Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第769話

 キュムラス。 「思金神」というチームでは主に攪乱を担当している。
 彼の機体は非常にユニークで火力だけで言うのなら最も低い。
 だが、それを補って余りある厄介な能力があった。 

 霧を発生させて視界を奪う事だ。 
 それだけなら妨害系のスモークという事で吹き散らせばいいが、そう簡単な話でもなかった。
 キュムラスの霧は自機を中心に周囲50メートルでドーム状に展開される。

 これの厄介な点は単にスモークのように霧を発生させている訳ではなく、範囲内に不可視のフィールドを発生させる事で内部に視覚だけでなくセンサー系を麻痺させる霧を充満・・させるのだ。
 手榴弾の爆発でセンサー系が僅かな時間、限られた範囲ではあるがクリアになる。

 「狙え!」

 ケイロンが狙い易いように上半身の向きを変える。 
 レーダーに映った反応に向けてマルメルが重機関銃を連射。 捉えたと思ったが手応えがない。 
 
 「ダメっすね。 多分、デコイです」
 「一応は想定内だ。 このまま振り切るぞ!」

 ケイロンは無理に探すような真似はせずに篠突を追いかける。
 キュムラスは二人の担当ではないからだ。 
 想定ではもっと前に居ると思っていたのだが、突っ込んで来たマルメル達を追いかけて下がったらしい。
 
 「霧を突っ切るまで防御に割り振ります」
 「頼む」

 マルメルは機体の推進装置に回していたエネルギーをエネルギーフィールドへと回す。
 僅かに遅れてフィールドの一部が何かを防き明滅。 
 キュムラスの攻撃手段だ。 

 彼の機体「ネーフォス」はベリアルのプセウドテイに近いデザインで胴体と背面のバックパック。
 後はこの霧と攻撃手段を操る為の制御リングだけだ。 
 攻撃手段は小型の球体ドローンで、高出力の極細レーザーを放つ。

 霧の中だと光学兵器は大きく減衰するのだが、キュムラスの操るドローンは可能な限り範囲を絞る事でフィールドの影響を最小限に抑えていた。
 彼と戦って敗れた者は極々小さな無数の穴を機体に開けられ、崩れ落ちるように息絶える。

 当然ながら彼と何度も戦ったランカー達は対処法をよく理解していた。
 霧への対処は大きく二つ。 一つはマルメルが実行した爆風による霧の処理。
 フィールド内部に堆積している事で外に逃げない以上は根本的な解決にはならないがジャミングの効果を大きく落とす事ができる。 

 センサー系の機能が一時的に復活するので、運もあるが上手くいけば捕捉も可能となる。
 ベリアルとユウヤはこの方法でいつも処理しているらしい。 
 もう一つは更に分かり易く、影響範囲外へと出る事だ。 

 このフィールドはキュムラスを中心としている以上、距離を取れば何の問題もない。
 光学兵器は減衰によって効果は薄いが、実弾兵器はロックオンできないだけで問題なく通る。
 その為、火力に自信があるのなら距離を取って当たるまでばら撒けばいい。

 ケイロンはこのやり方で勝ってきたとの事。 
 そしてマルメル達のターゲットは彼ではない以上、対処は後者で問題ない。
 
 ――それに――

 「まぁ、いつまでも俺達に構ってはられないだろうからなぁ……」

 その証拠に攻撃が止んだからだ。 どうやら追いついたらしい。
 
 「前に居るって話だったのにこんなに後ろなんて聞いてませんよー」

 通信からシニフィエの声が聞こえて来た。 

 「悪いけど任せるぞ」
 「はい、任されました。 最低限、足止めぐらいはしておきますよー」

 マルメル達は真っ直ぐに加速し――霧を抜け出した。


 ――任されました、か。

 シニフィエは我ながら無責任な事を言ったなと思いながらも周囲が白く染まった空間ですっと構えを取る。 彼女の担当はキュムラスというプレイヤー。
 凍露とどちらかといった形だったのだが、そちらは姉が当たったので彼女はこちらとマッチアップとなった。
 
 義兄の言う通り「思金神」という大きすぎるネームバリューに気後れするが、決して勝てない相手ではない。 特にチーム運用を前提としてメンバーを選定している以上、強みを封じる、または対策を練ればなんとかなるのだ。
 
 ――確かに上位のプレイヤーで固めているチームではあるが、全員がベリアルやユウヤレベルではない。

 そう考えればいくらか気楽ではあるが、Aランクプレイヤーである事には変わりはない。
 競争の厳しいAランクという修羅の巷で戦い続けているプレイヤーなのだ。 弱い訳がない。 
 だが、このキュムラスに関してはシニフィエとの相性はそこまで悪くなかった。

 ――どちらかというとこの手の隠形に長けた相手は姉の方が向いてるんですけどねー。

 恐らく、姉とぶつければ瞬殺できた可能性は高い。
 相手の対応の早さからこちらを必要以上に侮らずに対策を練っているのは明らかだ。
 義兄の見立てではタカミムスビという絶対的な高火力機が居る以上、他はその欠点を補う形で揃えているとの事。 だからと言って直接戦闘に不向きなのかと尋ねられればノーだろう。

 後退しながら姿勢を低くするとレーザーが真上を通り過ぎた。
 回避に成功した事にほっと胸を撫で下ろす。 行ける。
 シニフィエとしては程々に戦果を上げられればいいかなといった気持ちでこのゲームを楽しんでいた。
 
 遊びなんだから必要以上に熱くなるのは彼女としては微妙と思っていたからだ。
 ただ、負けるのは思った以上に悔しいし腹立たしい。 だから今回は後悔のないように臨むべきだ。
 
 ――と、いう話を姉にしたのが間違いの始まりだった。

 シニフィエは姉との地獄のトレーニングを思い出して気持ちが大きく沈んだ。
 いくら何でもあれはないだろうと。 シニフィエとしては技量向上を図る一環として姉に協力を求めたつもりだったのだが、思った以上に本気だと捉えられたのは誤算だった。

 さて、具体的に姉はシニフィエに何をしたのか?
 ふわわ曰く、シニフィエに足りないのは勘の鋭さとの事。 
 指摘された後、思わず首を傾げた。 それはトレーニングでどうにかなる物なのだろうか?
 
 感覚的な物は経験を積む事で培っていくのであって一夜漬けで身に付ける物ではないのないのではないか? 
 そう思ったので素直にそう告げたのだが、気が付けばひたすらにナインヘッド・ドラゴンを躱すという訓練をさせられた。 

 ――しかも目を瞑った状態で。

 意味が分からない。 その上、センサー系は最低限を残して切られてしまった。
 要は最低限の五感情報だけでいつ、何処から飛んでくるか分からない刃を躱すというバカみたいな事をさせられたのだ。
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