Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第692話

 やった。 ついにあのタカミムスビを出し抜いてやった。
 タヂカラオは内心で拳を握る。 
 得物を横取りする形で余り見栄えは良くないが、彼にとっては非常に意味のある行動だったのだ。

 「思金神」に所属し、契約を行ったプレイヤーの大半はタカミムスビに逆らえない。
 特に上位のプレイヤーであるならそれは顕著だ。
 何故ならランカーの半数以上がジェネシスフレーム建造の費用を肩代わりしてもらう代わりに機体の所有権をユニオン――つまりタカミムスビに握られている状態となっている。

 タカミムスビがその気になればタヂカラオを含め、大半のプレイヤーがその戦闘能力の大半を喪失するのだ。 
 特に生活をPの換金で賄っているプレイヤーにとっては致命的で、彼等は絶対にタカミムスビに逆らえない。 日本サーバー最大手の巨大ユニオンと言えば聞こえはいいが、結局のところはタカミムスビという王によって支配された王国なのだ。

 タヂカラオとしてはそれはそれで構わないと思っていたのだが『星座盤』に負けて、一時的にメンバーとして参加し、共に勝利を、そして敗北を分かち合う事で少しだけ考え方が変わった。
 いや、変わってしまったと言い換えてもいい。 

 以前までは気にもならなかった事が気になって仕方がないのだ。
 具体的にはこの首輪をつけられているような状況そのものが窮屈と感じてしまっている。
 居心地が悪いとまでは言わないが、ノルマのようにユニオンから課せられたミッションのノルマをこなす生活に退屈さを感じてしまっていたのだ。 
 
 イベント参加は中でも数少ない楽しみなイベントなのだが『思金神』のメンバーと組むよりもヨシナリ達と一緒に戦っている方が楽しいと感じてしまっている事もあって気が付けば理由を付けては抜け出して『星座盤』に合流してしまっている自分の行動に苦笑する。

 どうやら自分にとって『星座盤』は思った以上に居心地が良いユニオンだったようだ。
 言われるがままに作戦行動を行うよりもヨシナリ達と一緒に作戦を練ってギリギリの死線を潜り抜ける戦いの方が勝利の喜びも大きく、敗北のショックもまた大きい。

 基本的にタヂカラオは敗北は結果として割り切るタイプと自負していたのだがヨシナリ達と連むようになってからどうにも結果が気になって仕方がないのだ。
 勝てば自分でも驚くほどに嬉しい気持ちになり、負けると胸中が締め付けられるほどの悔しさが渦を巻く。 

 ――果たして僕はこんな人間だったのだろうか?
 
 自分の変化に首を傾げる程だったが、意外な事にこの変化をタヂカラオは好ましいと感じていた。
 ユニオンへの貢献を行動指針とし、評価を上げる事に専心する。
 そうすれば階級も上がり、ランク報酬だけでなくユニオンからもPや装備が支給されるのだ。

 これでいいじゃないか。 今まではこれで満足していたんだ。
 強力なジェネシスフレームを手に入れた以上、次はアップグレードで更なる高みを目指す。
 コツコツと積んで行けば自然と上に上がれる。 階段を上るような物だ。

 一段、一段と作業のように昇って行けば高みに至れる。 単純な話だ。
 その過程でPというちょっと便利な仮想通貨も手に入ってリアルの生活も潤う。
 一石二鳥。 一挙両得。 一粒で二度美味しい。
 
 ――それの何が不満だというんだい?

 クレバーな自分が内心でそう語りかける。 
 少し前なら全くだと同意したのだが、今のタヂカラオはこう答えるだろう。
 クソくらえと。 これはタヂカラオなりの前に進む為の儀式に近かった。

 もしかしたらこれでユニオンから追い出されるかもしれない。
 それによりランクを維持できなくなるかもしれないが、それでも良かった。
 仮にBどころかCランクに落ちたとしてもまた一からやり直せばいいのだ。 

 助けたという体を取ったがタカミムスビにはお見通しだろう。
 それでいい。 タヂカラオの心は軽やかだ。
 
 「……本当に良かったの?」
 
 グロウモスの質問にタヂカラオは小さく肩を竦めて見せる。

 「それはどっちの意味だい? 君に撃たせた事? それとも僕がタカミムスビさんに歯向かった形になった事かい?」
 「両方」
 「構わないさ。 僕は僕の自己満足の為に君を利用したに過ぎない。 Sランクの撃破報酬はその手間賃とでも考えてくれたまえ」
 「……大丈夫?」

 グロウモスが少しだけ心配そうにしているのを見てタヂカラオは苦笑。
 初めて見た時は自分の事しか考えていないような手合いだと思っていたが、今になって改めて見ると随分と印象が変わっている。 

 ――僕の見る目がないのか。 いや、そうじゃないな。
 
 彼女もまた成長したのだ。 そして自分もまた成長する事ができるはずだった。
 

 
 「あー、遅かったかー」
 
 ヨシナリは減速させながら小さくそう呟いた。 
 カンチャーナを仕留め、今度はダラヴァグプタも仕留めてやろうとマルメル達を引き連れて戻って来たのだが、拠点が見えて来た辺りで決着がついてしまったのだ。

 仕留めたのはグロウモスで、タヂカラオがアシストしたのは見ていた事もあって分かっていた。
 あの時点で勝敗は決まっていたが、どうやら横取りしたようだ。
 余り褒められた事ではないが、あのタヂカラオが敢えてそうした以上は何か考えがあるのだろう。

 仕留めた動きに関しても視えていた。 
 元々、タカミムスビが反射板を用いてのレーザー攻撃でダラヴァグプタを追い込んでいたのだが、タヂカラオがエネルギーリングでその一部の動きを制限する事で自分達にとって都合のいい位置に誘導。

 そこをグロウモスがスコーピオン・アンタレスで一撃だ。 
 入射角などの計算はアルフレッドから貰った観測結果を参考にしたのだろう。
 アルフレッドは高度に教育されたAIだ。 頼めばそれぐらいはやってくれる。

 後は正確に撃ち込めばそれで終わりだった。 
 
 「あっちゃー、終わっちまったなぁ」
 「だなぁ、もうちょっと頑張ってくれると思ってたんだけど、タカミムスビさんが思った以上にヤバい事してて正直、俺はそっちにビビってる」
 
 マルメルの苦笑にそう返しながらもヨシナリの思考はタカミムスビの機体に割かれていた。 
 あの武装はダウングレードしているが例のイソギンチャクが使っていた反射兵器だ。
 個人的には実装出来た事自体には驚きはないが、あれだけの数の反射板を操っている事は驚きだった。

 明らかに個人レベルで賄える数ではないからだ。
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