Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第111話

 このICpwというゲームは必要以上に他者と慣れ合わなくて済むといった点でユウヤとは非常に相性が良かった。 ずっと一人でやっていければいいと思っていたがラーガストという友人ができたのは良くも悪くも予想外で、それに関して悪い気がしなかったのもまた予想外だった。

 最近になってユニオン機能という邪魔なコンテンツが実装されたが、入らなければ済むだけの話なのでそこまでは気にならない。 
 ――が、そうもいかない理由があった。 

 カナタだ。 彼女はユウヤに非常に強い関心を抱いており、いつの間にか大ユニオンを結成し、傘下に入れ、今なら幹部待遇を約束すると誘いをかけて来た。 
 繰り返しになるがICpwは彼にとって聖域に近い。 彼が日常のしがらみを忘れて自分らしく在れる場所。

 最小限の人間関係と一から育てた相棒のアルフレッドが居れば彼は満たされていたのだ。
 それだけ彼はこのゲームに依存していたと言っていい。 故にゲームを楽しむ事に念頭を置く彼は大規模戦には一切参加興味がなく、前回も前々回もイベントには参戦していなかった。

 そんな彼に聖域――ICpwにカナタが入り込んできた。 非常に不快な事実ではあったが、出会わなければいい。 ゲーム中、ユウヤはカナタを徹底して避け、自らの楽しみだけを追求し続けた。
 シングルプレイがメインの頃はそれで何の問題もなかったのだ。

 プレイヤー同士の交流なんて連絡先を交換して協同ミッションを行うか、個人のランク戦を行う程度なのだから。 だが、ユニオン機能の実装が全てを変えてしまった。
 プレイヤーに量と質を求め、それによって利益が変化する悪夢のようなシステム。
 
 連みたい奴はそれでいいと思っていたが、そう思っていない自分のようなプレイヤーを強引に引き込もうとするような流れはユウヤにとって不愉快だった。 実際、実装直後になると死ぬほどの勧誘メールが届き、フィルターをかけてもどうやってかすり抜けてくる。

 力を貸して欲しい、仲良くやりたい、上を目指そう、俺と天下を取ろう。
 文面に差異こそあれどいつもこいつもユウヤの戦闘能力目当てに誘ってくるだけの薄っぺらい連中だ。 Aランクプレイヤーは一人いればユニオンの戦力に大きな影響が出る。

 ユウヤ自身はあまり興味がなかったので詳しくは不明だが、上位のプレイヤーを抱えるという事はユニオンにとって大きなステータスらしく、どこもかしこも勧誘合戦だ。
 埋蔵資源を取り合うように未所属、または小さなユニオンに所属しているプレイヤーをそこそこの好条件を付けて取り込む動きが目立つ。 ユウヤからすれば非常に萎える流れだった。

 彼は今のままやれれば満足だったというのに……。
 それでも赤の他人であるならしっかりと拒絶すれば大抵は二度とこない。
 ただ、そうでないカナタだけはいくら断ってもしつこく、本当にしつこく勧誘してくる。

 ゲーム内の話にもかかわらずリアルでもだ。 朝食の席でもユニオンに入れ、登校中――彼とカナタは直接通うタイプの学校に属している――もユニオンに入れと顔を合わせれば入れ入れととにかくしつこいのだ。 自分のユニオンはランクⅢまで上がっただの人数がそろそろ千人行きそうだのととにかくしつこい。 確かに既にランクを二つも上げているのは大したものだが、ユウヤにとっては他人との摩擦――特にカナタと接触する事は苦痛でしかないので断固として拒否するつもりではあった。

 それにユウヤにとってカナタは物心ついた時から目障りな支配者でしかない。
 常に自分の意に添うようにユウヤを誘導しようとする。 確かにカナタは昔から非常に能力が高かった。 運動、勉学、人付き合い、全てにおいて高水準で何をやらせても人並み以上の結果を出している。
 
 このICpwでもそうだ。 ゲーム何て碌にやった事がなかったのに気が付けばAランク。
 このゲームではSランクを除けば最高峰まで上り詰めている。
 その点に関しては感情を抜きにして評価してはいるが、嫌いな事には変わりはない。 

 ユウヤは思う。 結局、あの女は自分を支配したいだけなのだと。
 仲間になれと言ってはいるがユウヤには傘下に入れ、お前は私に従っているだけでいいといった主張が透けて見える。
 不愉快だった。 現実では生活圏の事もあって渋々ではあるがある程度は許容している。
 
 だが、ここではそれは許さない。 ゲームの事はゲームで解決する。
 今回のイベントであの女を完膚なきまでに叩きのめして二度と自分に関わらせないようにするのだ。
 個人戦で決着をつけるといった手も考えたが、大勢の前――特に自身の配下であるユニオンメンバーの前で約束させればそう簡単には反故にはできない。 加えてユニオン戦で勝利する事によって加入の必要性が皆無だという事を見せつける効果も見込める。 反面、失敗した場合、あの女に支配下になるという非常に重いリスクもあるが、見合ったリターンがあるので躊躇う事はしなかった。

 そしてもう一点。 ユウヤはこのゲームに全てを費やしてきた。
 そんな自分がカナタに負けるなどといった事はあり得ないしあってはならない。
 仮に負けるようであるなら自分は一生、あの女の腰巾着がお似合いの無能と言う事になる。

 「潰してやるよクソ女」

 まるで呪いのようにいつまでも自分に付きまとうあの女との関係を一部でも断ち切るのだ。
 そして呪いを解く事でこのゲームの中だけでも俺は俺らしく自由に生きる。
  
 ――だから――

 こんな所で負ける訳にはいかないのだ。 ユウヤが森の奥へと視線を向けると奥から何かが現れた。
 闇を凝縮したような漆黒の機体。 オーラのような物を纏っており形状が上手く視認できないが、輪郭だけは何となく認識はできた。 既存のカテゴリーに属していない機体。

 Aランクの機体だ。 そして同格のプレイヤーは数が少ないので大抵の相手は知っている。
 
 「ふ、煉獄の化身よ。 ここで出会うとは、な」

 黒い機体は格好いいと思っているのか妙なポーズを決めて話し始めた。
 ユウヤは面倒な奴が出て来たなと思いながら鼻を鳴らす。
 
 「またお前か厨二野郎。 本戦に参加したいなら逃げたらどうだ? 今なら見逃してやってもいいぞ」
 
 プレイヤー名『ベリアル』、機体名は『プセウドテイ』
 Aランク。 紛れもない実力者ではあったが、普段の言動も相まって友達がいるような印象はなかったのだが、このイベントに参加しているところからユニオンには入れたようだ。
 
 「ふ、俺は闇、何処にでもいて何処にもいない。 だが、貴様はその闇を観測した。 つまり闇と対峙する因果を背負ったのだ」
 「相変わらず頭おかしいな。 それっぽい事いって気持ちよくなってるのは分かるが、他所でやってくれないか?」

 言いながらユウヤは背の大剣を抜く。 

 「口調とは裏腹に貴様の心はこの状況を正しく認識しているようだ。 ならば言葉は不要。 さぁ、煉獄の化身よ。 我が闇に呑まれるがいい!」
 「……うぜぇ」

 双方の機体が即座に戦闘状態に突入した。
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