Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第55話

 電脳化、ナノマシンによる脳内チップの精製。
 様々な手段で人間は脳を覚醒させていった。 そしてその進化は留まるところを知らず、コネクト―ムと呼ばれる神経回路のマッピング――コネクトミクスと呼ばれる研究によって人間の才能が可視化されており、応用する事で才能を後天的に付与する事が可能になりつつある。

 現在は高額かつ不安定ではあるが、それでも誰でも様々な事が容易にできる事になる未来の輪郭は見えており、将来的に努力という概念は形骸化するのかもしれない。 この研究が進めば才能と呼ばれるものは人類の共有財産となるだろう。 そしてそれはこの世界では広く知られた事実でもある。

 加えて義体などの移植――サイバネティクスによって人体機能の上限を取り払われている昨今、武道の需要はそう高くないのではないか? それがヨシナリを始め、この世界の人間の大多数の共通認識だった。
 マルメルも同じ意見で、趣味の延長や嗜みでやるものと思っていた。

 「ふふん。 これだから素人は~」
 
 ふわわはふんふんと鼻を鳴らす。

 「確かに色んな方法で強くはなれるよ。 実際、武道って人体を効率良く動かし、ものによっては効率よく破壊する術でもあるの。 だから、リアルな話、人体から外れた義体とかガチガチに固めたサイボーグ相手だと通用しない事も当然あるよ。 でもね、前者の効率良く動かすってところは絶対に役に立つと思う。 特に駆け引きや土壇場での対応は経験があるのとないのとでは絶対的に差が出るよ」

 そう言われるとヨシナリとしてはなるほどと頷かざるを得ない。
 実際、模擬戦で何度も彼女になます斬りにされている彼としてはこれがふわわの強さの一端と言われれば納得するしかなかった。 だからと言ってライフル弾をダガーで切り払えるようになるのかはまた別の話ではあるだろうが。

 「ほー、あのとんでもない動きはそれで培った感じですかね?」
 「そうだよ~。 マルメル君もウチの道場来る? 将来的にはダガー一本で結構戦えるようになるよ!」
 「マジっすか!? 俺、道場入ります――ってそんな訳ないでしょ。 別に馬鹿にしてるとかじゃないっすけど、そういうのって一朝一夕でできるようになれるものでもないし、遠慮しときますよ」
 
 その点はヨシナリも同意だった。 
 それ以前に何年修業してもふわわに勝てるビジョンが全く浮かばなかった事もあったが。
 
 「ま、気が向いたら声かけてよ。 パンフレット送るし気持ち安くしとくよ~」
  
 ヨシナリとマルメルは曖昧に頷き、これ以上深堀りすると不味いと判断したのかマルメルがやや強引に話題を変える。

 「そ、そう言えば、ヨシナリもⅡ型に変えるんだろ? パーツ構成はどんな感じを考えてるんだ?」
 「あぁ、実は見積もりはしておいたんだ」

 ふわわは近接特化、マルメルは中~近距離。
 そうなるとヨシナリのポジションは自然と二人の死角である遠距離をカバーする形になる。
 要はこれまで通りに狙撃手としてやっていく。 ただ、難度の高いミッションをこなし、高ランクのプレイヤーと戦っていくにはこれまで以上の技量、性能が必要となる。

 それは狙撃手としてだけでなく、一人でも戦っていける総合的な強さ。
 チームとしての貢献をしつつ、地力を上げる。 それがヨシナリのプランだった。
 言うに易しだが、空いた時間をショップの商品リストと睨めっこして割と具体的に何が必要なのかの答えは出している。
 
 ヨシナリは可視化させたウインドウを二人に見せる。 
 お買い物リストと銘打たれたそれには購入予定のパーツや武器の名称と値段が並んでいた。
 それを見てマルメルは絶句し、ふわわはまじかーと小さく呟く。

 「スコープシステムに大容量のコンデンサーとジェネレーター、冷却装置。 おい、何でコンデンサーとジェネレーターもうワンセットリストに入ってるんだよ!」
 「これじゃない? 大口径レールガン『ガングニル』うわ、消費エネルギー量すっご、Ⅱ型で賄えないから外付けで要るんだ……」
 「ってかでっか、トルーパーよりでかくね?」
 「でかいぞ。 当たれば恐らくだけど例のカタツムリもぶち抜ける」
 「はー、すっごいなぁ。 でも、こんなのあるんやったらイベントの時に使ってる人いたんじゃないの?」
 「もしかしたら初回は居たかもしれませんが、これだけでかいと目立つ上に射線が取れないので持ち込んでも使い物になりませんよ」

 威力は凄まじいがでかい、重い、嵩張る、目立つと欠点を挙げればきりがない。
 あのイベントで射線を確保したいならかなり高い位置に陣取る必要があるので、下手に構えると的にされるのは目に見えている上、そもそも置く場所を確保できるのかも怪しい。 その辺りを理解している者達は持ち込んだ所で使えないと判断したのだろう。

 「で? 凄いのは分かったけど、こんなもん何に使うんだよ」
 「当然、ミッションを回す為に決まってるだろ」

 それを聞いてマルメルは察したのか納得したように声を漏らした。

 「あぁ、今やってるのより高難度のミッションを周回するのに使うのか」
 「ウチら囮やってヨシナリ君が仕留めるって戦法をそのままスケールアップする感じ?」
 「はい、その通りです。 他の装備が本命でこのデカブツはユニオンの資産を増やす為の先行投資みたいなものですね」
 「値段凄まじいけど、これってマジで回収できるのか?」
 
 マルメルの質問にヨシナリはアバターの無表情の下で笑みを浮かべて大きく頷く。

 「できるできないじゃなくてやるんだよ」
 「……な、なぁ、それよりもメンバー増やさねぇか? スナイパー増やそうぜマジで」
 「ええかもなぁ。 即戦力でアットホームなユニオンですって触れ込みで誰か引っ掛ける?」
 「なんすか、そのブラック企業が何も知らない新卒を誘い込むような文句は。 リーダーがメンバーを馬車馬のように働かせると豪語しているんですけど……」
 「まぁ、間違いなく馬車馬のように働かせるな」
 「駄目じゃねぇか!」
 「あっはっは、募集はともかくウチらと合うかは大事やと思うよ。 一緒に居てもつまらなかったからお互いにとって良くないし」

 笑うふわわに突っ込むマルメル。 割と成り行きでできたユニオンだったが、雰囲気は良かった。
 ヨシナリはこいつらとだったらこのゲームを楽しめると根拠なくそう思えるほど気の合う二人だ。
 
 「さて、目標もはっきりしたし、取り合えずミッション行くか」

 ――だからと言って手加減するような真似はしないが。

 容赦なくこき使ってやるからなと暗に含みヨシナリは二人と共にミッションを受注した。
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