Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第248話

 ――負けたくない。

 グロウモスはその一心で三戦目に臨んだ。 
 ユニオン『星座盤』。 前回のユニオン対抗戦でハイランカーを二人も擁して参戦した謎のユニオンだった。
 リーダーのヨシナリとはランク戦で一度当たっていたので実力がある――少なくとも同じ狙撃戦仕様の同条件で敗北した以上、上と認めざるを得ない事は分かっていた。

 彼女がこのユニオンに助っ人参戦しようと考えたのはイベントに参加したいという事もあったが、それ以上に強くなるチャンスを逃したくなかったからだ。
 彼女は非常に内向的な性格であった。 だが、それ故に内に溜め込んだヘドロのような感情を吐き出す場所を常に求めていたのだ。 このICpwはその手段の一つで、勝利する事により彼女の内に堆積した感情は消化される。

 ――逆に敗北すると悪化するリスクはあるが。

 彼女が求めているのは勝利。 ただ勝利だけだった。 
 要は勝って気持ちよくなれればそれで良い。 
 最初のマルメルはかなり追いつめたが最後の最後に喰らったラッキーパンチで即死。 
 
 あれさえなければ私の勝ちだったのにと頭を掻き毟りたい衝動に駆られたが、もう一回と言わなかったのは辛うじて存在する彼女なりの矜持だったのかもしれない。
 次のふわわ。 何故負けたのか理解できなかった。

 気配は完璧に消していたはずだ。 Ⅱ型の索敵能力で発見できるわけがない。
 彼女はソルジャータイプを長く使っているだけあって性能の上限値に関しても熟知している。
 このゲームは基本的にフレームによって装備できるパーツに制限がかかっており、彼女の動きを探知できるレベルの装備となると目立つ形になるか、キマイラフレーム以上の上位フレームが必要だ。

 仮にキマイラを使っていたとしてもかなりの高精度のそれこそバカみたいな値段のセンサーシステムが必要になる。 

 ――にもかかわらず結果は瞬殺。

 試合時間はそこそこ経過しているが捕捉されたと同時に撃破されたのだ。
 彼女の中では充分に瞬殺とカテゴライズされる試合内容だった。
 近接主体の機体と侮っていたつもりはなく、絶対に発見されずに一方的に仕掛けて仕留めるつもりでいたのだが目論見はあっさりと崩れ落ちる。 チートではないのならどうやって自分の位置を掴んだのか是非とも教えてもらいたいが、他人に話しかける事に対して非常に高いハードルが存在する彼女には難しい話だった。

 後でリプレイ映像を見て研究しよう。 絶対に借りを返してやるからなと思いながら三戦目。
 ヨシナリ。 彼に関しては戦い方はある程度掴めている。
 狙撃主体で戦闘スタイルが自分と似通っている点からも勝つ自信はあった。

 前回は遭遇戦と戦闘スタイルの更新途中だった事もあって後れを取ったが今回は違う。
 自身も狙撃手である以上、何をされると嫌なのかは熟知しているつもりだ。
 この戦いは技量よりも読みの深さが勝敗を分ける。 

 グロウモスは頭の中で戦闘の流れをシミュレート。 
 序盤はステルス性能の高い自分にアドバンテージがある。 
 ここを活かす事が勝敗に繋がるだろう。 先に見つけて仕留めに行く。
 
 マップに存在する建物の位置も頭に入っている。 行ける。
 必ず勝つ。 深く呼吸して気持ちを落ち着ける。
 試合が開始。 グロウモスは静音フィールドを発生させ、素早く移動する。

 まずは高所を取って――

 「はえ?」

 思わず間抜けな声が漏れる。
 何故なら彼女の思惑はソルジャータイプでは到底不可能な速度で高度を上げる姿に掻き消された。
 戦闘機が真っすぐに高度を上げている。 どう見てもソルジャータイプではない。

 ――き、キマイラフレーム!? Eランクでキマイラ!?

 どうやって?といった疑問はあったが、実際に目の前にいるのだから受け入れるしかない。
 当初のプランが瓦解した事により戦い方を見直さなければならなかった。
 高度を取って来る敵に対しての対処は経験がある。 彼女の主兵装である狙撃銃は小口径なので離れすぎると命中しても大した威力が出ない。 

 小口径のメリットは銃自体が軽量なので持ち運びが容易な点だ。
 彼女の機体『ハイディングモッスィー』は静音性と隠密性を極限まで高めた機体で、相手に見つからない事に軸を置いている。 代償に火力が大きく落ちたが、それを補うための中折れ式の専用銃と腐食弾だ。

 狙撃で敵から機動力を奪い、腐食弾で致命の一撃を見舞う。
 それがEランクプレイヤー『グロウモス』の戦い方。 相手が飛んでいるのなら推進装置を撃ち抜いて叩き落せばいい。 小口径でも適切な位置にライフル弾を叩きこめば推進装置の破壊は可能だ。

 そしてキマイラタイプとはいえ無限に飛び続ける事は出来ない。
 少なくとも速度と高度を落とすタイミングは必ずある。 そして自分の位置はまだ掴まれていない。
 この二つの要素を最大限に活かして勝利をつかみ取る。 忍耐力には自信があるのでヨシナリが隙を晒すまで粘って――

 グロウモスがそう考えているとズンと機体を衝撃を襲う。

 「え?」

 視線を落とすと機体の胴体に文字通り、風穴が開いていた。
 何故? 発見された? どうやって? いつの間に? 
 疑問が解消される間もなく機体が爆散し、試合が終了。

 ――ちなみに試合時間は二十五秒だった。


 正直、楽勝だった。
 ヨシナリは早い段階で勝ちを確信しており、結果に驚きは少ない。
 精々、予定通りに行ったなといった程度だ。 まずグロウモスの武装。
 
 小口径の狙撃銃では高度を取れば当たっても意味がないので無力化できる。
 上を押さえた以上、グロウモスの取れる手はそう多くない。
 ヨシナリが高度を落とすのを待つか、一か八かで空中戦を挑むかだ。

 後者の可能性は非常に低い。 
 ステルスに力を入れている彼女がそれを放棄するとは考え難いからだ。
 自らの長所を殺す思い切りの良さはヨシナリの見立てではなさそうだった。

 そうなれば隠れて隙を窺う事になるだろうが、ヨシナリにはシックスセンスがあるので上からは丸見えだ。 防護幕でレーダーやセンサーを静音フィールドで音を消してはいるが、シックスセンスには動体、熱源、エネルギー流動と観測手段は無数にあるので、全てに対応できない彼女にはどうしようもなかった。

 見つけてしまえば後はアノマリーの最大出力で一撃入れて終了だ。
 こちらが見つけた事を悟らせないように気を付けたのであっさりと命中。 そのまま撃破となった。
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