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第160話
丸山 芽瑠途はきつい坂道を息を切らせながら登り、帰宅を急いでいた。
大都市から遠い、所謂「地方」に住む彼は最近減少傾向にある直接通うタイプの学校に通っており、本日期末考査の結果が出たのでそれを抱えて家へと向かっていたのだ。
結果は際どい数字ではあるが赤点は回避できたので、今日まで禁止されていたゲームが再開できる。
これまでログインはおろか関連コンテンツに触る事すら禁止され、文字通り隔離されていた。
ICpw――現在、彼の心を掴んで離さないゲームで気の合う友達もできており、モチベーションも非常に高い。 そんなゲームだったのだが、夢中になりすぎて学業を疎かにしてしまったのが芽瑠途の失敗だった。
中間考査の成績不振により親からゲームの禁止令が出されたのだ。
芽瑠途の脳内チップ――要は端末のアクセス権は親が握っているので彼のチップに上位の権限を用い、ゲームとその関連コンテンツへのアクセスが禁じられるので目を盗む事は不可能。 今日まで触るどころか情報を得る事すらできていなかった。 禁止を言い渡される直前はユニオン対抗戦の参加を決めたばかりだったので、土壇場でのキャンセルで迷惑をかけてしまった事をかなり気にしていたのだ。
たった三人しかいないユニオンで一人かける事の重さを理解しているからこそ、申し訳ないと気持ちでいっぱいになる。 それでも友人――ヨシナリとふわわならやってくれると思っていたのだが――
「……マジかよ」
親にテストの結果を見せてアクセス制限を解除して貰った後、最初にチェックしたのは未読のメールだ。
かなりの期間無視する形になったので返事が必要なら早めにと思ったのだが、禁止された直後に来ていたふわわからのメールを見て猛烈に嫌な予感に襲われた。 恐る恐る開くとリアルの用事が忙しくてしばらくログインできないといった内容だったのだ。 つまりヨシナリは例のイベントに一人で挑んだという事になる。 芽瑠途は慌てて他のメールをチェックした後、そのままICpwへログイン。
芽瑠途からマルメルへ。 ユニオンホームへそのまま直行するとヨシナリはいつも通りそこに居た。
「よ、お久しぶり。 ごめんな、前のイベント行けなくて……」
「いいって。 俺としても中々にいい経験できたから結果オーライだったよ」
ヨシナリは特に気にした素振りも見せずにひらひらと手を振る。
いい経験。 口振りから恐らく一人で出たのだろう。
友人に恥をかかせる結果になった事になってマルメルの胸中に罪悪感が広がるが、こういうのはあまり表に出し過ぎるのは良くないと思っているので努めて明るく振舞う。
いつも通りの友人の振る舞いに内心感謝しつつ話を戻す。
「最近はどんな感じなんだ?」
「もう二、三日で新しい大規模イベントがあるからそれに参加しようかと思ってる」
「随分急だな。 前の防衛戦と同じタイプか?」
復帰して早々、大規模イベントか。 前回クリアして少ししてからログインができなくなったので、ほとんど間を置いていない事になる。 その間に何かなかったのかと尋ねるが、例のユニオン対抗戦以外はこれと言って大きなイベントはなかったようだ。
「そういや、結局例のユニオン対抗イベントどうしたんだ?」
「出たよ。 面子足りなかったから臨時で人集めてそこそこの所までは行けた感じだな」
「臨時?」
「ほら、前にレラナイトがやってたみたいに一時所属って形でメンバーを募ったんだよ」
「あぁ、そうだったのか。 って事は良い感じに集まった感じ?」
「……まぁ、想像以上の面子が集まって思った以上の結果が出た感じだな。 それよりは目先のイベントだ。 ログインできてるって事は今度は出られるって思っていいんだよな?」
「あぁ、迷惑かけた分、頑張るぜ!」
「そりゃ助かる。 取り合えず鈍ってないか見たいから模擬戦行っとくか」
「おう、頼むぜ」
ブランクがあるので勘を取り戻しておきたいマルメルは即答。
練習用のフィールドに移動。 場所は市街地。 久しぶりの愛機「アウグスト」の中はなんだか落ち着くなと思いながら帰ってきたこのゲームの空気を噛み締める。
散々やったいつもの模擬戦。 楽しんで行こう。
「取り合えず感覚を取り戻していこう」
「オッケーお手柔らかに頼むぜ」
「やるぞ」
ウインドウが試合開始を告げ、マルメルは機体をビルの陰に素早く移動させる。
ヨシナリのホロスコープは最近はメインウエポンであるアノマリーを購入した事により戦闘の幅が大きく広がったと言っていい。 遠距離からの狙撃特化ではなく自身も前に出て戦うオールラウンダーを意識しているのは明らかだ。 星座盤の層の薄さから最低、一人は距離を選ばない奴が必要だと判断しての行動だろう。
位置変えが難しいマルメルとしてはありがたい話だった。
そんなヨシナリの戦い方の変遷を見て来たからこそ、手の内も見えているし行動もある程度ではあるが読める。 互いの初期位置は大雑把だがはっきりしているが、ヨシナリはステルスに力を入れているのかアウグストのセンサーに引っかからない。 その為、目視で捉える必要がある。
何かしらの痕跡を残せばその限りではないが、ヨシナリに限ってそんなミスをするとは考えにくい。
マルメルがヨシナリの手の内を知っているようにヨシナリもマルメルの手の内を知っている。
この戦いは読み合いだ。 互いの手札を把握している状態でどう裏をかくのか。
マルメルはあまり難しい事を考えるのが苦手なので可能な限りシンプルする傾向にある。
裏の読み合いである事は理解していからこそ、彼はこの手段を選択。
堂々と正面から突っ込んだのだ。 隠れるのは性に合わないのでまずは撃たせて引っ張り出す。
アウグストの装備は腰から伸びた固定具についている短機関銃二挺と自動給弾システムと連動しているロングマガジンが複数。 メインウエポンである機関銃と先端に取り付けた榴弾砲。 そして最後にエネルギー式の大楯。
普段は腕にマウントしているが必要に応じて展開できるので動きに干渉しない上、エネルギーはカートリッジ交換式なので機体の出力も喰わない。 ビルを背にして可能な限り死角を消し、何処から撃ってきての対応できるように意識を研ぎ澄ます。 ヨシナリの性格上、ビルの上に陣取っている可能性は高い。
その為、意識の配分を上に傾けていたのだが――
大都市から遠い、所謂「地方」に住む彼は最近減少傾向にある直接通うタイプの学校に通っており、本日期末考査の結果が出たのでそれを抱えて家へと向かっていたのだ。
結果は際どい数字ではあるが赤点は回避できたので、今日まで禁止されていたゲームが再開できる。
これまでログインはおろか関連コンテンツに触る事すら禁止され、文字通り隔離されていた。
ICpw――現在、彼の心を掴んで離さないゲームで気の合う友達もできており、モチベーションも非常に高い。 そんなゲームだったのだが、夢中になりすぎて学業を疎かにしてしまったのが芽瑠途の失敗だった。
中間考査の成績不振により親からゲームの禁止令が出されたのだ。
芽瑠途の脳内チップ――要は端末のアクセス権は親が握っているので彼のチップに上位の権限を用い、ゲームとその関連コンテンツへのアクセスが禁じられるので目を盗む事は不可能。 今日まで触るどころか情報を得る事すらできていなかった。 禁止を言い渡される直前はユニオン対抗戦の参加を決めたばかりだったので、土壇場でのキャンセルで迷惑をかけてしまった事をかなり気にしていたのだ。
たった三人しかいないユニオンで一人かける事の重さを理解しているからこそ、申し訳ないと気持ちでいっぱいになる。 それでも友人――ヨシナリとふわわならやってくれると思っていたのだが――
「……マジかよ」
親にテストの結果を見せてアクセス制限を解除して貰った後、最初にチェックしたのは未読のメールだ。
かなりの期間無視する形になったので返事が必要なら早めにと思ったのだが、禁止された直後に来ていたふわわからのメールを見て猛烈に嫌な予感に襲われた。 恐る恐る開くとリアルの用事が忙しくてしばらくログインできないといった内容だったのだ。 つまりヨシナリは例のイベントに一人で挑んだという事になる。 芽瑠途は慌てて他のメールをチェックした後、そのままICpwへログイン。
芽瑠途からマルメルへ。 ユニオンホームへそのまま直行するとヨシナリはいつも通りそこに居た。
「よ、お久しぶり。 ごめんな、前のイベント行けなくて……」
「いいって。 俺としても中々にいい経験できたから結果オーライだったよ」
ヨシナリは特に気にした素振りも見せずにひらひらと手を振る。
いい経験。 口振りから恐らく一人で出たのだろう。
友人に恥をかかせる結果になった事になってマルメルの胸中に罪悪感が広がるが、こういうのはあまり表に出し過ぎるのは良くないと思っているので努めて明るく振舞う。
いつも通りの友人の振る舞いに内心感謝しつつ話を戻す。
「最近はどんな感じなんだ?」
「もう二、三日で新しい大規模イベントがあるからそれに参加しようかと思ってる」
「随分急だな。 前の防衛戦と同じタイプか?」
復帰して早々、大規模イベントか。 前回クリアして少ししてからログインができなくなったので、ほとんど間を置いていない事になる。 その間に何かなかったのかと尋ねるが、例のユニオン対抗戦以外はこれと言って大きなイベントはなかったようだ。
「そういや、結局例のユニオン対抗イベントどうしたんだ?」
「出たよ。 面子足りなかったから臨時で人集めてそこそこの所までは行けた感じだな」
「臨時?」
「ほら、前にレラナイトがやってたみたいに一時所属って形でメンバーを募ったんだよ」
「あぁ、そうだったのか。 って事は良い感じに集まった感じ?」
「……まぁ、想像以上の面子が集まって思った以上の結果が出た感じだな。 それよりは目先のイベントだ。 ログインできてるって事は今度は出られるって思っていいんだよな?」
「あぁ、迷惑かけた分、頑張るぜ!」
「そりゃ助かる。 取り合えず鈍ってないか見たいから模擬戦行っとくか」
「おう、頼むぜ」
ブランクがあるので勘を取り戻しておきたいマルメルは即答。
練習用のフィールドに移動。 場所は市街地。 久しぶりの愛機「アウグスト」の中はなんだか落ち着くなと思いながら帰ってきたこのゲームの空気を噛み締める。
散々やったいつもの模擬戦。 楽しんで行こう。
「取り合えず感覚を取り戻していこう」
「オッケーお手柔らかに頼むぜ」
「やるぞ」
ウインドウが試合開始を告げ、マルメルは機体をビルの陰に素早く移動させる。
ヨシナリのホロスコープは最近はメインウエポンであるアノマリーを購入した事により戦闘の幅が大きく広がったと言っていい。 遠距離からの狙撃特化ではなく自身も前に出て戦うオールラウンダーを意識しているのは明らかだ。 星座盤の層の薄さから最低、一人は距離を選ばない奴が必要だと判断しての行動だろう。
位置変えが難しいマルメルとしてはありがたい話だった。
そんなヨシナリの戦い方の変遷を見て来たからこそ、手の内も見えているし行動もある程度ではあるが読める。 互いの初期位置は大雑把だがはっきりしているが、ヨシナリはステルスに力を入れているのかアウグストのセンサーに引っかからない。 その為、目視で捉える必要がある。
何かしらの痕跡を残せばその限りではないが、ヨシナリに限ってそんなミスをするとは考えにくい。
マルメルがヨシナリの手の内を知っているようにヨシナリもマルメルの手の内を知っている。
この戦いは読み合いだ。 互いの手札を把握している状態でどう裏をかくのか。
マルメルはあまり難しい事を考えるのが苦手なので可能な限りシンプルする傾向にある。
裏の読み合いである事は理解していからこそ、彼はこの手段を選択。
堂々と正面から突っ込んだのだ。 隠れるのは性に合わないのでまずは撃たせて引っ張り出す。
アウグストの装備は腰から伸びた固定具についている短機関銃二挺と自動給弾システムと連動しているロングマガジンが複数。 メインウエポンである機関銃と先端に取り付けた榴弾砲。 そして最後にエネルギー式の大楯。
普段は腕にマウントしているが必要に応じて展開できるので動きに干渉しない上、エネルギーはカートリッジ交換式なので機体の出力も喰わない。 ビルを背にして可能な限り死角を消し、何処から撃ってきての対応できるように意識を研ぎ澄ます。 ヨシナリの性格上、ビルの上に陣取っている可能性は高い。
その為、意識の配分を上に傾けていたのだが――
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