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第63話

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 ふわわは追いかける前にセンドウが投げ捨てた狙撃銃にダガーを投げつけて破壊。
 これで脅威度はかなり落ちたはずだ。 仮に逃げられてもスナイパーとして機能はしない。
 後は捕まえて撃破するだけ。 

 ――行ける。

 接近される事を避ける立ち回りは上手だが、裏を返せば接近戦に自信がない事の表れでもある。
 近寄りさえすれば簡単に処理できるだろう。 動きに関しても傾向は掴めた。
 視界から消える事を念頭に置いての行動であるなら、自然と次に何処へ隠れるのかも読める。

 そのまま追わずに背のブースターを思いっきり噴かして急上昇。
 ビルの上へ。 そのまま飛び越えて先回りするべく跳躍。
 加えて上からなら何処に隠れても簡単に発見できる。

 「いた」

 案の定、追ってくる事を想定してふわわの死角になるような位置に移動していた。
 そこを先回りすれば捕まえられる。 これで詰みだ。
 彼女の選んだ選択は頭上からの強襲。 これが最短、最速、そして最も確実な処理法だ。

 機体は乗り手の意志に従ってビルを跳躍し、センドウの機体の頭上へ。
 センドウは地面に映る影で接近に気付き、咄嗟に両手の拳銃を上に向けるがもう遅い。
 引き金を引く前に三枚におろして――

 不意にそれは起こった。 
 バチンと何かがスパークする感触と同時に画面のあちこちにエラーメッセージがずらずらと並ぶ。 
 一体何がとメッセージウインドウの一つに目を向けると『エラー、高圧電流により一時的に機体の制御不能』と出ている。 

 「ちょ、なんやのこれ――」
 『狩人は自分が狩られる側に回る事を常に意識しなければならない。 それを怠った時点であなたの負けよ』

 不意に聞こえた女の声がセンドウのものと認識した瞬間には彼女の持つ拳銃の銃口が真っすぐにふわわへと向けられ、不味いと思ったが何もできずに胴体部分に連射を受けて機体は大破。
 ふわわの機体は爆散し、彼女はこの戦場から退場となった。

 
 三対三の戦いにおいて、味方の損耗が齎す影響は非常に大きい。
 特に攻撃の要ともいえるふわわが撃破されたのだ。 ヨシナリ達の状況は一気に悪くなった。
 最初に影響を受けたのはマルメルだ。 画面の片隅に表示されている味方のステータスの内、ふわわの分がロスト。 つまり撃墜された事を知ってヤバいと冷や汗をかく。

 彼女が敗北した事は狙撃手の排除に失敗した事を意味する。 
 つまり――ガクンと機体の挙動がおかしくなった。 何だと視線を落とすと脚部、人間でいう太腿の辺りに巨大な穴が開いていた。 撃ち抜かれたと認識したと同時にツガルの突撃銃の連射をまともに喰らって機体は大破。 撃破される事となった。

 ふわわ、マルメルと立て続けにやられた事で負けを悟ったヨシナリだったが、ただでやられてたまるかと狙撃銃を向け――不意に気が付いた。 一人足りない事に。
 フカヤの機体の姿が何処にもないのだ。 

 「しまっ――」

 気づいた時にはもう遅く、重たい衝撃が背後から機体を貫く。
 ホロスコープの胴体には巨大なボルトが深々と突き刺さって貫通。 
 先端が割れるとピッピッと小刻みな電子音が鳴る。 あぁ、矢じりが爆弾なのかと悟った。 

 最期の力を振り絞って振り返るとフカヤの機体がクロスボウを構えて立っていた。 
 油断なく新しいボルトをつがえている姿を最後に刺さったボルト爆発し画面が暗転。

 ウインドウが表示され敗北した事が確定した。


 「いやぁ、負けた負けた。 流石は上位ユニオン。 やっぱりつえーわ」

 場所は変わって『星座盤』のホーム。
 マルメルがあっはっはと笑いながら気楽にそういった。
 
 「まぁ俺達、最近ちょっと勝ちすぎて調子に乗ってたし、引き締める意味でも負けてよかったかもな」

 ヨシナリもそんなフォローをするが、それには理由があった。
 ふわわだ。 彼女は負けたのが相当堪えたらしく。 部屋の隅で小さく蹲っていた。

 「……ごめんなぁ。 ウチがあっさりやられたから……」
 「いや、まぁ、えーっと……」

 マルメルがヨシナリの方へ視線を送り何とかしろと身振り手振りで訴える。
 無茶振りすんなと言いたいところだが、今回の最も大きな敗因はふわわが突出した事にあるので「そんな事はないと」はっきり言えなかったのだ。 だからと言って彼女を責めるつもりもない。

 このチームはふわわの攻撃力に頼っている面が大きかったので、負けて都合が悪くなったら責めるのはお門違いと感じているからだった。  
 ヨシナリはどうしたものかと少しだけ考えて――
 
 「取り合えず、リプレイ映像見て感想戦するか」
 

 三人はウインドウに移されたリプレイ映像を眺める。
 戦闘開始からふわわが突出し、それをマルメルが追うといった形になっていた。
 
 「今まではこれでどうにかなってたけど、一人で突出するのはあんまり良くなかったな」
 「……うん。 どうすればいいと思う?」 
 「あー、俺の機体の機動力上げるか?」
 「いや、どっちかというとふわわさんがちょっと緩めてマルメルのフォローがすぐに間に合う距離を維持してくれた方が良いな」

 彼女の速攻は非常に強力な武器ではあるが、通用しなければ敵に囲まれに行っているだけになるので失敗時の保険の意味でもマルメルとの連携が可能な距離を維持して欲しかった。
 今まではヨシナリが狙撃でフォローしていたのだが、今回は敵方にも狙撃手が居たので完全に封殺されてしまっている。 ウインドウの向こうではセンドウの狙撃で頭を抑えられたヨシナリが身動きを取れずにいた。 腕の差が顕著で居場所を掴み切れていないヨシナリに対してセンドウはかなり正確に把握している様だ。

 「こうして見ると俺っていいとこなかったなぁ」

 全体通して抑え込まれていただけだったので本当に活躍していなかった。
 呟きながら画面を拡大。 場所は戦場の中心――ふわわがツガルとフカヤの二人を相手にしているところだ。 相変わらずの動きで二人相手に主導権を握らせない立ち回りは見事だったが、センドウによるフォローで攻め切れない。 そんな膠着状態に陥っていた。

 「これ、よく見たら俺が狙う位置からだとビルで死角になってて相手からだと全体見渡せる位置だったんだな」
 「うわ、マジだ。 ヨシナリが狙う場合はビルを迂回して――あぁ、それやると狙われるな。 つまり俺とふわわさんはここに誘い込まれた感じかぁ」

 こうして俯瞰してみると敵のポジショニングは本当に秀逸だった。
 常に味方の援護を意識した立ち回り。 個々の能力では負けていないと思うが、チームとしての完成度はヨシナリ達とは比べ物にならない。
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