Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第670話

 後進ではあるが戦績としては非常に優れている相手といえる。
 序盤である程度削った事もあって今のところはやや優勢といった所だが、有力なプレイヤーが次々と撃墜されている現状を見ると楽観しても居られない。

 特にアーシュリアが落とされたのは痛かった。 
 彼女は前線指揮官としては非常に優秀で中盤を制しつつ自陣付近の敵を排除した後、敵拠点への斬り込みを担当するはずだったのだが、少し前に反応がロストしてしまっている。 
 
 個人技という点ではAランクの中ではそこまでではなかったが、こと集団戦に於いては彼女が簡単に負ける訳がないと思っていた事もあってショックは大きい。 
 加えてアーシュリアのユニオンにとって彼女の存在は支柱に等しく、士気の低下は著しかった。

 事実として徐々に本陣に押し込まれつつあったからだ。 
 引っ繰り返すにはアレを使うしかなかった。 
 カンチャーナの機体『シヴァ・プラサード』は直接戦闘ではなく攪乱、幻惑を得意とする後方支援に特化した機体で、その最大の武装はナノマシンを媒介としてアバターの認知を狂わせる『カンナビス・サティヴァ』だ。 

 胴体部分にナノマシンの生産プラントを抱え、背の輪が散布装置、頭部が制御装置となっている。
 散布したナノマシンを敵機に接触させ、近距離であるなら媒介を用いずに直接、アバターに対して欺瞞情報を認識させる信号を送信する事で機体のステータスに異常を与えずに視覚などを完全にごまかす事ができる強力な兵器なのだが、万能ではなかった。 

 欠点としては一定数以上の量――要は敵機の内部に浸透させる強度の信号を送れる数を機体に張り付けなければならない。 制御に関しては距離はある程度離れていても問題はないのだが、欺瞞信号を流す際はかなり近くに発生源を用意しなければトルーパーの装甲や元々備わっている防御を突破できないからだ。  
 
 その為、このサーバー対抗戦でまともに機能できるレベルの効果を出したければ気象兵器を用いてばら撒く以外の選択肢がなかった。 
 ただ、一度術中に落としてしまえば簡単に抜け出せないはずだったのだが、かなり早い段階で見破られたのは想定外だ。 切っ掛けは目の前にいるベリアルというプレイヤーの機体。

 非常に珍しいエーテルリアクター搭載機。 
 恐らく機体の表面をエーテルで覆う事で接触したナノマシンに対していち早く察知する事が出来たのだろう。 扱いが難しい事もあって使いこなせるものが少なく、使っているプレイヤーは珍しい。
 
 切っ掛けっこそあった物の他のプレイヤーの対応も早かった。
 ナノマシンの弱点であるEMP攻撃で剥がしにかかった上、発信源であるカンチャーナを即座に特定して仕留めに来る判断の速さも凄まじい。 

 当初のカンチャーナの幻惑とダラヴァグプタの突撃で決めてしまうという策があっさりと崩されたのも想定外。 気付かれる事にはなるとは思っていたが、速すぎた。
 これでナノマシンを媒介にしての欺瞞は通用しないが、近い位置にいる相手であるなら直接信号を送り込んで影響下における。 

 ――が。

 カンチャーナは機体を加速させて回避。 
 理由は背後から空間転移を用いて奇襲をかけて来る機体――ベリアルだ。
 追撃を腕に仕込んだ独鈷で受ける。 掌から出せるようになっている彼女の傾向武装の一つだ。
 
 短い事もあって接近戦武装としては心許ないように見えるが、刃が伸縮する機能を備えており使い勝手は悪くない。 六本の内、四本の腕で独鈷を握りしめ、ブレードを伸ばして振り回す。

 『ふ、幻惑には長けているがそれだけか?』

 一本を防御に使い、ベリアルの動きを封じた事で残りの三本が襲い掛かったのだが、敵の取った行動は彼女の想像を超えていた。 
 ベリアルは上半身を振り子のように振って回避。 
 恐ろしい事に下半身を一切使っていない――つまりはその場から一切、動かずに全ての斬撃を躱して見せたのだ。

 だったらと『カンナビス・サティヴァ』の出力を上げてアバターの認知を狂わせようとしたが、ベリアルはカンチャーナの腕を払いのけて懐に入ろうとしてきた。 明らかに効いていない。
 
 ――どうして!?

 疑問は浮かびはしたが、答えは分かり切っていた。 エーテル体だ。
 こちらの干渉をエーテルの密度を上げる事で防いでいる。 検証していない事もあって正確な所は何とも言えないが、干渉力の通りが悪い。

 完全に無効化している訳ではないのは最初のナノマシンを媒介とした攻撃が効いていた所からも明らかだったが、この距離で効果がないとなると接触して直接叩きこまないと難しい。
 つまりカンチャーナの最大の攻撃が通用しないのだ。 この時点でベリアルとの相性は最悪だった。

 だが、もう一機のユウヤには効いている以上、他に相手をさせれば――咄嗟に空いた掌を翳すと不可視のフィールドが発生し、飛んで来た散弾砲を防ぐ。 
 ユウヤが小さく舌打ちするのが聞こえて来た。 

 どうしてとユウヤの機体を注視してさっと血の気が引く。
 何故ならユウヤの機体――コックピット部分の周辺がエーテルに覆われているのだ。
 徐々に剥がれてはいるが、ベリアルがすれ違う度に元に戻っていた。

 エーテルで防げる事に即座に気付き、戦いに組み込んで来たのだ。
 こうなると戦い方を見直さなければならない。 
 繰り返しになるがカンチャーナ最大の強みはアバターに対しての干渉力だ。
 
 それが通用しない以上、彼女の戦力評価は大きく落ち込む。 
 相性が悪い以上、他を当てればいいという話だが、Bランク以下ではあの二人相手には足止めにもならず、Aランクプレイヤーは他への対処で精一杯だ。
 
 ジャパン側はカンチャーナの脅威度をかなり高く見積もっているのか仕掛けてきた機体にはジェネシスフレームが目立つ。
 このままでは負けるとカンチャーナの脳裏にそんな思考が過ぎるが――

 ――はぁ、失敗作と判断すればいいのかしら?

 嫌な事を思い出し、ぞわりと背筋に氷柱を突き立てられたような感覚に襲われる。
 アメリカ、ロシアと立て続けに敗北した事によってカンチャーナの評価は大きく下がった。
 このままではランカーの座を維持するのも難しくなる。 そうなればどうなる?

 ――お金が貰えなくなる。

 Pは貧しい家庭に生まれ数多くの兄弟、姉妹、体を壊した両親の為に必要なのだ。 
 生活が維持できなくなる。 折角、このゲームで人生を変える事が出来たのだ。
 家族の皆に良い暮らしをさせてあげられたのだ。 こんな所で負ける訳には行かない。

 だから――彼女は禁じられた力に手を付けた。
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