Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
803 / 865

第803話

 並んだ的が撃ち抜かれて次々と破壊される。
 場所はトレーニングルーム。 グロウモスは黙々と的を撃ち続ける。
 考えるのはさっきの戦闘。 彼女からすれば非常に悔いの残る内容だった。

 何故なら最後のタカミムスビとの戦いに参戦する事すらできなかったからだ。
 グロウモスの役目は霧ヶ峰の排除。 その為、最低限の仕事はしたのだが、勝つ為には足りない。
 少なくともあそこは脱落していい場面ではなかった。 

 ――だけど――

 今度はドローンを飛ばし、反射を用いて的を射抜く。 
 撃つ、撃つ、撃つ。 次々とビルの陰に隠れた的をエネルギー弾が射抜いていく。
 何度脳内でシミュレーションしても霧ヶ峰を無傷で処理できるビジョンが浮かばなかった。
 
 どう頑張っても最後の一撃は貰ってしまう。 
 それが分かっていたからこそ、アルフレッドに奇襲を頼んだのだ。
 今の自分では霧ヶ峰に勝つのは難しい。 

 そう冷静に結論を出せたから仕留められたとも言えるのだが、こちらにはアイロニーが居た。
 彼女の修復能力を用いれば生きてさえいれば何とかなったかもしれないのだ。
 大破ではなく、何とか中破に抑えられれば――いや、下手に守りに行くと警戒される。

 思考とは裏腹にグロウモスの手は無機質に引き金を引き、的を次々と破壊していく。
 なら、アルフレッドを行かせずに正面からの撃破を狙うべきだった? あり得ない。
 あれはグロウモスを仕留めたと思った霧ヶ峰の意識に生じた隙を物理的に突かないと成立しない。

 霧ヶ峰とのマッチアップは前提である以上、相手を変えるといった「たられば」は意味がない。
 何度繰り返しても霧ヶ峰を生きて仕留めるビジョンが浮かばなかった。
 
 「――はぁ」

 溜息を吐く。 
 今度はドローンを二つにして的を狙うが、エネルギー弾は的から僅かにズレた位置に着弾。
 ダメだった。 最終的に自身の技量不足、機体のスペック不足に落ち着いてしまう。
 
 前者は少し長い目で見なければならないが、後者に関しては分かり易く強さを盛れる。
 彼女は既にBランク。 このまま勝利を重ねればAランク――ジェネシスフレームが見えてくる。
 ジェネシスフレーム相手に既存機で戦うのは常にスペックの不利を背負い続ける事になるのだ。

 その辺りを改善しないと常にスペック差で負けたと自分に言い訳を許してしまいそうになる。
 ヨシナリの手前、そんな格好の悪い事は出来ない。 
 何故ならヨシナリからするとグロウモスは愛しい対象。 つまりは偶像に近いのだ。

 恋愛という物は本当に奇怪なもので、一度でも患ってしまうと「恋愛フィルター」なる謎の美化現象が発生するらしい。 最近、読み始めたラブコメ漫画で見たので間違いない。
 ヨシナリはグロウモスに対して絶対的な信頼を預けている。 

 惚れている度数で言うなら4000%ぐらいだろう。 そんな彼女が無様を晒すとどうなるか?
 ヨシナリはきっとこう思うはずだ。 「あれ? 思ったほどじゃなくね??」と。
 そうなるとグロウモスに対しての関心が若干ではあるが薄れるのではないか?

 だが、4000%という絶対的な数値は簡単には揺るがないが、その心にできた僅かな隙間からゴキブリのように侵入し、居座って自分の物へと変えようとしているのが泥棒猫と呼ばれる人種だ。
 奴らの恐ろしい所は瞬間的な快楽と浮気、不倫という禁忌を冒す緊張感によるスリルを用いて対象を後戻りできない領域へと誘うのだ。 

 ヨシナリと言えど生物学的には雄なのだ。 泥棒雌猫のフェロモンに血迷うかもしれない。
 エロ漫画で死ぬほど見たシチュエーションだ。 泥棒猫共は揃って同じ事を言う。
 
 ――身体は正直だ、と。

 想像してグロウモスの理性が沸騰するのを感じる。 スコーピオン・アンタレを二連射。
 エネルギー弾は二機のドローンを反射して的を射抜いた。 それを見て思考が止まる。 
 当たった事もそうだが、それ以上にある事を思いついたからだ。 

 「フヒ、ど、泥棒猫共め。 侵入する隙間なんて絶対にあげなぁい」

 そう言ってグロウモスは射撃姿勢を変えた。

 
 ユウヤの散弾砲が火を噴く。 狙ったエネルギー式の散弾は標的を捉えられずビルを破壊。
 舌打ちして背の大剣を一閃。 敵機を捉えたかと思えば既に背後。
 背後からの刺突を腕で受ける。 そこに居たのは影のような機体――プセウドテイだ。

 「煉獄の化身よ。 精彩に欠けているな。 気に病んでいるのか?」 
 「それはお前もだろうが」

 電磁鞭を一閃。 ベリアルは転移で躱して近くのビルの上へ。
 結局、敗因を考えてもテンションが下がるだけだと判断し、ベリアルを誘ってこうして模擬戦を行っていた。 センサー系の感度を上げて転移の兆候をすぐにキャッチできるようにする。

 ベリアルの姿が消失。 大剣をハンマーに変形させ、下から掬い上げるように振り上げる。
 転移先を捉えたがベリアルはする抜けるように回避。 
 戦い方を組み立てながらも考えるのはさっきの戦いについてだ。 

 ニニギを撃破できたのはいい戦果と言えるが、個人戦ではなくユニオン戦である以上はチームが全滅したので負けなのだ。 そう負け、敗北。 
 しかもタカミムスビには明らかに余裕があった。 つまりは舐められた上でも敗北だ。

 「悔しいか? 俺もだ」
 
 見透かしたようにベリアルの言葉に何も返せなかった。 その通りだったからだ。
 
 「あぁ、あのクソ野郎のニヤケ面に一発喰らわせたいのもあるが、大見え切って無様に負けた自分自身に腹が立ってしょうがねぇ」
 
 紛れもない本音だった。 
 タカミムスビに対して腹が立っていないと言ったら嘘になるが、真っ当な勝負である以上は敗北の責任は当事者であるユウヤ達自身の物だ。 

 これでも優勝を視野に入れた強化も行ったのだが、まるで足りていなかった。
 性能差の暴力で圧倒されただけと慰めたい所ではあるが、タカミムスビはインドのカンチャーナと違いしっかりと自身の機体を使いこなしていた。 

 ――言い訳の余地はない。

 「なぁ、厨二野郎」
 「なんだ。 戦友よ」

 ユウヤは散弾を二連射しつつ距離を取るがベリアルは転移を絡めた旋回で回避。
 
 「どうすれば勝てた?」
 「ふ、何故負けたかを論ずるよりは有意義、か」

 ベリアルがエーテルの弾をばら撒くのを大剣を盾に防ぐ。
 肉薄し、ラッシュをかけて来るプセウドテイの爪を受けた後、拳で反撃。
 受けに回るとそのまま押し切られるからだ。 

 「――俺にも分からん。 だが、はっきりしている事もある」
 「何だそれは?」
 「答えは戦いの中にしかないという事だ!」

 まぁ、そうか。 結局の所は仮想とはいえ、体を動かさないと見えない物ある。
 余計な考えや沈んだ気持ちを追い払う為にもここは目の前の戦いに集中する時だろう。
 ユウヤは雑念を追い払い目の前の戦いに意識を傾ける。 今はこの戦いを楽しむべきだからだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

局地戦闘機 飛電の栄光と終焉

みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

森のカフェしっぽっぽ

森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
五十代後半の初老――サトルが営むのは、就労支援B型事業所を兼ねた猫カフェ「森のカフェしっぽっぽ」。 一階には利用者が作った木工小物や布雑貨が並び、 猫たち(イチ・きな・トラ・チビ・そして極度の臆病猫ジル)が自由気ままに接客(?)をしている。 しかしこの店には、誰も知らない“もう一つの顔”があった。 地下の倉庫兼店舗は異世界と繋がっている。 ただし、異世界人は地球には来られない。 行き来できるのはサトルだけ。 向こう側には|蜥蜴人族≪リザードマン≫の商人、 頑固な|鉱人族≪ドワーフ≫の職人、 静かな|森人族≪エルフ≫たちがいて、 サトルは彼らから“ちょっとだけ現実を楽にする品”を仕入れている。 仕事に疲れた会社員。 将来に迷う若者。 自信をなくした人。 サトルは客の空気を読み、異世界の商品をさりげなく勧める。 そして、棚の影で震えるジル。 怖がりで、音にびくつき、すぐ隠れる。 それでも店からは逃げない。 その姿が、なぜか人の心を少しだけ軽くする。 これは―― 福祉と商売と猫と異世界が、ゆるく混ざり合う物語。 震えながらでも前に立つ者が、 今日も小さく世界をつなぐ。

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。