Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第788話

 シニフィエは背後から強襲したがキュムラスはひらりと余裕を持って躱す。
 流石に接近されると不味い形状をしているだけあって危機感知に関しての能力は非常に高い。
 後退しながら霧の濃度を上げ、キュムラスの姿が沈むように消えるのだが――

 「んん? これリプレイでも見えないのか?」

 映像を弄るが霧に覆われてまともに見えない。 
 設定を弄ってもぼんやりと輪郭が見えるだけだった。

 「そう言えばそうだったな」
 「設定を弄ってもほとんど見えねぇから直接戦り合わないと情報が仕入れられないのがウゼぇ」

 ケイロンが首を傾げ、ユウヤも似た事を考えたのかそんな事を口にした。
 ヨシナリは何とか見えないかと色々と弄るが、引いても寄せても霧とその中で微かに動く影のような物が見えるだけだった。

 「映像の見返しは無理だな。 シニフィエ、解説を頼む」
 「はい、やりますけどあんまり余裕なかったから細かい所まで覚えてませんよ」
 「構わない。 流れだけでもいいよ」

 シニフィエはうーんと記憶を掘り返しながら戦闘の流れを口にした。

 「元々、キュムラスって人の戦い方に関しては事前に聞いていたし、想定される相手でもあったのであの霧の中で視界が利かない事も分かってはいました。 ぶっちゃけ姉に押し付けたい相手ではありましたが、想像以上にヤバい相手でしたよ」

 映像の中では霧の中で微かな光が瞬く。 ドローンによるレーザー攻撃だろう。
 キュムラスの戦い方は霧で完全に相手の視界から消え、索敵能力を喪失させた上でドローンで処理。
 しかもそのドローンがかなりの小型で発見が非常に困難なのだ。
 
 分かり易い対処法としては相手の土俵で戦わない事。 
 ケイロンが実践しようとしてたが、加速して霧の影響範囲外へと出た上で範囲外から実体弾等の質量兵器を用いた飽和射撃がベストだ。 

 ただ、霧の範囲が50メートル四方と非常に広い点からかなりの手数か攻撃範囲が要る。
 カカラ辺りだとかなり楽に勝てる印象の相手だった。
 逆にユウヤやベリアルといった近~中距離戦を得意とするプレイヤーとの相性がかなり悪い。

 ヨシナリとしてもあの中で戦いたい相手ではなかった。
 シニフィエも同意見だろうが、逃げるという選択肢は取れない。 
 彼女が仕掛けた理由にはマルメル達を追わせない事も含まれており、引き付ける為にも相手の土俵で戦わざるを得なかったのだ。

 「感じ的に結構撃たれてるな。 躱せてるって判断しても?」
 「はい、相手の殺気を読んで何とかですが」

 ――何だって?

 「えっと? 相手の攻撃兆候を読み取って躱したと?」
 「はい、姉ほどではありませんが、修行で微かにですが分かるようになってきました」

 おっと、参考にならなさそうな対処法が出て来たな。 
 殺気を感じるという話は以前から聞いており、シニフィエ曰く「意識の焦点が向かう場所」との事だが、ヨシナリにはさっぱり分からなかった。 

 身に付けられたのなら便利ではあるがどうやっても殺気のさの字も分からない。
 レーダーやセンサーに頼らずに相手の攻撃兆候を読み取るなんて真似ができるのか?
 ふわわが実際にやっているのを見ていなければ、絶対に信じなかっただろう。

 「以前にも説明したと思いますが殺気は相手が向けてくる意識の焦点です。 そこから相手の攻撃兆候を読み取る事で見えなくても視えるという訳ですね」

 ――やべぇ、さっぱり分からない。

 いや、言っている事自体は分かる。 
 殺気とやらを感じる事で相手が自分の何処を狙うかが分かるのだ。
 キュムラスは偏執的とも言えるレベルで綺麗な仕留め方を意識している。

 そうでもなければ極細のレーザーなんて使わない。 
 キュムラスに斃された者の大半はアバターのみを焼き尽くされ、静謐に沈むとというのはベリアルの言だ。 規模が小さい事もあって威力も低いのではないかと思いがちだが、実際は逆だった。

 極限まで小型化と高出力を追求したレーザーは針で突いたような傷しか与えないが、裏を返せば大抵の相手には突き刺さるのだ。  
 事実としてケイロンもキュムラスとのランク戦ではコックピット部分を狙い撃たれる形で敗北している。 つまり、重装甲の機体でも貫通する――少なくともコックピットを焼く程度の威力があるのだ。

 キュムラスにとってはそれで充分。 霧に身を隠し、物理的に探知し辛い針の一刺しで仕留める。
 シニフィエの担当はキュムラスか凍露の相手を任せるつもりだった事もあって対策は頭に入っていたという事を差し引いても凄まじい。

 「――まぁ、でも負けちゃいましたけどね」

 殺気を発するのはキュムラス本人であってドローンは遠隔操作だけあって気配はない。
 なら、視るべきは何か?

 「相手が仕掛けたいタイミングです」

 ドローンは遠隔操作である以上、引き金を引くのは本人だ。 
 その際に漏れ出る殺気を読み取る事が出来たなのなら躱す事は不可能ではないとの事。
 突っ込みたい気持ちをぐっと抑えて何とか呑み込む。 
 
 そうして躱し続け、間合いを詰める所までは行ったのだが、相手はランカー。
 簡単に行かないのがこのゲームの難しい所でもある。
 
 「例のリングは接近された時の備えでもある事は聞いていましたが、リーチ自体はそこまでではないのでギリギリまで近寄って貫手で処理しようとしました。 ――それがよくなかったようで、相手は自機ごと私のアバターを狙いに来ました」
 「あぁ、なるほど。 破壊力がない事を上手に利用されたな」

 口径が小さい以上、急所を捉えない限り致命傷にはなりえない。
 それは自身にも言える事で、肉薄したシニフィエを自分の機体ごと撃ち抜いたのだ。
 結果、シニフィエはそのまま崩れ落ちた。

 「これは相手が一枚上手だったな」
 「ですねぇ。 いやはや、我ながら精進が足りませんでした。 申し訳ない」

 シニフィエが大きく肩を落とした所で映像を止めようとしたが、別の戦闘音が聞こえて来た。
 
 「誰だ?」

 タカミムスビから逃げ回る事に注力していた事もあって戦闘の細かい推移を把握していなかったヨシナリは首を傾げる。 

 「あ、俺っすね」

 ホーコートだったようだ。 ヨシナリは努めて感情を表に出さずにそうかと呟き少しだけ巻き戻す。
 彼の動きを確認する為だ。 ホーコートは最初のタカミムスビの斉射から回り込む形で渓谷を越え、最初は後衛を狙うつもりだったようだが、それよりも早くユウヤが斬り込みに行った事でキュムラスに仕掛けに行ったようだ。
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