Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第165話

 ヨシナリが視線を向けた先には確かに何かがいた。
 ボールに似た形状をしており、ふわふわと重力を感じさせない挙動で浮いている。
 暗視装置越しに見ている事もあって細部までは確認できないが、特徴的な形状からある生物に似ている事が分かった。

 「フグだな」
 「フグですね」

 マルコヴィッチもそう思ったのか同じタイミングで呟く。
 
 「どうします? 処理するなら急いだ方が良いと思います」

 暗に責任者はお前だからさっさと決めろと促されているのでどうしたものかとヨシナリは内心で首を捻る。
 明らかに哨戒機の類だろう。 発見されたら周囲の敵が飛んでくる可能性は非常に高い。
 そう考えるなら排除が合理的だ。 戻る時にも何かと都合がいい。

 ――ただ、シグナルか何かで常に互いの状態をモニターできるのであるなら撃破は不味い。

 発見された時と同様に周囲の敵が即座に群がってくるだろう。
 血の気の多いプレイヤー達が基地へ仕掛けている事もあってそこまでの数は寄ってこないだろうと思いたいが、惑星丸ごと敵地なのだ。 どれだけの規模の戦力を抱えているのか想像もつかない。

 「……幸いにもこっちは全機ガチガチのステルス仕様だ。 スルーしよう」
 「仕留めた方が良くないっスか?」
 
 マメ大福の言葉に小さく首を振る。

 「撃破した事が伝わるタイプだと不味い。 現状、敵の情報がほぼゼロの状態であまりリスクは冒したくない」
 
 納得したのかマメ大福と他の面子も頷く。 

 「少し迂回してやり過ごす。 もし迂回先にもいた場合は処理して進む」
 「了解。 んじゃ先行するので付いてきてください」
 
 マルコヴィッチが先行し、ヨシナリ、フカヤ、マメ大福が続き、要珍宝が背後の警戒を行といった並びで五人は移動している。 可能な限り痕跡を消し、敵機に察知されないように進む。
 ヨシナリは見つからないでくれよと祈りながらフグ型エネミーの方を見ていたが、幸いにも気付かれた様子はない。 

 「先にはいないみたいですね」

 マルコヴィッチの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
 だからと言って油断はできないので移動速度を落として警戒を強めながら進む事となる。
 
 「それにしても元ネタありのマップとはいえ、ここまで視界が悪いとしんどいスね」
 
 マメ大福が言っているのはこのステージの環境の事だろう。 常に強風が吹いているので風の音が非常に耳障りだ。 加えてマイナス数十度。 いや、百数十度だろうか? 極低温はトルーパーにとってもあまりいい環境とはいえず、可動部分の氷結というエラーを定期的に吐き出す。 それをどうにかする為にジェネレーターから排熱を行い凍結を防いでいるのだが、行う度に温度差によって生じる蒸気が噴き出す。

 加えて僅かではあるが発光もするので気付かれやしないかとひやひやしているのだ。
 常に周囲の警戒を行いながらではあったが、襲われる気配もないまま目的地までの七割の距離を消化した所にそれはあった。
 
 正確には見えただが、思わず全員が足を止める。
 暗視装置のお陰で視認性は悪いが最大望遠にすれば形ぐらいは見えた。
 巨大な竜巻のような何かがそこにあった。 とんでもない光景だ。
 
 氷やこの星の大気を巻き上げてヴェールのようになっており、中がどうなっているのかは見通せない。
 
 「……見えてきましたね」
 「うわ、すっげ。 あんな竜巻見た事ないっスよ」

 宇宙から見える規模なのだ。 並ではないと思っていたが想像以上だった。
 辛うじて見える距離なのだが、この時点で機体を叩く風の圧が凄まじい。
 これ以上、近づくと飛行すら難しいだろう。 

 「どうします? 取り合えず目当てのものは確認できましたが、これ以上進むのはかなり危険です」
 「そっスね。 多分、トルーパーでも下手に近寄ると吹っ飛ばされますよ」

 マルコヴィッチ、マメ大福はこれ以上は止めておいた方が良いと思っている様だ。
 ヨシナリは残りの面子を振り返ると要珍宝は任せますと言わんばかりに首を振る。
 フカヤは何も言わずに悩むように竜巻を眺めていた。

 敵の哨戒機の数が少ない理由はこれかとあっさり辿り着けた事に納得する。
 こんな強風ではまともに飛べる訳がない。 危険である事は理解していたが、いざ目の当たりにしてしまうと考えが甘かったと言わざるを得ない。 戻るのが無難な選択だが、ここまで来て手ぶらで帰るのは許容できなかった。 最低限、あの竜巻が自然現象なのかそうでないのかの判別だけでもつけたい。

 一番手っ取り早い確認手段は攻撃を仕掛ける事だ。 エネルギー弾を数発叩きこむか、爆発物でも放り込めば何かしらの反応が出るはずなので判別は付く。 だが、あの中にボスか何かがいるのであるならロックオンされる事になるので高い確率で全滅する事になる。

 ――どうしたものか……。

 判断が難しい状況だったが、不意にフカヤが挙手。

 「いいですか?」
 「あ、はい。 どうぞ」
 「ヨシナリさんの目的はあの竜巻が自然現象かそうでないかの確認ですね」
 「はい、ボスか何かが移動しているのであれば撃破するにしてもやり過ごすにしても居場所の把握は容易なので確認しておく価値があると思っています」
  
 仮にボスエネミーなのであれば基地攻めを行う判断に直結する。
 場合によっては襲撃を止めて撤退する事も視野に入れなければならないからだ。
 
 「分かりました。 ならこうしましょう」

 フカヤは伸縮式の矢を腰に付けている小さなボックスに差し込む。
 ガチリと小さく何かが噛み合う音がして引き抜くと矢の先端に円筒状の物体が付いている。

 「これ爆薬なんですけど性質としてはミサイルに近いんですよ。 弾頭に推進装置を積んでるんで射程はあまりないですけど遠隔で飛ばせるんです。 まぁ、ロケット花火みたいなものですね」 
 
 それを聞いてヨシナリの脳裏に理解が広がる。

 「それを仕掛けて俺達が安全な場所で確認するって事ですね」
 「はい。 ただ、さっきも言いましたが射程が短いから仕掛けるのにある程度、近寄る必要はありますが」
 「行けますか?」

 ある程度の安全を確保しつつ目的を達成できる。 考えるまでもない良案だった。 
 
 「やりましょう。 それで設置に関してですが、僕の装備なので行くのは僕とできれば護衛に一人付いてきてもらっていいですか? 設置中はどうしても無防備になるので警戒してくれる人が居ると助かるんですが……」
 
 ヨシナリが手を上げようとしたがそれよりも早く要珍宝が前に出た。

 「リーダーが行くのは不味いんで、ここは自分が行きます」
 「……分かりました。 お願いします」
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