Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第380話

 『いやぁ、もう少し粘られたら負けてたかもしれませんね』

 強引に視界を上に向けると敵機は紫陽花の足を掴み、両足を脇に差し込んで銃口を向けないようにしていた。 エネルギーウイングを破壊された以上、推進力で強引に振り切る事も出来ない。
 だが、密着しているので相手も拳を使えないはずだが、何を企んでいる?

 紫陽花はどうにか打開策をと相手を注視。 敵機のブースターが方向を変える。
 真下から真横へと。 何を狙っているのかさっぱり分からない。
 無数の疑問符が浮かぶ。 敵機は彼女の思考を見透かしたかのように小さく笑う。

 『気になっているみたいですね。 では、ヒントをあげましょう。 やー、実は一回やって見たかったんですよ。 スクリューパイルドライバーってご存じですか?』

 それを聞いて紫陽花の脳裏に理解が広がる。 
 執拗に高度を上げた事、捕縛からのホールド、そして横に向いたブースター。
 そして地上には――

 「ま、まさかこの高さから――」
 
 正解だと言わんばかりにブースターが推進力を吐き出し二人の機体が横に回転を始めた。

 『下へ参りまーす!! あーっはっはっは、たーのしー!!』

 そして紫陽花にはそれを止める事は出来そうにない。 彼女にできる事は叫ぶ事だけだった。


 ――捉えられない。

 Bランクプレイヤー『秋桜こすもす』は愛機のプリンシパリティによる砲撃で敵を炙り出そうとしているが、敵の狙撃手――グロウモスの姿を捉えられない。
 センサー系はかなり強化したつもりだったのだが、それでも捕捉できないという事は相手は隠形にかなりの力を入れていると見ていい。 だが、居ると分かっている以上、炙り出せばいいのだ。

 両肩のレーザーキャノンで広範囲を焼き払う。 
 手応えがない。 センサーやレーダーにも反応なし。 特に動体反応にはかなり意識してチェックしていたのだが、見つからない。 なら、他の敵機を狙えばいいと思うのだが、砲口を他所に向けた瞬間――センサーに高エネルギー反応。 エネルギーフィールドを展開すると同時に回避運動。

 フィールドを貫通して銃弾が飛んでいく。 
 ただの狙撃銃ではない。 電磁誘導で発射されるレールガンだ。
 しかも正確にコックピット部分を狙ってくる上、フィールドによる減衰なども計算に入れている様で躱さないと即死する。 銃の威力もとんでもないが、それ以上に凄まじい腕の狙撃手だ。

 針の穴を通すような正確さで、油断すると一撃で持って行かれるので気が抜けない。
 秋桜は完全に敵の術中に嵌まっている事を自覚していた。 
 敵には明らかに足止めが主目的で自分を仕留める事は二の次だ。 彼女のプリンシパリティは両肩にエネルギーキャノン、レーザーキャノンが各一門。 背面にはジェネレーター搭載のバックパック。 携行武器はエネルギーショットガンという重装備で機動性を犠牲にして火力と装甲に重きを置いた機体構成だ。

 その為、狙いを付ける際には時間をかけての旋回が必要になる。 
 ほんの数秒ではあるが、グロウモス相手にはその僅かな時間すら命取り。
 グロウモスは言外にこう囁いているのだ。 

 ――自分から目を逸らしたら仕留めると。

 だから秋桜はグロウモスから目を離せない。 
 状況の打開は彼女を仕留める事なのだが、ここまでやってまともに通らない以上、機体構成はステルスと機動性に振っているキマイラパンテラ。 しかも射線上に他の機体が入らないようなポジショニングも厄介だった。 お陰で他の援護が出来ない。

 他の味方はそれぞれ相手を決めて交戦を開始したようなので、味方の勝利を信じてこの膠着状態を維持する事しか彼女にはできなかった。

 ――チーム戦だからと火力に振った機体構成にしなければ良かった。

 普段なら武装を減らして最低限の機動性を確保するのだが、支援に徹するつもりだったので偏った構成で出撃してしまったのだ。 失敗はしたが、これはチーム戦。
 足りない部分は味方に埋めて貰えばいい。 だから、待っていれば打開のチャンスは来る。

 高エネルギー反応。 撃ってくる。
 タイミングに秋桜は内心で首を傾げた。 こちらの隙を待たずに仕掛けてきたからだ。
 警戒心が持ち上がるが、躱す必要があるのでエネルギーウイングを噴かして横にスライド。
 
 弾丸が何もない所を通り過ぎる。 位置を晒した以上、反撃するべきだ。
 少しだけ嫌な感じがしたので念の為、センサー系を全開にして周囲を確認。
 こういった場合はセンサーの感度を上げて、違和感を探るようにしていたのだ。

 「――え?」

 彼女の判断は正しく、機体のセンサーは異物を確かに捉えたのだ。
 反応は真上、接触まで1.5秒。 普段ならギリギリで躱せるタイミングだったが、たった今エネルギーウイングを噴かしたばかりの上、攻撃の為にレーザーキャノンへとエネルギーを回していたのが致命的だった。 

 グシャリ。 
 彼女の機体が最後に捉えたのは高速回転しながら落下してくる味方機の姿だった。


 「――ふぅ、上手く行って良かった」

 グロウモスは小さく呟いて構えたスコーピオン・アンタレスを下ろす。
 視線の先では高速回転しながら落下して来た敵機がプリンシパリティに激突して二機とも大破。
 僅かに遅れて爆発した。 

 『いやー、気付いてくれて良かったですよー』

 通信でシニフィエの声が聞こえてくる。 それを聞いて、内心でよく言うとグロウモスは思った。
 高度を取る際もグロウモスの視線を意識し、常に彼女の視界に入る位置での戦闘。
 とどめに敵機を拘束して落下の体勢に入った段階で意図に気付いた。 

 シニフィエはグロウモスにこう要求していたのだ。 
 落としてぶつけるから敵機を引っ張り出せと。 完全にこちらの集中している敵機を動かす事はそう難しくはなかった。 狙撃で回避の方向を誘導してやればいい。

 火力に特化している分、鈍重な機体はグロウモスにとって非常に相性のいい相手だった。
 無理に仕留めに行かなければ足止めは余裕。 後は落下のタイミングに合わせて敵を動かせばいい。

 ――そこでしょ?

 相手の回避の癖はもう掴んだ。 
 何度もは無理だが、一度ぐらいなら狙った方向に誘導する事ぐらいは訳はない。
 後は見ての通りだ。 トルーパーの限界高度からの回転を加えた自由落下による破壊力は凄まじく、当たった方も当てた方も跡形もなくなってしまった。

 それを見たグロウモスの感想は「酷い」の一言。
 流石はあのふわわの妹と言う事はある。 彼女とはまた別種の恐ろしさがあった。
 
 ――とはいっても味方である以上、ここは素直に頼もしいと思うべきだと思い直したが。 

 戦いはまだ終わっていないのでグロウモスは味方の援護を行う為に動き出した。
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