断だろう。 

 実際に何人かは発砲していた。 銃弾やエネルギー弾の盾にしつつ、接近する。
 
 ――で、敵に盾の息の根を止めさせた後、近寄った相手を新しい盾にする訳だ。

 これは簡単に落ちないなと目を逸らす。 
 次に視線を向けたのはふわわなのだが、別の意味で目を逸らしたくなった。
  


 ――なんだこいつは? 
 
 ラーヒズヤは目の前の異質な存在に戸惑っていた。 
 彼はインド第二サーバーのAランクプレイヤーとして数多のプレイヤーと戦い、鎬を削ってきたのだ。
 中でも剣を使った近接戦闘はかなりの物で自負している。 
 
 彼の操る機体『ラージャプトラ=タルワール』もその力を活かすべく近接特化だ。
 主に使用するのはエネルギーブレードで既存品の上位互換のような物で派手さはないが、ブレードの出し入れが早く、長さの調節も自在だ。

 加えて彼の機体の最大の特徴といえる機能はその手にある。 
 手が少し大きいのだ。 理由は指の間にブレードの柄が差し込まれており、手の平のように大きく広げるように展開する事が可能としている。 

 片手に三本、両手で六本のブレードを正面、左右と緩急をつけ、加えて伸びる関節によって間合いを狂わせる事を可能としていた。 左右からの斬撃に伸びる刺突。
 攻撃範囲も広く、鞭のようにしなる斬撃は見切る事が非常に難しい。 

 様々な角度からの攻撃と緩急、刺突。 大抵の相手はこの組み合わせだけで処理できてしまう。
 
 ――が、目の前の相手にはそれが通用しなかった。

 左右の斬撃はギリギリのところで躱す。 明らかに間合いを見切られている。
 鞭のようにしなる一撃ですら太刀でいなされた。 初見でここまで綺麗に見切られたのは初めてだ。
 しかも相手はプラスフレームとはいえ、ソルジャータイプ。 装備構成からCランク以下だ。

 中位のプレイヤーにここまでの使い手が居るとはジャパンサーバーはどうなっているのだろうか?
 ソルジャー+だが、武装には見覚えのない物が多い。 特に強化装甲に関しては完全に初見だった。
 見た感じでは防御力の強化というよりは機能の拡張を目的とした印象が強い。

 ――それに――

 もう一点、ラーヒズヤを攻撃に駆り立てる要因があった。 
 相手の気配だ。 こちらを値踏みするような視線が機体越しにも伝わってくる。
 普段なら侮るなと一喝している所ではあるが、目の前の敵機からはただひたすらに不気味さだけが漂っていた。 

 ラーヒズヤがこれまで遭遇した強敵達にもその傾向はあったのだ。
 真の強者には敵を威圧する気配のような物を漂わせると。 
 たかがゲームで何をとその話をした家族には笑われたが、このICpwに限っては違うのだ。

 圧倒的なリアルを売りにしているだけあって、本当だと錯覚するほどの恐怖などを覚える。
 特に大敗――実力差がある敵との戦いではそれが必ず現れるのだ。
 所謂、殺気と呼ばれる真に敵を屠ろうとする意志、お前を殺すという覚悟はアバターという仮想の肉体からであっても発生し、それを感じ取れる者を畏縮させる。

 目の前のプレイヤー、ネームタグにはふわわと表示されている相手はどうだろうか?
 彼女は殺気を放っているか? いや、ない。 
 少なくともラーヒズヤの感覚は彼女の殺意を感じ取れない。 

 だが、これまでに出会った強敵達と同じ様な恐怖に似た感情だけは際限なく沸き上がるのだ。
 格下相手に何を馬鹿なとユニオンの仲間は笑うかもしれないが、全霊で仕留めなければならない強敵で侮ってはならない相手だとラーヒズヤは認識していた。
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