Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第772話

 躱すのは難しいタイミングだったが、命中前にリングの回転で防御できたのは彼がランカーである証と言えた。 
 だが、そこまでだった。 

 フルオートで発射されたライフル弾は吸い込まれるように彼の機体へ――正確には彼の機体に突き刺さったニードルへと殺到したのだ。 半数近くは迎撃できたが残りは機体を貫通。
 推進系がやられたのか浮力を失って落下し、地面を擦りながら衝撃を殺す。

 何とか足搔こうとしたが、こうなるとどうにもならない。
 ホーコートは片手でバトルライフルのマガジンを排出しながら残った手でマシンピストルを抜くとフルオート射撃。
 キュムラスの機体はそのまま穴だらけになり脱落となった。

 
 凄まじい数の斬撃の応酬が繰り返される。
 片方はふわわ。 太刀と小太刀を巧みに使った斬撃、刺突を中心に相手の態勢を崩しつつ命を刈り取らんと刃が振るわれる。 

 対する凍露は氷のブレードで受け、弾き、いなす。
 実に面白い相手だとふわわは内心で嬉しくなった。 モタシラと同じでリアルでやってる・・・・動きだ。 動きの感じから剣ではなく四肢を使った格闘技の印象を受ける。

 防御の仕方が剣よりも掌のそれだ。 機体も面白い。
 透明な液体ではあるが、ただの水ではないだろう。 凝固、融解が非常に速い。
 扱い方はベリアルのそれに近いが、彼とはまた違う。 

 特に面白いと感じたのは防御のバリエーションだ。 
 氷結させたブレードでの斬り合いとなるが、受けきれないと判断すれば瞬時に凝固を解いて液体化させて絡め取ろうとしてくる。 加えて、こちらの動きに対しての対処が的確だ。

 明らかに勉強してきていた。 ならとリズムを変える。
 太刀による刺突から、大きく踏み込んでからの小太刀による斬撃は際どい所で空を切った。
 一歩、足りなかったのではなく足が動かなかったからだ。 

 足元に視線を落とすと足裏が氷結して地面に張り付いていた。
 直ぐに剥がれたが踏み込みが半歩分、遅れてしまっていたのだ。
 
 ――へぇ?

 上手い。 相手の動きを微妙に阻害しつつ自分のペースを維持。
 焦りを誘いながらも技量で圧倒するという分かり易く強い戦い方だ。
 自身の技量に対する圧倒的な自信がなければ成立しないだろう。
 
 ベリアルの戦い方が嵐なら凍露の戦い方は寄せては返す波のようだ。
 
 『楽しそうだな?』
 「楽しいからなぁ。 モタシラさんも面白かったけど君の戦い方もえぇなぁ」

 これだからこのゲームは止められない。 上に行けば行くほど知らない強敵が現れる。
 小太刀を振り切ったと頃で凍露が返しの一撃を放とうとするが、ふわわは腕に仕込んだグルーキャノンを連射。 液体接着剤の塊が飛ぶ。

 凍露は液体を大きく広げて防御するが、グルーと混ざって急速に凝固。
 バキリと音がする。 凝固部分を切り離したからだ。
 そのままグルーと混ざって固まった部分を蹴り飛ばす。 ふわわは機体の上半身を傾けて回避。

 その間に凍露が大きな動きで凝固させたブレードを振り下ろす。
 視線の誘導が上手い。 ふわわは肩の野太刀のジョイントを操作。
 上段からのブレードを受け止め、足を前に突き出して凍露の膝を止める。

 上からの攻撃は囮で本命は蹴り。 凝固させた液体によって膝から下がブレードになっていた。
 それを見抜いて切断力のない膝を足で止めたのだ。 
 ふわわはエネルギーウイングを全開にして肩から当てて吹き飛ばす。 
 
 流石にこれは躱しきれずにまともに喰らったがインパクトの瞬間に液体を間に挟んでダメージ自体は殺していた。 距離が空いた。
 小太刀を手放してナインヘッド・ドラゴンの柄に手をかけたが――

 「?」

 抜けない。 何故だと視線を落とすと柄と鞘が凍り付いていた。
 じゃあいいわとふわわは鞘のマウントを解除して残った太刀を手放し、両手で握ると鞘に収まったまま上段からの振り下ろしを放つ。 即座に意図に気付いた凍露が慌てた様子で全力で回避。

 そして逃げた先に九つの刃が取り囲むように出現した。

 『嘘だろ!?』

 言いながらも即座に出現した三つの刃を叩き落として包囲を崩すとそのまま突破。
 その頃にはふわわは柄を手放し、両手で野太刀の柄をしっかりと握りしめていた。
 ジョイントを動かして横に触れる角度に調整。 横に一閃。

 こちらもナインヘッド・ドラゴンと同様に凍らされていたが、これに関しては柄は発射装置でしかない以上、あまり意味がない。 捉えた。
 
 『舐めるなぁ!』
 
 凍露は液体を盾のように展開。 瞬時に分厚い壁のように厚みのある障壁へと変わる。
 斬――れずに凍露は凄まじい速さで吹き飛んでいった。 

 「んー??」
 
 ふわわは振り切った手を見て小さく首を傾げた。 
 手応えがおかしかったからだ。 
 

 ――なるほど。 モタシラが負ける訳だ。

 凍露は内心でそう呟く。 本当に信じられない強さだ。 
 態勢を立て直しながらアバターにも関わらず心臓に悪いと思いながら目の前の敵機を睨む。
 ふわわ。 ふざけた名前とは裏腹にその技量に裏打ちされた実力は圧倒的だ。

 本物である事は最初から分かってはいたので、確認したかったのはどれほどまで強いかでしかない。
 モタシラとは偶にではあるが連絡を取り合う仲ではあった事もあって話を聞けたのだが、非常に珍しい反応が返って来たのは記憶に新しい。

 凍露の中ではモタシラは剣に対して絶対的な自信を持った強者だ。
 その冷静な立ち回りはライバルとして非常にリスペクトしていた。
 彼の最大の強みはどんな状況にも動じない鋼のような精神だと胸を張って言える。

 ――はずだった。

 モタシラが、あの鋼のような男が言ったのだ。 できればあの女はもう敵に回したくないと。 
 あのモタシラが、Bランクにも満たない中級プレイヤーを恐れているのだ。
 何があったのか詳細は語らなかったが、とにかく恐ろしい目に遭ったとだけ口にした。

 こうして対峙して見ると納得できる部分は多い。 
 剣の振り方だけでもかなりの修練を積んでいる事は明らかで、まともに斬り合えば今の自分ではまず勝てないであろう事は分かっていた。
 
 ならこのICpwに於いての脅威度はどうか? 答えは極めて高い、だ。
 日本エリアだけでなく対抗戦で海の向こうのランカーを次々と屠ったのは運でも何でもない。
 事前に予習して来ただけあって問題なく戦えている。 

 これが初見であったなら格下と見て侮ったかもしれない。 
 そんな勿体ない事をしなくて本当に良かったと凍露は自らの選択を心の底から肯定した。
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