Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第722話

 「――でも、駄目なのよ。 面倒くさい規約があってね。 最低でも40%以上ないと声をかけられないのよ」

 ロッテリゼはホーコートに粘ついた視線を向ける。

 「だからぁ、あなたは彼の目の前でMODを使ってその力を見せつけてあげて欲しいのよ。 要はプロモーションね。 そうすれば彼――ヨシナリ君の心境にも変化が起こるでしょう? 気持ちが傾いた所で私が声をかける。 簡単な話でしょ? あなたは足りない実力を埋められて、私はお目当ての子に声をかけられる環境を作れる。 そしてヨシナリ君は私の庇護下で更なる力を得て飛躍する。 ほら、誰も損をしない良い話でしょう?」

 背後のウインドウが切り替わり、無数の画像がポップアップ。
 見た事もない武器にトルーパー用の強化装備、フレーム、プレイヤー用の戦闘用MOD。
 内容は反応強化、モーションパターンの追加、支援用の特殊AIによる戦闘支援。

 「いっぱいアピールしたいからあなたにはそこそこ良いのを使わせてあげる。 次はユニオン対抗戦でしょう。 チームに貢献できるわよ? ――あぁ、もしかしてお友達への言い訳が欲しいの? なら、運営名義でプレゼントキャンペーンの当選メッセージを送ってあげる。 凄いわよぉ、使いだすと世界が変わりましたって言う子ばかりだからあなたもきっと楽しめるわ」

 見ただけでジェネシスフレームに装備されているような特殊な装備や、大火力の破壊兵器。
 エンジェルフレームの劣化版である実装予定の新フレーム。 
 
 「規約上、エンジェルフレーム以上は適正ランクがないとあげられないの。 Bを越えたらエンジェルフレームも支給してあげるから、将来実装予定の下位互換で我慢してね?」

 反応強化――体感時間を引き延ばす事でゲームスピードをコントロールできる。 
 それにより銃弾すら目視で捉える事も可能だ。 
 モーションパターンの追加――全方位で右旋回と同クオリティの挙動を可能とする。

 「凄いでしょう? モーションパターンはね、これまでに世界中で集積した戦闘データから――」

 ――あぁ、そういう事か。

 得意げに商品のプロモーションを行うロッテリゼを見てホーコートが感じたのは気持ち悪さだった。
 話を聞けば聞くほどにそれは加速し、ヨシナリの言っていた止めろという言葉の意味が理解できた気がする。 得意げにチートを使えと唆すこの生き物は一体何なんだろうか?

 少し前なら何も考えずに飛びついたかもしれない。 
 ヨシナリをその気にさせる為の当て馬でも良かった。 
 自分のように何の取柄もない奴を見捨てずに根気強く付き合ってくれた恩人だ。

 そんなヨシナリ達の為に何かをしたかった。 役に立たないままで終わりたくなかった。
 居ないよりマシではなく、居て良かったと言われてみたかった。
 お前のお陰で助かった、勝てたなと勝利を分かち合いたかった。

 ――だけど、これは駄目だ。

 確かに強くなりたい。 お手軽に力を手に入れられるならそうしたい。
 そんな気持ちは確かにあるが、これには飛びつけない。
 やってしまうとヨシナリに嫌われてしまう。 

 彼は結果にはこだわるが他人にはそれを押し付けず、その努力を尊重した。
 そんな彼からすればチートは許容できない事だろう。 
 認められたいというのは自分のエゴでしかない。 

 エゴとヨシナリの思いを天秤にかけた結果――ホーコートは小さく息を吐く。

 「――折角なんですけど遠慮しておきます」

 それを聞いたロッテリゼはピタリと動きを止めた。 

 「ちょっと聞き間違えたのかもしれないからもう一回言ってもらえないかしら?」
 「遠慮しときます。 もっとはっきり言うなら要らないっす」
 
 ロッテリゼは心底から馬鹿にしたように大きな溜息を吐く。

 「はぁ、ちょっとよく考えなさいな。 あなたのような雑魚がこの先、あのメンバーと一緒にやっていきたいなら私の話を受けておいた方がいいと思わない?」
 「思いますけどそれをやっちまうと先輩達に嫌われちまうんですよ。 足を引っ張るのは嫌だけど、それ以上に気持ちを裏切るような真似をしたくないだけっす」

 気持ちと聞いた所でロッテリゼは小さく吹き出す。
 
 「はっ、フォーマットの上に張り付けられただけの薄っぺらなテクスチャの分際で気持ち? 笑わせるのも大概にしなさいな。 まぁ、いいわ。 実の所、あなたの感情なんてどうでもいいのよ」

 明らかにロッテリゼの空気が変わった。 
 本能的に身の危険を感じたホーコートは咄嗟に背後に跳んで距離を取る。
 それは無意識の行動だった。 咄嗟にログアウト操作をしようとしたが、受け付けない。

 どうやらこのフィールドにはログアウトを阻害する何かがあるようだ。
 なら何かないかと焦りながらもウインドウを操作するといくつかの項目が現れた。
 それを見てホーコートはある事に気が付く。 

 このフィールドはシステム的にはトレーニングルームと扱いが同じなのだ。 
 それならこれが使える。 
 メニューを操作し、自分の機体を呼び出すと自動でコックピットに移動し、そのまま起動。

 「へぇ、抵抗するんだ?」

 突撃銃を向けるホーコートに対してロッテリゼは鼻で笑う。

 「俺をここから出せ! さもないと――」

 最後まで聞かずに彼女は無言でパチンと指を鳴らすと背後から奇妙な何かが現れた。
 形状はウニに近かったが、針ではなく触手のようなケーブルに覆われている。
 そのケーブルに既視感を覚えたが、そんな事よりもここから逃げる事が重要だ。

 だが、逃げた後はどうすればいい? どう見ても相手は運営だ。
 この場をやり過ごしたとしても――いや、考えるのはこの場をどうにかしてからでいい。
 ホーコートは急上昇し、突撃銃を連射。 ロッテリゼを巻き込む形でばら撒いた。

 謎のエネミーは被弾するとケーブルが次々と千切れ飛ぶが、ロッテリゼは無傷。
 よくよく見ると周囲に不可視のフィールドのような物が展開されていて弾が届いていない。
 少なくとも呼び出されたエネミーらしき何かに攻撃が通用するなら何とかなる。  
 
 そう自分を奮い立たせ、右旋回からのアタックを繰り出そうとして――失敗した。
 上手く動かない。 これまでは動くと意識した瞬間には既に動いていたというのに――ロッテリゼはホーコートの思考を読んだかのようにケラケラと笑い出す。

 「馬鹿ねぇ。 だーれがMODを恵んであげたと思ってるのよ。 頭の足りない愚図なあなたに教えてあげるわ。 MODはね、権限さえあれば自由にオンオフができるのよ。 で、あなたのMODは私の権限で止めといてあげたわ。 別にいいのよね? だって要らないんでしょ?」
 「く、クソッ!」
 
 ホーコートは焦りを口にしながら距離を取りながら荒い挙動で急旋回。
 エネミーがホーコートを捕えようと伸ばしたケーブルを掻い潜る。
 躱しきれない物は突撃銃とブレードで処理。 

 ――どうすれば、どうすればいい……。

 ホーコートの思考は焦りで満たされていた。 
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