Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
787 / 865

第787話

 ――いや、本当の狙いはこっちか。

 篠突の逃げ方には霧ヶ峰から引き剥がす意図とは別に明確な目的地があった。
 俯瞰にするとそれは明らかで近くに居たキュムラスがカバーに入ろうとしている姿が見える。
 キュムラスはふわわの抑えに回ると思っていた事もあって下がるのは意外だった。

 火力ではなく攪乱担当だった事もあって、中衛よりも霧ヶ峰のカバーに入ると思っていたからだ。
 霧ヶ峰の動きを見る限り、彼女の指示だろうか?
 キュムラスは火力こそ低いが一度捕まると簡単に逃がしてくれない厄介な相手だ。

 足止めという点においては適任ではあるが、篠突に必要だったのか疑問が――

 「あぁ、違うな。 こっちの意図を読んだのか」

 そこまで考えて霧ヶ峰の考えに気が付いた。 
 彼女はヨシナリ達が速攻をかけて人数を減らそうとしている事を見切ったのだ。
 だから、時間を稼ぐ方針にシフトした。 この盤面なら時間稼ぎは非常に有効だからだ。

 早々に二機落とされはしたが、総合力ではまだ「思金神」は負けていない。
 充分に巻き返せはするが、こちらに主導権を握られるのは良くないと考えた。
 その思考なら突破力に優れるマルメル、ケイロンにキュムラスを当てて止めるのは理に適っている。

 少なくとも分かり易く斬り込んで来る奴を止められれば勢いは削げるからだ。
 ただ、キュムラスの動きに合わせてシニフィエが行った事でケアは問題なくできている。
 一番相性のいいのはふわわだった事もあって本来なら彼女を当てる予定ではあったのだが、凍露が仕掛けに行った事でそれは叶わなかった。

 キュムラスの気が逸れた所でケイロンが霧を突破。
 そのまま篠突の追撃に戻る。 少しのロスはあったが、許容範囲内だ。
 篠突としては安定して射撃できるポジションを確保してこちらを削るつもりだったのだろうが、想定よりも早くケイロンがキュムラスを振り切った事で思惑が崩れ、諦めて処理をする事に決めたようだ。

 位置はもうマップの端に近い事もあってこれ以上逃げられないという事もその行動を後押ししたとみていい。 反応も速い。
 追撃の気配を察知した瞬間にミサイル発射。 
 垂直に飛んだ後、急降下して小型のミサイルをばら撒くクラスタータイプだ。

 二人を視認したと同時に斉射を開始。 上手い。
 上と下からの飽和攻撃。 下はともかく、上のミサイルは早めに処理しないとまずい。
 ケイロンは基本的に真っすぐにしか走れない事をよく理解しているが故の組み立てだ。

 実際、かなり有効な攻撃だった。 
 ケイロンの強みは突破力で、それを最大限に活かす為に彼は常に敵を正面捉える傾向にある。 
 その為、上は死角とまでは行かないが、比較的ではあるが手薄なのだ。
 
 ――ただ、それは彼が一人だった場合の話だが。

 ケイロンが取った行動は篠突の想定を超えていた。 
 立ち上がるように前半身を大きく持ち上げたのだ。 
 ケイロンの機体はケンタウロスのように半人半馬、要は人間の上半身に馬の体がくっついている。

 そんな形状の機体が前半分を持ち上げるとどうなるのか?
 上半身が真上に向く。 それにより背に乗っているマルメルが射線を取れるのだ。
 両肩に乗せた二挺の銃器が火を噴き、その間にケイロンはやや無理のある体勢で篠突に向けて対物ライフルを向ける。 マルメルは自分の突撃散弾銃とケイロンの散弾砲で広範囲に弾をばら撒く。

 特にケイロンの散弾砲はオーダーメイドで長銃身で射程も長い。
 クラスターのようなばら撒くタイプのミサイル迎撃には適している。
 二人は弾丸の驟雨を浴びて全身に傷が刻まれるが構わない。 

 マルメルはミサイル迎撃に全てを傾け、ケイロンは冷静、冷徹に狙いを付けて発射。
 上下同時に処理されるとは思っていなかったのか、それともマルメルの存在を軽視したのかは何とも言えないが、二人という事をあまり意識しなかった。 それは篠突の敗因と言える。

 放たれたケイロンの弾体は吸い込まれるように機体の中心を射抜き、そのまま撃破。
 
 「お見事です」
 「背に頼りになる乗り手が居たからだ。 偶にはこういうのもいいな」
 
 ケイロンはマルメルに大きく頷いて見せると「いやぁ」と照れるように身をくねらせた。
 そのマルメルもしっかりとミサイルを迎撃して見せたのは見事だ。
 
 「あの体勢でしっかり当てるケイロンさんも凄かったけど、ミサイルを防ぎきったお前も凄ぇよ! 焦らずに落ち着いていたし、前よりも安定感が出て来たな!」
 「まぁな! 師匠との特訓の成果って所だな!」

 アリスと特訓していたという話は聞いていたので、なるほどと頷く。
 彼女は中衛としての完成度は極めて高い。 マルメルとしてもいい刺激を貰ったのだろう。
 映像の中の二人はそのままヨシナリの援護に向かうのだが、それは後に回したい事もあっていったん止めて巻き戻す。 

 次は――

 「あー、私でお願いしていいですか? お恥ずかしい話、早々にやられてしまったのであんまり見どころがない事もあって早めに消化して欲しいと言いますか……」

 シニフィエが申し訳なさそうに挙手していた。 

 「分かった。 えーっと、特に反対もないので次はシニフィエで」

 映像を戦闘の開始付近まで戻し、シニフィエへとフォーカス。
 彼女は身を隠しつつ近接機の抑えか後衛機の奇襲を担っていた。
 その為、アイロニーからステルスヴェールを借りて気配を消しつつ峡谷を渡り、最初は霧ヶ峰を仕留めに行くつもりだったのだが、マルメル達がキュムラスに捕まったのを見てそちらのカバーに回ったのだ。

 「キュムラスはマルメル達とあんまり相性が良くなかったからいい判断だったよ」
 「これで勝てたらもうちょっと大きな顔が出来たんですけどねぇ……」

 キュムラスの機体「ネーフォス」は霧状のフィールドを展開し、その内部で一方的な優位を得てから相手を狩るという変わったスタイルのプレイヤーだ。
 機体の傾向としてはベリアルのプセウドテイに近く、特定の機能に特化したタイプと言える。

 手足はなく胴体と頭部、そして霧と攻防、ドローンの制御を担う巨大なリングのみといったシンプルなデザインだ。 この霧はかなりの曲者で影響下に入るとシックスセンスですら大半の探知項目が死ぬ。
 その為、ヨシナリとは相性が最悪の相手だ。 

 これに霧ヶ峰が加わると完封すらされかねない恐ろしい機体といえる。
感想 0

あなたにおすすめの小説

局地戦闘機 飛電の栄光と終焉

みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

森のカフェしっぽっぽ

森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
五十代後半の初老――サトルが営むのは、就労支援B型事業所を兼ねた猫カフェ「森のカフェしっぽっぽ」。 一階には利用者が作った木工小物や布雑貨が並び、 猫たち(イチ・きな・トラ・チビ・そして極度の臆病猫ジル)が自由気ままに接客(?)をしている。 しかしこの店には、誰も知らない“もう一つの顔”があった。 地下の倉庫兼店舗は異世界と繋がっている。 ただし、異世界人は地球には来られない。 行き来できるのはサトルだけ。 向こう側には|蜥蜴人族≪リザードマン≫の商人、 頑固な|鉱人族≪ドワーフ≫の職人、 静かな|森人族≪エルフ≫たちがいて、 サトルは彼らから“ちょっとだけ現実を楽にする品”を仕入れている。 仕事に疲れた会社員。 将来に迷う若者。 自信をなくした人。 サトルは客の空気を読み、異世界の商品をさりげなく勧める。 そして、棚の影で震えるジル。 怖がりで、音にびくつき、すぐ隠れる。 それでも店からは逃げない。 その姿が、なぜか人の心を少しだけ軽くする。 これは―― 福祉と商売と猫と異世界が、ゆるく混ざり合う物語。 震えながらでも前に立つ者が、 今日も小さく世界をつなぐ。

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。