Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第801話

 「なぁ、これどうやってるんだ?」
 「そんな小難しい事はしてないよ。 移動した後にエーテルの分身を残しただけだ」
 「マジか。 凄ぇな」

 タカミムスビの意識を散らして正面へ。 
 最後とばかりにアマノイワトが口を開いてエネルギーを再充填。
 ヨシナリもここで決着をつけるつもりのようだ。 腕を大きく振り上げる。
 
 手にはふわわの機体から回収した野太刀。 
 本来の機能に加え、エーテルによって過剰供給されたエネルギーによって闇色の紫電を放つ。
 タカミムスビの発射は間に合わない。 

 ――斬。

 闇の叡智によって染め上げられた野太刀による一閃はタカミムスビの頭頂部から入ってその機体を縦に両断。 あの堅牢なアマノイワトが真っ二つに分かれ爆発する。
 それを見てヨシナリは顔を覆うと小さく溜息を吐いた。 

 これで勝てれば最高に熱い勝利が手に入ったと喜べる所なのだが、ここで違和感に気付くべきだった。
 「思金神」はタカミムスビを仕留めた事で全滅したのだ。 なら試合が終わるはずだった。
 そうならなかった時点で警戒するべきだったのだ。 

 映像の中のヨシナリも違和感に気付いて動こうとしたが次の瞬間、ホロスコープは何かに切り刻まれバラバラになって爆発。 脱落となった。
 これで「星座盤」は全滅。 ヨシナリ達の敗北となったのだ。

 映像の再生が終了。 少しの間、誰も何も言わなかった。
 
 「……最後に転移を使ったタイミングだな」
 
 最初に口を開いたのはユウヤだった。 恐らくはタカミムスビが何かをしたタイミングの事だろう。

 「中に入っているとは知らなかった」
 「奴は欲望の化身。 原初の現身を手放す訳がなかったか」

 同意するようにケイロンが頷き、ベリアルも納得したかのように同意を口にする。

 「結局、何だったんだ?」
 「……あの野郎のデカい図体の中に本体が入ってたんだよ。 要はあのデカブツはただのガワだったって訳だ」

 ユウヤの答えにマルメルはあぁと納得したかのように頷いた。 
 ヨシナリにも理解は出来たのだ。 タカミムスビは最後に転移したタイミングで脱出。
 あの巨体を囮にし、ヨシナリが破壊した所を一刺し。 なるほど、余裕がある訳だ。

 本体はノーダメージだったのだ。 
 必死に削ろうとしていたヨシナリの姿はさぞや滑稽に映っただろう。  
 
 「……あぁ、悔しいなぁ。 ――ふぅ、ともあれこれで感想戦は終了となります。 お付き合いいただきありがとうございました。 特にケイロンさん、アイロニーは来てくれて本当にありがとうございます。 結果は残念でしたが、一緒に戦えてよかったです」

 ヨシナリは努めて明るくそう言って見せる。

 「あぁ、俺も一緒に戦えてよかった。 そして済まない。 守ると立てた誓いを果たせなかった」
 「全力で取り組んで出た結果です。 気にしないでください」

 ケイロンは言葉を探すように何かを言いかけたが、何も言わずに小さく唸った。
 代わりに大きく頷いて見せる。 

 「……また会おう」
 
 そう言ってケイロンは姿を消した。 
 
 「シニカル。 結果は伴わなかったが私にとっても実りある時間だった。 感謝する」
 「いえいえ、こちらこそありがとうございました。 アイロニーが居なかったらあそこまで戦えなかったので」
 
 アイロニーはニヤリと笑って見せた。

 「――例の物は後で送っておく、有効に使ってくれ。 では私もこれで失礼する」

 最後にアルフレッドを一瞥すると笑顔で小さく手を振るとアバターが消失。 去って行った。
 
 「……さーて、皆もお疲れみたいだし俺らも解散でいいんじゃないか?」

 マルメルはヨシナリを一瞥。 ヨシナリはお見通しかと内心で相棒に感謝して頷いて見せる。
 
 「そうだな。 すっげー疲れたし俺はこれで失礼します。 お疲れでした」
 「そうやねー。 お疲れ様ー」

 メンバーが各々に挨拶を口にすると自室に戻る者、ログアウトする者とそのまま解散となった。
 ヨシナリはログアウトせずに自室に入る。 ウインドウを出現させて室内のステータスを確認。
 防音はしっかりと機能している。 ヨシナリは無言で部屋の隅にぶら下がっているサンドバッグを殴りつけた。

 技術も何もない。 感情に任せた拳がサンドバッグを大きく揺らす。

 「ああああああああああああああああ!! 畜生! 畜生!! 畜生が!!!」

 殴る殴る殴り続ける。 このゲームを始めてそこそこ経ったがここまで腹が立ったのは始めてた。
 
 「クソが! 舐めやがって!!」

 最初から全員纏めて相手にするつもりだと宣い、損傷を修復する時間を与え、馬鹿でも分かるように待っててやるからかかって来いと煽る。 

 ――そしてそこまで舐められた結果、当然のように負けた。

 恐らくはアレがタカミムスビの本当の機体――アマノイワトの真の姿なのだろう。
 それを引っ張り出しただけで終わった。 つまりスタートラインに立った所で負けたのだ。
 タカミムスビが余裕だった理由が今ならよく分かる。 あの外装を剥がすのは彼と勝負する上では前提に過ぎないのだ。

 そんな事にも気付かず必死に戦ったヨシナリ達は彼からすればさぞや滑稽に映っただろう。
 
 「待ってろよクソ野郎。 次に戦る時は必ず殺してやる。 絶対に叩き潰す。 ――あぁ、畜生。 なんであの時、俺は勝ったと油断したんだ。 負けたのはお前の所為だ。 馬鹿が、死ね。 死んでしまえ」

 屈辱感で脳が茹で上がり、情緒が安定しない。
 いつの間にか殴る手は止まり、ゴスゴスとサンドバッグに頭を打ち付けていた。

 ヨシナリは負けた事、それ以上に自分の弱さが許せない。 
 あの場でタカミムスビに届いたのはヨシナリだけだ。
 
 貴重な勝ちの瞬間を思い込みで取りこぼした。 少なくとも分離に気付くチャンスはあったはずだ。
 一瞬しか見えなかったが通常機体とそこまで変わらないサイズ、ボリューム感からあの状態のホロスコープなら充分に殺せたはずだ。

 倒したと気を抜いてしまった。 あの一瞬。 あの一秒。 
 致命的な隙を晒したあの瞬間の自分を八つ裂きにしてやりたい。
 しばらくの間そうしていたが、怒りを発散して徐々に冷静さが戻ったヨシナリは動きを止める。

 思考は怒り、自責からどうすれば勝てたかの考察へとシフト。
 今回に関しては細かな敗因はいくらでも挙げられる。 
 そもそもが初手速攻からのラッシュによって数を減らしタカミムスビを孤立させるという根底から無茶な作戦内容だったのだ。

 ――実力不足。

 今の「星座盤」が「思金神」の一軍相手に正面から戦うにはまだ時期尚早。
 そんな結論に着地してしまう。 

 「やっぱり、キマイラフレームじゃそろそろ限界か……」

 ジェネシスフレームにはまだ遠い以上、今の状態で強くなる方法を模索しなければならない。
 足りない機体性能は技量で補え。 負けた時の言い訳を探すな。 勝つ為の武器を増やすのだ。 
 ヨシナリは無言でウインドウを操作。 ランク戦への参加操作を行った。
 
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