Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第719話

 「――実は私も支援AIを育てようとした事があったのだが、学習にかける手間が凄まじくて投げてしまったのだよ。 放置する事に妙な後ろめたさを覚えてね。 結局、手放してしまったが……」

 アイロニーはアルフレッドを撫でながらぽつりと自らの経験を語り出した。
 ヨシナリも少し支援機は欲しいと思ってはいたのだが、撃破された時のリスクが高すぎておいそれと手を出せなかったのだ。 

 初期状態のAIは本当に言われた事をやるだけのエネミー以下の存在だった。
 移動、照準、攻撃と全て指示を出さなければならない。 
 一応はドローンと違って解釈するといった差異があるので上位互換と言える。

 ――が、それでもヨシナリの見立てでは毛が生えた程度の違いでしかない。

 何度も何度も根気よく指示を出して学習させ、経験を蓄積させる事でAIは徐々にだが、オーナーに合わせた戦い方を身に付けていく。 
 恐らくユウヤは低ランクの時から育てていたのだろう。 
 そしてアルフレッドは何度も撃破され、何度もパーツをロストした。

 大破した数は十や二十では利かないはずだ。 
 それだけの大破を跳ね除け、何度もフレームとパーツを買い直し、根気強く育てたのだろう。
 アルフレッドは理解しているのだ。 ユウヤが自分を育てる為にどれだけの労力と資金を費やしたのかを。

 想像しただけで震えてしまう。 
 ヨシナリ自身、自己を高めるトレーニングを苦としないが、果たして自分以外を育てる為にここまで力を入れる事ができるかと尋ねられれば難しいと答える。

 ――いや、無理かもしれない。

 やられる度にフレームから買い揃えるのだ。 
 そちらにリソースを割くと自身の強化が疎かになってしまう。
 恐らくはどこかのタイミングで足を引っ張られていると感じてしまう可能性が高い。

 そうなると育てる気概は失われるだろう。 この着地点はヨシナリだけではないはずだ。
 AI育成を試みた者の大半がぶつかる壁と言える。 
 これを越えた者だけが真のパートナーを得る事ができるのだ。

 アイロニーもその壁を越えられなかったらしい。
 彼女のスタイル的にはAIによる自律行動できる機体は非常に魅力だろう。
 ドローンの操作を委譲する事で変化を付ける事も可能のはずだ。

 だからこそアルフレッドが気になって仕方がないのだろう。
 
 「プラクティカル。 見れば見るほどに素晴らしい。 成長するとここまでナチュラルな反応を示すのか」
 
 アイロニーは撫でるの止める。
 じっとアルフレッドを眩しそうに見つめた後、そっと目の前のテーブルの上に置いた。 

 「――良いものを見せて貰った。 何処まで力になれるか分からないが、私で良ければ手を貸そう」
 「助かります。 実を言うと個人的に依頼したい事もありまして――」

 そう言いながらヨシナリはアイロニーと握手を交わした。


 ――クソッ!

 マルメルは機体を左右に振って相手に的を絞らせない事を意識する。
 フィールドが遮蔽物がない平原という事もあって露骨に技量を要求される場所だ。
 
 「駄目。 もっと集中しなさい」

 そんな声が響き、移動先にレーザー攻撃。 
 たたらを踏むように動きを止めるがレーザーの照射が止まらない。
 咄嗟に飛び上がって躱そうとしたが、両足を切断された。

 それでも諦めないとアノマリーと胸部装甲に仕込んだクレイモアを起爆。
 とにかくばら撒けるものをばら撒いた。

 ――が、気が付けば敵は背後。

 「焦るとばら撒いて仕切り直そうとするのは直しなさい。 余裕がないのが透けて見えるわ」

 背後からレーザーの一撃を受けて機体が大破。 試合終了となった。
 マルメルのアバターは開始前までいたユニオンホームへと戻される。

 「お疲れ様。 段々良くはなってるけど焦ると頭が真っ白にならないように意識しなさいな」

 そう言ってマルメルを迎えたのはゴスロリ姿のアバター――アリスだ。
 ここは「星座盤」のホームではなく「烏合衆」のユニオンホームだった。
 マルメルは来たるユニオン対抗戦に備えて腕を磨く為にアリスに頭を下げ、トレーニングを行っている。

 ――とはいってもアリスは他人に教える事に慣れていないのもあって最初は難色を示したのだが、必死に頼み込んでどうにか成立させたのだ。

 最初こそ難しいと言っていたアリスだったが、マルメルを叩きのめしつつ気になる点を指摘。
 同じ中距離戦を得意とするプレイヤーだけあってアリスの指摘は非常に為になった。
 特に意識している間合いの維持と上手いポジションの取り方等々、ヨシナリも頼めばしっかりと意見をくれるのだが、アリスの指摘はまた別の角度からの物となっておりいい刺激になっている。

 「どもっす。 やっぱ、追い込まれると焦って慣れた挙動に頼っちまいますね」
 
 アリスが無言でさっきの戦闘のリプレイ映像を再生。 
 戦闘開始からアリスがレーザーを発射。 
 マルメルは無駄なく回避するが、こうして俯瞰するとこの時点で誘導されているのがよく分かる。

 アリスはレーザーを発射する前には既にプラズマグレネードを発射しており、マルメルが躱したタイミングで次々と着弾。 マルメルは咄嗟にフィールド展開しながらの後退で凌ぐ。 
 追撃を防ぐ為にアノマリーで連射して隙を消そうとしているが、アリスはホバー移動で既に回り込んでいた。 

 「うわ、もう完全に術中だなぁ」
 「グレネードは削る意味合いもあるけど電磁パルスも撒くからセンサー系にかなりのノイズが入るのよ」
 「あぁ、だから回り込まれるのに気付かなかったのか」

 いつの間に回り込んでんだよとは思っていたが、こうして見ると練られた動きという事がよく分かる。 高火力のレーザーで先制して戦闘の主導権を握り、相手の動きを誘導して望む展開に持って行く。 まるでお手本のような戦い方だった。

 ――いや、マジで手本なのか。

 動きが分かり易い点からマルメルに見せる事を意識してやっているのだろう。
 マルメルとしては真剣に潰しに行ったのだが、アリスにはこうして手本を見せる程度には余裕があるという事かと考えて実力差に少し落ち込んでしまう。

 ――まぁ、そんな事言ってられないんだがな。

 ヨシナリもふわわもどんどん先に行っているのだ。
 立ち止まっていると遠ざかっていく背中すら見えなくなる。 
 だから、マルメルには落ち込んでいる暇などない。 

 ヨシナリが1の速度で走っているのなら2の努力で追いかけなければ抜くどころか追いつく事さえできないだろう。 
 絶対にここで成長してあいつ等を見返してやる。 
 そう決意を新たにマルメルはアリスの話に耳を傾けた。
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