Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第673話

 ベリアルが驚異的な反応でカンチャーナの六連撃を弾き、いなす。 
 今回は上、中、下の順だ。 狙うのは下から上へのスイッチの瞬間。
 若干のタイムラグがある事もあって狙い易い。 
 
 ベリアルは上からの丸鋸のように回転する斬撃をエーテルの密度を高めた両腕で防ぎ、正面から挟み込むような攻撃を両足で蹴り飛ばし、最後の下からの斬撃を背後への空間転移で躱す。
 当然のようにカンチャーナは反応。 下の手が真後ろに回り、斬撃を繰り出す。

 ――ここだ。

 ユウヤは正面から両断するべく大剣を振るう。 空間転移のような回避手段を持っている気配はない。
 旋回で躱せるタイミングでもない。 通る――瞬間、ユウヤの視界が一気に開けた。
 正確には一面花畑に変わり、空から雲が消え去る。 そしてあたたかな日光が降り注ぐ。

 ユウヤはしまったと内心で歯噛みする。 
 ベリアルのエーテルによる防御は効いているはずだったのだが、思い返すとそろそろ補強が必要なタイミングだった。 どうやら隙を伺っていたのは向こうも同じだったようだ。

 レーダー表示は完全にフラット。 何も認識できない。
 機体の制御自体は奪われていない事もあって、足を止める事は危険と判断し回避に全力を傾ける。
 推進装置を全開にして後退。 なりふり構わずの回避だ。

 ――パニクるな。 こうなった以上、あの女は確実に俺を狙う。

 つまり追ってきているはずだ。 思い出せ、そしてヤマを張れ。
 これまでに見たカンチャーナの機体のスペック。 特に機動性と攻撃傾向。
 その二つを必死に思い返し、初撃だけでもどうにか防ぐのだ。

 伸縮式の独鈷を六腕で回転により切断。 つまり最も躱され難い攻撃ポジションは――正面。
 結論に至ったユウヤは散弾砲を発射した後、電磁鞭を一閃。
 散弾砲がどうなったのかは不明だが、電磁鞭に関してはステータスで手応えが分かる。

 切断された。 つまり、カンチャーナは正面から来たのだ。
 読み通り。 そのまま急上昇。 どうにか振り切ろうと加速する。
 全く見えないが、カンチャーナの動き自体は何となく予想できた。

 明らかに逃げを打ったユウヤに対して幻惑が効いている事は明らかだ。
 カンチャーナとしてはユウヤとベリアルの連携を崩す好機と捉え、ここぞとばかりに潰しに来るのは目に見えていた。 簡単に捉えられないベリアルの処理に専念したい事もあって、ここは確実にユウヤを落としにかかるはずだった。

 ――つまり確実に追ってくる。

 見えないが確実に来ているは判断。 真下に向けて散弾砲を連射して牽制する。
 完全な当てずっぽうだが、僅かでも効いていない可能性を示唆できれば御の字だ。
 並行してこの状態から脱する手段を考える。 

 媒介にしているナノマシンが居ない以上、距離を取れば効果が落ちると判断してどうにか振り切りたいが、いつまでも風景が変わらない所を見ると未だに術中だ。

 『貴方に愛を――』『ほら、この光景が見えますか?』
 『私の理想とする自然な世界、楽園』『美しいく、安らぐ景色でしょう?』
 『貴方を救いたいのです』『さぁ、力を抜いて?』『もう、頑張らなくてもいいんですよ』

 耳元からカンチャーナの囁くような声が聞こえてくる。 
 なるほど。 聞くものが聞けばそれなりに気分が良くなるかもしれないが、残念ながらユウヤはそれに当てはまらない。 

 ――うるせぇ。

 彼にとってカンチャーナのやっている事は耳からヘドロを流し込まれている事に等しく、彼の精神に怒りという燃料を投入する以上の効果はなかった。 
 怒りがふつふつと沸き上がり、同時に頭の冷めた部分が囁く。 それでいい、と。

 その怒りを殺意へと昇華させろ。 ラーガストの教えは正しい。
 怒りは自身のパフォーマンスを上げる為に非常に重要だが、呑まれてはいけない。
 どうすればこの怒りを確実に解消できるのかを考えろ。 

 ――それがお前を強くする。

 ラーガストの言葉がカンチャーナの耳障りな声を押しのけ、ユウヤの思考を煮えたぎらせながらも一部を冷静に機能させていた。 散弾砲を発射、手応えなし。
 電磁鞭を一閃。 こちらも手応え無し。 だったらと背後に向けて大剣を振るう。

 何かを砕いた感触。 恐らくは独鈷だ。 
 背後にいた。 という事はそろそろだろう。 
 ユウヤの思考を肯定するように視界がぐにゃりと歪み、元の戦場へと戻る。
 
 ベリアルのエーテルによる防護の補強が間に合ったのだ。 
 
 「厨二野郎!」
 「正気に戻ったか。 だが、気を付けろ。 我が闇をもってしてもあの小癪な幻惑から貴様を守るのは手に余る」
 
 また視界をおかしくされそうだった事もあって情報の共有は急いだ方がいい。
 
 「距離か?」
 「恐らくそうだろう。 奴の幻惑は近ければ近いほどに強力になる」 
 
 つまり接近戦はリスクでしかないということだ。

 「我が戦友、煉獄の化身よ。 貴様があの走狗に対して不快感を得ている事は理解しているつもりだ。 自らの手で仕留めたいと渇望している事もまた理解している。 だからこそ敢えて言おう。 ここはこの闇の王に任せろ」
 
 ベリアルの言葉は正しい。 ユウヤの機体はカンチャーナの機体とは相性が悪い。
 下がって幻惑の影響範囲外からの援護に留めた方がいいのも理解している。
 だが、こんなクソのような女に舐められて終わる事はユウヤの矜持が許さなかった。

 「いや、俺が囮をやる。 隙を見て仕留めろ。 最悪、俺ごとやれ」
 「貴様――」
 「可能であるなら自分で仕留めたい。 お前の言う事はもっともだ。 だが、それ以上にここで負けたら俺は自分への怒りで頭がおかしくなりそうだ。 ――勝つぞ、厨二野郎。 それ以外の結果は要らねぇ」
 
 それを聞いてベリアルは笑う。

 「素晴らしい覚悟だ。 流石は我が宿敵、俺も滾って来たぞ!」
 「やる気に見合った結果を出せ。 行くぞ!」
 
 ユウヤは真っ直ぐに突撃。 
 ベリアルのエーテルの保護膜にコックピット部分が包まれるが気休めでしかない。 
 カンチャーナは応じるように向かって来るのかとも思ったが、今回は違った行動を取った。

 掌から独鈷がボロボロとこぼれ落ちていく。 
 無数の独鈷は地面に落下せずにカンチャーナの周囲を浮遊。 
 察してはいたが実際に見せられると厄介といった感情しかない。

 浮遊する独鈷が高速で回転を始め、ユウヤ達に殺到する――直前に両者の間を断ち切るように巨大な光の刃が独鈷を残らず消し飛ばした。
 想定外の乱入者にベリアルは興味深いといった様子で空を見上げ、ユウヤは更に表情を歪めてそちらに視線を向ける。 そこには光の大剣を肩に担いだカナタが居た。
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