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第53話

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 レラナイトから奪ったパーツはカラーリングなどもそのままの状態だったのだが、マルメルは自分で使用するに当たって黒と緑の迷彩柄に塗り直したようだ。
 Ⅱ型へと機種転換を済ませた彼の機体「アウグスト」はⅠ型以上の加速でトレーニングルームを疾走する。 レラナイトは軽量で飛行を意識した機体構成だったが、マルメルは大きく上がった出力を利用して重武装にすることにしたようだ。

 追加の装甲を盛って防御力を上げ、背中には着脱可能なマガジンブロックシステム――要は自動給弾装置を搭載し腰にマウントした短機関銃を自動でリロードできるようにした。 ブロック式なので使い切ればそのまま切り離して捨てられる。
 両肩には小さなアームとエネルギーシールド発生装置。 こちらも使い捨てなので軽い上に使い切れば切り離して軽くできる。 ただ、使い捨てだけあって性能としてはあまり過信はできない。

 メインウエポンはエネルギーライフルと肩に吊っている突撃銃。
 マルメルは機体を加速させてエネルギーライフルを構え、出現したターゲットへ向けて発射。
 エネルギーの弾丸がターゲットを掠めて背後のビルを貫通する。 命中はしなかったが掠めただけでターゲットは熱で溶けかけていた。 マルメルは即座に近くのビルの陰に入り、僅かな間を置いて飛び出して再度発射。 今度は完全に捉え、ターゲットを蒸発させる。

 「ふぅ」

 マルメルが小さく息を吐くと機体を引っ込めてアバターの姿になる。
 
 「どうだった?」
 「あぁ、いい感じだ。 あれだけ色々盛ったのに使用感がⅠ型と変わらないのは本当に凄ぇ」
 「レラナイトと同じように飛行して空から仕掛けるって戦い方もあったけど、こっちで良かったのか?」
 「あぁ、慣れない事やってもしょうがないし、距離あるとあんまり当てられないからこれでいいんだよ。 それに俺は突っ込んで弾をばら撒く方が性に合ってるからな!」

 機体出力の増加により積載量が大幅に増した事を利用してマルメルは機体の総合的な強化を行った。
 追加装甲とシールドによる防御性能の向上、武器はエネルギーライフル以外はⅠ型からの物をそのまま使っているが、重量の所為で付けられなかった給弾システムの導入で継戦能力が上がっている。

 特に給弾システムはブロック式なので空になったブロックを切り離して捨てる事ができるので、最終的には機体がどんどん軽くなっていく。 装甲もパージできるタイプなので、全て脱ぎ捨てれば飛行も可能となるだろう。 これまでの経験を活かし、彼なりに自らの最適解を突き詰めた機体だった。

 「いいと思う。 これから頼りにしてるぜ!」
 「おう、任せとけ。 折角、譲って貰ったんだ。 後悔させないような活躍を期待してくれ」
 

 大渦との総力戦から数日。 Ⅱ型の関連パーツ、武装の全てを奪われたレラナイトはあちこちで星座盤の悪口を吹いて回っていたらしい。 あいつらは卑怯な手を使った、人の努力の結晶を奪った屑だ、俺は勝っても寛大な処置を取るつもりだったのにあいつらには人の心がないなどなど。

 ――で、その後にぱったりとログインしなくなったらしい。

 やる気がなくなったのかとも思ったが、連絡できるか試したら検索しても「そのようなアカウントは存在しません」と表示されたのでそういう事だろう。
 どうやらラインを越えて暴れた結果、運営に消されたようだ。 自分で消えた可能性もなくはないが、あれだけ悪口を吹いて回っていた以上、あの程度で気が済んだとは考えにくい。

 マルメルやふわわには何も言わないがヨシナリは消されたなと確信していた。
 こういった事象を見ると以前に考えていた、ユニオン機能はモラルの低いプレイヤーの炙り出しも含まれているのではないかと疑いたくなる。 いや、まさかとは思うが主目的は――そこまで考えて内心で首を振った。 どうでもいい話だからだ。

 そんな事もあってユニオン「大渦」はリーダーが交代となったのだが、確認すると人数が減っていた。
 恐らくそう遠くない内に空中分解した後、消滅だろう。 あの集まりはレラナイト一人で保っていたようなものだったので、この結果は順当といえる。

 「そういえばこれからどうするんだ?」
 
 不意にマルメルがそんな質問をしてきた。 場所は変わってユニオンホーム。
 ふわわがもう少ししたら合流できるのでそれまで待っているので、少しだけ時間を持て余していた。
 
 「どうするというと?」
 「ほら、方針としては俺達の強化だろ? 目先に目標を持つのは良いけど、こう、もっと大きい中間目標的も掲げといた方が良いんじゃないかって思うんだよ俺は!」
 「はは、まぁ、目標はいくらあっても困らないからいいとは思うよ。 俺自身は目先の目標としてはふわわさん、俺の機種転換が終わったらユニオン戦を積極的にやっていこうかなって感じだ。 それと並行して個人ランク上げぐらいかな?」

 現在、ヨシナリ達のランクはG。 そろそろFを狙ってもいいかもしれないと思い始めていた。
 ただ、FぐらいからⅡ型を使っている者が増えてきているので万全を期すなら機種転換を済ませてからの方が無難だろう。 可能であれば早く上げてしまいたいが、焦っても仕方がないのでこればかりはじっくりやるしかない。 

 「例の復刻イベントに関しては?」
 「あー、できれば最後まで生き残りたいけど、前回とまったく同じ内容だし今の状態だとかなり厳しいかなって思ってる」
 
 当然、参加するつもりではあったが、終盤戦まで生き残れる自信がなかったので気持ちはやや消極的だ。 最後まで参加したい。 最前線で戦いたいといった気持ちは強いが、まともに戦いたいなら最低でもBランク以上、機体は可能ならエンジェルタイプ、最低でもキマイラタイプがないと厳しい。

 一月足らずでそこまで至るのは現実的ではない。
 最善を尽くすつもりではあるが、まともに活躍するのは諦めていた。
 その為、ヨシナリのイベントでの目的は当事者として最後まで見届けたい要は最後まで生き残る事。

 我ながら志が低いとは思うが、現実的に達成可能なラインがそこなので諦めるしかなかったのだ。
 
 「まぁ、ハイランカー様を差し置いての活躍は厳しいか。 俺達は俺達なりにできる事を積んで行こう。 ま、仮にまた負けたら復刻されるだろうし、勝った場合は次のイベントもあるんだ。 焦らずに行こうぜ、俺達も強くなってるし、時間をかければその内前線に混ざっても邪魔にはならない程度にはなれるだろ」
 「あぁ、そうだな」

 そんな話をしているとちょうどふわわがログインしてきたので会話はこれからどうしようかという話にシフトした。
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