691 / 865
第691話
――今見るべきは目の前のダラヴァグプタだ。
タカミムスビは攻撃を凌ぎながらもこちらを仕留めようと狙い続けているダラヴァグプタに意識を向ける。 彼の機体構成、強み、弱みはもう見えた。
最大の強みは気象兵器を用いる事で戦場そのものを自らに有利な空間へと作り替える事だ。
加えて雷による無制限の攻撃。 特に大規模戦闘に於いてはこれ以上ないほど強力な武装と言える。
それによるエネルギーの補充。 落雷は制御できないというデメリットはあるが吸収する事でそれをメリットに変換する発想は素晴らしい。
高出力の武装、防御兵装が使い放題なのは素直に羨ましいと思った。
ジェネレーターへの負担は最小に抑えた状態で高い機動性も発揮できるといい事しかない。
――以上がダラヴァグプタの強みだ。
さて、これからが弱みになる。 まずは有利な領域を形成する雷雲の精製。
これには非常に時間がかかる。
恐らくは規模を抑える事で所要時間を大幅に短縮できるのだろうが、大規模戦闘に際して時間をかけてこれだけの規模にしたのだろう。
個人戦レベルであったのならこれの二割もあれば充分だ。
次に維持。 何らかの手段を用いて雷を落とせるように弄っているのだろうが、本質的にはただの雲でしかない。 つまり爆破などの何らかの手段で吹き散らせば無力化は可能だ。
自らの領域を失ったダラヴァグプタの脅威度は大きく落ちる。
特にエネルギー供給が止まるのはかなり大きい。 武装使用、機動に悪影響が出るからだ。
恐らくはこれまでの対抗戦でも似たような形に持っていかれて敗北したとみていい。
当人も自覚があるようで常に上を取るような立ち回りをしている点からもどうにもならないと割り切っているのだろう。
だからと言ってあの規模の雷雲を守るのは現実的ではない。
ダラヴァグプタの考えとしては種が割れる前に決めてしまおうといった所だろう。
速攻をかけてきた点からも間違いない。
正面からやれば勝利は厳しい相手ではあったが、強みを剥ぎ取ればどうとでもなる典型だ。
タカミムスビの最終的な評価は「条件付きで集団戦では絶大な力を発揮する」となる。
素晴らしい火力と殲滅力だが、種さえ割れれば驚くほどのものではなかった。
もう勝ち筋も見えている。 余程の隠し玉がない限り引っ繰り返される事はない。
主兵装は供給される無尽蔵のエネルギーを利用した高火力の光学兵器。
携行武装が見当たらないのは邪魔になるか必要ないと割り切っているかのどちらかだ。
雷を受ける関係で使い物にならなくなるからだろうか?
武器自体を本体と同じ仕様にできなくはないが、実弾だと干渉を起こすのかもしれない。
弱点も非常に分かり易い。 背中にある二つのリングだ。
雷を誘導して受け止める避雷針の役割を果たしつつジェネレーターへ直接エネルギーを供給するシステムで推進装置も兼ねており、破壊されたら困りますと全力で訴えている代物だった。
挙動自体もAランクの水準では高い部類ではあったが、Aの域を出ていない。
――つまりSとして見るならそこまで怖くない相手だ。
レーザーを連射。 入射、反射角度の調整。
経由する反射板を増やして意識を散らす。 ダラヴァグプタは躱す、躱す、躱し続ける。
素晴らしい反応だ。 ここまでされても闘志が衰えない。
彼の危機を察したインド側の機体がタカミムスビとダラヴァグプタの下に集まって来るがついでとばかりに撃墜。 エンジェルフレーム以上でないとこの攻撃は防げない。
防げたとしても連続で叩きこまれるレーザーに耐えるのはスペック上、不可能だ。
そして打開の突破口になり得るジェネシスフレームは『思金神』の精鋭が抑えている。
数は違うが質は上だと自負している事もあって多少の横槍は入るかもしれないが、割って入る事はまずないと確信していた。
「つまる所、君はもう詰んでいるのだよ」
『は、ははは! 何を言っている!? ここからが面白いのだろうが! 俺はまだ健在で、貴様の喉笛を食い千切らんと狙っているぞ!」
それを聞いてタカミムスビは少し嬉しくなった。
何故ならダラヴァグプタからもっと闘争を楽しみたいといった欲望を感じたからだ。
欲望は良い。 サーバーが同じならユニオンメンバーに欲しいぐらいだ。
ダラヴァグプタのタカミムスビを仕留めたいといった欲望に刺激され、彼自身も敵を屠り勝利したいといった欲望が高まるのを感じる。
これだ。 この欲望の高まりが、渇望が、自分を新しい領域へと誘う道標となる。
ダラヴァグプタは香り高く素晴らしい食材ではあったが、咀嚼しすぎたようだ。
味がしなくなった。 つまり、そろそろ呑み込まなければならない。
ありがとうダラヴァグプタ君。
君の欲望は素晴らしく、自分が高みへ向かう為の足場として立派に機能してくれた。
気象兵器の扱いに関しては非常に参考になり、この素晴らしい時間の記憶はしばらくの間は色褪せる事はないだろう。
回避先の予測、及び不確定要素の排除も完了。 これは当たる。
不意に反射板の操作に一部ノイズ。
何だと眉を顰めるがもう仕掛けた以上はどうにもならないと無視。
反射したレーザーが複数、フェイクを混ぜながらダラヴァグプタへと殺到――する前に想定外の角度から飛んで来た大出力のレーザーがダラヴァグプタのフィールドごと彼の機体を貫いた。
ダラヴァグプタは何かを言いかけていたが形になる前に爆散。
「……どういうつもりかな?」
自分でも驚くほどに低く平坦な声が出た。
「余計な事とは思いましたが、助太刀をと思いまして」
そう応えたのはタヂカラオだ。 何が起こったのかも理解している。
視線を下に向けると問題の攻撃を放ったキマイラ+が大型の狙撃銃を構えていた。
タヂカラオがエネルギーリングで数枚の反射板の動きを制限し、キマイラ+――ネームタグを見ると『グロウモス』と表示されているプレイヤーに都合のいい角度に調節したのだ。
そこを一撃。 助太刀という言葉を使っていたが、明らかに狙っていた。
つまりタヂカラオはタカミムスビを出し抜く機会を窺っていたのだ。
表情は笑顔だったが、内心は複雑だった。
タヂカラオがユニオントップの自分に歯向かえるぐらいに欲望を育てている事は祝福するべき事で、そこは純粋に嬉しかったのだが獲物を横取りされてしまったのは少し不快だ。
――まぁ、ここは素直にやられたと言っておこうか。
タカミムスビは攻撃を凌ぎながらもこちらを仕留めようと狙い続けているダラヴァグプタに意識を向ける。 彼の機体構成、強み、弱みはもう見えた。
最大の強みは気象兵器を用いる事で戦場そのものを自らに有利な空間へと作り替える事だ。
加えて雷による無制限の攻撃。 特に大規模戦闘に於いてはこれ以上ないほど強力な武装と言える。
それによるエネルギーの補充。 落雷は制御できないというデメリットはあるが吸収する事でそれをメリットに変換する発想は素晴らしい。
高出力の武装、防御兵装が使い放題なのは素直に羨ましいと思った。
ジェネレーターへの負担は最小に抑えた状態で高い機動性も発揮できるといい事しかない。
――以上がダラヴァグプタの強みだ。
さて、これからが弱みになる。 まずは有利な領域を形成する雷雲の精製。
これには非常に時間がかかる。
恐らくは規模を抑える事で所要時間を大幅に短縮できるのだろうが、大規模戦闘に際して時間をかけてこれだけの規模にしたのだろう。
個人戦レベルであったのならこれの二割もあれば充分だ。
次に維持。 何らかの手段を用いて雷を落とせるように弄っているのだろうが、本質的にはただの雲でしかない。 つまり爆破などの何らかの手段で吹き散らせば無力化は可能だ。
自らの領域を失ったダラヴァグプタの脅威度は大きく落ちる。
特にエネルギー供給が止まるのはかなり大きい。 武装使用、機動に悪影響が出るからだ。
恐らくはこれまでの対抗戦でも似たような形に持っていかれて敗北したとみていい。
当人も自覚があるようで常に上を取るような立ち回りをしている点からもどうにもならないと割り切っているのだろう。
だからと言ってあの規模の雷雲を守るのは現実的ではない。
ダラヴァグプタの考えとしては種が割れる前に決めてしまおうといった所だろう。
速攻をかけてきた点からも間違いない。
正面からやれば勝利は厳しい相手ではあったが、強みを剥ぎ取ればどうとでもなる典型だ。
タカミムスビの最終的な評価は「条件付きで集団戦では絶大な力を発揮する」となる。
素晴らしい火力と殲滅力だが、種さえ割れれば驚くほどのものではなかった。
もう勝ち筋も見えている。 余程の隠し玉がない限り引っ繰り返される事はない。
主兵装は供給される無尽蔵のエネルギーを利用した高火力の光学兵器。
携行武装が見当たらないのは邪魔になるか必要ないと割り切っているかのどちらかだ。
雷を受ける関係で使い物にならなくなるからだろうか?
武器自体を本体と同じ仕様にできなくはないが、実弾だと干渉を起こすのかもしれない。
弱点も非常に分かり易い。 背中にある二つのリングだ。
雷を誘導して受け止める避雷針の役割を果たしつつジェネレーターへ直接エネルギーを供給するシステムで推進装置も兼ねており、破壊されたら困りますと全力で訴えている代物だった。
挙動自体もAランクの水準では高い部類ではあったが、Aの域を出ていない。
――つまりSとして見るならそこまで怖くない相手だ。
レーザーを連射。 入射、反射角度の調整。
経由する反射板を増やして意識を散らす。 ダラヴァグプタは躱す、躱す、躱し続ける。
素晴らしい反応だ。 ここまでされても闘志が衰えない。
彼の危機を察したインド側の機体がタカミムスビとダラヴァグプタの下に集まって来るがついでとばかりに撃墜。 エンジェルフレーム以上でないとこの攻撃は防げない。
防げたとしても連続で叩きこまれるレーザーに耐えるのはスペック上、不可能だ。
そして打開の突破口になり得るジェネシスフレームは『思金神』の精鋭が抑えている。
数は違うが質は上だと自負している事もあって多少の横槍は入るかもしれないが、割って入る事はまずないと確信していた。
「つまる所、君はもう詰んでいるのだよ」
『は、ははは! 何を言っている!? ここからが面白いのだろうが! 俺はまだ健在で、貴様の喉笛を食い千切らんと狙っているぞ!」
それを聞いてタカミムスビは少し嬉しくなった。
何故ならダラヴァグプタからもっと闘争を楽しみたいといった欲望を感じたからだ。
欲望は良い。 サーバーが同じならユニオンメンバーに欲しいぐらいだ。
ダラヴァグプタのタカミムスビを仕留めたいといった欲望に刺激され、彼自身も敵を屠り勝利したいといった欲望が高まるのを感じる。
これだ。 この欲望の高まりが、渇望が、自分を新しい領域へと誘う道標となる。
ダラヴァグプタは香り高く素晴らしい食材ではあったが、咀嚼しすぎたようだ。
味がしなくなった。 つまり、そろそろ呑み込まなければならない。
ありがとうダラヴァグプタ君。
君の欲望は素晴らしく、自分が高みへ向かう為の足場として立派に機能してくれた。
気象兵器の扱いに関しては非常に参考になり、この素晴らしい時間の記憶はしばらくの間は色褪せる事はないだろう。
回避先の予測、及び不確定要素の排除も完了。 これは当たる。
不意に反射板の操作に一部ノイズ。
何だと眉を顰めるがもう仕掛けた以上はどうにもならないと無視。
反射したレーザーが複数、フェイクを混ぜながらダラヴァグプタへと殺到――する前に想定外の角度から飛んで来た大出力のレーザーがダラヴァグプタのフィールドごと彼の機体を貫いた。
ダラヴァグプタは何かを言いかけていたが形になる前に爆散。
「……どういうつもりかな?」
自分でも驚くほどに低く平坦な声が出た。
「余計な事とは思いましたが、助太刀をと思いまして」
そう応えたのはタヂカラオだ。 何が起こったのかも理解している。
視線を下に向けると問題の攻撃を放ったキマイラ+が大型の狙撃銃を構えていた。
タヂカラオがエネルギーリングで数枚の反射板の動きを制限し、キマイラ+――ネームタグを見ると『グロウモス』と表示されているプレイヤーに都合のいい角度に調節したのだ。
そこを一撃。 助太刀という言葉を使っていたが、明らかに狙っていた。
つまりタヂカラオはタカミムスビを出し抜く機会を窺っていたのだ。
表情は笑顔だったが、内心は複雑だった。
タヂカラオがユニオントップの自分に歯向かえるぐらいに欲望を育てている事は祝福するべき事で、そこは純粋に嬉しかったのだが獲物を横取りされてしまったのは少し不快だ。
――まぁ、ここは素直にやられたと言っておこうか。
あなたにおすすめの小説
ホスト異世界へ行く
REON
ファンタジー
「勇者になってこの世界をお救いください」
え?勇者?
「なりたくない( ˙-˙ )スンッ」
☆★☆★☆
同伴する為に客と待ち合わせしていたら異世界へ!
国王のおっさんから「勇者になって魔王の討伐を」と、異世界系の王道展開だったけど……俺、勇者じゃないんですけど!?なに“うっかり”で召喚してくれちゃってんの!?
しかも元の世界へは帰れないと来た。
よし、分かった。
じゃあ俺はおっさんのヒモになる!
銀髪銀目の異世界ホスト。
勇者じゃないのに勇者よりも特殊な容姿と特殊恩恵を持つこの男。
この男が召喚されたのは本当に“うっかり”だったのか。
人誑しで情緒不安定。
モフモフ大好きで自由人で女子供にはちょっぴり弱い。
そんな特殊イケメンホストが巻きおこす、笑いあり(?)涙あり(?)の異世界ライフ!
※注意※
パンセクシャル(全性愛)ハーレムです。
可愛い女の子をはべらせる普通のハーレムストーリーと思って読むと痛い目をみますのでご注意ください。笑
局地戦闘機 飛電の栄光と終焉
みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》
盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。
ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……
始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。
さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!
森のカフェしっぽっぽ
森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
五十代後半の初老――サトルが営むのは、就労支援B型事業所を兼ねた猫カフェ「森のカフェしっぽっぽ」。
一階には利用者が作った木工小物や布雑貨が並び、
猫たち(イチ・きな・トラ・チビ・そして極度の臆病猫ジル)が自由気ままに接客(?)をしている。
しかしこの店には、誰も知らない“もう一つの顔”があった。
地下の倉庫兼店舗は異世界と繋がっている。
ただし、異世界人は地球には来られない。
行き来できるのはサトルだけ。
向こう側には|蜥蜴人族≪リザードマン≫の商人、
頑固な|鉱人族≪ドワーフ≫の職人、
静かな|森人族≪エルフ≫たちがいて、
サトルは彼らから“ちょっとだけ現実を楽にする品”を仕入れている。
仕事に疲れた会社員。
将来に迷う若者。
自信をなくした人。
サトルは客の空気を読み、異世界の商品をさりげなく勧める。
そして、棚の影で震えるジル。
怖がりで、音にびくつき、すぐ隠れる。
それでも店からは逃げない。
その姿が、なぜか人の心を少しだけ軽くする。
これは――
福祉と商売と猫と異世界が、ゆるく混ざり合う物語。
震えながらでも前に立つ者が、
今日も小さく世界をつなぐ。