158 / 865
第158話
当事者としてはどうしても歯切れが悪くなるが、ヴルトムは特に気にした様子はない。
「いや、俺ってあの後に入ったからさ。 正直、何とも言えないんだよね。 もしかしたら知ってるとは思うけど、あの後にレラナイトは随分と荒れて色々とやらかしたんだってさ。 外部サイトで名指しで誹謗中傷、晒したいから情報求むとか洒落になってない事までやってたらしいな」
「うわ、それは知りませんでした」
「俺も聞いただけで確かめたいとも思ってないから調べてないけどやれる事は何でもやったって感じだったってさ。 ――で、運営にバレて消えた」
消えた所まではヨシナリも確認しているので驚きはないが、リーダー不在のユニオンが未だに生き残っている事の方が驚きだった。
「消えたのは俺も知ってるんですけどなんでヴルトムさんが?」
「あぁ、実は『大渦』の今のリーダーって俺なんだよね」
それは少し意外だったのでヨシナリは内心で目を見開く。
だが、少し考えるとヴルトムはその落ち着いた様子からも以前に見た『大渦』の面子を考えると適任なのではないだろうかとも思ってしまう。
「レラナイトが消えて面子の大半が抜けて、二代目のリーダーになったのがゾンって奴でね。 そいつに頼まれて入ったんだけど、まぁ酷い有様だったよ」
勢いだけで入った者、レラナイトのしつこい勧誘に根負けした者、誘われたから何となくで入った者。
残念ながらどうしてもここに居たいと思うプレイヤーが皆無だった。
入った直後のヴルトムですらこれは厳しいのではないのだろうかと思っていたが、更に酷い事に誘ったはずのゾンがヴルトムにリーダーの座を押し付けて消えたのだ。
「というかフレンドだったんですね」
「何回か共同で組んだ事があったから一応、互いに登録だけはしていたんだ。 で、ゾンはリーダー交代に伴ってフレンドリストに載っているプレイヤー全員にしつこく勧誘メールを送って、それに引っかかった俺がこうして今に至っている」
「あー、大変ですね。 今はどんな感じなんですか?」
「いや、もうマジで酷くてね。 俺が三代目のリーダーって事になったんだけどその時のメンバーは俺を合わせてなんと三人。 ユニオン資産はほぼ空っぽで、途方に暮れたよマジで」
「えぇ、人数はともかく資産空っぽってなにがあ――まさか……」
途中で察したヨシナリは内心でうわと顔を覆う。
消えた前リーダー、空っぽになったユニオン資産。 それだけ情報が出ていれば考えるまでもない。
「お察しの通りだよ。 ゾンがユニオン資産を持ち逃げしたんだ。 流石にふざけるなと連絡しようとしたらブロックされてたよ」
「酷いっすね」
リーダーを他に押し付けた上で逃げるだけでも最悪なのに維持する為に必要なユニオン資産まで持ち逃げするとは何を考えているんだと言いたくなる。
――まぁ、自分の事しか考えていないんだろうなぁ。
一度でもユニオンを潰してしまうと以降、ユニオンの結成権利を失うらしいのでゾンはそれを恐れて押し付けたのだろうが、資産の持ち逃げは明らかにやりすぎだ。
「通報とかはしなかったんですか?」
「一応、したよ。 特に何も起こらなかったから運営は合法と認識したか判断中なのかは分からんね」
「大渦」の崩壊に関わった身としてはどう言葉をかけていいか分からなかったヨシナリは曖昧にそうですかとしか言えなかった。
ただ、こうしてユニオンが残っているという事はどうにか乗り切ったのだろう。
「とりあえずユニオンとしての方針を決めなきゃいけなかったから、大急ぎで決めてって感じだよ」
「大渦」が行ったユニオンの再生プランは初心者の補助だ。
大量の初心者を一時所属といった形で取り込み。 チュートリアルの延長のような形で共同ミッションを補助し、クリア報酬でユニオンの資産を溜めつつ頭数を確保する。
一時所属としたのは最初に自由に抜けていいとする事で入る事の精神的なハードルを下げる意味合いもあった。 気に入ればそのまま居着く者もいるので割と合理的な運営方法といえる。
結果、「大渦」はユニオンメンバー五十人を超えたとの事。 元々の人数が十数人だった事を考えると凄まじい。 赤字は返済し、どうにか黒字運営にまで持ち直したようだ。
最近は機体のビルドに関する相談などを初心者に行い、ステップアップの一助になれればと活動している。
このICpwは最終的に物を言うのはプレイヤーのスキルだ。 その為、性能に頼るような戦い方よりは自分に合った戦い方を見つけさせ、その長所を伸ばしていく形の方が続きやすい。
世界で五千万人を超えたと豪語しているゲームなのだ。
今後も人は次々と入ってくるだろう。 そこを狙い撃ちしたヴルトムはまさしく慧眼といえる。
「何だかんだあったけど俺、このゲーム好きなんだよなぁ。 だから初心者が入ってくるとちょっと嬉しいし、稼ぎつつその助けになれるのならいいかなって思ってさ」
流入は多いがそれに比例して付いていけずに消えるプレイヤーも多い。
繰り返しになるがこのゲームは良くも悪くもプレイヤースキルが最終的に物を言う。
その為、万人に楽しめるかと聞かれると難しいとヨシナリは応える。
現在進行形でド嵌まりしているヨシナリでもこのゲームは誰でも楽しめるかと尋ねられれば首を横に振る。 結局の所、ICpwは自己を高める事に貪欲な人間が上に行けるのだ。
プラス運営が定めた最低限のモラルを守れる人間だけが続けられるゲーム。
それを息苦しいと感じるなら早々に辞めるべきだし、気にならないならいくらでも楽しむ余地はある。
「正直、ハイランカーになれる気はしないけどハイランカーになる奴を育てる事は出来るかもしれないだろ? もしも俺が教えた奴がSランクとかになったらさ『こいつは俺が育てた』ってどや顔できるんじゃないかって思ってな。 ついでにユニオンに参加希望者も爆上がりって寸法よ」
「はは、いいっすねそれ」
前向きなヴルトムの言葉にヨシナリは少しだけ救われた気持ちになった。
あなたにおすすめの小説
局地戦闘機 飛電の栄光と終焉
みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
森のカフェしっぽっぽ
森のカフェしっぽっぽ
ファンタジー
五十代後半の初老――サトルが営むのは、就労支援B型事業所を兼ねた猫カフェ「森のカフェしっぽっぽ」。
一階には利用者が作った木工小物や布雑貨が並び、
猫たち(イチ・きな・トラ・チビ・そして極度の臆病猫ジル)が自由気ままに接客(?)をしている。
しかしこの店には、誰も知らない“もう一つの顔”があった。
地下の倉庫兼店舗は異世界と繋がっている。
ただし、異世界人は地球には来られない。
行き来できるのはサトルだけ。
向こう側には|蜥蜴人族≪リザードマン≫の商人、
頑固な|鉱人族≪ドワーフ≫の職人、
静かな|森人族≪エルフ≫たちがいて、
サトルは彼らから“ちょっとだけ現実を楽にする品”を仕入れている。
仕事に疲れた会社員。
将来に迷う若者。
自信をなくした人。
サトルは客の空気を読み、異世界の商品をさりげなく勧める。
そして、棚の影で震えるジル。
怖がりで、音にびくつき、すぐ隠れる。
それでも店からは逃げない。
その姿が、なぜか人の心を少しだけ軽くする。
これは――
福祉と商売と猫と異世界が、ゆるく混ざり合う物語。
震えながらでも前に立つ者が、
今日も小さく世界をつなぐ。
ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》
盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。
ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……
始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。
さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。