Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第671話

 カンチャーナ。 インド第二サーバー、Aランクプレイヤー。
 機体はジェネシスフレーム『シヴァ・プラサード』。
 非常に強力な機体ではあるが、あくまで攪乱、幻惑を主眼に置いているだけあって直接的な戦闘能力は同ランク帯で評価すると数段は落ちる。

 加えてカンチャーナ自体のプレイヤースキルもお世辞にも高いとはいえなかった。
 恐らく全く同じ機体、同じ装備、同じシチュエーションで戦闘させた場合、同ランクのプレイヤーどころか下位のプレイヤーにすら敗北する。 

 事実、ベリアルとユウヤの攻撃も凌ぐだけで精一杯だ。 
 彼女と戦闘を行った他サーバーのプレイヤーの一部はそれを看破し、内心では訝しむ。
 
 ――よくこれでAランクになれたな、と。

 彼等の認識は正しい。 
 元々、彼女は特殊装備である『カンナビス・サティヴァ』やそれに類する特殊な武装に対する適性は突き抜けて高かったがそれ以外に関しては非常にお粗末なものだった。 
 当人も自覚しており、どうにかしようと技量向上に努めてはいるが、Aランクという修羅の巷は少々の努力と義務感程度で生き残れるほど甘くはない。 

 そんな彼女がこのランク帯で勝利を収め、ジェネシスフレームを手に入れ、家族を養えるほどのPを稼ぐ事が出来ているのは何故か?
 カンチャーナは機体に眠る力の枷を外す。 

 『犠牲の最たるものは神聖な炎への供物であり、詩の最たるものはサーヴィトリーである』

 解除のキーワードを口にすると機体に無数のウインドウがポップアップ。
 処理の完了と共に閉じ、まるで明滅するようにウインドウが開閉を繰り返し――最後に一つだけ残った。

 起動キーワード確認。 プレイヤー『カンチャーナ』のインストールMODの使用制限解除。
 支援システム『デーヴァター』『チャンダス』起動。 
 人格欠損防止の為、自我、及び思考を一部制限。 作戦目的『敵性トルーパーの完全撃滅』 

 ローディング――完了。

 私は太陽を見上げるだけで、誰かの光にはなれない。 
 それでも手を伸ばし続ける。 そこに掴むべき幸せと守るべき日常があるのだから――


 ――行ける。
 
 ユウヤはこの時点でカンチャーナを仕留められると確信していた。
 機体の性能に関しては大したものだったが、それを扱う中身の技量が終わっている。
 反応、攻撃、回避。 どれを取ってもAランクのクオリティではない。

 甘く見積もってもBランク相当だろう。 
 この程度でランカーになれるとはインド第二は随分とヌルいとすら思っていた。
 実際、ジェネシスフレームを数機程叩き潰したが、手強い相手こそいたが、前回のフランスと比べるといくらか劣る。 

 第二サーバーという事で後発である点から第一に比べれば質が落ちるのは仕方のない話ではあるが、ここまで酷いと大型ユニオンに所属する事で維持するタイプのカスとすら思ってしまう。
 日本サーバーにも一定数いるが、P欲しさにAランクを必死に維持する事にしか注力しないカスが。

 自己研鑽を怠り、身内でランク戦を回して毎週金を貰う為だけにプレイしているどうしようもない連中。
 その手のプレイヤーをユウヤは心の底から軽蔑していた。 
 換金する事に関してはいい。 だが、このゲームを心の底から楽しんでいる彼からすればそういったノイズをばら撒く存在は非常に目障りだった。

 雑魚の癖にAランクを名乗っている連中は全員死ねとすら思っており、カンチャーナもそういった類のカスだと考えると不快感が更に募る。
 
 ――それもここまでだ。
 
 ベリアルが回避先を潰し、散弾砲を撃ち込んで足を止めた。 
 後はこのオディウム=イラのフィールド無効化で叩き潰して終了だ。
 推進装置を全開にして突っ込んでの刺突――と見せかけて直前で旋回しての横薙ぎの一閃。

 カンチャーナの反応では躱せない攻撃だ。 
 防ぐしかないのだが、この大剣に防御系の兵装は効果がない。 つまりは詰みだ。 

 「くたばれ」

 不意にカンチャーナの機体に変化が起こる。 
 仏像のように三面存在した頭部の二つの目が点灯したのだ。 
 まるで目を覚ましたかのように。 

 瞬間、六本の腕に伸縮式の独鈷が握られ、伸ばしたブレードでユウヤの打撃を受け止めた。
 流石に一本で受けきれないと判断したのか三本で止めている。 
 防がれたのは意外だったがそれだけだ。 何故なら既にベリアルが攻撃態勢に入っている。

 一手余計に使わされただけだ。 そう思っていたユウヤの思考は――

 「――っ!?」

 別人のように鋭くなったカンチャーナの一撃によって断ち切られた。
 防御に使っていた三本の内、一本を引き戻して刺突を繰り出してきたのだ。
 同時にベリアルの奇襲には残りの三本の腕で対応。 ベリアルのラッシュを三本の腕で器用にいなし、転移を先回りしてカウンターまで決めて見せた。

 ベリアルはカンチャーナの斬撃を紙一重で躱し、手を翳してエーテルの弾丸を連射。
 これは当てる為ではなく、ユウヤが距離を取る隙を作る為だ。 
 それを読み取ったユウヤはカンチャーナに蹴りを入れて強引に距離を取る。
 
 逃がさないと言わんばかりに投擲された独鈷が飛んでくるが大剣で防御。
 ベリアルの射撃は剣で叩き落す。 おかしい。
 明らかに別人としか思えない動きだ。 加えて、この無駄のない挙動には覚えがあった。

 ユウヤはアバターの奥で大きく表情を歪める。 

 「あぁ、お前あれか? 運営の手下かなんかだろ」
 「ふん、さしずめ神の走狗といったところか」

 ベリアルも同じ結論に至ったのかユウヤと同時に感想を口にした。
 元々、運営の息がかかったプレイヤーが居る事に関しては察しており、驚きはない。
 身内にホーコートという分かり易い例が居るからだ。 

 イカサマを使って強くなった気でいる奴は一人残らずカスだと思っているユウヤは当然ながらホーコートの事も表に出さないだけで嫌っていた。
 それでも何も言わないのはヨシナリの顔を立てるという意味もあったが、彼が余りにも弱すぎたからだ。 補助輪を付けないと真っすぐに走れないような哀れな奴と認識する事で彼はホーコートの存在を許容はしていないが保留した。

 だが、カンチャーナに関しては駄目だ。 
 ランカーである以上、明確な利益が発生するだけでなく、AランクというSを除けば最高位の座に運営のお恵みで居座る? そう考えると自分でも意外なほどの怒りが沸き上がった。

 ――あぁ、俺って自分で思っている以上にこのゲームが好きだったんだな。

 だからこそ目の前のカンチャーナに対して更に腹が立った。 
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