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第86話
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巨大化したクラゲ型エネミーのあちこちから巨大な砲が突き出る。
同時に傘の部分に取り込まれたカタツムリ型エネミーのパターンが輝く。
「やべぇ、あいつチャージを始めやがった」
カタツムリ型の砲撃は数発で基地を壊滅にまで追い込むほどの威力を持つ。
それが基地の真上で展開されているのだ。 発射を許せばその時点で終わる。
プレイヤー達は意地でも止めると言わんばかりにクラゲ型エネミーへと突撃を敢行。
とにかく削れと手持ちの武器を手当たり次第に撃ち込む。
取り込んだのが残骸だった所為かは不明だが、シールドの類は発生しておらず光学兵器も通ってはいた。
――がサイズに差がありすぎて効いているのかは非常に怪しかった。
ならばと接近を試みる者達が肉薄するがクラゲ型エネミーが取り込んだのはカタツムリ型だけではない。
傘の裏側から大量のミサイルが発射され、全身から無数の銃口飛び出して即座に発砲。
拳銃、突撃銃、短機関銃、重機関銃、エネルギーライフル、ガトリング砲。
取り込んだトルーパー、エネミーの全武装を展開して全方位に弾丸を撒き散らす。
狙撃銃などもあったが精密射撃は不可能なので弾を吐き出すだけの代物ではあるが、その圧倒的な物量による弾幕はプレイヤーの接近を阻む。 突撃を敢行した機体が回避しきれずに次々と撃墜されていく。
「クソ、近寄れねぇ!」
「無理でもなんでもやるしかねぇだろ! あれを撃たせたらヤバい」
「だからってこれどうやって近寄りゃ――」
最後まで言い切れずにそのプレイヤーは弾丸に射抜かれて機体が爆散する。
そうしている間にも状況は更に悪化。 砲のエネルギー充填が臨界に達しようとしていた。
「ふざけんな。 何でこんなに早いんだよ!」
「恐らく機体だけじゃなく動力源とかも取り込んだからだろ。 エンジェルタイプの動力はなんかオーバーテクノロジーの産物らしいからな」
「そんな理不尽な設定知るかよ! このままじゃ……」
流石に撃たせると不味いと判断した多くのプレイヤーは強引に弾幕を掻い潜って止めに向かうがその大半が辿り着く間もなく撃墜されていく。
「ふざけんな! ふざけんな!! ふざけんなぁ!!!」
ここまで苦労してようやく終わりが見えて来たというのにこんな所で終わるのか?
そして二か月後にまたやり直しだと? 冗談じゃない!
ここまで希望を持たせておいてそれをこんな無慈悲に奪い取ろうというのか?
このイベントはこれで三回目だ。
一度目は無慈悲に蹂躙され、二度目は情報が少ない中、必死に対策を練ってきたが敗北。
そして満を持しての三回目。 今回は必ず勝つ。
ユニオン機能の実装という追い風を受けて彼等は必勝の一念を抱きこの戦場へと降り立ったのだ。
だが、運営という名のこの世界の神は一切の甘えを許さず、苦難を突破すれば更なる苦難をプレイヤー達へと叩きつける。 度重なる絶望に耐え切れずプレイヤー達の心に亀裂が入っていく。
これはもう駄目だ。 終わった。 やってられるか。 もう勝てない。
そんな諦めの感情が戦場へと蔓延しようとしていた。
――が、それを振り払う希望もまた存在する。
残り時間をカウントしていたタイマーがリセットされる。
瞬間。 全ての砲が破壊され砕け散ったのだ。
方法は様々だ。 光が、闇が、不可視の何かが、絶望を物理的に粉砕し基地の崩壊といった最悪の未来も同様に打ち砕く。
「――来てくれたか……」
プレイヤーの一人が安堵と共にそう呟いた。
戦域にいつの間にか他のトルーパーと毛色の違う機体が現れる。
数は百にも満たないが能力はトルーパー百機を軽く凌駕する一騎当千の猛者達だ。
Aランクプレイヤー。
形式上、Sランクの下といった位置づけだが、プレイヤーとしてはある種の完成を見せた極々僅かな者だけが至れる極致。 このゲームにおける最強クラスの戦闘能力を持った精鋭中の精鋭だ。
機体も全て特殊フレームを使用したワンオフの機体で既存の型に嵌まらない。
「ふ、世界を覆う闇、か。 だが、闇は更なる闇を前にすれば取り込まれるのが運命。 侵略の尖兵よ、貴様らの放つ闇は強靭だが、この世界には俺という全てを覆いつくす真なる闇が存在する」
そんな事を言っているのは黒い機体を駆るプレイヤー。
頭からつま先まで真っ黒の機体で頭部のバイザー部分と背に付いているウイングから放出させる光だけが紅く輝いている。 形状はエンジェルタイプに酷似しているが、より鋭角的なフォルムは明確な違いとして存在感を醸し出していた。 黒い機体は本人は格好いいと思っているのかくねくねと身をくねらせてポーズを決めている。
「生と死は等価値。 だが、この戦場には「死」が溢れすぎている。 闇の王としてこの世界の均衡を保つ為、貴様を滅ぼすとしよう」
傍から見ればふざけた態度だが、その力は本物だった。
砲台を失ったクラゲ型エネミーだったが、攻撃能力を失ったわけではない。
無数の銃口や蝦蛄型のミサイルは未だに健在。 黒い機体を撃破しようと弾幕を張るが、いかなる手段を用いているのかその全てを掻い潜りクラゲ型エネミーの傘に飛び乗る。
「ふっ、俺は闇。 形なき闇。 闇故に俺を捉える事は不可能。 そして闇は深淵からお前の事を見ているぞ。 ――お前の死という未来を、な」
何かが風を切る音がしてクラゲ型エネミーの傘の一部が切り裂かれる。
これまで誰一人としてまともに接近できなかったクラゲ型エネミーへと接近どころか接触して損傷を与える。 これだけの事ができるのは機体の性能のお陰ではないのか?
そんな疑問を抱く者も多いだろう。 だが、彼等はAランクプレイヤー。
至るまで勝ち上がった物だけが力を手にする権利を得られる境地。
高性能な機体を持っているから強いのではなく、強いから高性能な機体を手にしているのだ。
そしてこの絶望的な状況ではそんな疑問は些細な事だ。
Aランクプレイヤーによって状況打開の道が見えた。 ほんの僅かでも希望が見えたのだ。
彼等にとっては奮い立つに値する十分な理由だった。
「行ける! これならいける! 勝てる! あの化け物を殺せるぞ!」
「立て直すぞ! Aランクの連中に続けぇぇ!」
一部が破壊された事で攻撃にも穴ができるそれを突いて他のプレイヤー達が殺到。
心が折れかかった者達も息を吹き返した。 この戦いも終盤戦。
必ず勝利するといった必勝の一念でプレイヤー達は死力を尽くす。
同時に傘の部分に取り込まれたカタツムリ型エネミーのパターンが輝く。
「やべぇ、あいつチャージを始めやがった」
カタツムリ型の砲撃は数発で基地を壊滅にまで追い込むほどの威力を持つ。
それが基地の真上で展開されているのだ。 発射を許せばその時点で終わる。
プレイヤー達は意地でも止めると言わんばかりにクラゲ型エネミーへと突撃を敢行。
とにかく削れと手持ちの武器を手当たり次第に撃ち込む。
取り込んだのが残骸だった所為かは不明だが、シールドの類は発生しておらず光学兵器も通ってはいた。
――がサイズに差がありすぎて効いているのかは非常に怪しかった。
ならばと接近を試みる者達が肉薄するがクラゲ型エネミーが取り込んだのはカタツムリ型だけではない。
傘の裏側から大量のミサイルが発射され、全身から無数の銃口飛び出して即座に発砲。
拳銃、突撃銃、短機関銃、重機関銃、エネルギーライフル、ガトリング砲。
取り込んだトルーパー、エネミーの全武装を展開して全方位に弾丸を撒き散らす。
狙撃銃などもあったが精密射撃は不可能なので弾を吐き出すだけの代物ではあるが、その圧倒的な物量による弾幕はプレイヤーの接近を阻む。 突撃を敢行した機体が回避しきれずに次々と撃墜されていく。
「クソ、近寄れねぇ!」
「無理でもなんでもやるしかねぇだろ! あれを撃たせたらヤバい」
「だからってこれどうやって近寄りゃ――」
最後まで言い切れずにそのプレイヤーは弾丸に射抜かれて機体が爆散する。
そうしている間にも状況は更に悪化。 砲のエネルギー充填が臨界に達しようとしていた。
「ふざけんな。 何でこんなに早いんだよ!」
「恐らく機体だけじゃなく動力源とかも取り込んだからだろ。 エンジェルタイプの動力はなんかオーバーテクノロジーの産物らしいからな」
「そんな理不尽な設定知るかよ! このままじゃ……」
流石に撃たせると不味いと判断した多くのプレイヤーは強引に弾幕を掻い潜って止めに向かうがその大半が辿り着く間もなく撃墜されていく。
「ふざけんな! ふざけんな!! ふざけんなぁ!!!」
ここまで苦労してようやく終わりが見えて来たというのにこんな所で終わるのか?
そして二か月後にまたやり直しだと? 冗談じゃない!
ここまで希望を持たせておいてそれをこんな無慈悲に奪い取ろうというのか?
このイベントはこれで三回目だ。
一度目は無慈悲に蹂躙され、二度目は情報が少ない中、必死に対策を練ってきたが敗北。
そして満を持しての三回目。 今回は必ず勝つ。
ユニオン機能の実装という追い風を受けて彼等は必勝の一念を抱きこの戦場へと降り立ったのだ。
だが、運営という名のこの世界の神は一切の甘えを許さず、苦難を突破すれば更なる苦難をプレイヤー達へと叩きつける。 度重なる絶望に耐え切れずプレイヤー達の心に亀裂が入っていく。
これはもう駄目だ。 終わった。 やってられるか。 もう勝てない。
そんな諦めの感情が戦場へと蔓延しようとしていた。
――が、それを振り払う希望もまた存在する。
残り時間をカウントしていたタイマーがリセットされる。
瞬間。 全ての砲が破壊され砕け散ったのだ。
方法は様々だ。 光が、闇が、不可視の何かが、絶望を物理的に粉砕し基地の崩壊といった最悪の未来も同様に打ち砕く。
「――来てくれたか……」
プレイヤーの一人が安堵と共にそう呟いた。
戦域にいつの間にか他のトルーパーと毛色の違う機体が現れる。
数は百にも満たないが能力はトルーパー百機を軽く凌駕する一騎当千の猛者達だ。
Aランクプレイヤー。
形式上、Sランクの下といった位置づけだが、プレイヤーとしてはある種の完成を見せた極々僅かな者だけが至れる極致。 このゲームにおける最強クラスの戦闘能力を持った精鋭中の精鋭だ。
機体も全て特殊フレームを使用したワンオフの機体で既存の型に嵌まらない。
「ふ、世界を覆う闇、か。 だが、闇は更なる闇を前にすれば取り込まれるのが運命。 侵略の尖兵よ、貴様らの放つ闇は強靭だが、この世界には俺という全てを覆いつくす真なる闇が存在する」
そんな事を言っているのは黒い機体を駆るプレイヤー。
頭からつま先まで真っ黒の機体で頭部のバイザー部分と背に付いているウイングから放出させる光だけが紅く輝いている。 形状はエンジェルタイプに酷似しているが、より鋭角的なフォルムは明確な違いとして存在感を醸し出していた。 黒い機体は本人は格好いいと思っているのかくねくねと身をくねらせてポーズを決めている。
「生と死は等価値。 だが、この戦場には「死」が溢れすぎている。 闇の王としてこの世界の均衡を保つ為、貴様を滅ぼすとしよう」
傍から見ればふざけた態度だが、その力は本物だった。
砲台を失ったクラゲ型エネミーだったが、攻撃能力を失ったわけではない。
無数の銃口や蝦蛄型のミサイルは未だに健在。 黒い機体を撃破しようと弾幕を張るが、いかなる手段を用いているのかその全てを掻い潜りクラゲ型エネミーの傘に飛び乗る。
「ふっ、俺は闇。 形なき闇。 闇故に俺を捉える事は不可能。 そして闇は深淵からお前の事を見ているぞ。 ――お前の死という未来を、な」
何かが風を切る音がしてクラゲ型エネミーの傘の一部が切り裂かれる。
これまで誰一人としてまともに接近できなかったクラゲ型エネミーへと接近どころか接触して損傷を与える。 これだけの事ができるのは機体の性能のお陰ではないのか?
そんな疑問を抱く者も多いだろう。 だが、彼等はAランクプレイヤー。
至るまで勝ち上がった物だけが力を手にする権利を得られる境地。
高性能な機体を持っているから強いのではなく、強いから高性能な機体を手にしているのだ。
そしてこの絶望的な状況ではそんな疑問は些細な事だ。
Aランクプレイヤーによって状況打開の道が見えた。 ほんの僅かでも希望が見えたのだ。
彼等にとっては奮い立つに値する十分な理由だった。
「行ける! これならいける! 勝てる! あの化け物を殺せるぞ!」
「立て直すぞ! Aランクの連中に続けぇぇ!」
一部が破壊された事で攻撃にも穴ができるそれを突いて他のプレイヤー達が殺到。
心が折れかかった者達も息を吹き返した。 この戦いも終盤戦。
必ず勝利するといった必勝の一念でプレイヤー達は死力を尽くす。
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