Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第709話

 ――想定してはいたが思った以上に酷い状態だ。

 壁や床には血痕や戦闘跡、何が起こったのか血液やオイルらしき物が天井にまで飛び散っている。
 そして死体や機体の残骸は欠片ぐらいしか残っていない。 
 このまま通過して四層を目指してもいいが、あのクリーチャーの事は気になる。

 確かタカミムスビの話では端末らしき物があったはずだ。 
 防衛戦の時は何の反応もしなかったが、施設が稼働している今ならアクセスする事は可能と思われる。
 この様子だと敵の撃破によるポイントは期待できない。 

 ならあの連中が何なのか調べて世界観への理解を深める一助としないと割に合わなかった。
 
 「下に直接向かわないの?」
 「一応、情報だけでも取っときたいんですよ」
 「何で?」

 グロウモスの疑問はもっともだ。 そんな情報を集めても意味があるとは思えない。
 
 ――と思うだろう。

 ヨシナリはもう少し踏み込んだ事を考えていた。 あのクリーチャーは完全に初見の相手だ。 
 そしてこのイベントはトライアルを兼ねている可能性が高い。
 つまりこいつ等は今後のイベントで実装されるはずだ。 

 その時に備えて情報を集めておきたい。
 ユニオン対抗戦が終われば大規模イベント、防衛戦、侵攻戦、防衛戦と来たのだ。
 次は侵攻戦とみて間違いない。 その時に現れるエネミーがあいつらになる可能性も充分に存在する。

 「次の大規模戦であいつ等みたいなのが出てくる可能性もあるので弱点ぐらいは探っておきたいんですよ。 仮に火に弱いなら事前に火炎放射器や焼夷弾を用意しておけば難易度はぐっと下がるはずです」
 
 それは間違いなく本音であったがヨシナリの胸中の奥深くでは別の欲望も存在していた。
 前回の侵攻戦。 あの時、反応炉を破壊して全てのプレイヤーを出し抜いた快感。
 もう一度、アレを味わいたい。 あの景色を見てみたい。

 そんな欲望が手招きするようにヨシナリを誘惑する。 
 とても甘い誘惑だった。 お陰で必要以上に情報を集める事に貪欲になってしまう。
 
 「そ、そうなんだ。 分かった」

 グロウモスは納得したのかそれ以上は何も聞いてこなかった。
 内心でそれに感謝しつつ通路を進む。 
 第三層は防衛戦の時もそうだったが、通路が狭く入り組んでいる。 

 その為、攻めるのにも守るのも面倒な地形だったらしい。 
 そもそもトルーパーで入れないような部屋も多かった事もあって通り過ぎただけでも面倒な場所だと分かる場所だった。 

 「調べるのは分かったんだけど何処を調べるの?」
 「そこそこ広そうな部屋にある端末か何かを調べたいですね」
 「外部端末? このご時世――あぁ、そう言えばテロリストって携帯端末を使ってたね」
 「リアルのテロリストもそうらしいんですけど、脳内チップ反対派の集まりって話を聞いた事があります。 だからネットワーク接続には外部端末が必須なんでしょうね」
 
 ヨシナリはマップを参照して広そうな空間をピックアップ。
 手頃な場所を見つけてそちらへと向かう。 
 広い空間にしたのは機体に乗ったまま中に入れる可能性が高い事と端末ぐらいはあるだろうといった期待感からだ。

 ただ、マップは間取りぐらいしか分からない事もあって直接見ない事には何とも言えない。
 
 ――それにしても――

 発生源と睨んだだけあって損壊が特に酷い。 結構な分厚さの壁にも穴が開いている。
 目当ての部屋を見つけて入口を探そうとしたのだが、その必要はなかった。
 何故なら巨大な穴が開いていて簡単に入れそうだったからだ。

 中に入ると無数の割れたカプセルやぶちまけられた血液の跡。
 戦闘による破壊もあるが、恐らくはカプセルの中身の仕業だろう。
 大小様々な物が並んでいるが一際大きい物は数十メートルはある大きさだ。

 周囲を警戒。 何もいない事を確認して機体から降りる。
 グロウモスは警戒しようとそのままで居るつもりの様だったが、気になる事があったのか彼女も機体から降りた。 よく分からない手術台らしき物や医療器具。

 明らかに碌な使い方をしていないであろう代物が並んでおり、奥にはタブレット型の端末がいくつか見つかった。 起動を試みたが、大半が破損により電源が入らない。
 
 「マジかぁ。 一個ぐらいは動いて欲しいんだけど――お、動いた」

 調べようとしたのだが生体認証が必要とメッセージがポップアップ。
 
 「げ、またかよ」

 思わず呟くがまた?と自分の発言に内心で首を傾げた。 
 こんな事が前にあっただろうか? 記憶を掘り返したが特に出てこなかった。
 何かと勘違いしたのかもしれない。 そう自己完結したが問題は変わらない。

 この認証を突破しないと中が見れないのだ。 

 ――取り敢えず持って行って機会があれば試す感じでいいか。

 そう考えているとグロウモスがいつの間にか背後におり、にゅっと何かを突き出した。

 「これでいけるんじゃない?」
 
 ヨシナリは思わず息を呑む。 何故なら彼女が付き出した物は人の腕と目玉だったからだ。
 
 「あの、グロウモスさん。 それどこで……」
 「その辺に落ちてた。 この手の端末って大抵は生体認証があるから要るかなって思って」
 「あ、そうなんですね。 ありがとうございます」

 聞けばホラー系のFPSだと偶にこういった感じのギミック突破方法が存在するらしい。
 彼女曰く、クリーチャーを始末してそいつの残骸を使って認証を突破した経験があったようだ。
 それに比べれば充分に想定できる展開だったとの事。

 ヨシナリはありがたく受け取った腕の指を押し付けて内臓カメラに目玉を押し付ける。
 するとロックが解除され中身が閲覧できるようになった。 

 「クソ、まーた英語かよ。 日本エリアでもサービス提供してるんだからローカライズぐらいちゃんとやれよな。 えーっと、これなんて読むんだ?」
 「ち、ちょっと貸して」

 グロウモスが手の伸ばしてきたのでどうぞと渡す。
 彼女は慣れた手付きで操作するとファイルを呼び出した。

 「多分、このへんだと思う。 研究とか進捗とか書いてあった」
 「読めるんですか?」
 「少しなら」

 ヨシナリはよろしくお願いしますと操作を促す。
 グロウモスはタブレット端末にじっと眺め、ややあってから口を開く。

 「うん。 ここでやってたのは後ろのカプセル――バイオリアクターっていうらしいんだけど、それを使って生物兵器を創ろうと考えたみたい」

 まぁ、読めてた展開ではあった。
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