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第68話
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「あのリストにあった買い物で良かったのか?」
「いや、方針を変える。 元々はスナイパーとして力を発揮できる装備やパーツ構成にしてミッションを楽に回せるようにするつもりだった」
そうでもなければ『ガングニル』なんて化け物を買おうなんて思わない。
今のヨシナリとホロスコープに必要なのはどのポジションでも戦える万能性だ。
全てを満遍なく、そしてあらゆる状況に抜かりなく対応できる柔軟性。
それを実現できる装備をヨシナリは求めた。
「ふーん、なら予算はどうなったんだ?」
「プランを最初から練り直したから予算もかなり変わってくる」
ウインドウを開いてショップ画面を開く。 マルメルにも見えるように可視化。
「おいおい、まさかとは思うけど足出たりしないよな」
「それはない。 寧ろ安くなったぐらいだ」
特定の機能に特化した装備類は軒並み除外したので値段は全体的に抑え目だ。
慣れた動作でヨシナリは商品をカートに放り込んでいく。
「装甲は薄めなんだな」
「足を止めての撃ち合いは必要に迫られない限りはしないからな」
代わりにブースターとスラスターの質を上げる。
センサー類、エネルギー兵器に対応しているジェネレーター、コンデンサー、冷却装置。
ここでケチると碌な事にならない。 後はイベントを意識した武器をいくつか。
値段は初期に提示した額をかなり下回っていた。 それでもかなり高額の買い物ではあるが。
購入を済ませるとマルメルはソワソワしている。
「早く組もうぜ! そんで見せてくれよ!」
その様子にヨシナリは苦笑。
「おう、調整には力入れるつもりだし、死ぬほど付き合わせるから覚悟しろよ!」
後は手に入れたパーツを組み上げるだけで機体は完成するのだ。
操作の手間はかからないのでこの辺はゲームだなと少し思いながらヨシナリはマルメルと新しく生まれ変わった機体を試す事にした。
「――で、ヨシナリ君の機体も完成したんやね」
「はい、マルメルにも調整を付き合って貰ったけど、まだまだ使いこなせているとは思えないから――」
「そこでウチと戦るってことやね! いいよー。 ウチも連携訓練ばっかりでそろそろ息抜きに個人戦をやりたかったし」
場所は演習フィールド。
市街地に設定しており、マップの両端にふわわとヨシナリの機体がそれぞれ待機している。
「ヨシナリ君とまともに戦うんは久しぶりやねー。 手加減しないよ?」
「寧ろそうじゃないと意味がないから俺を潰すつもりで来てください」
イベントを数日前に控えているので個人戦での調整はこれぐらいにして、本番に備える為に連携訓練に力を入れる予定だ。 その節目としてヨシナリはふわわに真剣勝負を挑む事となった。
ふわわは一時、落ち込んでいたが立ち直ったのか、引き摺っている様子はない。
その様子に内心でほっとしながらもヨシナリは内心でワクワクしていた。
何故なら最初に惨敗してからふわわに借りを返す日をずっと待っていたのだから。
彼女の事を嫌っている訳ではないが、負けたままでは終われないというのが彼の本音だった。
『じゃあ俺は見てるから頑張れよー』
マルメルの気の抜けた声と同時に開始までのカウントダウンが始まる。
そしてカウントがゼロになり、戦闘が開始された。
ふわわはビル群に紛れるように飛び込み、縫うように移動。
まずは狙い難いように射線が通り難い位置へ入る。
汎用性を重視したバランス型に仕上げたと言っていたが、彼の最大の長所は正確な射撃技能にあるといっていい。 その為、ヨシナリと戦うに当たって射線を切るのは真っ先にやるべき事だ。
今回のルールでは互いの初期位置を把握した状態でのスタートなので、居場所もある程度ではあるが絞り込めるのも大きい。
――さぁ、どう来る?
それなりの数の戦いをヨシナリ達と潜り抜けて来たふわわはその戦い方や動きの癖はある程度ではあるが掴んでいる。 彼女から見てヨシナリの戦い方は一言で言うなら堅実。
リスクは最小に抑えつつ的確に戦果を上げる。 真っ先に狙撃を選んでいる点からもそれは窺えた。
隠れるだけなら誰でも出来はするが、確かな技量がそれを可能としている。
狙撃の難しさは彼女も良く理解しているので、軽く見る気はないが接近してしまえば脆いと思っている事もまた事実。 ふわわとしては自分が接近した時にどのような手段で切り抜けるのか?
対策していない訳はないのでそれを見せて欲しい。 そう思っていた。
戦場の中央に来たところで近くのビルを蹴ってクイックターン。
次の瞬間、エネルギーの弾丸がビルを貫通し一瞬前まで彼女のいた空間を通り過ぎる。
「やっぱり狙撃頼り? ちょっと芸がないんじゃないかな?」
返答と言わんばかりに二発、三発と飛んでくるが、狙いが甘く当たるどころか掠りもしない。
ふわわはビルを蹴って飛び回り、狙いを絞らせない。 その後も数発飛んできたが、当たらないと悟ったのか以降は飛んでこなくなった。
今ので位置は掴んだのでそろそろ接近戦に持ち込めそうだ。
目標は一部が破壊されたビル。 センドウの真似をしてビルの中に機体を隠しているようだ。
それを見て少しだけヨシナリに失望する。 何の捻りもなくセンドウの真似をしたところで彼女以上の能力がないなら単なる下位互換で終わるからだ。
目視できる距離に接近した事で焦ったのか更に弾が飛んでくるが、弾道も発射の間隔も掴んだので簡単に視きれる。 エネルギー系の武器は銃弾よりも速いが、質量がないのでタイミングを合わせられるなら簡単に切り払えると彼女は考えていた。 飛んできたエネルギー弾をふわわはダガーで叩き切る。
「ヨシナリ君。 何か仕掛けてると思ったけど、これで終わりならガッカリだよ」
ビルに取り付いて中に入ると――
「え?」
――そこにはホロスコープの姿はなく、三脚に支えられた狙撃銃があるだけだった。
引き金の近くでランプが点滅しており、カチりと音がして発射。
ふわわは機体の身を捻って回避。 そのままダガーで狙撃銃を破壊する。
「二番煎じって思ったでしょ? 自覚はあります。 でも、最初は凄い人の真似をしてそこから自分流って奴を確立していけばいいって俺は思ってますよ」
ヨシナリの声がしたと同時に少し離れた位置からピーと微かな電子音。
振り返るとあちこちに何かが仕掛けられていた。 爆弾。
そう認識したと同時に無数の爆発が発生し、ふわわのいるビルが沈むように崩れ落ちた。
「いや、方針を変える。 元々はスナイパーとして力を発揮できる装備やパーツ構成にしてミッションを楽に回せるようにするつもりだった」
そうでもなければ『ガングニル』なんて化け物を買おうなんて思わない。
今のヨシナリとホロスコープに必要なのはどのポジションでも戦える万能性だ。
全てを満遍なく、そしてあらゆる状況に抜かりなく対応できる柔軟性。
それを実現できる装備をヨシナリは求めた。
「ふーん、なら予算はどうなったんだ?」
「プランを最初から練り直したから予算もかなり変わってくる」
ウインドウを開いてショップ画面を開く。 マルメルにも見えるように可視化。
「おいおい、まさかとは思うけど足出たりしないよな」
「それはない。 寧ろ安くなったぐらいだ」
特定の機能に特化した装備類は軒並み除外したので値段は全体的に抑え目だ。
慣れた動作でヨシナリは商品をカートに放り込んでいく。
「装甲は薄めなんだな」
「足を止めての撃ち合いは必要に迫られない限りはしないからな」
代わりにブースターとスラスターの質を上げる。
センサー類、エネルギー兵器に対応しているジェネレーター、コンデンサー、冷却装置。
ここでケチると碌な事にならない。 後はイベントを意識した武器をいくつか。
値段は初期に提示した額をかなり下回っていた。 それでもかなり高額の買い物ではあるが。
購入を済ませるとマルメルはソワソワしている。
「早く組もうぜ! そんで見せてくれよ!」
その様子にヨシナリは苦笑。
「おう、調整には力入れるつもりだし、死ぬほど付き合わせるから覚悟しろよ!」
後は手に入れたパーツを組み上げるだけで機体は完成するのだ。
操作の手間はかからないのでこの辺はゲームだなと少し思いながらヨシナリはマルメルと新しく生まれ変わった機体を試す事にした。
「――で、ヨシナリ君の機体も完成したんやね」
「はい、マルメルにも調整を付き合って貰ったけど、まだまだ使いこなせているとは思えないから――」
「そこでウチと戦るってことやね! いいよー。 ウチも連携訓練ばっかりでそろそろ息抜きに個人戦をやりたかったし」
場所は演習フィールド。
市街地に設定しており、マップの両端にふわわとヨシナリの機体がそれぞれ待機している。
「ヨシナリ君とまともに戦うんは久しぶりやねー。 手加減しないよ?」
「寧ろそうじゃないと意味がないから俺を潰すつもりで来てください」
イベントを数日前に控えているので個人戦での調整はこれぐらいにして、本番に備える為に連携訓練に力を入れる予定だ。 その節目としてヨシナリはふわわに真剣勝負を挑む事となった。
ふわわは一時、落ち込んでいたが立ち直ったのか、引き摺っている様子はない。
その様子に内心でほっとしながらもヨシナリは内心でワクワクしていた。
何故なら最初に惨敗してからふわわに借りを返す日をずっと待っていたのだから。
彼女の事を嫌っている訳ではないが、負けたままでは終われないというのが彼の本音だった。
『じゃあ俺は見てるから頑張れよー』
マルメルの気の抜けた声と同時に開始までのカウントダウンが始まる。
そしてカウントがゼロになり、戦闘が開始された。
ふわわはビル群に紛れるように飛び込み、縫うように移動。
まずは狙い難いように射線が通り難い位置へ入る。
汎用性を重視したバランス型に仕上げたと言っていたが、彼の最大の長所は正確な射撃技能にあるといっていい。 その為、ヨシナリと戦うに当たって射線を切るのは真っ先にやるべき事だ。
今回のルールでは互いの初期位置を把握した状態でのスタートなので、居場所もある程度ではあるが絞り込めるのも大きい。
――さぁ、どう来る?
それなりの数の戦いをヨシナリ達と潜り抜けて来たふわわはその戦い方や動きの癖はある程度ではあるが掴んでいる。 彼女から見てヨシナリの戦い方は一言で言うなら堅実。
リスクは最小に抑えつつ的確に戦果を上げる。 真っ先に狙撃を選んでいる点からもそれは窺えた。
隠れるだけなら誰でも出来はするが、確かな技量がそれを可能としている。
狙撃の難しさは彼女も良く理解しているので、軽く見る気はないが接近してしまえば脆いと思っている事もまた事実。 ふわわとしては自分が接近した時にどのような手段で切り抜けるのか?
対策していない訳はないのでそれを見せて欲しい。 そう思っていた。
戦場の中央に来たところで近くのビルを蹴ってクイックターン。
次の瞬間、エネルギーの弾丸がビルを貫通し一瞬前まで彼女のいた空間を通り過ぎる。
「やっぱり狙撃頼り? ちょっと芸がないんじゃないかな?」
返答と言わんばかりに二発、三発と飛んでくるが、狙いが甘く当たるどころか掠りもしない。
ふわわはビルを蹴って飛び回り、狙いを絞らせない。 その後も数発飛んできたが、当たらないと悟ったのか以降は飛んでこなくなった。
今ので位置は掴んだのでそろそろ接近戦に持ち込めそうだ。
目標は一部が破壊されたビル。 センドウの真似をしてビルの中に機体を隠しているようだ。
それを見て少しだけヨシナリに失望する。 何の捻りもなくセンドウの真似をしたところで彼女以上の能力がないなら単なる下位互換で終わるからだ。
目視できる距離に接近した事で焦ったのか更に弾が飛んでくるが、弾道も発射の間隔も掴んだので簡単に視きれる。 エネルギー系の武器は銃弾よりも速いが、質量がないのでタイミングを合わせられるなら簡単に切り払えると彼女は考えていた。 飛んできたエネルギー弾をふわわはダガーで叩き切る。
「ヨシナリ君。 何か仕掛けてると思ったけど、これで終わりならガッカリだよ」
ビルに取り付いて中に入ると――
「え?」
――そこにはホロスコープの姿はなく、三脚に支えられた狙撃銃があるだけだった。
引き金の近くでランプが点滅しており、カチりと音がして発射。
ふわわは機体の身を捻って回避。 そのままダガーで狙撃銃を破壊する。
「二番煎じって思ったでしょ? 自覚はあります。 でも、最初は凄い人の真似をしてそこから自分流って奴を確立していけばいいって俺は思ってますよ」
ヨシナリの声がしたと同時に少し離れた位置からピーと微かな電子音。
振り返るとあちこちに何かが仕掛けられていた。 爆弾。
そう認識したと同時に無数の爆発が発生し、ふわわのいるビルが沈むように崩れ落ちた。
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