Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第682話

 ――そんな。 どうして!?

 カンチャーナは悲鳴を上げながら機体を加速。 完全に逃げに徹した。
 胴体に喰らった一撃のお陰でMODが停止し、抑制されていた感情があふれ出す。
 脳裏には疑問しかなかった。 何故、自分がここまで追い詰められているのかが分からないからだ。

 あの人達がくれたこの神の恩寵はカンチャーナに無敵の力を与えてくれるのではなかったのか?
 カンチャーナがそう思うのも無理はなく、彼女はMODを得てから戦績を大きく伸ばしたプレイヤーだ。
 超反応、拡大された感覚、それに対応した機体。 並の相手であったのなら同ランク帯であったとしても彼女を破るのは簡単な事ではない。

 事実としてカンチャーナを一対一で下したのは上位のランカーのみだった。
 それに関して彼女に思う所はない。 何故なら彼女の得た恩寵は無敵の力ではあるが、神の慈悲は自分にだけ向けられている訳ではないからだ。

 つまり、カンチャーナは自分に勝てる奴は一人残らず神の恩寵を得ていると考えているのだ。
 負けた、弱い者達は神に愛されなかった者達。 自分は選ばれた側だ。
 カンチャーナはその事を誇示するつもりも誇るつもりもなかった。

 ただ、彼女の中にあったのは力を得た事による安心感だ。
 この恩寵さえあればAランクを維持できる。 
 Pが大量に手に入り、安定した収入どころか有事に備えて蓄える事すらできるのだ。

 統一国家と銘打たれてはいるが、この世界にも貧富の差は存在する。
 カンチャーナの住む地域は貧困に喘いでおり、食事を得る事も難しい時期があったほどだ。
 彼女はそんな村の一つに生まれて育ったのだが、希望は存在した。

 脳内チップだ。 
 どれだけ金がなかったとしてもチップの移植だけは義務化されており、一部の老人以外はほぼ全ての国民の脳内にそれが存在している。 
 統一国家アメイジアの国民である証とすら言われている代物なのだ。

 裏を返すと脳内チップがない者は国民ではないと判断される。 
 それがテロリストと呼ばれる人種だ。 
 つまりどんな人間であってもネットワークに接続し、コミュニティに参加する権利を生まれた時から獲得している。 カンチャーナはその権利を最大限に利用し、ゲームをすることにしたのだ。

 遊びたかったわけではない。 
 この世界にはゲームで成績を残す事で目の飛び出るような大金を得る事ができるプロゲーマーという人種が存在する。 だからカンチャーナはネットワークでのゲームに手を出した。
 
 別に世界最強になりたい訳ではなかった。 
 ただ、安心して生活できるだけの金銭が欲しかっただけなのだ。
 選んだゲームはこのICwp。 惑星を脅かす侵略生物との戦いには一切の興味もなく、ロボットアクションにも欠片の関心もなかったが、ただ一点。 ゲーム内通貨の換金レートが異様に高い。

 それだけが彼女の望みを刺激した。 だから空いた時間をこのゲームに費やしたのだ。
 
 ――が、そんな気持ちでランカーになれる程、ICwpは甘いゲームではなかった。

 敗北、敗北、敗北。 とにかく負け続けた。
 反射神経、射撃、格闘戦に対する適性――それ以前に戦闘に対するセンスがカンチャーナには欠如していた。 銃を持たせても碌に当たらず、剣を振り回してもかすりもしない。

 そんな彼女が最終的には爆発物などの間接的にダメージを与えて仕留める戦い方に軸足を移す事に時間はかからなかった。 
 個人戦では碌な成績を収められないが、イベントなどの集団戦、時折入るゲームからの緊急ミッションでPは稼げたのでやめようといった気持ちにはならなかった――いや、なれなかったのだ。

 たったの1Pで家族の一日の食事が賄える以上、辞められる訳がなかった。
 特に後者――緊急ミッションはある意味、天からの恵みに等しい。
 単純な荷物運びや、よく分からない機器の操作をするだけで貴重なPが貰えるのだ。

 空いた時間はゲームに張り付いてひたすらに緊急ミッションに備えた。
 そんなある日の事だった。 運営からあるメールが届いたのだ。
 厳正なる抽選の結果、あなたは試作装備のモニターに選ばれましたと。

 ――あぁ、やっぱり神様はいたんだ。

 こうして呼び出された特殊なエリアでカンチャーナは神の使いに出会ったのだ。
 その結果、勝率は驚くほどに伸び、ランクを上げ、イベント戦での成績を伸ばし、ユニオンすらも結成する事が出来た。 

 ランカーになった事でPどころかジェネシスフレームまで手に入ったのだ。
 イベント戦でも好成績を残し、報酬も凄まじい額に登り、食事事情の改善だけに留まらず家の立て直しまでできてしまった。 これを恩寵と言わずに何というのだろうか?
 
 だが、そんな彼女の輝かしい道にも影が差した。 サーバー対抗戦だ。
 インド第二サーバーは現在、連敗中。 アーシュリア曰く、相手が悪かったとの事だが、そんな事はカンチャーナには関係がなかった。

 ――あなたに力を与えた最大の理由はサーバー対抗戦に勝つ事なのよ。

 あまり負けられると投資した意味がなくなるのよねぇ。 これ以上の無様を晒すなら没収するわよ~? 
 それはカンチャーナにとって死刑宣告に近いものだった。
 この恩長を失えば瞬く間に転がり落ちる事になるだろう。

 ユニオンの存続は当然不可能、それ以前にランクの維持すら難しくなる。
 ランカーの肩書を失えば手に入るPの額が激減し、更に落ちれば0だ。
 0、ゼロ。 なくなる。 それは困るのだ。

 両親の治療費もそうだが、兄弟、姉妹を食わせなければならない。
 学費も必要だ。 その為には何としても今の地位を守らなければならない。
 そんな理由で今回負けてしまうのは非常に不味かった。 

 いや、それ以前に撃墜される事自体が不味い。 
 ジャパンはプレイ人口の少なさからイベントの進捗が大きく遅れている後進サーバーだ。
 規模だけならインド第二サーバーより下で、総合評価も同様だった。 

 そんな相手に負けたとなれば恩寵を与えてくれた彼女はカンチャーナを見放すだろう。
 
 ――代わりはいくらでもいるからねぇ?

 あぁ、駄目だ。 それだけはやめて欲しい。
 カンチャーナは逃げ回りながら必死にウインドウを操作。
 本来の仕様では扱えない特殊なウインドウを開き操作メニューを呼び出す。

 MODの設定、サポートAI、体感時間のブースト、思考拡張。
 
 ――何か、何かないの!?  

 この状況を打開できる何かを――ふと、彷徨う視線がある一点で止まる。
 見覚えのない項目があったからだ。
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